トワを追いかけて
「全く・・・・・・君たちは」
トワはわざとらしくうなだれていた。落ち着いた学生生活を送りたかったのに、トワに巻き込まれてすっかり目立ってしまった。西先生はあきれかえっている様に見えたが、下を向いてくすくすと笑っていた。実は優しい先生なのかもしれない。
トワの浮世離れした美貌は学年中に知れわたっていて、みんながトワと話したがっていた。トワは決してクラスの中では僕に話しかけてこようとしなかった。誰かに話しかけられても、受け答えするものの、仲良くなろうという気がなさそうに見えた。僕だけには外で会うと話しかけてきた。ますますトワに興味がわいた。
委員会を決めるとき、トワが図書委員に立候補したのには本当に驚いた。担任の西先生が委員会決めを始めたときは、トワはいつものように眠そうにしていた。
「図書委員やりたい人」
の声を聞いた途端にトワは勢いよく挙手をした。いつも眠そうにしているトワからは想像もできない。西先生が黒板にトワの名前を書く。
「男子。誰かいませんか?」
委員会は男女一人ずつが基本だから、もう一人男子生徒がなることが決まっている。図書委員は貸出当番があるから、面倒がってあまりやりたがる人はいない。誰も手を上げない。一瞬、静かになった。僕は勢いよく手を挙げた。西先生は僕を意外そうな顔で見つめたが、黒板に「牧瀬葵」と僕の名前を書く。
「じゃあ、委員会は今日の放課後にあります。それぞれの教室に忘れずに集まってください」
放課後、トワの方をふと見ると、さっさと荷物をまとめて、教室を出て行ってしまう。僕も慌てて荷物をまとめるとそれに続く。図書室に着くと、トワは慣れた様子で先に入っていく。僕は初めて図書室に入ったので、トワに続くことにした。
「トワ。ちょっと待ってよ」
入学してから僕はトワの背中を追いかけてばかりだ。
図書委員の仕事は本の整理とか貸出当番とか本当に地味な仕事ばかりだった。放課後の時間を拘束されるから、やりたがる生徒は本当にいない。僕とトワは一緒に当番表に加えられた。
授業が終わってから下校時刻までの数時間、図書室のカウンターにトワと二人並んで座る。図書室は、受験勉強をしている生徒や本を読んでいる生徒がいて、混んでいる。
静かにしていないといけないから、会話はほとんどなかった。目を輝かせて本を読むトワの横顔を見ていると、新しい一面を感じられたように思えた。二人ペアでの貸出当番といっても、貸出の対応はほとんど僕で、トワは隣で夢中で本を読んでいただけだった。僕は、授業の復習をしながら、トワの顔をそっと見つめる時間が好きだった。