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日が落ち周囲はすっかり暗くなっていた。
エリーヌの持つ松明の灯りだけが周囲を赤々と照らしている。
「海斗さん私思ったのですが何故わざわざ島の西側なのでしょうか、テントならば先程の場所に設置された方がいろいろと便利じゃありませんか? 火も起こしやすそうでしたし、ですが、もっ、もしですよ、それが海斗さんのこだわりなのであれば余計なお節介ですよね、すいません……」
歩きながら振り返らずにエリーヌは言う。
「エリーヌ、別にそれはこだわりじゃないんだ。さっきからずっと上りになっているだろう」
「ええ、まあ」
道と呼べる程整備はしていないが木を切り開き島の東西南北にいける程度のルートはこの島に来た当初爺さんと二人で作っていた。
今歩いている道もその道で島の西側まではずっと緩やかな上りになっている。
「この島は西に行く程標高が高くなっていてな、大潮の満潮時は標高が低い島の東側は潮に浸かる時があるんだ。なのでさっきいた島の南側も油断はできない、今でも海面は上昇しているしな。だから寝る時は島の西側で寝ているんだよ」
「なるほど、海斗さん賢い!」
「よく言えばな、悪く言えば臆病なだけだ」
「洋華、それは海斗さんに対して失礼ですよ」
「…………」
俺は何も言い返せなかった。実際洋華の言っている事も一理ある。慎重になりすぎなのかもしれないが、それでも人間寝る時くらいは安心して寝たいものだ。
そんな会話のやり取りをしていると、島の西側に設置してあるテントが見えてきた。
早速テントの中にひよ子をそっと寝かせるとマッチを取り出しテント内に置いていた一本のローソクに火をつける。
「寝る時はローソクの火を消して寝てくれよ、火事にでもなったら大変だからな」
そうしてテントの入り口から出て行こうとすると、「海斗さん」とエリーヌが呼び止めてくる。
「どうかしたか?」
「食事までならず寝床まで用意してもらい本当にありがとうございます。貴方に感謝致します」
エリーヌは両手を握り合わせるとニコっと微笑んだ。
「あまり気にするなよ、困った時はお互い様だ」
「あっ、ありがとう」
洋華も唇を尖らせながら恥ずかしそうに呟く、ここまで感謝されると気分は悪くないものだ。上機嫌のままこの場を去ろうとするとまたもやエリーヌが俺を呼び止めるてくる。
「海斗さんお待ちしていますね」
「お待ちしても来ないよ!」
何を考えているんだろうねこいつは! とにかくそう言い捨てると俺はテントを後にした。