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第21話 結晶石(3)

急患が来たので、手伝いが終わった後でヘーゲル医師にディルクの修行状況を訊いてみると苦戦しているとのことだった。

「最初は誰でもそんなものだ。一度成功させてコツを掴めばあとは簡単なんだが」

「初めて自転車に乗るようなものかな。あ、また急患みたい」

トーコが言い終わるのと同時に人が飛び込んできた。怪我人は連れておらず、単身で走ってきたらしい。

「北区の倉庫で荷崩れが! 足が潰れて……」

「北区? 遠いね。ヘーゲル医師、行ってくるね」

「おう。分かんなかったら戻ってこい」

「うん」

ヘーゲル医師とトーコを交互に見て戸惑った顔をする使いの手を引っ張ってトーコは久しぶりのスノーモービル式障壁魔法を呼び出した。おっかなびっくりの男を座席に座らせて発進。案内にしたがって、上空を移動する。

川沿いに似たような倉庫が立ち並んでいる。そのひとつにひとが集まっていた。男の指示で降下しながら探査魔法を走らせて怪我人を探す。いた。なだれた木箱の下敷きになっているのが三人、表に運び出されているのがふたり、そして亡くなっているのがひとり。先に運び出されているふたりから治癒に取り掛かる。

使いを乗せたボードを着地させて、トーコ自身は直接倉庫の中に飛び込んだ。中では何とか埋もれたひとを掘り出そうとしている男たちがいた。

「危ないから、全員離れて!」

木箱が浮き上がって空を飛ぶのを見た彼らが慌てて手を放す。トーコは構うことなく、埋もれているひとを手元に引き寄せた。三人とも骨折し、ひどい怪我もしているが、命は助かりそうだ。トーコは引き出した三人を外のふたりの傍に寝かせた。

「治療は終わったよ。怪我は治したけれど、体力や失った血液が戻るのには時間がかかるから、数日は安静にしてよく休むこと。あとは治癒魔法使いじゃないお医者さんに診てもらって」

「あの、主人は……」

使いの男が遠慮がちに声をかけた。

「主人?」

彼が示したのは、少し離れたところに安置されていたひとだった。

「お気の毒だけれど、わたした来た時にはもう亡くなっていた」

竜の血でも死者までは蘇らない。使いの男は主人の遺体の前にへなへなと座り込んでしまった。トーコは遺体に向かって手を合わせて一礼し、生者のほうへ向きなおった。

「この崩れた荷物はどこへ置けばいい?」

あれこれ指示を出しているひとがいたので、彼に訊くと、困った顔をした。

「わたしは買い付けた荷を受け取りに来ただけで、彼が死んだとなると……。手付は払ってあるが」

トーコは六台のうち、二台と半分だけ荷を積んでいる荷馬車をみやった。

「役人を呼んで立ち会ってもらったほうがよさそうだね」

役人と死んだ男の配下が立ち合い、契約書を元に、荷の引き取りだけ許可された。問題は色々な荷が混じってしまったことで、結局トーコが探査魔法で探して釘を抜いて中を確認してまたふたを打ち付ける作業を繰りかえすことになった。トーコがやったのは箱を引き出して戻すか荷車に積むかだけだが、時間がかかるので途中からふたを開け閉めする作業も引き受けた。

ついでに荷崩れの原因も見つけた。

「ここの十箱、中身が空で板が半分腐ってる。上の重みに耐えきれなくて潰れていたんだね。で、手前の荷物を動かしたからこっちに向かって寄りかかっていた荷物が崩れてきた、と」

たちまち死んだ男の商会の者たちが騒ぎ出した。前の取引相手に騙されたのか、誰かが盗んだのか、というわけだ。そして買い付けに来ていた商人もすべての箱を開けて確認すると言って譲らなかった。

検品と積み込みと、残った荷物を言われたとおりに積み直すのに二時間かかった。死んだ男の家族が駆けつけ、商売を手伝っている長男がその場で後を継ぐことになったので、トーコの作業は無にならなかったが、とんでもないことが発覚した。

「主人の治療のために呼んだのであって、他の連中を治せなんて一言も言ってない。この役立たず!」

治癒魔法使いを呼びに来た使いの男がトーコをにらんだ。

「……え?」

助けを求めて周囲を見渡すと全員が目をそらした。荷崩れに巻き込まれた怪我人のうち三人は死んだ男の商会で手配した日雇いの荷運び人。ふたりは買い付けに来た商人の荷車人夫でやはり臨時雇い。当然支払能力はない。

「あちゃー」

トーコは目をおおった。確認しなかったのは完全にトーコのミス。先走って勝手に直したのも事実。更に荷運びも別に依頼されてない。

こんなことが知れようものなら、ベアにはあきれられ、ハルトマンにはバカにされること請け合いだ。ヘーゲル医師にはさすがに報告しないわけにはいかない。

戻るとヘーゲル医師がなかなか戻ってこないトーコを心配していた。話を聞くと、苦笑して許してくれた。そしてベアにもハルトマンにも内緒にしてくれると約束してくれた。

「ディルクにも知られたくないなあ」

「おう、そうだ。せっかくだからトーコがいる間に一度見てやれ。いつでもいいから飯でも食いに来るように使いをやろう」

「あ、じゃあ今から伝えてくるよ」

トーコはヘーゲル医師の長女ビアンカの嫁ぎ先に転移した。視界が切り替わり、神殿の大きな塔が視界のど真ん中に屹立する。東門の外からもシルエットが見える馴染みの塔だ。玄関先に着地しようとして、塔に気をとられていたトーコは慌てた。

「きゃあーっ! どいてどいてどいてっ!」

トーコの着地先には小柄な影が三つ。うち二つはきょろきょろと左右を見渡している。まさか上から声をかけられたとは思わなかったのだろう。唯一上を見上げたディルクが慌てて学校の友達らしいふたりの少年の背中の服を引っ張った。が、その反動で自分は前に出てしまう。

「ふぎゃ!」

「ってー!」

ともにひっくり返って尻もちをついたふたりをディルクの友達が唖然として見ている。

「ごめーん」

「ちゃんと前、じゃなくて下見て飛べよ!」

両手で鼻を押さえながら下敷きにされたディルクが顔を真っ赤にして怒った。危うく友達に被害が及ぶところだったのだから当然である。トーコはディルクの友達にも謝ってから要件を切り出した。

「ヘーゲル医師がいつでもいいからご飯食べにおいで、って。ついでに一緒に魔法の練習しよ」

「行く。今日、行く」

即答したディルクだったが、両親が不在だったため、しばらく待つことになった。ヘーゲル医師の長女、ディルクにとっての兄嫁ビアンカがいたのでおやつを出してもらってトーコも相伴に預かった。ふたりから魔の領域の食べられるお土産のリクエストを受け付けていると、ふとディルクが訊ねた。

「今、移動魔法いくつ使ってる?」

ディルクの目は一列になって空を飛び、陶器の鉢に着地して山積みになっていくヌマシギの卵を追いかけている。ヌマシギの卵はヌマガモの卵より小さいが、これを茹でるとキノコと一緒に薄切り肉で巻くのにちょうどいい大きさなのだそうだ。忙しい母親に代わって主婦として家事を切り盛りしていたのもビアンカなら、バベッテに料理を教えたのも彼女だから、当然料理はうまい。

「えーと……ひとつ、かな」

「うっそだー! だって卵の動きがバラバラじゃないか」

「バラバラでも一つだよ。これで一連の動き。たとえば、ここでヌマシギの卵の列にヌマガモの卵を割り込ませようとすると、ほら、もう一つ移動魔法を起動させないとね」

ヌマシギの列にワタリヌマガモの卵が一つ置きに入っていく。

「うーん、わかんねー」

「言われてみれば前は確かにこういう時、動かすものの数だけ移動魔法を使っていたなあ」

トーコ自身いつからこうなったか覚えていない。ただ採集時に大量の採集物を効率よく集積するのに個々にかけるより、ベルトコンベヤーのように流れに乗せたほうが早くて楽だったので、いつの間にかこうなってた。

今日の荷崩れ現場で怪我人の上から障害物を取り除くようなときは、一度に複数の移動魔法を発動させていっせいにどかさないと移動魔法がかかっていない荷が落ちてくる。あまり意識して使い分けをしていなかったので、改めて聞かれるとトーコは考え込んでしまう。

「その説明、さっぱりわかんねー」

「卵一個一個を動かすんじゃなくて、卵を運ぶものを動かす、みたいな?」

トーコの口調もあやふやだ。ディルクに余計分からないと突っ込まれた。

「まず一粒の豆を動かせるようになってからだよなあ」

ディルクは呻いてポケットから豆を取り出した。持ち歩いているらしい。

トーコはディルクが豆を動かそうとするのを見守った。しかし安定しない。放出される魔力の強さが不安定で、魔法の形になかなかならない。魔力をコントロールできていないのだ。でも、どうやったらコントロールした状態になるのか。

「うーん。何がいけないんだろう?」

トーコは自分もやってみたものの、声の出し方を教えろと言われて教えられないのと同じで、難しい。バベッテの食糧庫の拡張維持魔力をディルクに頼れるのは先のことになりそうだ。

「ん? まてよ」

トーコはポーチから結晶石を呼び出した。中の魔力を抜いて空になったものをディルクの前に置く。

「ディルク、結晶石は知ってる?」

「あたりまえだよ! 使ったことないけど」

「じゃ、これに魔力を込めてみて」

「……どうやって?」

「魔力を送り込むだけ」

そのだけってのが難しいんだよ。と言いながらディルクは両手で結晶石を握りしめた。眉間にしわを寄せ、ぐっと睨み付ける。

「肩に力が入りすぎじゃない?」

「だって、入ってかない」

「うーん。自分の魔力の流れは感じられるんだよね。どこでつっかかってるんだろう? そんな強く握りしめなくても。もっとこう、優しくできない?」

「優しくぅ?」

「手を放して結晶石をテーブルに置いてごらん。で、こう、息を吹きかける」

「はあ?」

「息と一緒に魔力も吹きかける。はい、ふー」

「ふ、ふー……?」

面食らったものの、ディルクは素直に石に息を吹きかける。

「突風を起こそうってんじゃないから、そんなに勢いよくしなくていいよ。それよりもっと優しく。魔力はいいや。息だけ上手に吹きかける練習」

どうも魔法と使おうと思うあまり、力が入りすぎているようだ。

「ふー」

「吹き飛ばすんじゃなくて、吹いた息で石を温める感じ」

「それ、ふーじゃなくてはーじゃ」

「どっちでも、ディルクがやりやすいほうでいいよ。大事なのはイメージだから、ディルクが思い描きやすいようにするのが一番」

ふーとはーを酸欠になるほど繰り返す。

「あ、今ちょびっとだけど息に魔力が乗った」

「別に乗せようと思ったわけじゃ」

いい加減息のあがったディルクがテーブルに顎を乗せた。

「じゃ、無意識かな。うまくいきそうだね!」

「え、ほんと?」

がばり、とディルクがテーブルから頭をあげた。

「うん。終わりのほうは無理がなくていい感じだったよ。疲れて今のイメージを壊したくないから、今日はこのくらいにしておこう。石がなくても、頭の中で息を吹きかける感じだけでも想像するといいよ」

おお、わたしってばちょっとお姉さん弟子っぽくない?

ディルクもいつになく素直に分かった、という。

ふと気が付くとヘーゲル家の長女ビアンカが見ていた。心なしか唇のはしがひきつっている。

「魔法使いって大変ね」

その目が明らかに自分は魔法修行と無縁で良かったと言っていた。


母親が帰ってきたのでディルクはさっそくヘーゲル家行きをねだった。用は済んでしまったのだが、ビアンカも一緒にいってらっしゃい、ということだったのでそこは口をつぐみ、なにくわぬ顔で三人は一緒に出た。

歩きながらディルクは息を空に向かって吹いている。

「今日は練習はもういいってば~」

「だって、やりたい」

息切れから復活したディルクは練習してみたくてたまらないらしい。トーコも覚えがある。

「じゃあ、ちょっと練習道具を借りてこよ」

途中でなじみの結晶石屋に寄って、小さくても質のいい結晶石を一晩借り受ける。トーコが持っている結晶石は魔力保有量優先で選んだあまり質の良くない石なので、魔力の送り込みにも引き出しにも時間と余計な労力がかかり、込めた魔力に対して引き出せられる魔力量も同サイズの質のいいものには劣る。

質のいい結晶石は出し入れの際の抵抗が少なく、その分高価だが、まだ魔力のコントロールに慣れていないディルクにはこっちのほうがいいはずだ。

夕食後、ひと休みしてから診療所に場所を移し、もう一度結晶石に息を吹き込む練習をする。蒸留酒のグラスを片手にヘーゲル医師は面白そうに息を吹きかけているディルクを見ている。横からトーコが今のはイマイチだの、ちょっと入っただの判定している。

ヘーゲル医師は微量の魔力を感知できるような能力は持ち合わせてないので、練習に関しては本当に眺めているだけだ。

「トーコ、何を書いているんだ?」

十五分ほどやって休憩に入ったとき、ヘーゲル医師は訊ねた。トーコは判定もしつつ、ずっとメモ帳になにかかきつけていたのだ。

「あ、これ? ディルクの練習記録」

ヘーゲル医師とディルクはメモ帳を覗き込んだ。日付やら、練習内容はともかく○や×が並んでいる。

「うわ、×ばっかり。×がふたつもついてるのもあるんだけど」

「×はふつーにダメだったとき、××は全然ダメだったとき」

「うっ……」

「△は惜しい感じだったとき。○△はちょびっとでも入ったとき」

「○△は二個しかない。ただの○は一個もない」

ディルクががっくりと肩を落とした。

 「○△でも○でも、○が一個でもあるってことは、練習次第でできるって事じゃない。この×が減っていくのが楽しみだなあ。十六回やって○は二個。十二.五パーセントか。数えやすいように、次は十回やったら休憩入れよう」

 トーコは勝手に決め、ディルクはさらに十回ずつ二セットの練習をした。

 「二セット目は○△二個、三セット目も同じ。でも後半だいぶダメダメだね。疲れてるみたいだから、一度にやるのは二セットまでにしておこう」

 「まだ、やれるよ!」

 「ダメ。根性漫画じゃないんだから、数やればいいってもんじゃないでしょ。それよりも魔力を吹き込むイメージを都度しっかりつくって、毎回丁寧にやること。終わりのほうはだいぶおざなりだったでしょ」

 「だって、○貰ったときと×貰ったときの違いが分からない」

 「うーん。成功不成功が、目で見て分かるといいのかあ。なんかいい方法ないかなあ。探査魔法を先に覚えるとか?」

 いやでも、魔力をコントロールできていない時点で無理か。


翌早朝、トーコは国境警備隊の宿舎に寄ってから公都に飛んだ。

ハルトマンの次兄の屋敷を目印にしたのだが、無事に階段を飾るステンドグラスの聖女とこんにちわできた。ハルトマンの次兄は登庁前どころか、まだ就寝中だった。ハルトマンからの手紙を使用人に預けて、トーコは町に出た。せっかくなので、適当な市を覗いて、朝ご飯を買い食いしようという腹である。

記憶のある方向に軽く探査魔法を打って、インメルの魔力を探す。彼女の魔力は大きいので、すぐに分かった。そちら方面に向かって歩きながら、途中で見つけた小さな市場で熱々の揚げパンを買って頬張る。屋敷の近くの道で迷子になりかけたが、なんとか見覚えのある門にたどり着く。

門を開けると、音を聞きつけた家人が取次に出てきた。ローブをまとった若い男は胡散臭そうにトーコを見た。

「こんにちは。インメルさんはいる? 忙しそう?」

「お前は誰だ」

「トーコ。前に助言してもらった魔法の実験の報告に来たの」

そっちは主目的じゃないが、そう言っておいたほうがよさそうな気がしたのだ。ローブの男はかなり魔力のある魔法使いだったので、使用人ではなく、部下か弟子だろうか。

玄関で待つように言い置いて、姿を消す。しばらくすると、ふわっと魔力広がり、波打ち際の波のようにトーコにあたってひいていった。インメルの魔力だった。トーコはあいさつ代わりに引き波にかぶせるように魔力を放って追わせた。すると、向うから再度魔力の波が打ち返された。

「わー、面白い!」

なんだか会話しているみたいだ。

トーコが今度はどんなふうに魔力を放とうか考えていると、さっきの魔法使いが現れてインメルのところへ案内した。

食堂ではインメルが数人の魔法使いと一緒に朝食後のお茶をたしなんでいるところだった。

「こんにちは」

「今、どうしてわたくしに魔力を打ち返したのかしら?」

一番上座に座っているインメルはあいさつ抜きでいきなり切り出した。

「インメルさんが誰が来たのか知りたかったみたいだから、わたしだよーって。分かってくれた?」

「ええ、分かったわ」

やった、通じた! と小さく飛び跳ねるトーコに向かってインメルは冷静に言った。

「でも、あまり人に向かってむやみやたらと打たないこと」

「どうして?」

インメルはティーカップを持ち上げた。

「それが礼儀だから。その前のもよ」

「その前って?」

「四十分ほど前にも随分広範囲に魔力を放っていたでしょう」

「四十分前? あ、分かった、インメルさんのおうちを探していた時だ!」

「この間も来たでしょう?」

「あの時は辻馬車さんにお任せだったから、道までは覚えてなかったの。ええと、街中では探査魔法を打っちゃダメなの? わたしもむやみにジロジロ見るようなことはしていないけれど……」

と、さあーっと波が広がるようにインメルから魔力が放たれた。薄く均一な波に思わずトーコは見惚れた。

「今の、あなたどう思う?」

「すごくきれい! 無駄もムラももなくて、早い。ディルクにも見せてあげたいなあ」

「褒めてくれるのは嬉しいけれど、そういうことを聞きたかったんじゃないの。あなたは他人の魔力の干渉を受けて不快ではないの?」

「え、別に。インメルさんは嫌なの?」

「そうね。大抵の魔法使いは嫌うと思うわ」

「じゃあ、今ので合図したりとかはしないの?」

「あなたはするの?」

「ううん、しない。だってこんな風に魔力でおしゃべりするみたいなの、インメルさんとが初めてだもの。内緒話みたいでちょっといいなって思ったんだけど」

インメルはまだ中身の残っているティーカップを置いた。

「面白いことを言うのね。だけど、それはよほど信頼できる相手ではないと無理ね。そして誰の魔力か判別するより先に送り込まれた魔力は振り払わないとダメよ」

「振り払う? どうして?」

「万が一危険なものだったら困るでしょう。その魔力が攻撃的な魔法になる可能性を考えなさい」

「えと、人に危険な魔法を向けちゃいけないんじゃない?」

「そうよ。でもなぜ魔法使いがそう教わるのかと言えば、人に向けることが容易だから戒められているのよ。あなたも一番最初にそう教わったはずよ」

「えーと、最初に魔法を教えてくれたのは治癒魔法使いの医師たちで、むしろ人に向ける魔法ばっかり教えてもらったというか……」

「では、今ここで覚えなさい。人に危険な魔法を向けてはダメ。これは魔法使いのタブーよ」

「魔法使いとしてじゃなくて、人として当然のことだと思うけれど……分かった。約束する」

「そうね人としても当然。だけど、魔法使いは大きな力を持っているだけ、余計に自らを律することが必要なの」

「うん、分かった」

トーコが納得いったようだったので、インメルはこの話はおしまいにした。

「実験はどうだったの?」

「数が少ないから誤差があるかもしれないけれど、結論としては中に何が入っていても、いなくても変わらなかった」

「そう、それは収穫ね。でもそれは口実で、他にも何かわざわざ訪ねてきた理由があるのでしょう?」

「えへへ、ばれてる。あのね、ここのおうちの廊下にあったランプ、あれ魔力を動力にしているでしょ? どこで売ってるの?」

「明りの魔法を固定してあるだけよ」

「それって、明りを作るのと、維持しているのは別? 消しておいて、魔力を送り込んだら明りがつくようにとかできる?」

「彼が作ったのよ。気になるなら、彼に教えてもらいなさい」

インメルはトーコを案内してきた末席の魔法使いを視線で示した。

「わたしがですか!?」

指名されたほうは椅子から立ち上がって抗議する姿勢だ。

「さっきから聞いていれば、なんなんです、この無礼な小娘は! インメルさまに対してあまりにもひどい態度です!」

敬語とかうまく使えないし、礼儀作法がなっているとは自分でも思わないが、彼の怒り方が突然だったので、トーコは目を白黒させた。インメルは平然としたもので、彼の抗議を完璧に黙殺し、トーコに向かって言った。

「どれでも好きなのを外して持って行ったらいいわ」

「え、いいの?」

「そろそろ出仕しなくてはならない時刻だから、わたしが教えてあげる暇はないわね」

「よくありません!」

先ほどの魔法使いが再びがなった。

「それくらいなら、新たに作ったほうがましです」

「あの、ダメだったらダメで、無理にとは言わないから……」

ぎっと、若い魔法使いがにらんだ。トーコは口をつぐんだ。

「今回だけだ!」

「ありがとう。大きさは……」

「注文つける気か!」

「ごめんなさい。お任せする。作るの見ててもいい?」

「いいわよ。盗めるものなら盗めばいいわ」

「インメルさま!」

「魔法なんてそんなものよ。それとも教えてあげるの?」

「まさか!」

インメルは話はすんだとばかりに出て行ってしまった。食卓に着いていた魔法使いたちが彼女を玄関まで見送り、散っていった。トーコは肩を怒らせて歩く魔法使いの後についていった。廊下の魔法の明りはすりガラスのなかで淡い光を放っている。かなりの数が壁に取り付けられている。

「これ、全部お兄さんが作ったの?」

「そうだ。ここが工房だ。勝手に触るなよ」

釘を刺しておいて、若い魔法使いは棚からガラス玉の入った木箱をとってきた。そして鍵のかかる引き出しを開けて小さい結晶石を一粒出す。

「一度しかやらない。よく見てろ」

「うん」

お言葉に甘えてトーコは探査魔法を最大限の精度で起動した。若い魔法使いは乱雑にものが積み重なった工房の真ん中にあいたスペースに立った。高さのある丸テーブルにガラス玉を置く。軽く息を整えて目をつむると両手を胸の前で、合わせた。

その手を放すと、ポッと針の先ほどの白い点が浮かんだ。それは注ぎ込まれた魔力を蓄えてゆっくりと大きくなり、握りこぶし大に成長する。結構眩しい。目を刺す光が痛いほどだ。彼はガラス玉の中に光を入れ、結晶石を取り付けた。

「うーん」

「なんだ、不満か」

「思っていたのと違ったみたい。これ、明りを維持する魔力が切れた後で、結晶石に魔力を込めても光らないよね」

「当然だ」

「あちゃー」

想像していたのは豆電球だった。電気が通れば光る。そのイメージで魔力が通れば光るものがあれば、ディルクもひとりで練習しやすいのではないかと思ったのだ。

説明すると、若い魔法使いはバカにしたように鼻を鳴らした。

「そいつ才能ない。諦めたほうがいい」

「なにも決めつけなくても。それにどのみち魔力がちゃんとコントロールできなかったら困るし」

「魔力の暴走か? その程度の魔法使いなら魔力の量だってたかがしれてる。大したことない」

いちいち、険のある言い方だと思ったが、無駄な魔力を使わせてしまったので強くも言えない。魔法を見せてもらったお礼を言って、トーコはインメルの屋敷を後にした。


豆電球作戦は失敗したけれど、スイッチのオンオフというのはやっぱり捨てた案ではないと思う。色々考えた末、トーコは障壁魔法で密閉した空間拡張空間に木の葉をたくさん入れた。取り付けた結晶石に魔力が注がれると空間が縮むのが止まり、外から見ると動いていた木の葉も止まる仕組みだ。正直目視で確認するには厳しい性能だが、とりあえず試作一号だ。

ディルクは性能には微妙な顔をしたが、とりあえず練習道具として受け取った。

再び魔の領域に入ってからも、トーコはあれこれと試してみた。ベアは眺めているだけで好きにやらせていたが、さすがに木の葉の代わりに火竜の炎を使おうとしたときにはとめた。

「魔力を通したら、なにか目に見える変化が起こるようにって、難しい」

練習道具の作成は遅々として進まなかったが、習得してきた明りの魔法は役に立った。主に、空間拡張ポーチの中で探し物をするときにだ。残念ながら、ベアのはポーチ自体に時間凍結魔法がかかっているので使えないが、トーコのポーチは時間凍結封筒から出しさえすれば、隅々まで明るく照らしてくれる。

明りもあれこれ試してみて、結構楽しい。光の強さだけでなく、色合いもちょっとなら変えられる。障壁魔法で覆ったほうが目に優しい光になるので、こちらも色々試しているところだ。

明りが手に入ったので、陽が落ちた後でも作業ができるようになった。さすがに採集しながらの移動はしないが、このところ、毎晩のように椅子とテーブルを出して、トーコは昼間のメモを清書したり、バベッテの食糧庫の案を図案に書き加えたりしている。ベアもトーコが写してきたギルドのお知らせや依頼書をチェックしている。

ベアの薬草酒のラベルとして板に文字を焼き付けたものを作ったのだが、これを応用して探査魔法と組み合わせ、依頼書などを丸ごと板に転写しているのだ。転写するのに必要な大量の板は冬の初めに伐った木から作った。

またテーブルなどを作ろうと思ってユナグールの製材所で色々聞いてきたのだが、思っていたよりも伐ってから材木として使えるようになるまで時間がかかるので、薪用に割っておいた木から比較的大きなものを探して端っこをスライスした。こちらはただ乾燥させただけなので、割れやひびが多く、使えるものを探すのに苦労した。

冬の間に有用な樹のために結構雑木を伐採しているので、どこかで時間を見つけてこれも加工したい。製材所でちゃんとアク抜きしたほうがいいと教えてもらったので、いくつかは適当なところに放置したい。使えるようになるのはまだ先だ。

「材木の置場? だったら、彼らとの合流地点に積んでおけばいい。目印になるし、先に彼らがついていても隠れやすいだろう」

「うん。合流日は明日だよね」

結晶石の採掘をしているふたりとは半月に一度、情報交換と資材の受け渡しに合流することになっている。明日が最初の合流日だ。

翌朝、最初に会った場所へ転移すると、ふたりは既に来ていた。上空から降り立ったベアとトーコを見つけて手をあげる。

「おはようございま~す! お久しぶり~」

トーコは早速出張査定所を出して椅子とテーブルを並べた。魔物避けの魔法一式を全体にかける。

「朝ご飯食べた? わたしたちはまだなの」

言いながら、竈やフライパンを出す。採掘組は済ませたとのことだったので、彼らにはお茶を沸かし、自分たちの朝ご飯を作り始める。

薪もなにもない竈に炎が現れ、作り置きのスープを温めはじめる。不器用な手つきで卵をオオグルミの殻に割り入れているトーコの周りで、ツキリンゴの皮がしゅるしゅると勝手に剥けて、一口大に割れ、どこからともなく現れた水が凍りついた器にダイブする。続けてヤマブドウが軸から外れ、皮と種が外れてツキリンゴの後を追う。残った芯や皮は流し脇に空いたゴミ用の穴に飛んでいった。

温まった鍋を火から外して、冷めないように時間凍結魔法のかかった棚にあげる。変わってバターをひとかけ落とし込んだフライパンを竈に乗せて探査魔法でじっと見張る。

「ここだーっ!」

気合一閃。卵を投入して必死にフライパンの中身を混ぜる。空飛ぶ鍋やリンゴに見入っていた採掘組がひくくらいの勢いだ。

「お皿、お皿」

お世辞にもオムレツと呼べない形状の物体を皿に滑らせ、すぐにもう一つ作り始める。一つ目で体力をつかってしまったからか、こちらはほとんどいり卵になってしまった。

「ベアさん、どっちにする?」

トーコはふたつのオムレツ未満作品をテーブルに置いた。茹で卵は固茹で派のベアは迷わず炒り卵もどきをとった。棚でオムレツができるまで待機していたスープが飛んできて、丸太をスライスした鍋敷きに着地する。それをふたつの器によそい分ける間に、冷やしておいた果物も木をくりぬいただけの器に盛り分けられて、フォークを添えて出される。

「いっただっきまーす」

「……朝から元気だな」

お茶と果物だけ相伴に預かりながら、採掘組があきれたようにテーブルを見渡した。

「いつもはもっと手抜きだよ。今日はせっかく椅子とテーブルと竈を出したから特別」

オムレツもどきも久々だ。トーコがやるとしょっぱすぎたり味がしなかったりなので、調味はテーブルについてから各自勝手にやる。トーコとしては残念なことだが、いつまでも罰ゲームにベアをつき合わせるわけにもいかない。

「相変わらず魔物が多い。この季節に二日に一度の割合で大型の魔物を見かける」

「ユナグールに近い場所でもそのようだ」

ベアが言って、嬉しそうに崩れオムレツを頬張るトーコに報告を促す。

「草原湿地までの往復を一緒に移動する人たちが増えているみたい。待ち合わせの掲示がいつ行っても三つくらい出てる。あと、ギルドに新規参入者につける後見役だけど、狩人を護衛につけることにしたって」

春は新規参入者が増える季節だ。だが、冬を越した魔物が多く、採掘組のように魔物に遭遇したら自力で追い払うタイプの採集者のチームはともかく、ベアのように隠れてやり過ごすタイプの採集者が後見役につく場合には狩人を護衛としてつけることにした、とベアの馴染みのギルド職員に訊いた。

髭の男が眉間にしわを寄せた。

「ギルドが動いたのか? そこまで深刻とは思わなかったが」

「念のための用心ってことみたい。おじさんたちは大丈夫だった?」

「今のところ、睨み合う程度ですんでいる」

彼らは使い込まれた槍をそれぞれテーブルに立てかけている。最初から魔物の害が多いとわかっているので、予備も用意しているという。

「大きい空間拡張容器が手に入ったからな」

「使ってくれているんだ? 嬉しいな」

大きいと言っても物置小屋ひとつぶんくらいだ。大きさは燃費と比例するので、長く魔の領域に入ることを考えるとやはりこのくらいが限度だ。

「忘れないうちに、魔力を補充するね。他にもあったら遠慮なく言ってね」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

背負い荷物から空間拡張容器の麻袋を出したガウスは、袋にほとんど頭を突っ込むようにして中をひっかきまわし、古い空間拡張容器を引っ張り出した。こちらは彼らがもともと持っていたものらしい。言われて魔力を補充したものの、減りは少ない。

「これ、ひょっとしてあまり大きくない?」

「ああ。たくさんものを入れるというより、重いものを持ち運ぶために買ったからな」

「そうか、そういう使い方もできるね。ところで、ちょっと気になったんだけど、その袋使いにくい?」

「いや? 何故?」

「中の物が取りにくそうだったから」

「こいつの整理整頓がなってないだけさ」

髭の男が横から言った。しかしトーコは大まじめだ。

「でも、肩まで入れるようにして中身を探してたよね」

トーコ自身は移動魔法で取り出すことが多く、ギルドの貸し出し用の容器は単一の採集物を大量に入れることを前提に作っていたので、気がつかなかったが、色々な小物を入れるとなると、出し入れが不便なのではないだろうか。これはちょっと考えなしだったかも。

「袋じゃなくて、背負いかごのほうがよかった?」

ギルドの貸し出し容器には背負いかごタイプもある。かさばるが、空間は左右に広く、積み重ねておきたくないものなどがある時にはこちらのほうがよい。潰れて困るものなどを採集する人はこちらを選んでいた。

「いや、自前の背嚢があるからな」

「おじさんがその袋に入れているもので一番大きな物はなに?」

「トーコ、人の荷物を詮索するな」

ベアがたしなめた。

「あ、ごめん。でも、入り口の大きさだけ決めたら、もうちょっと使いやすくなるかなって」

「背負いかごは大きすぎて邪魔なだけだぞ」

「じゃ、もっとぺっちゃんこにしよう」

トーコはギルドの掲示板の案内を転写した板を二枚取り出した。

「これに空間拡張魔法をかける」

ベアのみならず、採掘組も戸惑ったように顔を見合わせた。

「板きれのどこに?」

「板じゃなくて、高さゼロの箱だと思うの。こっちが蓋でこっちが底。分かりやすいようにちょびっと削るね」

そういって、周囲一センチほどを残して、数ミリ掘る。しかしトーコ以外の人間にはまだよくわかっていない顔だ。

「で、ここに空間拡張をかける」

トーコは高さ数ミリの空間を拡張して、そこに腕をいれてみせた。

「それはいいが、板より袋のほうがものを通しやすいぞ」

ベアが指摘したが、トーコは今度はメモとペンを引っ張り出した。四角をひとつ書く。

「これはあくまでものを出し入れする入り口。この下に外からは見えないけれど、こう空間が伸びているとするでしょ。仮に一メートルとするね」

トーコは四角の下に線を書き足して立方体を描いた。左右に箱を書き足す。

「中には同じような間口の箱を用意する。そして必要なときは、入り口を動かして他の間仕切りから……」

「入り口を動かす? トーコ、よくわからん」

「ええっと、単なるスライド本棚なんだけど……実際にやってみるね」

トーコは拡張した空間に高さ一メートル程度の箱を五つ並べた形に障壁魔法を展開した。分かりやすく、仕切りごとに幻惑魔法で色をつける。

「こういうこと。中に手を入れてみて。それで壁を押すと、ほら、次の箱がでてくるでしょ? 袋だと間仕切りを作りにくいから、全部ごっちゃになっちゃうけれど、箱型だと少しは整理しやすくなると思うんだけど」

採掘組が感嘆の声をあげた。トーコはいい気になってさらにその場の思いつきを口にした。

「おじさんの予備の槍を貸して。長さ図るだけですぐに返すから」

トーコは槍を拡張空間に入れ、それに深さを合わせた。

「別に箱の大きさは入り口の大きさに合わせなくてもいいんだよ。単に槍が入る深さにするだけでもいいけれど、こんなふうに一本分だけ入る間仕切りを作れば、隣の槍とぶつかり合わないように収納することもできる。これなら槍は倒れないから、すぐ取り出せるでしょ。逆に、小さいものを入れるんなら、あんまり深くしないでおくこともできる。ほら、サンドイッチをこうやって浅い場所に並べておけば、他の荷物が乗って潰れることないし、いちいち肩まで手を入れて探すこともない」

「ほおー、凄いな」

「嬢ちゃん、やるなあ」

得意げにそっくり返るトーコにベアが冷静に指摘した。

「中に重いものが入っても、そんな簡単に箱が動くか? それに中を動かす分、余計に内部空間が必要になるだろう」

「うっ」

空間拡張容器に入ったものの重量は容器を持っても感じられないが、重量がなくなったわけではない。内部ではちゃんとそれなりの重さを感じるし、ぶつかれば痛い。空間拡張、空間拡張と呼んでいるが、実際には別空間を作っているといったほうが正しい。

「あ、そうだ。レールをつければ動かしやすいんじゃない? 実際のスライド本棚だってそうなんだし」

早速試しにやってみて、箱には重石代わりの太い薪を詰め込む。レールと車のほうは以前、ゲルニーク塩沼で作ったことがあるのでそれをほぼ再現すればいい。ありがたいことに、自分で作った空間なので、車輪の動きを阻害するごみなどは入り込まないので、条件はずっといい。

実際に動かしてもらうと、重いは重いが、ちゃんと扱えるということだった。

「手をかけられるような取っ手を作ったほうがよさそうだね。無駄なスペースについては、四角じゃなくて、円形にしてくるくる回すって方法もあるけれど。その場合、槍は中心の狭いスペースに入れるのがいいだろうね。入り口はこんな感じ?」

板をもう一組使ってピザのワンピースのような入り口を作って見せる。

「これで拡張空間の大きさは同じくらい」

「広いかもしれんが、四角いほうが使いやすそうだ」

「あとは、維持魔力か」

採掘組が額を寄せ集めて考え込む。

「その間仕切りは木製でもいいんだろう」

「うん」

「問題は強度と耐久性か」

彼らが悩んでいると、ベアが口をはさんだ。

「確かに強度と耐久性は問題だ。長く使えばどうしても木はゆがむ。へたをしたら中で動かなくなって、壊さないと物が取りだせなくなるぞ。何を入れるかにもよるが、重量軽減のために使っているなら、負荷も相応のはずだ。それに耐えうる容器を用意しようとすれば金がかかる。だったら、どの程度の期間使うかにもよるが、このまま障壁魔法と時間凍結魔法を間仕切りに使うのも手だ。維持魔力はかかるが、初期費用はない」

「別に急いで結論を出すこともないんじゃない? しばらく顔を合わせるんだし、その時にどの程度維持魔力を消費するかも分かるじゃない。大枠は障壁魔法と時間凍結魔法がいいと思うけれど、細かい間仕切りは木にするって折衷案もあるよ。まずは理想形を作って、そこから現実的なラインに落とし込んでいけばいいんじゃない? 容量の入る結晶石があればの話だけど」

「「ある」」

採掘組がそろって即答し、思わずトーコは笑った。

そこからは障壁魔法で作った実物大模型を前に、ああでもない、こうでもないとトーコは彼らと頭を悩ませた。

「動かすスペースを考えると、深くする部分を手前か奥に寄せると効率的だよ。そうでなければ、浅い部分の下は下で、横からものを入れられるスペースに活用するとか」

「槍の長さがなあ。同じ深さの空間があっても、こんな深さ使いにくいし、物を落としたら拾うのも一苦労だ」

「コートかけにつかうとか? いっそ、縦にして棚みたいにして使う?」

「別に空間の幅は入り口を超えてもいいんだろう? だったら、上下に広くとって左右に動かす部分を少なくすればいいんじゃないか?」

「トーコ、魔力の補充が間に合わなくて縮んだ時のことも考えて、全体の空間には余裕を持たせておけよ」

「うん、分かった」

喧々諤々の末、試作一号が完成する。時間凍結魔法で固定して、結晶石を取り付け、まずは次に合流するまでの二週間使ってみてもらう。

「ところで、トーコ、時間は大丈夫なのか?」

「時間? ああっ、しまった!」

トーコは中天に差し掛かった太陽を見て慌てた。

「せっかく移動しない日だったのに、煮込みを作るチャンスだったのに、朝ご飯の片付けもまだ!」

「慌てなくていいから、落ち着いて……」

言い終わらないうちに、竈に駆け寄ろうとしたトーコがテーブルに立てかけてあった槍に足を引っ掛けてすっころぶ。悲鳴があがり、ベアはため息をついた。

後片付けだけ済ませると、ベアと採掘組からのお使いをメモしてトーコは遅刻遅刻と叫びながら転移していった。

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