彼女の正体
星光学院の真新しい校舎が見えてくると、彼女は言った。
「ねぇ。入学式ってどこでやるんだっけ?」
入学案内のプリントに書いてあった日程を思い起こす。
「確か、第一体育館。でも、その前に教室に集合だったと思う」
新入生のクラスはあらかじめ知らされている。新入生たちは各クラスの教室に集まって点呼を取った後、入学式会場に向かうという日程だった。
「あー。教室集合か。面倒だな」
彼女はそう言うと、ペダルを再び勢いよく漕いだ。
「直接、行くか」
自転車が、星光学院の門を通り越して敷地内に入って行く。もう校舎の中に入ってしまっているのか、生徒たちの姿はない。
僕は、「敷地内の自転車走行禁止」という張り紙を見つけて焦った。走行禁止の学校内を自転車で走っている。入学式初日から遅刻ギリギリな上、校則まで破っている。冷静に考えると、女の子との二人乗りだ。僕はだんだんと恥ずかしくなってきた。
「ちょっと、自転車で走ってて平気?」
「いいよ。誰も見てないし」
彼女はそのまま自転車で学校内を走って行く。第一体育館は、敷地内から少し離れていたさらに奥にあるらしい。彼女は迷うことなく、自転車で進んでいく。僕は彼女の名前も学年も知らない。道をよく知っていることからして、先輩だと確信した。
「着いたよ」
第一体育館の前に着くと、僕と同じ制服を着た生徒たちが整列していた。自転車を横付けした僕たちに、刺さる好奇の目が痛い。彼女が立っている先生らしきパンツスーツ姿の女性に話しかけた。
「西先生。遅れてすみません」
彼女はそう言うと、自転車を体育館の壁際に駐輪する。僕は、きつい印象のある美人顔の先生ににらまれて、思わずたじろく。
「全く・・・・・・。入学式初日から、遅刻するなんて。しかも、自転車で二人乗り。前代未聞です」
あきれたような口調で言われ、僕はうなだれた。
「とにかく、話は後にします。あなたのクラスと名前は?新入生の列に加わりなさい」
僕はうなだれたまま小さい声で答える。
「一年A組、牧瀬葵です」
「牧瀬君って私のクラスじゃない。点呼のときにいなかったから、自宅に連絡しようと思っていたの」
西先生の声が大きすぎて僕の名前が新入生に聞こえてしまった。新入生たちがこちらをずっと見ているからすごく恥ずかしい。先生に対しても入学初日から印象が悪くなってしまい、僕は大きくため息をついた。新しい学校では上手くやっていきたかったのに台無しだ。
うなだれていると、自転車の鍵を抜いた彼女が僕の隣に来た。
「私もA組なんだ。同じクラスだね。よろしく」
彼女は驚く僕の様子を見ると少し笑った。