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子爵令嬢の地学満喫生活  作者: 蒼久斎
§1.転生令嬢アリエラ5歳、子爵家令息ファーガスと友誼を結ぶ
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化学染料について

思考の脱線がむしろ基本路線になりつつある主人公。膨大な量の知識を持つ人間は、思考が平均の人よりとっ散らかりがちだそうな。


天然染料のネタについては、また別の小説で延々書く予定なので、この小説では、初期合成染料ぐらいに手を出してみようと思っております。


それはそうと、風邪を引いたので更新が停滞するかもしれません。すみません…… 

全身の関節がずきずきしてインフルエンザの悪寒がするわけですが……






 食事の後、ファーガス様と図書室ライブラリで落ち合う約束をして、いったん解散。

 直接一緒に行かないのは、奇異に思われそうですが。

 貴族の淑女は、着替えるのもお仕事のうちなのですよ。


 19世紀イギリスの上流階級の女性は、朝食、朝食後、昼食時、昼食後、夕方、夕食、夕食後、夜、夜中と、時間帯に合わせて服を着替えていたとかナントカ。

 ここはイギリスではなく、アルビノアですが、私もよく着替えさせられます。


 食べこぼしを本につけないためとか。

 お昼寝のために寝間着に戻るとか。

 まぁそういう、非常に合理的な理由もあるのですけれどね!


 頑張ってはいるのですが、やっぱりドレッシングとかソースは、よくこぼします。

 この体は5歳児だから、仕方ないのですよ! 恥ずかしくなんてない!!


 ……恥ずかしいです。ううっ、努力あるのみ。


 食べこぼしのついた服を脱がされ、シュミーズとドロワーズだけの姿になり、鏡の前に立ちます。5歳児にコルセットは不要。

 ばあやが、とてもとても、楽しそうに笑っています。気のせい?


「さて、と……どのお召し物にしましょうか。アルスメディカのぼっちゃまに、見ていただくのですからね。気合いを入れて参りましょう」


 ……気のせいじゃありませんでした!

 でも、ファーガス様は、お洋服のセンスを気になさる方なんでしょうか?

 むしろ、染料の化学式を気になさるような……

 ……それなら、珍しい染料を使ったドレスはないかしら??


「ばあや、面白い染料を使ったドレスはある?」

「はあ……染料ですか?」


 世界初の合成染料ができたのは、1856年。

 ウィリアム・パーキンが、アニリンを二クロム酸カリウムで酸化してつくった「モーヴ」。当時は貴重だった紫色を手軽に染められる、画期的な染料でした。


 もっとも、モーヴは、その後に発明されたフクシンに、市場では敗北します。発明家が商売上手とは限らないのですね。そう考えると、エジソンってすごい。


 今のアルビノアなら、アリザリンとまではいかずとも、モーヴは発明されて……

 ……いないようです。紫の服はありません。


「珍しいものですと、この薄い紺色が、ヒンディアの染料ですが」


 はい、インディゴ系だというのは分かるのですが、どの植物から染めたのかは、さっぱり見当がつきません。藍にも色々あったし、大青タイセイなどもあります。


「……私に似合うと思うものを、ばあやが選んで?」


 潔く、変な企みは断念することにしました。

 入院服の一択だった私に、ファッションセンスなどありませんよ!




 赤っぽい金髪というのは、面倒くさい髪色です。

 何がって、似合う服の色が壊滅的に限られるということですよ!


 下手な青色とは反発し合ってなじみません。緑は補色でもっと大変です。ところが、赤色だと服の色と髪の色が近すぎて、たいそう残念なことになります。

 モーヴの明るい紫色は、またそれもそれで大惨事だったとは思うのですけれど、そこはネタだからアリかなと思ったのですよ。


 しかし、可愛い盛り(※一般的形容)の5歳幼女に、地味な灰色とか薄茶色とか、そういうのばかり着せておくのも、それはそれで、文字通り「灰色の人生」なので。

 お客様がいらしてないのなら、灰色か土色が、一番のお気に入りなのですが。

 あんまり暗い色の服で、お客様のお相手をするのも、華がありません。


 ばあやが選択したのは、淡い緑色のドレスでした。

 絶妙に、髪の色とバランスが取れています。しかも、目の色にも近い!

 さすがは、ばあや! もうこれから全て、ばあやに丸投げしましょう!


「これは、何で染めているの?」


 着せられながら、気になったことを尋ねてみます。質問はできる時に!


「お次の興味は染色ですか?」


 ふふふ、と笑いながら、ばあやは後ろのボタンを留め、リボンを結びます。

 おや。このレース、手編みですね。細幅だけど、子どもの普段着には贅沢かも。

 あっそうか、ファーガス様がいらしているから、少しよそ行き風なのか。


「この緑は、夏前にお庭の手入れをした時に、刈り取った雑草ですよ」


 ……前言撤回です。まさかの雑草!!

 あれ? 草って緑に染まるのかしら……たしか、人間国宝の染織家さんが、緑は黄色に青をかけないと、染めることができないとか書いてらしたような……

 どういうことなんでしょう?


「草はそのままで緑に染まるの?」

「そのままだと、遠からず褪色しますので、鉄や銅で媒染して、色を固定します」


 そういえば、あの人間国宝の方は、灰汁の媒染しかなさらなかった、んですっけ?

 鉄媒染や銅媒染なら、なるほど、違う反応も出るのでしょう。


「染色に興味がおありなら、アルステクナ家に研究蓄積があるはずですよ」


 ……そのアルステクナ家の資料室の断熱材が、もしも石綿だったら、私はどんなに興味深い資料があったって、近づきませんからね!




 髪の毛を可愛らしく結い直してもらい、いざ図書室へ!

 お団子頭からの変貌がすごい、ハーフアップの流し髪ですよ。ははは。


 図書室の扉をそっと開け、ひょっこりと顔だけ入れると、ファーガス様はもう先にいらして、熱心に何かの本を立ち読みしていらっしゃいました。


「失礼致します」


 驚かさない程度の声で、でも、気づいてもらえるように、挨拶をします。

 ……おや? ファーガス様、アリエラが参りましたよ~?


「ファーガス様?」


 反応がありません。

 これは、無視をされているのではなく、集中しすぎている状況ですね。

 面白いので、そのまましばらく、食い入るようにページを見つめるファーガス様を、存分に観察させていただくことにします。いやまったく、うらやましい美形。


 目当ての記述を読み終わったのか、本を閉じられます。

 そして、くるりと振り返った、その目と、目が合いました。


「アリエラ嬢!」

「さっきからおりましたが、たいそう集中されていたようですので」

「ああ……やってしまった……」


 ファーガス様は、失態を悔やむように、天井を仰がれました。

 何をやってしまったのでしょう?

 よく分からないので、首を傾げます。


「待ち合わせをした相手が来たのにも気づかずに、本を読みふけっているだなんて、失礼なことをして、本当に申し訳ありません」


 丁寧な所作で謝罪をされてしまいましたが、いえいえ!

 前世のウェンディの父も、集中すると、肩を叩かれるまで無反応でしたし。


「気にしておりませんので、お気遣いなく。それより、何を見てらしたんですか?」

「石炭鉱山の一覧です」


 石炭? それはちょっと意外です。

 古い鉱山も研究対象とはいえ、炭鉱というのは、あまりにありふれているような。


「ここ100年ほどで、製鉄技術が飛躍的に進歩したために、石炭鉱山の開発も進みました。コークスが欠かせないためです」

「ええ」


 地球でいうところの「ダービー法」ですね。

 酸化鉄に、コークス……つまり純度100%近い炭素……を混ぜます。

 すると、鉄に結合していた酸素が、今度は炭素と結合して、二酸化炭素になります。

 こうして、鉄から酸素を取り除いて、精錬するのです。


「しかし、資源が埋蔵されているからといって、どこまでも掘れるわけではありません。坑道は、掘り進めば進むほど、いっそう危険になります」

「はい」


「坑道が入り組みすぎると、しばしば廃鉱となります。落盤などのおそれが、あまりにも高くなるためです。しかし、その近郊には多くのボタ山が存在します……私にとっては、宝の山です……」


 なるほど、ほぼ無料で調達できる、膨大な量の実験材料、というわけですか。


「たしかに『石炭としては』低品質でも、それは、珍しいものが含まれているから……かもしれませんものね」

「ええ! そうなんですよ!! だからまず、閉山になった炭鉱を狙うのです」


 満面の笑顔で、ファーガス様は語られます。

 しかし、石炭に含まれるのって、基本的に硫黄だったような気がするのですが……






アリザリンは茜の色素。これの化学合成法が発明されて、かなりの打撃をこうむった有名人が、かの昆虫博士のファーブルです。アカネ色素研究の成果で収入を確保し、それを研究資金に当てるつもりだったという、なんとも壮大な計画が、パァになりました。


製鉄の具体的な技術は、工業系がサッパリな主人公なので、ざっくりしています。

アルステクナ家の関係者が出てきたら、ギッシリ解説がつくかもしれません。


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