真夏の宝石
日差しの槍を掻い潜り、蝉時雨を浴びる。肌にまとわりつく空気も、煌めく海を見ればさらりと流されていく。蒸し暑い夏も、感じ方さえ変えてしまえば、心踊る季節に変わる。
「ルクス、この前迷ったの、どの辺?」
年に数えるほどしかない休日が、二人一緒に取れるのは有り難い。
迷うことの多い相方が、最近迷い込んだ先が向日葵畑だったのだ。そのときは収録前で急いでいて、 ちゃんと見ることはできなかったけれど、ちらりと見えた向日葵畑は、まるで太陽の欠片が一面に広がっているかのように、きらきら輝く、そんな場所だった。勢いで言った「また来よう」が、嘘になってしまわなくて、よかったと思う。
車の窓から、色とりどりのパラソルが咲く砂浜が見える。窓枠に肘をついて外を眺める彼は、今日も水色のカッターシャツに群青のジャケットを羽織っている。肩まで伸びた髪の毛は澄んだ湖のような色で、揺蕩う水のようにウェーブしている。彼の周りはいつだって涼しげだ。
「さて、どこだったかな。この道をまっすぐ行ったような……いや、右に曲がったかな。……左かもしれない」
「もう、それじゃ分からないよ」
そう言いながらも車を適当に走らせる。目的地に辿り着くことなど始めからどうでもいいのだ。今こうして二人で過ごしているこの時間が、ただ幸せだった。
ついさっき迷ったばかりの道に戻ってきた。先ほどはまっすぐ進んだ道を、今度は右に曲がる。しばらく進むと、地平線の向こうに、沈み行く太陽のように眩い光が見えた。
「あっ、あれだ!」
「さすがジョーカー。よく分かるね」
「ふふふ、ルクスがもうちょっと道を覚えててくれると助かるんだけどね」
「努力しよう」
軽く微笑んでは、眩しそうに向日葵たちを見る彼が、何よりも眩しかった。
***
「そろそろ帰るかい?」
青い空の端を、オレンジ色が薄く汚す。もうすぐ日も暮れる。一日が、終わる。
「うん、そうだね。帰ろっか」
真っ赤なオープンカーのドアに手をかけた。
二人で過ごす休日は、あまりにも早く終わってしまう。明日から、また仕事だ。仕事場は同じなのだから、会えなくなるのが寂しい、というのはないのだが、それでも、休日が終わってしまう。そんな悲しさが、車内を満たしていた。
「ジョーカー、少し、貸してもらえるかい」
立ち去り際、夕日が濡らす黄色の花を見つめる彼の目が寂しげだったから、なんとなく、まだ帰りたくないと思った。
横から腕が伸びてくるとは思わなかったのだろう。華奢な肩と短い髪が揺れた。
「ルクス、運転できるの」
不安げな声に、んー、と曖昧に返事をして、目的地がある方向へハンドルを切る。
「ルクス、危ないよ。運転するなら、代わるから」
「アクセル、もう少し踏んで」
車が静かに加速する。戸惑いながらもアクセルを踏むあたり、自分のことを信頼してくれているのだろう、と自惚れた。
「ルクス、どこ行くの?」
「秘密さ」
ちらちらと、こちらに向けられる心配そうな視線に、思わず口元が緩む。私のほうから進んで何かをすることが滅多にないから、時折こうして彼の反応を見るのが楽しいのだ。そう言えば、彼は怒るだろうか。
「ブレーキ踏んで。……さて、着いたよ」