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019.フルフラット王国の料理人

 こういう状況でノーが通った事はない。

 国民性か民族性かは分からないが、何を言ったところで、イエスと解釈される状況だ。

 本当に諦めるしか無い。

 でも、ダメ元で、答えてみる。


「答えは、ノーだ」


 反応が怖くて目を瞑って答えたが、薄目を徐々に開けつつ周りの反応を確認する。

 みんな、口をポカーンと開けて、視線は俺のすぐ横を見ている。


「残念ねぇ。カーマきゅんならOKしてくれると思ってたのにぃ。せっかく、お祝いにパーティーをしてあげようと、とぉっても腕の良い料理人を連れて来たのにねぇ。カーマきゅんがそう言うのなら仕方ないわ」


 そう言って、いつの間にか、俺の横にアフロヘアーに白い仮面にサングラスをした怪しすぎるパトロン、ポルノフ・アンが立っていた。

 全く、移動した気配を感じなかった。

 まぁ、いるのは知っていたし、敵対しないと分かってるので、気にもとめていなかったのもある。

 でも、気付かなかった事に関しては、人形師(ドールマイスター)としては問題ないが、【乙女流】の使い手としては、少し反省が必要だ。

 意識をポルノフさんの方に向けると、ポルノフさんの横にもう一人気配がある。

 さっき言っていた料理人か? 



     ひょっこり



 年の頃は16歳くらいと思われる少女が、ポルノフさんの影から顔を出した。

 この人は知っている。

 俺が知っている顔より若干若い。

 あ、メイクが違うんだ。

 インタビューとかの動画や画像で見たことがあるメイクより数倍大人しい。

 すっぴんに近いナチュラルメイクをしていて、見慣れた姿より、幼・・・若く見える。

 大好きだった婆さんの面影がある少女・・・いや、婆さんが、この人に似てたのか・・・。

 婆さんは、ご先祖さんの孫同士で結婚した夫婦から産まれたって言ってたから、この人の姉の曾孫にもなるんだろう。

 だから、婆さんが好きだったのかもしれない。

 俺が産まれた時のパーティーで一目惚れしたこの人に似てたから・・・。


「ジィッタの出番無くなったの?」


 ジィッタ総料理長、フルフラット王国の辛味亭という200年以上続く老舗旅館の料理長で、世界の料理人のトップ。

 その旅館に併設しているカレーショップでは、毎日1万人以上の客が訪れるという。

 そして、弟子が何人いるのか分からないが、美味い料理店の料理人は全て関係者だと思っても間違いがない。

 また、フルフラット王国が抱えている料理長や料理人も弟子という事らしい。

 噂では、ジィッタ総料理長から料理を学ぶのに数ヶ月待ちという事だ。

 他国の料理人が、学ぶ資格を得るためには、外交ルートを使って、フルフラット王国のトップに要請をしないといけないらしいので、実質何年必要かは分からないというが・・・本当か?


 噂の真偽はともかく、ジィッタ総料理長の声は昔聞いたように若々しい。

 とても200歳を越えているとは思えない。

 見た目よりさらに若く感じる声だ。

 俺の主観だがな。


「ごめんねぇ~、ジィッタちゃぁん。カーマきゅんが素直じゃなくてぇ」


 このアフロ、ジィッタ総料理長とも知り合いなのか?

 ジィッタ総料理長に馴れ馴れし過ぎて、マジで斬りつけてやろうかと思うくらいだ。

 絶対に・・・絶対とは言わないが、今の俺には・・・龍人化してる今ならいけるかもしれないが、軽くあしらわれるだろう。


「仕方ないの。誰だって急に国王をやれって言われても、困っちゃうの」


「でも、もったいないわよねぇ。うんっと頷いて返事をすれば、カーマきゅんが大好きなジィッタちゃぁんの料理、それも手作り料理が食べれたのに。断ったら、こんな機会絶対にないのにねぇ。ほんと、国王くらいやってくれても良いのに・・・。でもこれでジィッタちゃぁんが、他国に長期滞在出来るように、いろいろ手回ししたのが無駄になったわぁん」


 えっ?

 国王になるだけで、ジィッタ総料理長の手作り料理食えんの?

 マジで?

 あー、いやいや、そんな理由で、国王になるのは・・・考える余地があるが・・・。

 それより、長期滞在?

 うんっと頷くだけで、長期滞在してくれるのか?

 

「ジィッタちゃぁん。残念会用の料理を作ってくれるぅ? ほらほら、アリスト、落ち込んでないで、撤収して、残念会をするよぉん。そこの兵士たちも、付き合いなさいよぉ。桜ちゃぁんも、おいでぇ~」


 ノーという返事が通ったのか?

 それとも、アフロヘアーの演技か?


 ジィッタ総料理長の手作り料理を食べれるのかと思うと思考が鈍る。

 これを逃してはいけないと焦っているのか?


「ポルノフさん、ちょっと待ってくれ、少し考える時間が欲しい」


「いやよぉん。そんな時間、もったいないわよ」


 こ、このアフロ!

 殺気を向けるが、軽く流される。


「そっちの希望通りの返事をするかもしれないだろ!」


 大人気ないが、感情に任せて声を荒たげた。


「カーマきゅんのは、考える時間ではなくて、自分自身を説得させる時間。カーマきゅん、もう答えはでてるんでしょ?」


 そう言う事か・・・。

 正直、国王より、人形師(ドールマイスター)の方が気が楽だ。

 俺の父親や、儂のように、ここで、この村で、そして、この家で好きなように人形師(ドールマイスター)をやって過ごしたかった。

 でも、そんな生活と引き換えにしても、食べてみたい。


「ああ、分かったよ。ジィッタ総料理長の手作り料理を食べれるのなら、国王くらいやってやる。これで良いんだろ?」


 口約束だから、最悪、食べてすぐ逃げればいいしな。

 まぁ、食い逃げってヤツか?


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