新しい出会い
僕は遅刻してきたから、一年A組の教室に行くのは初めてだ。永遠子はどんどん早歩きで行ってしまうので僕は必死に着いて行く。
「竹沢さん。待ってよ」
「トワでいい。私、竹沢って名前も永遠子って名前も嫌いなんだ」
吐き捨てるようにそう話すトワに惹かれてしまったのは、この一瞬だった。
しばらく呆然としていた僕は、教室に戻るのが遅れてしまった。気がつくと新入生たちは移動していて僕は一人だった。
教室に戻るとトワの方は先に着いていて、脱力して机に突っ伏していた。
先生がまだいないせいか、他のクラスのみんなはいくつかの固まりにわかれて、好き勝手に談笑していた。教室内の笑い声を聞いていると、僕は怖くなってきた。教室内の笑い声に僕は入れない。僕を馬鹿にした中学のときの同級生たちの笑い声がリフレインしてきて気が狂うんじゃないかと思う。
僕はいつもの癖でまた下を向く。下を向いてさえいれば、大丈夫だ。自分にそう言い聞かせて教室に足を踏み入れようとしたときだった。ふいに背中をそっと叩かれて足を留めた。叩かれるというよりは、優しい感触で嫌な感じはしなかった。
「えっと。さっきの?」
振り返ると、笑顔の星野満月の顔があった。身長は高いのにどこか女性的な柔らかい雰囲気があって話しやすい。
「座席探しているならあそこだよ」
そういって、満月は笑顔で座席に案内してくれた。
「俺、星野満月。あらためてよろしく。ミヅキでいいよ」
ミヅキは大人しそうで、控えめな雰囲気を持っているのにクラスの雰囲気によく溶け込んでいた。僕は自然とミヅキと行動を共にすることで、クラスにも溶け込むことができた。その日は、自然とミヅキと行動をともにしていた。トワのことも気になったけれど、僕はそれよりもクラスになじもうと必死になっていた。
ミヅキの隣にいると不思議とさっきまであんなに気になっていた笑い声も気にならなくなってきた。
担任の先生はさっきの印象から怖い先生に見えたが、まだ初日だからあまり気にしないことにしようと思った。