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子爵令嬢の地学満喫生活  作者: 蒼久斎
§1.転生令嬢アリエラ5歳、子爵家令息ファーガスと友誼を結ぶ
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新事実続々

まだ序盤of序盤なので、基礎知識の拡充で、手間取る、手間取る……

ちなみに作中の地名などは、アルビノアの場合は、イギリス(グレートブリテン島)から取ってます。

話が進んだら、フランスとかドイツとか、色々出てくる予定です。






 話し込んで、気づけばとっぷりと日が暮れています。

 んん? もしやファーガス様……いえ、アルバート様も、本日はお泊まりなのですか?


「ええ。おじ上も、教授との話を楽しみにしていましたから。私は図書室をお借りするだけの予定でしたが、アリエラ嬢と話す方がずっと楽しい」


 きらきら貴公子スマイルがまぶしい。

 こんなイケメンが、私の鉱物同志でいいのでしょうか。いや、いい!


「ということは、明日もまたお話できるのですか?」

「むしろ、こちらからお願いしてもよろしいでしょうか?」

「是非! 私も楽しみです!」


 もう私だって、自然と満面の笑みが溢れ出してしまいます。

 同い年で、これほどまでにディープな話ができる人材がいるなんて!


 私の中身は20歳を超えていますけれど、つまり、そういうレベルで平然と話ができるわけです、リアル6歳のファーガス様は。

 アルビノア王国「アルス」家系の英才教育、おそるべし。


「ところで、アリエラ嬢は、少なくともこの屋敷に関しては、石綿による健康被害の心配は不要です」

「え?」

「この屋敷の断熱材は、コルクなのです。貴女がこちらで療養しているのも、ここが石綿を用いていない建物だからですよ」


 えっ。お父さまが新大陸の調査に、お母さまが火山の調査に行ってらっしゃるから、私はおじいさまの元に預けられているのかと……

 でもたしかに、別にばあやをつけて、本邸に残してもいいわけで……

 ……もしや。


「あの、カーマーゼンの本邸って、断熱材は石綿、なのですか?」

「おそらくそうだと思います」


 よーし、解体工事と安全処理が終わるまで、意地でもおじいさまの屋敷を離れませんよ! 私は健康に生きるのです!!


「ついでですから、この国の建築の工夫についても、お話しましょうか?」

「はい、是非とも!」


 ぱっと見た感じ、この国の建築物は、イギリスに似ているのです。

 しかし地震大国にとって、石造建築とは、崩落の恐れと常に背中合わせの、まさに危険物。

 ということは、発達した耐震・免震構造が存在する可能性があります。


「まず、この国の建築物は、木造を基本としています」

「……石造に見えるのですが」

「あれは石材の化粧張りですよ。骨組みは全て木です。それでなければ、地震に対して、あまりにも脆弱になります」


 なんと! なるほど、そういうからくりだったのですか!

 そういえば、エリザベス朝時代のロンドン大火までは、イギリスの建築物も、基本的には木造でした。建築資材はあるのですね。

 その後、木造の建物は火災に弱い、ということで、石造建築が主流になるのですよ。


「ん? ということは、化粧張りの石材は、火の粉などによる延焼を防ぐ、防火・耐火作用を期待したものですか」

「ケネス……アルステクナの、リンカン侯爵家の令息ですが、彼はそう説明してくれましたね。彼は耐震建築に興味があるのです」


「ファーガス様と同い年でらっしゃる?」

「いえ、ケネスは私の一つ年上です。彼の伯父であるリンカン侯爵が、私の話相手にと連れてきてくださったのです」




 アルビノア王国貴族社会の豆知識。

 特に「アルス」の家系は、二男や三男や四男に至るまで、英才教育を施して、知の水準の維持、あるいはさらなる向上を目指します。

 そのため、曾祖父の兄弟の家系、などというものが、別家を立てずに一緒に生活していることは、まったく珍しくありません。


 ケネス・アルステクナ様の場合は、当主の甥ですから、まだまだ本家嫡流との血筋は近い方ですね。

 えっと、リンカン侯爵家は、何アルステクナでしたっけ……まぁいいか。


「そのうち、私、ケネス様とも、お話する機会を得られるのでしょうか?」

「現場主義者なので、図書室にはあまり来ない気もしますが」


 なんとうらやましい……さぞかし健康な肉体をお持ちなのでしょう。

 でも、それはそれとして、図書室も素晴らしいと、私は力説しますよ。


「でもいずれ、機会が得られるかもしれません」

「私が、是非とも、この国の建築技術のお話をうかがいたいと申していたと、そう、お伝え願えますか?」

「ええ」


 さわやかに頷いて、しかし、とファーガス様は、まるで不思議なものでも見るような目で、私をご覧になりました。

 先ほどの、元素探求に理解を示した時の反応とは、少し違います。

 疑っているというより、面白がっている、という雰囲気です。


「アリエラ嬢は、地質や鉱物以外のことにも、大いに興味を示されるのですね」

「私、この世界の大いなる自然の、すべてが気になるのです」

「世界はとても広大ですよ?」

「だからこそ、一生をかけて探求する価値があると思われません?」


 素直な感想を伝えると、ファーガス様は、ははっ、と、6歳児の割には妙に大人びた……どこか達観したような笑い声をあげられました。

 じじくさいですよ……


「アリエラ嬢は、発想がとても壮大ですね」

「そうでしょうか?」

「貴女の兄上とは、本当に、色々と違います」


 ……?!


「お兄さま……?」


 兄がいたなんて、初耳ですよ!

 えっ、どうしてファーガス様がご存じで、私は知らないの?!


「ファーガス様は、兄をご存じなのですか?」

「私に鉱物を教えてくれたのは、貴女の兄上ですよ」


 ……ということは、お兄さまはファーガス様の鉱物師匠?!

 待って、私、兄の名前すら知らないのですが……


「私、兄さまにお会いした記憶がありません」

「それはそうでしょう。アラン・ローリン・アルステラ様は、アリエラ嬢より四つも年上です。アリエラ嬢が物心つかれる前には、カーマーゼンの初等学校に通われていましたからね」


 それは……お会いする機会はないでしょうね。

 この屋敷があるクライルエンは、カーマーゼンからは、何十マイルも離れています。気軽に会える距離ではありませんし、お兄さまもアルステラ家の息子として、厳しい教育を課されているのに相違ありません。


 むしろ、おじいさまだけでも傍にいて下さって、なんと幸運だったのでしょう、私は……




「いつか、家族の皆と、食卓を囲みたいものです」

「ルビーナ様はともかく、カーマーゼン子爵は、しばらく難しいでしょうね」


 ええ。新大陸の地質調査なんて、さくっと終わるわけがありません。


「ご無事を祈るばかりです」

「まぁ、大いなる方の気まぐれは、避けたいものですね」


 ん?

 大いなる方……って、女王陛下という意味ではない、ですよね?


「神様?」


 首を傾げた私を、えっ?! という顔で、ファーガス様はご覧になります。


「アリエラ嬢のような、アルビノアの学術貴族の子女から、そんな大陸的な形容を聞くとは思いませんでした……」


 んっ?! ちょっと、これは最優先で学ばねばならない事項ですか?


「あ、あの、私……どうにも常識には疎くて……」

「ああ……そういえば、まだ5歳でらしたんですっけ」


 貴方の眼前にいるのが、5歳児じゃなかったら何だとおっしゃるのですか。

 まぁ、中身が20歳を超えているからでしょうかね……


「アリエラ嬢……あの、私は、哲学や歴史学系は、得意な方ではないのですが……」

「教養ならば、私も学ばねばなりませんから!」


 理系宣言なんてどうでもよろしい。私は、今のうちに、知りたいのです!


「アルビノアは、約300年前に宗教改革を断行し、大陸の教会とは絶縁状態になっているのです」


 ……なんですって?!

 今、知れて良かった……これは知らないと危なかった……


「絶縁状態になったきっかけというのは?」

「ええと、当時……中期アルビノア王国時代ですが……その頃、大陸の教会で聖職者の堕落が著しかったとか、教義最優先で、最新の科学的知見に弾圧を加えたとか、そういうことがあったので、国王陛下がお怒りになったとか……」


 ガリレオ裁判みたいなことが、こっちの世界でもあったということ?

 そして、最新の科学的知見を守るために、教会を敵に回して下さる国王陛下って……進歩的な方ですね……


「でも、本当にこのあたりの状況はややこしいので、歴史学が専門の方から、きちんとした説明を受けるべきだと思います」

「分かりました!」


 正しい知識を大切にする。それが、アルビノア学術貴族ですものね!


「で、それで大陸系とは異なって、『大いなる方』と、および申し上げるようになったのですか?」

「簡単に言うと、そういうことだそうです」


 ファーガス様の目が泳いでらっしゃいます。これは、逃げましたね。


 しかし、理系の6歳児に、宗教学を教えろというのも酷です。

 まずはおじいさまの図書室で、独学することにしましょう。


 ……完全に専門外ですけど、関連書籍はあるんでしょうか?





アリエラの兄、アランのミドルネーム「ローリン(Laughlin)」は「湖の土地」の意。

でも「Allan」もケルト系なんです……意味は「石」……実に、アルステラ家です……

「ケネス(Kenneth)」は「火から生まれたもの」。工業系な家のイメージですが、これもケルト系の名前だったりします……


アングロ・サクソン系の名前は出せそうなのですが、聖書ヘブライ語由来の名前を、候補からガンガン削除した結果、ネーミングは結構苦労しています……

ヨーロッパからキリスト教を引き算したら、本当に、古代しか残りませんなぁ……


アルビノア宗教改革については、その時が来たらじっくり書こうと思います。今書くと展開がダレてしまいますので……

なお、政変その他については、「アルビノア史概説」を書ける程度には固めています。


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