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第32話 ヘレナ(3)

ベアはその日はそのまま下宿でやすんだので、トーコは翌早朝、ベアを採集場まで送ってから登校した。

早く着いたので、玄関の石段で教科書を開いていると間もなく鍵当番の教師がやってきて、自分の教室に入れてくれた。トーコは直接習ったことはないが、基本的にどの教師も親切だ。学力が足らず、中途半端な通い方をしているトーコに厳しい目を向ける人ももちろんいるが、むしろそれが普通だと思う。

第五学年のクラスメイトたちとはそれなりに話をするし、勉強を教えてもらったりして、自分でも馴染んだ気がする。問題の第三学年でも男の子たちもトーコの存在に慣れてそんなにちょっかいをかけてこない。問題は同じ自宅通学生のヘレナである。兄のヴォルフたちとは一番良く話すし、仲もいいのだが、彼女はかたくなにトーコを拒否する。ヴォルフに言わせればトーコだけじゃなく、他の生徒に対しても同じ、ということなのだが。

「あんなつんけんした奴と無理に友達になる必要ないんじゃない?」

ヴォルフは面倒くさそうだ。寮生が登校してくる前、教室で教科書を揃えながらのことである。

「でも、ヘレナって先生たちに対しては普通の態度なんだよ」

「入学してすぐにクラスの子たちと衝突しちゃったからねえ。頭はいいんだけど、なんというかまっすぐな性格だから、折り合うのが苦手というか」

困ったようにヴォルフの親友のエンケが苦笑いした。

「なるほどねー」

「なんで俺を見るんだよ」

「いや、兄妹だなって。なまじ頭が良くてヴォルフと同じ性格で、フォローしてくれるエンケみたいな親友もいないってことかあ」

「そうなんだよ~。喧嘩っ早いから収めるのが大変なんだよ」

のほほんとエンケ少年が肯定する。

「おいっ!」

「最初に衝突って何があったの?」

「詳しくは知らない。女が来るなって言われて言い返したみたい。ヘレナも口が立つし、ずっと成績一番だし、一対多数だからつい言いすぎちゃった可能性はあると思うよ」

「それは、相手を完膚なきまでに言葉で叩きのめした、の意味でオーケー?」

「あはは! まさにそれ」

「呑気に笑ってる場合じゃないと思うけれど」

トーコに対する第三学年の生徒たちの嫌がらせは最初の一か月程度で収まった。仲が良いわけではないが、挨拶すれば返してくれるくらいにはなったし、質問にも答えてくれる。でも、ヴォルフやエンケたち第五学年の生徒に比べて心身ともに幼い。十代の子どもの二年は大きいのだから当然だ。入学当初なんて全員がもっと未熟なんだから、当然衝突はおこるだろう。でもそうやって「言いすぎたな」とか仲直りの仕方を学んでいくものだ。最初の衝突を二年もひきずるほうが珍しいけれど、これは最初の対立がそのまま固定してしまったのだろうか。

「ヘレナって女の子の友達いるのかな? 普段は殆ど学校でしょ?」

治安上、先に授業が終わっても兄たちの運動の授業が終わるまでヘレナも帰れない。その間勉強して待っているということなので、学業面ではいいのだろうが、同世代の女の子とつきあう時間がなさそうな気がするのだが。

「えー、そんなのどうでもよくない」

「よくないよ。人間は社会的動物なんだよ。対人スキルを身に付けなきゃ、せっかくの頭脳が埋もれちゃうよ」

「大げさだな」

「お兄ちゃんなんだから、もっと真面目に考えてよ。わたしが教室で居心地悪いじゃん」

「そこかよ」

「大事だよ!」

トーコの場合、ヘレナと違って居場所が第五学年にもあり、そこで先に友達を作れたから、上級生たちの対応を見て第三学年生たちも接し方を変えた節がある。

「まだ何年もあるのに、このまま卒業まであの状態は辛いでしょ!?」

「あいつ気にしてないと思うけどなー。鉄仮面だし。あいたっ」

「お兄ちゃんなのに何を見てるの! 周囲皆敵な環境がヘレナちゃんの心の成長にいいわけないでしょう! 性格歪むよ! えいえいっ」

「もう歪んでるから。おい、ノートどけろよ」

「じゃ、第三学年の男の子たちに嫌がらせやめさせて。仲良くしろとは言わない。好き嫌いは個人の自由だし。準備学校の卒業生は社会を動かす立場なのに、孤立している女の子をさらにいじめるようじゃ、人の上に立てないよ」

「面白い話してるね」

トーコの机の傍に立ったのは、第五学年級長のカレルだ。

「どうでもいい話だから入ってこないでくれ」

煩わしそうにヴォルフは言った。揉め事の種の妹は彼の学校生活の汚点なのだ。

「教室中に聞こえる声で話してたからつい」

「嫌味か。嫌味だな」

「うるさくてごめんね」

うるさくしてたのは、トーコとヴォルフなのに、エンケが謝る。トーコはカレルに訊いてみた。

「級長はどのへんが面白いと思ったの?」

「君が興味を持ったのが。そんなことに首を突っ込んでるほど成績に余裕があるようには見えないけれど」

「余裕ないよ。だから早く授業に集中できるようになってほしい。カレルは直接見てないからいいけれど、目の当りにしたらとても授業どころじゃない」

「君の集中力が足りないだけじゃない? 嫌がらせっていうけれど、聞く限り彼女にも問題はあると思う」

「うん、彼女にも他の子にも問題はある。そして、あなたたちにも」

カレルの目が不快そうにすがめられた。

「僕たち? 僕は無関係だと思っているけれど」

「その態度が間違い。ちなみにこのあなたたち、という言葉には、学校と先生たちと上級生たちすべてが含まれる」

カレルはすっと目を細めた。

「へえ。具体的な話を聞きたいな」

「この学校が女の子に慣れていないのは分かる。でもこれは女の子だからとかじゃなくて、単にひとりの生徒と他の生徒が対立し、孤立した生徒に嫌がらせという名前の対人攻撃を行っていることが問題。そして周囲が誰も注意指導しなければ彼らがそれらを学校で認められた行為だと勘違いするのも道理。授業中、先生が背中を向けた瞬間に彼女に物を投げつけたり、彼女が見ていない隙にノートを汚したり」

トーコは周りの野次馬している男子生徒たちを見回した。

「はっきり言って、見苦しい。彼らが将来人の上に立てるのかものすごーく心配」

「で、君はどうするつもり? 裁判官にでもなる?」

カレルは再び笑みを浮かべて問いかけた。

「それは無理。全部の経緯を知ってるわけじゃないもの。先生たちが出てくる前に、上級生の指導力に期待する」

「上級生というのは第七学年生?」

「カレル、それ、わざと言ってるね。さすがに最高学年生が出てきたら第三学年の子たちが委縮するでしょ。ここは第三学年と往復してるわたしがいて、妹のいるヴォルフがいて、情報の入ってきやすい第五学年がひと肌脱いであげようよ。っていうか、ここまで時間が経つ前に親しくしている上級生から個人的に一言いってあげればすんだ話じゃないの? この学校は上下関係が厳しいけれど、下の子の面倒はちゃんと見るって聞いていたのに正直がっかりしてる。この学校を紹介してくれた卒業生に今の代はこうです、って報告するの恥ずかしくて大学の研究室に顔出せないよ」

「ずいぶん、言いたい放題言ってくれるね」

トーコはにっこりした。

「その分期待してるから。別に関係改善を望んでいるわけじゃないよ。自分たちの行動を客観的に見ることが彼らにとって必要だと思うだけ」

「君が年長者らしいこと言うの初めてだね」

「わー、さすが、級長。嫌味だ!」

「君の暴言には負けるよ。ここまで正面切って侮辱されて黙っていると思われているならなおさら」

「第三学年の情報、いらなかった?」

「これじゃ足りない。君の一方的な見解もね」

「じゃ、特別大サービスでこれあげる」

トーコは鞄からノートを取り出し、数ページを切って渡した。ぺらりとめくってカレルは顔をしかめた。

「九月十日三時限目十時三十二分 ベーメが丸めた粘土をヘレナの後頭部右下に投擲。同三十三分 ベーメがファイマンに粘土を渡し、同三十四分ファイマンがヘレナの左肩へ受け取った粘土を投擲……」

カレルは何とも言えない顔でトーコを見た。

「原本は各教科のノートの端っこに都度書いていたから、それにまとめてみた。わたしの席って一番後ろだから、先生に隠れてやってることも全部丸見えなんだよね」

「君の成績が上がらない理由がよくわかった」

「わたしが授業に集中できるよう、ぜひ頑張ってね」


「というわけで、第三学年のほうは級長たちに丸投げしてみた」

得々としてベアに報告すると、あきれ顔が返ってきた。

「本当に丸投げだな」

「わたしが直接言うと角が立つって、ハルトマンさんも言ってたもん」

「まあ、そうだろうな」

「ヘレナちゃんと仲良くなるのは無理かもしれないけれど、少し気持ちが楽になった」

ベアにはよくわからない感覚だ。トーコがさっぱりした顔をしているので、彼女にとっては納得のいく状況になったのだろうが。

「助けたんだから、これをきっかけに仲良くなれるかもしれないんじゃないか」

「どうだろう? ヘレナちゃんは男の子たちの意地悪に絶対反応しなかったよ。意地でもしない、というか。それにそんなのごく一部だけで、ほとんどの子はただ無視してただけだしね」

「無視だけでもたいがいだろう」

「興味ない相手とわざわざ話す理由がないっていわれたらそれまでだし。ヘレナちゃんも話しかけるな、って全身で拒否してるし。正直わたしのやったことって、どっちからも余計なことかも。どっちからも歩み寄るのは無理っぽいし」

「しかし、そのヘレナって子は学校に通って何がしたいんだ? 女の子でも上の学校に進めるものなのか?」

「知らない。準備学校でさえこの男女比だから、上はもっとないんだろうなとは思うけれど。でも、何やるにしたって学校で習ったことは無駄にはならないと思うよ。この間のトカゲを地面に激突させたのだって、光の屈折を利用して実際より遠くに地面があるように見せただけだし。うん、知識があると魔法の幅も広がる」

それは特殊な例だと思ったが、ベアは黙っていた。それより南の空に暗い色の雲が広がりつつあるのが気になる。

「夜に一雨来るかもな」

「その前にナガクサカズラを採っておきたいね。次のナガクサの群生地まではあと少しなんだけど、今日中には終わらないかな。今夜雨が降ったらサジンダケが採れるようになる?」

「時期が少し早いからどうかな。去年はいい具合に降ってくれたが、タイミングが合わないとあまり出なかったりする」

「そうなの? いつもあんなにいっぱい出るんだと思ってた」

「大抵は大丈夫だ」

「大丈夫じゃない年のためにも、たくさん採っておこうっと。きっと今年は豊作だし。そういえば、森の入り口に、サジンダケ専用の出張査定所をたてるって」

「その依頼、受けたのか?」

「ううん、他の人に依頼したみたい。二か所立てるって言ってた。で、空間拡張容器を増やすかどうか悩んでた」

「ほう、需要はあるのか」

「まだ認知度は低いけれど、そこそこあるみたい。と言っても、サジンダケ用にはもう予約で埋まっているけれど、他の日はひとつも申し込みがなかったりで、まだ安定していないって」

「それなのに増やすのか?」

「出張査定所の設置が決まった時にはもう空間拡張容器は全部抑えられてた後だったの。森の入り口だから、荷車を入れて運ぶか、大きいサイズの空間拡張容器で運ぶかで悩んでる。あと、今の長持ちサイズだと、毛皮だけならともかく、ヨツキバオオイノシシやチョウリョウクロネコを一頭丸ごと入れるには小さいから、狩人の人たちからも要望があるみたい。これからシンリンヌマジカのシーズンだし、大型のを用意するかどうかってことね」

「狩人向けは確かにそうだな。安定した貸し出しが見込めないと難しいだろうが」

「維持費や予算の問題もあるから簡単には決まらないと思うけれど」

それでも一応拡大方向に向けて検討中なら、提案はギルド構成員たちに受け入れられたということで、トーコは嬉しそうだ。

日が暮れるぎりぎりまで採集し、足元が見えにくくなってきたところでベアは今日の野営の用意を告げた。トーコは外に明りが漏れないように障壁魔法のパネルを組み立て、内部に明りの魔法を放った。椅子と机、竈を出してポーチを覗き込む。

「サジンダケが食べたくなっちゃった」

「他に角ウサギとアカメソウの実を出せ。炒めよう」

「スープはイシウリとタマネギのポタージュにしよっと」

ベアが炒め物用の材料を切りそろえ、トーコが鍋に蓋をしたあたりで、障壁魔法の一部がスライドして透明なビー玉のようなものがいくつも飛び込んできた。トーコが採集物を集めるのに作っている空間拡張と時間凍結魔法を施した障壁魔法だ。封筒だと空気抵抗が大きいので、ビー玉にしてみたのだ。スープが煮えるのを待つ間、それぞれの採集玉から取り出した収穫物は整理され、ベアの目の前を通過して封筒に収まる。採集物を目視確認するベアの横で、トーコは封筒に情報を書き込んで、収穫物台帳にさらに記入する。

「ナガクサカズラは最盛期の割に少ないな」

「中央高山地帯周辺のナガクサの群生地に行く?」

「あのあたりは、他の人に任せてできればユナグールから離れたところで探そう」

「わかった。あ、雨だ」

換気のために空けてある隙間から雨が障壁に当たる音が聞こえた。

雨はパラパラとやる気なく降って朝には止んだ。朝日に誘われて枯葉のマットレスから身を起こしたトーコは就寝用天幕から外へ出た。雨が降っていたのでそのままにしておいたパネル型障壁魔法の中は濡れていないが、障壁にまとわりついた水滴がキラキラとしてきれいだ。こういう時は、自分の魔力から生成したのではなく、天の恵みを活用したくなる。

雨水を集めてろ過した塊に顔を突っ込むと眠気もさっぱりと落ちた。

「ベアさん、おはよう」

「おはよう」

「晴れたねえ。でも、これだけ濡れちゃうと採集はできないかな」

「ナガクサカズラは大丈夫だろうが、他は待ったほうがいいな」

「じゃあ、ナガクサカズラだけ採っちゃうね」

言うなりトーコのポーチから採集玉が飛び出して四方に散っていった。トーコはメモをめくった。

「朝ご飯はおとといの晩御飯の残りの野菜スープと青菜の卵炒めあたりでいい?」

「ああ」

ベアはトーコが転写してきたギルドのお知らせをテーブルに広げて丁寧に読んでいる。トーコは葉野菜とタマネギ、ベーコンを適当な大きさに刻み始めた。葉野菜とベーコンはいいのだが、敵はタマネギである。コロコロと転がろうとするタマネギを移動魔法で押さえつけて涙目で苦戦している間にベアがお茶を淹れてくれた。

「思ったより魔物の値が下がっていないな」

「それでも、チョウロウクロネコもヨツキバオオイノシシも去年の倍競売に持ち込まれてるって話だよ。お肉はともかく他は腐るものじゃないからかな?」

「倍か……」

「それからまた魔物が近くの村に侵入したって。ネグイってチョウロウクロネコやヨツキバオオイノシシほどにはメジャーじゃないから、家畜が何に襲われたのか分からなくてギルドへの依頼が遅れたみたいってリーネさんが言ってた。リーネさんのチームに駆除依頼が回ってきたんだって」

最近ではもう珍しくない話だ。ユナグール大学のパウア研究員が調べたところでも、魔の領域のバッタや、そのバッタを追ってか小鳥の類もかなり侵入していたという。

「人の領域でもあまり気を抜かんようにな。フキヤムシ用の障壁魔法は街中でも展開してるな?」

「うん、三百六十五日、二十四時間稼働中! 最近、町でも鐘がよく鳴ってる。ダイコクチョウかクロオチョウがほとんど。今のところ、国境警備隊が壁で追い払っているみたいで、学校の近くまではこないけれど、鐘が鳴ってもまたか、って感じに皆なってきてる」

もう一度気を付けるように、と言われてトーコはユナグールへ送り出された。

学校が終わった後、掲示板を板書しにギルドへ立ち寄ったトーコは日中にも関わらず人でごった返しているのにびっくりした。

「どうしたのこんなに集まって。何か起こったの?」

手近のギルド構成員を捕まえて聞くと、笑いながら否定が返ってきた。

「違うよ。サジンダケの採集が始まったんだよ。俺たちは朝から入って持ちきれなくなったんで、一度戻ってきたところさ。出張査定所があるなんて知らなかったから」

「えっ、もう!?」

トーコは急いで魔の領域に飛んでベアに知らせた。雨のあとは採集に向かないので、今日は朝別れたところで作業しているはずなので探す手間はない。

「あの程度の雨で出たのか。早いな」

ベアは意外そうに言った。千年樹の森へ転移すると情報通りあちこちにサジンダケが出現していた。去年より少し小ぶりだが、小さいサイズでも依頼は受けているので、採集用の各種魔法を駆使してさっそく採りにかかる。サジンダケに専念したおかげで陽が落ちるまでに十分な依頼の量が確保できた。翌日は更に成長したサジンダケを採り、三日目は千年樹の森を離れて、果樹の草原に接した森へ採集場を移す。サジンダケにだけ目標を絞れば、歩く速度ではなく、障壁に乗って移動する速度での採集が可能だ。サジンダケは出て数日で胞子を飛ばし始め、そうすると視界が悪くて森に入れなくなるので、ここは集中的にやってしまう。

障壁に乗ったまま余剰を自家消費用に使いやすい大きさに割いて乾燥させながらトーコは依頼書の写しをめくった。

「三サイズとも必要量がそろったから、明日、学校が終わったら届けてくるね」

「どうせ明日あたりから胞子が飛び始めるだろうし、無理に来なくてもいいぞ。そういえば、ギルドはやっぱり空間拡張容器じゃなくて荷車か?」

「そうみたい。東門前の広場にサジンダケの入った木箱を積んだギルドの荷車を見たよ」

「ギルド長がまた大口顧客でも捕まえたかな」

「こっちもザカリアスさんだって。角ウサギやワタリヌマガモはバルカークに持って行って売ったけれど、干したサジンダケは日持ちがするから、直接外国の商人に売るんだって」

ベアたちにもかなり強気の発注をしているのに、更にとは恐れ入る。

「外国のというと、飛行船で来る商人か?」

飛行船を利用してユナグールに買い付けに来る商人は少数だがいる。特に帝国西部から南部にかけての陸路で一ケ月以上かかる遠方から来る商人や、海を越えたキリナン王国などだ。ギルドの競売で直接見ることはあまりないが、最終的には競売で競り落とされた部位のかなりの部分が彼らに購われているはずだ。

長旅をする彼らに人気なのは、劣化しにくい魔物の骨や角、血凝り、乾燥させた薬効植物、加工済みの薬、結晶石、結晶樹の実などだ。ベアが秘密にしている結晶樹は一本だけだが、草原湿地帯のユナグールから数日の場所に数本あり、バルク公国の大事な輸出品だ。近いと言っても、小舟を使って遮るもののない水の上を数日行くので、巨鳥に襲われたり、湿地で迷って戻れなくなったりという事故は毎年起こっている。それでもうまく水中から多数の実を探し出すことができれば儲けは大きいので挑戦者は後を絶たない。

「いつか飛行船にも乗ってみたいなあ」

「乗ってどこに行くんだ?」

「えーっと、キリナン? たしか前に飛行船の整備員の人がユナグールを発着する飛行船は全部キリナンを経由するって言ってた。それに、キリナンは飛行船を作れるくらい魔法道具もそのほかの技術も高いって学校で習ったよ!」

「それには頑張って稼ぐんだな」

「高いの?」

「安いわけはないだろうな。使うのは貴族か資金力のある商人くらいじゃないか」

トーコは残念そうな顔をした。ただの観光で庶民が使うというレベルではなさそうだ。

翌日作業所へサジンダケを収めに行ったときに居合わせたザカリアスの配下に訊いてみたら、バルク公国からキリナン王国まで、海路の三倍の船賃だということだった。

「塩や酒、穀物のように重くて大量な品は船だね。軽くて高価な魔の領域の産物なんかは飛行船をつかうこともあるが。特に薬草の類は濡れたらダメになる」

なるほど、船便と航空便のようなような関係らしい。

「他にユナグールに療養に来る人も利用する。ユナグールに来るだけなら、帝国の都からも、ブラクール経由の陸路より早くて快適らしいから。馬車の振動や船の揺れが体に障るっていう病人も使うようだよ」

「商人と療養者だけでよく航路が維持できるね」

「貨物もあるからな。船便より早くて日数が安定しているのは確かだ」

「うーん、そんな高価な空の船旅で運ぶのがサジンダケかあ」

「サジンダケは珍味だからその価値があるよ。薬ほどじゃないけれど、わざわざ飛行船を使う商人としても、荷物に空きを作りたくはないだろうし、手頃な穴埋めになるとザカリアスさんは考えたんだ」

「なるほど。うまいなあ」

トーコは感心した。苦手な人ではあるが、経営者としてその姿勢は立派なものだ。そして彼が販路を開拓してくれればギルドもギルド構成員も潤う。ギルドも今年は積極的にサジンダケの買取と配達に強制依頼で集めた人手を使っている。強制ではあるが、これには稼ぎ時に怪我で離脱せざるを得なかったギルド構成員や、魔物が多出するせいでいつもの活動が厳しくなっていた者への救済措置の意味もある。サジンダケが本格的に胞子を飛ばし始めるまでの数日間だが、比較的安全に稼ぐことができ、また魔の領域の様子を探れるいい機会なのだ。

ベアとトーコは森に胞子の濃くなってきた五日目からサジンダケの採集を切り上げ、草原のナガクサカズラを集中的に狙って採りに行った。夏の間に群生地はチェック済みなので、早く熟す南から北へと移動しながら採る。どの株もはちきれんばかりに大きく艶のある実をナガクサがしだれるほどたっぷりつけていた。

「ベアさん、なんか煙ってない?」

その日、三つ目のナガクサの群生地に到達したトーコはあたりがうっすら霞んでいるのにきがついて瞬きした。

「サジンダケの胞子だな」

ベアの視線を追うと、遠くに森らしき影と、立ち昇る胞子の煙が見えた。

「うわ、森の胞子がここまで風で漂ってきているのか。肺に悪そう。障壁魔法を使っていい?」

「まあいいか」

「採集物から胞子をはたくのに余分に魔力かかるから嫌だな」

「ここが終わったら、森の風上側を先に採りに行こう」

「賛成!」

採集用の魔法を起動したトーコは歩き出した。が、周囲の胞子の霧は濃くなるばかりだ。

「ベアさん、段々ひどくなってきてない?」

「なってるな」

ベアも顔をしかめて南東を見やる。森から立ち上る煙は高さと濃さを増し、風にあおられて怪物のように身をくねらせている。

「森に入っているひとたち、大丈夫かな」

「ここまで急激に視界が悪くなると出るに出られずというやつも出てくるだろう。魔物の方でも身動きできんだろうから、収まるまでじっとしているのが一番だな」

「虫小屋の人たちはもうユナグールについたかな?」

夏の間魔の領域に小屋をかけて虫を飼う人々は数週間前にユナグールを目指したはずだ。荷物と人数が多いので、足取りは遅いはずだ。

「ユナグール近くの森にはさすがについていると思うが、抜けてるかは分からんな。中央高原地帯近くの草原に出ていればそこまで酷くないと思うが」

そんなことを言いあううちにも視界は悪くなる一方だ。

「ベアさん、これってまずくない?」

トーコは昨年サジンダケを採りに胞子舞う中森歩きを敢行したときのように、胞子回収の魔法を作動させた。こうでもしないと視界が確保できず、歩けば胞子が舞い上がる。

「去年より酷いな。草原でこれだと、森のなかはどうなっていることやら。トーコ、採集は無理しないでいい」

「わかった。胞子を払うのは後日にして、採るだけにしとく」

ベアも採集物を探すどころではないので、移動するためだけに歩くことにする。トーコの魔法は視界の良しあしは関係ないが、魔力の高いサジンダケの胞子はけっこう邪魔だ。

夕方、採集玉を手元に呼び寄せたトーコは封筒に移しながら呆れた。

「薬草を採っているんだか、胞子を採っているんだかわかんないね。この胞子はどこかに穴掘って埋めるしかないね」

「サジンダケをいっそ根こそぎ採ってしまえば良かったかもな」

例によってトーコの選定眼は厳しい。サジンダケの採集率は六十パーセントといったところだ。

トーコも同意した。

「これ、来年はどのくらいサジンダケが出てくるんだろう。草原までサジンダケだらけになりそう」

「森の様子も見たいし、明日は千年樹の森へ行ってみるか」

「サジンダケ採るの?」

「今更焼け石に水だとは思うが」

ベアの言葉は正しかった。

「うわー、胞子が雪みたい! そしてサジンダケが馬鹿でかい! 見て、ベアさん! これなんかひと抱えもあるよ!」

大はしゃぎのトーコと対照的にベアは眉をひそめた。胞子が濃いなんてものじゃない。トーコが足元と視界を確保しているからいいが、そうでなければ足首まで埋もれるほど胞子が降り積もっている。

「異常だな」

すっかり口癖になってしまったセリフを口にしながら、楽しそうなトーコの後ろを歩く。つい数日前にトーコが採取した場所なのに、何事もなかったかのようにサジンダケは森を占領していた。

「あきれる大きさだな」

トーコが採らなかったサジンダケは普通ならひょいと跨ぐか踏み潰して通るのだが、わざわざ迂回しなくてはならないほど大きいのに行き当ることもしょっちゅうだ。そのうち、歩きにくいのに気が付いて、トーコが進行方向の地面に生えているのを採り始めた。

「ザカリアスが欲しがるかもな」

「胞子を飛ばしたのを売るのは良くないと思う。これは自家消費用」

ベアとしては森の様子も分かったし、場所を移してもいいのだが、滅多にないことでもあるので今日くらいはトーコに付き合うことにする。

流石に胞子に埋もれて寝るつもりはないので、陽が落ちた後は草原へ転移した。久しぶりに共同野営地に行くと、先客がいた。

「こんばんは! お久しぶり!」

「約束もないのに行き会うなんて珍しいな」

扉の鍵を外してくれたのは、胞子まみれの採掘組だった。

「いや、そうでもないか。こんな日は避難所に駆け込むに限る」

「おじさんたちもサジンダケの胞子を避けてきたの?」

「ああ。今年は酷くなるのは分かっていたからサジンダケが出始めてすぐに移動したんだが、草原まで胞子がこんなに飛ぶとはね」

「取り敢えず、建物に入り込んだ胞子を外に追い出すね。ちょっと風が吹くけど我慢して」

トーコ言葉通り、短い突風が吹き、皆の体について胞子を吹き飛ばして消えた。明りの魔法を灯し、屋内なので魔法で温めるだけの食事を用意する。

床に車座になって夕食を食べがてら情報交換をする。彼らとは月に二度情報と物資を融通しあっていたが、前回会った時にそろそろ魔の領域を出ると言っていたので、次に会う時はユナグールだと思っていた。

「ああ、このままユナグールへ向かうつもりだ。今年は収穫も多かったしな」

「森の中は胞子だらけで歩けたものじゃない。文字通り足が埋まる。サジンダケが胞子を飛ばし終わっても森を行けるようになるまでだいぶかかると思うぞ」

「そんなに酷いのか?」

「計ったら一番深いところで九センチ積もってたよ」

ひょっとしてユナグール大学の研究員たちが知りたいかと思って、何か所かで計っておいたのだ。

「まっすぐユナグールに戻るだけなら、明日の朝トーコと一緒に転移するか?」

「助かる。いつも悪いな」

「どうせついでだもん」

彼らにはたびたび物資や転移魔法を融通しているが、それをあてにされたことは一度もない。そんな姿勢が好ましく、ベアにしては珍しく魔法を提供させるのだろう。トーコとしても後に責任を持たなくていいので気が楽だ。

「魔の領域を出たら、今度、礼をするよ。と言っても、結晶石くらいしかないが」

「わーい、結晶石は嬉しいな」

トーコは素直に喜んだ。採掘組が笑う。

「だいぶいい収穫ができたと思うから、期待していいぞ」

「あ、どうせなら、小さいのがいい」

「小さいの? なんでだ」

採掘組が不思議そうに言う。

「おじさんの空間拡張容器みたいのにつけるの。わたしってうっかり屋だから、どれに魔力を補充して、どれが切れちゃうか絶対に確認し忘れる自信がある。あると安心なの」

「自慢にならんな……」

「自分でもわかってるから、こうして対策立ててるんじゃない~」

「容器を作りすぎじゃないのか」

「いっぱい必要なんだもん」

トーコは食べ終わった食器を洗うといそいそと食後のデザートを作り始めた。去年採ったツキリンゴを刻み、たっぷりのバターと赤砂糖をまぶして炒めたものを、器に盛ったアイスクリームに乗せる。ケーキやクッキーと違い、風の刃で撹拌しながら冷やせばいいだけのアイスクリームはとっても簡単にできるのだ。夏の終わりにアムル村に再びお邪魔した時に、特産の乳製品を冬に備えてたくさん買ったので、このところ夜のデザートはアイスクリームが頻出する。果物を混ぜて作るのはまだアカメソウくらいしか成功させてないが、プレーンアイスに熱いソースをドバっとかけるのが楽で美味しくていい。

出されたものは黙って食べる主義のベアは、器の中身を掬いながら、内心でそろそろアイスクリームに飽きてくれないものかと思う。これでもシズクマメのスプーンで食べられるだけ進歩したのだ。最初は凍らせすぎてスプーンが入らず、温めれば溶け出して大変だった。

適量が見極められないうちは作りすぎて朝食にも出てきたものだ。その場合はなぜかパンケーキの上に乗っかって出され、わざわざバベッテに頼んで焼いてもらったらしいパンケーキが溺れないうちに急いで食べてしまわないといけなかった。

ベアとしては、デザート開発の苦労を採掘組に熱く語る弟子を見ながら、アイスクリームの作り方より先にパンケーキの作り方を覚えないと嫁の貰い手がないんじゃないかと心配である。

「町に早く戻れるなら、近場で少し狩りでもするかな」

「おじさん、魔物を狩れるの? 採掘専門なのかと思ってた」

ベアはあきれた。

「それなりの腕がなきゃそもそもここまで辿りつけない。狩ろうと思えば狩れるだろう」

持ち帰るつもりでなければ狩る必要がないというだけだ。

「別に大物を狙おうってわけじゃない。ユナグール周辺の草原か森の入り口で普通に角ウサギあたりだ」

「今年は魔物とやりあうことも多かったし、空間拡張容器に槍をもう一本入れておこうかって話になったんだ。一応予備はあるが、一本とられると後が心もとない。群に出会ったのも一度や二度じゃないし。新しい槍の慣らしも兼ねてだから、そんな危険な場所にはいかない」

「槍か。それも品薄だって話を聞いたな」

先日、防具を探しに行った傷の店主の話だ。

「去年の角ウサギ掃討作戦でも品薄になったが、そのあと元通りになったはずだが」

「おじさんたちみたいに余分に買う人がいるんじゃない? 最近、二本目を背中にさしているような人をギルドで結構見るよ」

「遭遇率が上がれば普通に消耗もするだろうしな」

チョウロウクロネコならまだしも、ヨツキバオオイノシシなど一撃で致命傷を与えられなければ槍などへし折ってしまう。トーコも体に折れた槍を何本も突き刺された大物をギルドの競売場で見たことがある。

「その様子だと他にも色々不足や値上がりがありそうだな」

「あたってる。いつも行く結晶石屋さんも結晶樹の実は品薄で、結晶石は値上がりしてるって。結晶石は小さい屑石と大きいのはあまり変わらないけれど、ほどほどに魔力を蓄えられる大きさのがよく売れていて仕入れが追いつかないって言ってた」

採掘組はそろって首を傾げた。

「ユナグールのギルドの魔法使いが買うだけでそんなに足りなくなるものか? 魔の領域の異変とは関係なく、どこかで戦争でも起きるのかもしれんぞ」

「ええっ、戦争はやだな」

「バルク公国が当事者とは決まったものでもないがな。飛行船で買い付けに来る外国商人もいるから」

「もしくはこれから値上がりするのを見越して売り惜しみ、買占めに走っているのがいるか」

さすが結晶石の採掘にかかわるだけあって詳しい。

「以前頼んだ大容量結晶石の確保の件だが」

「ああ、今加工に出しているから町に戻ったら受け取れるはずだ」

デザートの器を片づけようとしていたトーコは採掘組を見た。

「加工?」

「結晶石ってのはそれだけ掘り出せるんじゃないんだよ。石やら他の鉱物を巻き込んでいたりくっついてたりするから、それらを取り除かないと値のつけようがない。結晶石を含む塊を掘って持ち帰り、その先の作業は人の領域でやる。荷が増えるのを嫌って現地でやる奴もいるが、そのぶん長く滞在しなきゃならんから、専門にしている奴はまずやらないが」

「そっか、普段お店で見ているままの形で掘り出せるんじゃないんだね」

「だから小売されているようなのはどんなに小さくても屑じゃない。本当の屑石は捨てるしかないからな」

そういって空間拡張容器から取り出して見せてくれたのは、どう見てもひと抱えもある岩の破片だった。楔を打って割ったものらしく、楔を充てた跡が白く残っている。それとは別に扁平な岩の破片の中にいくつか白い塊がある。両手で持つと重い。

「この辺のは取り出して売り物になる」

シイの実サイズの塊を指して見せる。トーコは探査魔法を起動した。目視で確認できる部分以外の中にも大小さまざまな結晶が点在しているのが分かる。その数は思ったより多い。

「うわ、ほんとだ、ちっちゃい! この粒粒も結晶石なんだね」

米粒大以下だ。

「この岩から結晶石だけを取り出すの?」

「そうだ。根気と器用さのいる仕事だ。俺もこいつもこれが苦手でな……」

「ね、ね、ちょっとやってみてもいい?」

「いいが、道具を持って来ていない」

「魔法でやるから大丈夫!」

トーコが言い終わると同時に、岩に内包されていた結晶石が床の上に転移された。移動魔法でサイズを分けながらトーコは歓声をあげた。

「わー、ちっちゃい! でもちゃんと結晶石だ~」

「驚いたな。魔法でこんなことができるのか」

採掘組が採り出された結晶石を光にかざして感嘆した。

「こんな真似ができるのはこいつくらいだから、魔法使いに依頼しようなんて考えないほうがいいぞ」

希少な転移魔法と高精度の探査魔法の組み合わせだ。

「値がつくのはこのあたりからだが、入域と削りだしの労力に見合う値段を考えると、冬、他にやることがなくなった時にやるくらいか。研磨に出しても手間賃を考えると質が良くなきゃ大した儲けにはならんな」

と大豆サイズの一粒をとりあげた。ベアに貰った結晶石もたしかそんな大きさだった。

「ええっ、もったいない。小さいのは小さいので使えるかもしれないのに! 魔力源としてなら数があればそれなりの魔力保有量になるんじゃない? この、米粒みたいのだって、全部集めれればクルミくらいの大きさになるもん。効率が悪いのは認めるけれど、本当に困った時には役に立ちそう。質はかなりいいよ?」

「この、指でつまみにくそうなちっさいのか? 欲しいならやるぞ。俺たちには使い道なんぞないし、取り出す労力だけかかって売れるとも思えん」

「いいの!?」

「自分でやってもらわんきゃならんが、他のもやるか?」

「ほんと!? ベアさん、いい?」

ベアは顎を撫でた。

「まあ、いいか。こっちとしても大容量の結晶石を早く使えるようにしておいてもらいたいしな」

やるならひとつもふたつも同じことだ。ベアの許可が出たので、トーコは彼らの採掘した原石を全部出してもらった。床に並べきれないので、壁に沿って縦に並べる。さっきのような大きな塊から、こぶし大までサイズは様々だ。そして一回の魔法で空いたスペースに結晶石を転移させる。

「ザックザクだね!」

大きさ別に並べた結晶石を見てトーコは満面の笑みだ。

「でかいな」

ベアは一番端に置かれた巨大な結晶石に目を瞠った。ベアのひじから先くらいの大きさだ。質もよさそうだ。

「この大きさになると数年にひとつ掘り当てるかどうかだ。これが売れたら引退できそうだな」

「こういうのから、飛行船用の結晶石って削り出してるのかな」

「前に言っていた直径七センチの球形結晶か。大きさで言えば削り出せるが、そのためにどれほどの結晶石を粉にするのか、俺なんかこわくて考えられないね」

「君なら必要な大きさだけ刳りぬいて残りは普通の結晶石として使えそうだけどね」

「なるほど! どっかにそんな依頼転がってないかなあ」

虫のいいことを言いながら、結晶石をしまうのを手伝う。結晶石と結晶石がぶつかり合うと当然のことながら傷がついたり、最悪割れるので触れ合わないように手持ちの衣類などに包んでしっかりと固定するのだ。

トーコは貰った米粒大以下の小さな結晶石を取り敢えず時間凍結封筒にしまった。なんだかんだ言って丼ににひと掬いくらいはある。そのほかに質のよくない大豆サイズの結晶石もいくつか貰ったのでホクホクだ。これで何か思いつくたびに結晶石屋さんへ走らずに済む。試作品なら米粒大でも充分だ。

大豆サイズも質が良くないと言っても、小売店で買えばいい値段になるので、大助かりだ。転移魔法と探査魔法各一回分の代価としては文句ない。

さっそく手持ちの入れ子封筒の一番外側に使っている封筒に結晶石をとりつけにかかる。せっせと作業するトーコを採掘組が物珍しそうに見ている。

「また欲しけりゃ、いつでもうちに来い。目ぼしいのを取り出した残石が家の裏にごろごろしている。石をどっかに捨ててきてくれれば助かる」

「わーい」


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