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今、俺は薪を挟み正面の少女ら約二名からおもいっきり睨まれている。一人は明らかに俺に拒否反応を示すようになり目が合うたびに舌を出してくる。もう一人に至っては自分から目を合わせられない、理由は怖いからである。
「こっ、このままではなんですし、軽く自己紹介でもしませんか」
そんな中でエリーヌが自己紹介の提案をしてきた。
「いいなあ、やろう」
俺もこの意見には即賛成する。こいつらの下の名前はある程度把握しているつもりだが、この気まずい雰囲気を変えるにはちょうどいいと思ったのだ。
しかし、俺を嫌う洋華とひよ子は口を閉ざしたままこの提案に乗ろうともしない。それを見ていたエリーヌは痺れを切らしたのか、やれやれと肩を落とすと、また姿勢を正した。
「それではまず私から。私の名前は『音葉エリーヌ』と申します。そして私の妹達、次女の『武千洋華』、末っ子の『松本ひよ子』です。歳はそうですねぇ、貴方と近いのではないでしょうか」
「俺は『永遠海斗』十七歳」
「ほほお、ならば海斗さんは洋華と同じ歳ですね、私は海斗さんの一つお姉さんになります。ひよ子は」とエリーヌがここまで言い掛けた時だった。
「九歳だよお」
ひよ子が不機嫌そうに呟く。
「ひよ子聞いていたのでしたら、自分の自己紹介くらいは自分でしなさい。洋華もですよ」
「ごめんなさい……」
ひよ子は素直に謝るのだが、洋華は「フンっ」と鼻を鳴らすとそっぽを向く。どうやらこの洋華って少女は気難しい性格のようだ。
「海斗さんすいません、洋華はちょっと人見知りの気がありまして」
「エッ、エリーヌ!」
気に障ったのか洋華は顔を真っ赤にして叫ぶ、この内輪のやりとりに俺はどうしていいかわからず思わずニガっと苦笑い。
そんなとこでまた気まずい雰囲気にでもなるのかと思いきや、エリーヌの一言で俺は本来の目的を思い出した。
「海斗さんそう言えば私達に聞きたい事って何でしょうか」
「そっ、そうだった。なあ、お前達も本土から来たんだよな?」
本土とは、日本本土の事。
『西暦2125年』
今、人類はかつてない程の窮地に直面していた。
『地球温暖化』一世紀前くらいから問題視されていたらしいが、科学に依存した我々人類にはもはや止める事は出来なかった。
昔から取り組んでいたらしい『温暖化対策、環境対策』そんなものに何の効果もなく、途上発展する国々、進化する科学にはもはや焼け石に水であり、『自然破壊』が進む中、人類が予想していたより遥かに早い速度で地球は汚染されていった。
結果、どうなったかというと、七年前に遡る。
『海辺の町で原因不明の大規模な床下浸水』
当時このニュースが報道された直後はあまり人々の関心はなかった。何故ならこの件に関して政府は何も触れなかったからだ。
だが、これを堺に大潮の日に海際の陸地が浸水する現象が多発する。流石の人々も不信感を抱きだし、その頃になりやっと政府が学者を通じて急遽「地球の陸地のほとんどがまもなく沈む」と発表する。
何でも『アルキメデスの原理』では、北極、南極の氷が溶けても海面上昇にはあまり影響しないとしてあったが、これこそ現実に起きてみないとわからないものである。
実際は海水の熱膨張や大陸氷床の融解等で急激な海面上昇が起きたのである。現在の平均気温は過剰な森林伐採により空気中の二酸化炭素の濃度が異常に増え一世紀前の倍になっており、過去の学者達もそこまで計算には入れていなかったのであろう。
政府の発表を聞いた人々は混乱し、混乱した人々は徐々に暴動化していった。
そんな世の中に不安を感じたうちの両親は、前々から「地球本土がまもなく沈む」と言っていた近所で有名な変人学者の爺さん。結果的にはこの爺さんの言った通りになったのだが、その爺さんが来たる時の為にと用意していた小船に俺も一緒に乗せられて現在に至るという訳だ。