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子爵令嬢の地学満喫生活  作者: 蒼久斎
§1.転生令嬢アリエラ5歳、子爵家令息ファーガスと友誼を結ぶ
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ファーガス様の野望

間があきました……すみません……続きはまだです……

体調はイマイチです……喘鳴ゼンメイが続きます。





 ファーガス様が初等学校に進学されるのは、今度の9月1日。

 現在、アルビノア王国は王国暦803年の1月なので、まだまだ、半年以上も未来の話ではあります。

 それなのに、ファーガス様が伯父であるアルバート様の診察にのっかる形で、アルステラ家の図書室にお邪魔してきたのには、理由があるのだそうです。


「1月下旬から2月中旬にかけての時期は、全寮制の中等教育学校においては、悪夢の試験期間なのです」


 なんだか、日本のセンター試験から大学入試の期間を思い起こさせる話ですね。

 しかも、複線型カリキュラムを採用するアルビノアにおいては、中等教育学校に進学しているということが、すでにして「知的エリート」になることの言明。

 そんな彼らにとっては、全ての試験が、来年に進級できるかどうかに関わってくる、まさに「入試」レベルの緊張感をもたらしているのかもしれません。


「学校や地域ごとに差はあるのですが、2月下旬から3月の半ば頃にかけて、試験終了後の長めの休暇が与えられます。成績不振者は短い休暇になってしまいますが」


 アッ、一刻も早く家族に会いたい、ってのもあるかもしれませんね。

 何だかんだ言っても、彼らはティーンの子どもでもあるのですから。


「アルスメディカ一門の中でも、私の興味の方向性は少し特異です。なので、一門の研究蓄積では欲しい情報が足りません。そこで、アルステクナ家や、アルスヴァリ家、アルステラ家など、より多くの学術貴族の家系と繋がりたいんです。彼らの専門的知識を融合して……もっと新しい、より発展的に学際的な、分野横断的な学術の地平を、皆で築いていけたら……」


 なんということでしょう。

 なんて、なんて素晴らしいんでしょう!


「私も、その一員に、是非、加えていただきたいのです!」


 思わず大きな声で、訴えてしまいました。

 ちょっと、喉にキましたね。少し咳が出てしまいました。


「ええ……アリエラ嬢が、皆の興味を引くレポートをまとめられたら」


 ……そうですね。私は失念しておりましたよ。

 アルビノア学術貴族の存在意義、存在価値とは、頭脳による国家貢献。

 そういう義務の話をさておいても、このお方がS気質ってことを。


「そして、私はこの計画を立てた人間なのですから、他の誰も認めざるを得ないような、圧倒的な成果をこの年齢で上げて、周囲に一目置かせる人間にならねばなりません」


 責任感のお強い方ではある、のだと思います。

 医学を専門とするアルスメディカ家の生まれでありながら、血を見ることができないという、決定的に医者に不向きな性質をお持ちのファーガス様。


 ならば、他の形で業績を上げなければ、由緒ある「レッド・スピネル」の家系「ノヴァ=アルスメディカ」は、「アルス」称号を失ってしまうのですから。




 で、その後のファーガス様の説明によると。

 すでに家庭教師についているファーガス様にとっては、初等教育の内容というのは、知的階級向けの進度最速・難度最高クラスでは、さっさと片づけてしまうもののようです。

 そこから、進学組向けの「先取り学習」に入ります。


 ファーガス様の狙いは、中等教育学校。

 中等教育学校では、基礎教育と同時進行で、専門教育が並行展開されます。文系なら法学・言語学・歴史学・地理学など。理系ならば、天文学・地質学・物理学・化学・数学などなど。


 これらの専門教育は、カリキュラムに乗っ取った「公的」な講習会レクチャーと同時に、有志が集まって成立する「私的」な勉強会セミナーとで成立しています。

 教授・講師側からの「トップダウン」教育と、生徒側からの「ボトムアップ」教育とがかみ合うことで、アルビノアの学術貴族向け教育システムは、機能しています。まさに車の両輪ですね。


「私はね、中等教育学校進学と同時に、新しい学問の『生かし方』、専門を超えた知の交流を目指すクラブを立ち上げたいのです……そして、そのトップに、ただの提唱者だからというのではなく、きちんと実力で認められたい」


 真っ直ぐな、力強い目で、目標を語られるファーガス様。

 ああ、なんて……なんて素晴らしいんでしょう……!


「そのために、3月までには、少なくとも、学術貴族の子弟の間では、有望株と認められるようなレポートの土台は作っておきたいなと。そして、休暇で戻ってきた顔ぶれに、見せてやるのです」


 ファーガス様は、決然たる表情で、ぐっと拳を握りしめられます。

 良いですね、レポート……懐かしくも甘美な響きです……


「……それにですね、お兄さまお姉さま方に、今、気になったことの質問の手紙を送ったところで、返信を下さる余裕なんて、どのお方にもないでしょうから……なら、先輩方とのコネクション作りはいったんお休みにして、実績を積んでらっしゃる先生方とのコネクション作りを進めようかな、って」


 抱える野望の割に、なかなか、お悩みは、年相応でらっしゃいました。

 しかし、ずいぶんと政治的なお方です。それだけ、跡取りであるということが、プレッシャーなのかもしれません。

 すでに兄がいる上に、自分も地質大好きの私は、なんと運が良いのでしょう。




 さて、私たちは、お昼の時に、アルバート様からお叱りを受けました。

 理由は、勝手にアルコールのパッチテストをしたことです。


「何事もなかったから良かったようなものの、貴女もお父上と同じ体質だったら、どうするつもりだったのですか!」

「申し訳ありません」


 さすがに言い訳もできず、ひたすら頭を下げます。


「ファーガス! 貴方も、化学畑寄りとはいえ、アルスメディカの者ならば、遺伝と体質の関連については理解しておきなさい!」


 アッ、飛び火。

 見ていて止めなかったのも、アルバート様としては同罪のようです。


「血を見るのがダメだろうと、生物学の基礎は叩き込みますよ!」

「ハイ、わかりました、申し訳ございません」


 医術分野を主導する、アルスメディカ一門の人間が、うっかりすれば大変なことになっていた事態を見過ごす……というのは、アルバート様としては許し難いことのようです。

 あの……主犯は私なのです……あの……


「まったく。明日には私の屋敷に戻りますから、覚悟していなさい!」

「えっ……」


 これが罰か、と思った私ですが、ファーガス様は「はい」と頷かれました。

 えっ。逆らいましょう? 私たちまだ十分にトークできていませんよ?


「いやいや、わしの方こそ、アリエラのために、長い間時間を取ってもらって、本当に感謝しているよ」


 おじいさまが、少し困ったように微笑みながら、そう仰います。

 うっ……

 ああ、そうですね……アルバート様の患者は、私だけではありません。


「うー……」


 でも、寂しいものは寂しいのですよ。

 今生ではじめてできた、同年代の、しかも好きなものを語り合える友人!


「ファーガス、淑女レディに涙を見せさせるとは、なんという未熟者ですか」


 アルバート様のお言葉に、ファーガス様は、珍しくうろたえた顔をされます。

 ああ、私、泣いているのですね……

 ぼろぼろ涙がこぼれているのに、ようやく気がつきます。


「ま、また……研究の、お手紙、下さい……」


 私に言えるのは、そういう不器用なおねだりだけです。

 おじいさま相手に泣いてしまった時もそう。研究の話をしてしまって。

 ああ……でも、こういう性質も含めて、私なのですよね。


「ええ。お約束しますよ」


 ファーガス様は、青みがかった灰色の目で、真っ直ぐに私を見つめられました。

 涙でにじんだ視界の中、気のせいかもしれませんけれど、ファーガス様の目も潤んでいらっしゃるような気がします。


「アリエラ嬢、ですから貴女も」


 それでもにこやかに、麗しく微笑んで、ファーガス様は仰いました。


「私に、素敵なレポートを読ませて下さいね」

「……はい、っ」





ブラ○モリを見ながら、いくら地質を空想しても、リアルのときめきには敵わないんだよな、だって行けないし、触れないし……と、根本的にこの妄想小説を否定するようなことを思ってしまったわけですが……リアルで行けるとは限らないんだから、妄想にも価値があると、発想の転換。


さぬきうどん回が素晴らしすぎて、もう地理と歴史は不可分だと確信しました。

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