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子爵令嬢の地学満喫生活  作者: 蒼久斎
§1.転生令嬢アリエラ5歳、子爵家令息ファーガスと友誼を結ぶ
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お客様との晩餐

貴公子ファーガス様の弱点について。

あと、今回の内容は、結構、社会科寄りになりました。あれ?





 夕食時の食事は、お客様がおいでの時には、解禁のようです。

 おじいさまとアルバート様は、優雅な所作でのお食事の合間にも、人体に関するらしい、複雑な話をしておいででした。


 おじいさまは、宝石学の大家としてのご自身の見識には、強固な自信をお持ちですけれども、専門外のことは謙虚に耳を傾けられるのですね。

 その姿勢、是非とも私も見習わなければ!


 しかし、私は二人の会話を、ろくに聞き取ることができていません。

 響きからして、ラティーナ語の……医学専門用語でしょうねぇ……

 やはり一級の知識人になるためには、ラテン語的な素養が必要だということなのでしょうか、この世界でも。

 ……頑張るしかありませんね。


 お食事は、お客様もいらしているので、しっかりした晩餐。

 前菜からサラダ、スープにパン、魚料理に、お口直しの甘いもの、肉料理にデザート。食後は大人がコーヒー、子どもは別の飲み物です。

 カフェインには覚醒作用があるので、夕食後に飲むのは禁止されているのです。


 カシスシャーベットを美味しくいただき、さて、肉料理。


「……ファーガス様、召し上がらないのですか?」

「い、いただきます……」


 心なしか、お顔が引きつってらっしゃるような。

 まさか、もしや、アレルギー?!


「ファーガス様、お肉が苦手でしたら、無理をなさらなくても……」


 私がそう言うと、おじいさまとアルバート様が、あっはっは、と声をあげて笑い出されました。


「なんだ。解剖の話ぐらいで。怖気づいたか?」

「アルスメディカの息子が、臓物の話ぐらいでうろたえて、どうするのですか」


 おじいさまと、アルバート様からの追撃に、ファーガス様はきまり悪そうに、顔を俯けてしまわれました。


 わーお。食事中に、なんってお話をなさっているんですか!

 私はファーガス様に同情しますよ! まったく!!


「まぁ、それはそれとして、せっかく料理人コックが作ってくれたのですから、いただかないと失礼だとは思いますけど」

「アリエラ、本音が出ているぞ」


 おっと、うっかり。

 思わず口元を押さえると、ふんっ、とファーガス様が、まるで意地を見せるかのように、お肉を口にされていました。


「……美味しいですね」


 ファーガス様は、目をみはり、そしてゆっくりと咀嚼されました。

 別段、意地をはったものではなく、素直な感想のようです。


 ふふふ。そうでしょう、そうでしょう。

 私がたくさん食べて、元気に育つようにと、この屋敷の料理人は、アルステラ家お抱えの中でも、もっとも腕が立つ人物だそうですからね!

 美味しい料理をアレルギーなく食べられる幸福……!


 しかし、アルスメディカ家の人間なのに、ファーガス様が化学に寄っている理由が、思わぬところで判明してしまいました。

 なるほど……血が苦手でいらっしゃるのですね。


 ちなみに私……もとい、ウェンディは、そういうのは平気です。流血ごときで気絶していて、長期入院はやっていられませんよ! ずっと点滴されているのですよ、ははは。




 肉料理を終えると、晩餐もそろそろ終わり。デザートです。

 私のデザートには、必ずリンゴが出されます。健康のためだそうな。


 この歯ごたえがたまりません。これがリンゴ……と、初めて口にした時には、大いに感動したものです。

 地球のリンゴの味とは違うのかもしれませんが、ウェンディの時はアレルギーで食べられませんでしたので、比較ができません。


 なんでもよいのです。美味しいから。

 美味しくなくても食べられますが、美味しいことは素晴らしい。


「美味しそうに召し上がるのですね」

「食べられるというのは、とても幸福なことですもの!」


 毎日リンゴがデザートでも飽きませんよ、私は。

 栄養分をそのまま摂るため、生のリンゴが必ず一切れはあるのですが、私はシャクシャク美味しくいただきます。

 バターを使った焼き菓子の後に、リンゴを食べると、後味さっぱり!


 食後、私はノンカフェインの薬草茶ハーブティーをいただきます。

 おや? ファーガス様、それは、コーヒー?


「夜眠れなくなるから、飲んだらダメだって、私にはおっしゃるのに!」


 ぷすっとふくれてみると、ファーガス様は困ったように笑われました。


「これ、タンポポの根っこ(バードック・ルート)ですよ」


 あっ、代用コーヒーですか。

 たしかに、タンポポコーヒーはノンカフェインです。子どもも大丈夫。


「アリエラ嬢、私のもですよ」

「アルバート様も?」

「医者の不養生だなんて、恥ずかしいですからね」


 しかし、覚えのあるコーヒーの香りは漂っています。

 と、いうことは……


「年寄りには、このような嗜好品も必要なのだよ」


 視線を泳がせながら、おじいさまは、そう言い訳されました。

 大人って勝手ですね。体が5歳児だから言いますけど。


 そういえば、コーヒーの原産地はエチオピアですっけ……この世界では、アフリカに該当するのは……ユリゼン大陸でしたっけ?


「コーヒーは、ユリゼンで採れるのですか?」

「原産地はユリゼンだが、今ではサーマス南部でも栽培されている。気候の問題で、茶と同様、アルビノア本土では栽培不可能だが」


 んっ?!


「アルビノア『本土』? 外地があるのですか?」


 まさか、植民地じゃないでしょうね……

 いやしかし、アルビノア王国の現状は、19世紀のイギリスっぽい……

 ……19世紀イギリスといえば、帝国主義真っ盛り!


「我が国には、世界中に入植都市がありますよ」


 アルバート様の補足説明に、私は思わず顔をしかめてしまいます。

 「白い女神」の国ですが、現実はホワイトでもないようです。


「アルビノアは、人口も決して多くはないので、本国の外に広大な領土を持つ余裕はありません。そのため、重点的に資金と人材を投入した、いわば『支店』のような都市を、世界各地に配置しました。これによって、フランキアに比肩する栄光を、我が国は手に入れたのです」




 私の変顔を、アルバート様は、理解できなかったからだ、と受け止められたようで、さらに詳細な説明をして下さいました。


 ええ……聞いているだけでは、とても平和そうなのですが……

 まぁ、5歳児が何を言っても、何かできるわけでもありませんが、頭の片隅には留めておきましょう。


 というか、そもそもアルビノアは、貴族に政治的権限が、ろくにない国でしたね……ということは、植民都市の建設は、庶民院と内閣の決定?

 ……ああ、私はこの国のことを、何も知りません。学ばねば。


 んっ? ちょっと待って……

 アルバート様、さっき「フランキア」っておっしゃいました?


「フランキア? フランクスではなくて?」

「旧名は『フランクス』ですが、男性形国名は、いかめしくて武骨だというので、150年ほど前から、女性形国名になっているのです」


 アルステラ家の「博物室ミュージアム」に、大きく掲げられている世界地図は、200年前に作られたものです。

 その後の世界情勢は、あの地図からは読み取れないのですね。

 つまり、私の知識レベルは……200年前のもの。アッ!


「新しい地理の本はないのでしょうか? このままだと、200年前の知識のまま、学校に上がってしまいます」


 私のさりげないおねだりに、おじいさまとアルバート様が、ちょっと困ったように顔を見合わせられました。

 えっ? まさか、世界地図まで国家機密指定なのですか?


 お二人はしばし視線を交わし、それからおじいさまが口を開かれました。


「アリエラ……お前の今の身体では、学校へ行くのは、少し、難しいと、わしは思っている」


 うっ……なんということでしょう。そんなに悪いのですか、私の病気?

 たしかに、石綿を使った校舎なんて、まっぴらごめんですが。


 でも、学校生活というのは、私には憧れだったのですよ。

 前世では、無菌室から出ることもなく、大学に通ったとは言っても、それはつまりパソコン越しの話だったわけで……

 キャンパスライフなんて、ドラマや映画の中にしかなかったので……


 いえ、無菌室の外を歩き回れるようになっただけでも、私は十分に幸せレベルが上がっているのです。

 いけませんね。一足飛びに贅沢になっていたのです……


「これからの状態次第では、カーマーゼンの学校は無理でも、このクライルエンの学校になら、通えるようになるかもしれませんが」


 アルバート様が、先行きに、一筋の光明を見せて下さいました。


「頑張ります! 私、頑張って学校に行けるようになります!」


「そういう、特訓とかいうものは、しませんよ?」


 えっ?!

 ……じゃあ、何をして改善するのですか?

 教えて! アルバート先生!!





この世界の大陸名は、ウィリアム・ブレイクの「預言書」シリーズの命名を、拝借しています。しかし、借りているのは名前と定められた方角だけで、あのシリーズの膨大な設定については、まるごとぶん投げさせてもらっています。


ぶっちゃけ、この世界で本格的に微塵も通用しない学問って、天文学だけかもしれない。

違う銀河の惑星なので、見える星はまったく違うし、星座も神話も違います。


でも理論物理学系の内容になったら、同じ宇宙である限り、物理法則は同じという意味で、また通用するようになるんですよね……ああ、学問の世界って奥深い……


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