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海上教会のエリーヌ  作者: 水町みなと
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1-7

 パチパチパチと燃える音、赤々とした力強い薪火を俺達四人はをじっと見つめていた。薪火にかけていたちょうど頃合になったジャガイモをエリーヌから順に差し出していく。


「おっ、美味しい」


 一口食べたエリーヌの表情はほころんでいた。


「だろう、海水を煮詰めて作った塩をジャガイモにふりかけて焼いただけなんだけどな、シンプルだからこそ素材の味が生きるんだ」


「確かに美味いな」


「風なんかよりもよっぽど美味いだろう」


「嫌味か」と言うと洋華は「フンっ」とそっぽを向く。


(ああ、嫌味だよ!)


「いやあ、しかし凄いですよね」


「何がだ?」


「野菜ですよ、先程から食べているジャガイモにナスにトマト。こんな美味しい野菜を育てられた海斗さんにも感謝致しますが、これを昔から作り育て現世まで残してくださった方々って偉大だと思いませんか?」


「確かに偉大だとは思うけど、地球がこんな状態になってお前ら恨んだりとかしないのか」


「恨む? 誰を恨むのですか」


「いや、だからその……昔の連中っていうのかな、それには当然俺達の先祖も当てはまるんだけどな」


「うーん、ですが海斗さんそれを言いだしたらキリがないですよね」


「えっ、まあ、そりゃあそうだけどよ……」


「例えば私ならこう考えます、過去の時代に生きていたら私に何か出来たのかと。人間個々の力など微々たるものです。ひょっとしたら多くの方々は目の前の事に精一杯で周囲の自然にまで気が回らなかったのかもしれません。そう考えると仕方がなかったのですよ」


「仕方がないか、お前らって俺なんかよりもよっぽど大人なんだな」


「そうですか、私なんかよりも海斗さんの方がよっぽど大人だと思いますよ」


「どうしてだ」


「だって私の考えは姉妹達がいるからの事であって、もし海斗さんみたいに一人でしたらそんな平常心でいられるかもわかりません」


「お前ずっとこの島に一人で住んでいたのか」


 突然、洋華が身を乗り出して聞いてくる。


「ずっと一人って訳ではないさ、最初は爺さんと二人でこの島に住んでいたんだ。でもここ三年くらいはこの島に住んでるのは俺一人だ」


「するとそのお爺さんは今どちらに?」


 エリーヌにそう聞かれた俺は一瞬だけ視線を地面に逸した。それを見てエリーヌは察してくれたのであろう。


「こっ、こんな世の中ですからねいろいろありますよね」


「ああ、だから俺もずっと平常心でいられた訳じゃないんだ。笑わないで聞いてくれるか?」


 エリーヌと洋華はコクリと頷く。


「爺さんが亡くなった後なんだが、俺は何もやる気が起きなくてな。海辺に一人ぼーっと立っていたんだよ。いざ一人になってみると、心の中では皆何処かで生きているとわかっていても、それは思い込みで『もしこの地球上に人類は俺一人だったら』なんて考えてしまったんだ」


「それはわかるかもしれません。私が海斗さんと同じ立場なら不安で胸一杯です」


「私だって不安になるかもしれない、それでどうしたんだ」


 エリーヌも洋華も俺の話しを食い入るように聞いていた。


「物凄い孤独感と絶望感に襲われたんだよ。何回も自分の頭を掻き毟ったり、地面に頭をぶつけたり泣いたり笑ったり、自分でも一体何をしているのかよくわからなかった」


「つぅ……」と洋華は生唾を飲み込む。


「そんな行為を朝方まで続けて最後は海辺に倒れ込んだんだ。そして昇ってくる朝日を見て決心した。もう考えるのはやめよう、ただ食べるだけ、生きるだけ、動物として最低限の行動だけしようと、情けない話しだけど俺は逃げたんだよ人として考えながら生きていく事をな」


「うっ……」


 俺はびっくりした。話し終え顔を上げてみるとエリーヌが大粒の涙を流していたのだ。


「海斗さん頑張りましたね」


 涙を流しながらエリーヌは俺の顔を真っ直ぐに見据えている。そんなエリーヌの涙き顔を見ていると、今までの苦労だとか悩みなどが全て浄化されていくような気がして、嬉しかった、素直に嬉しかった。生きていて良かったと何故かこの時は思えたんだ。


 それからしばらくは他愛もない話しをしながら過ごしていた俺達ではあったが、どうもさっきから洋華の横に座っているひよ子の様子がおかしい。スイカを抱きかかえたままスイカにヘットバッドをしそうになっては頭を上げてと同じような行動をずっと繰り返しているのだ。


「なあおい、ひよ子眠いんじゃないのか」


 俺がそう言うとエリーヌと洋華はひよ子に視線を向ける。


「今日はいろいろあったからな、疲れたんだろう」


 洋華はひよ子の頭を撫でながらそっとスイカを取り上げた。


「しかしひよ子は余程スイカが気に入ったようですね。ずっと大事そうに抱いていて」


「ふふふ」、「あはは」、「はははは」


 エリーヌの発言に思わず俺達三人は互いに顔を見合わせて笑い合った。


「それじゃあ、そろそろテントに行くか」


「テっ、テント! 海斗さん今テントとおっしゃいましたか?」


「ああ、言ったが」


 何故かエリーヌの目は真珠のように輝いている。


「テっ、テントなんてあったんですね。テントで寝るのなんて初めてなのでこっ、興奮します」


「エリーヌ、はしたないぞ」


 鼻息荒いエリーヌに洋華は言う。


「洋華、若い男女四人がテントで一晩過ごすのですよ」


「安心しろ、俺は少し離れたとこにハンモックを掛けてあるから、そこで寝る」


「そっ、それは残念です」


「エリーヌ、さっかきから一体何を考えているんだ!」


「いえね、楽しそうだと思いませんか、そうですね気分は『修学旅行』ってとこでしょうか、洋華こそ一体何を考えていたのですか」


「……えっ」


 洋華は顔を真っ赤に染めると俺を見てきた。


「変態」


「何でだよ……」


 ったく……人の顔を見て変態とは失礼にも程があるが、だからと言ってこんなとこにこいつらを寝せる訳にもいかない、俺は新しい枝木を一本手に取りその先端に布切れを巻く、それをエリーヌに手渡すとひよ子を背中に背負い込んだ。


「それに火をつけてエリーヌは先を歩いてくれ、俺が後ろから案内するから」


「わかりました」と返事をするエリーヌを先頭に俺達は島の西側へと向かった。

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