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海上教会のエリーヌ  作者: 水町みなと
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39/58

5-2

 それから一時間程腰を据えて粘ってはみたものの、やはりやる気だけではどうにもならない現実を突きつけられたとこで俺は釣竿を引き上げる。と、ちょうど散髪を終えた燕がひょっこりと現れた。


「おぉ、燕。スッキリしたな」


 燕の髪型はひよ子と同じボブカットのショートヘアー。おそらくひよ子の髪もエリーヌ達がいつも切っていたのであろう。


「スースーするのじゃ」


「前よりもそっちの方が全然いいぞ。なあ、ひよ子」


 ひよ子は燕を見るなり「パクリかよ……」と一言ぼそっと呟いた。


「ぴよ子よりあたちの方が美人なのじゃ」


「なっ、何を! ひよ子の方が美人だよお!」


 燕の発言にひよ子はすぐさま立ち上がり反論する。


「あたちじゃ!」


「ひよ子だよお!」


 お互い服を掴み合いだして、俺は「はあ……」と溜息を吐き頭を抱えた。


(また始まった……)


 喧嘩する程仲が良いとは言うが、こうも同じような光景を一日に何度も見せられると流石に俺も飽きてくる。燕が先におちょくっていると言うよりはひよ子が些細な事でいちいち噛み付いてるだけにも見えるのだが、難しい問題だ。


「こら、お前達やめろ」とこれまたいつもの様に仲裁に入って二人を軽く突き放す。


「「海斗、あたちとひよ子どっちが美人じゃ! 美人だよお!」」


「どっちも美人だよ」


 どうでもいい。ほんとにどうでもいいのだが、どちらかに甲乙を付ける訳にもいくまい。


「どっちかじゃ!」、「海斗、ちゃんと答えろよお」


 こうなってくると、俺は逃げる。にもここは海なので叫ぶ。


「エリーヌ!」


「どうかされましたか海斗さん」


 すぐに船の後方から散髪の後片付けをしていたのか、ちりとりとホウキを持ったままエリーヌがやって来た。


「またひよ子と燕が言い争っているんだよ」


 俺がそう言った瞬間、ひよ子と燕は口をへの字にして睨んでくる。汚いやり方かもしれないが仕方がない。二人の喧嘩を止めるには二人を離すのが一番手っ取り早いのだ。


「またですか、ひよ子も燕もいい加減にしなさい! 一緒にいるから喧嘩になるんです。燕はこっちに来なさい」とエリーヌが燕の腕を掴み強引に連れて行く。


「海斗のチクり魔!」


 なんて断末魔が聞こえてきたが、俺だってこんなやり方は最低だと思っている。しかし俺にだって考えがあって二人を離したのだ。


 それは燕を連れて行くエリーヌを、切なそう目で見つめているひよ子を見ていれば何となくだがわかる。そもそもここ数日、燕が来てからというものひよ子はずっと俺の側にいるのでおかしいと思っていたのだ。


「ひよ子、お前ひょっとして燕に妬いているんじゃないか」


 ひょ子はムッとした表情になり突然俺の太ももを蹴り上げる。


「いっ、いてぇな。急に何すんだよ!」


「海斗の馬鹿! ひっ、ひよ子は別に燕に妬いてなんていないよお!」


「そうかい、そりゃあ悪かったな」


「悪い、悪い、馬鹿海斗お!」


 俺の肩をポンポンと叩いてくる所が図星だったのであろう。ひよ子が腰を下ろしてから落ち着つくのを待って俺は口を開いた。


「燕はまだ母親を亡くして間もないからなエリーヌや洋華も気にかけてんだろう」


「それ海斗どういう事だよお、それじゃあまるでひよ子がエリーヌ姉様や洋華姉様に相手にされないから寂しがってるみたいじゃないかよお」


 まったくもって俺の目にはそういう風にしか見えないのだが、


「違うのか?」


「誰にも言わない?」


「言わない」と俺はひよ子の目を見て頷いた。


「じゃあ海斗だけだよお、別に燕には妬いていないんだよお。でもエリーヌ姉様や洋華姉様が今までひよ子ひよ子言ってたのに、今は燕、燕、だろお。ひよ子嫌われちゃったのかな……」


 幼い少女は寂しそうに呟くと視線を甲板にと落とした。


 それを聞いた俺は「コホン」と一つ咳払いをする。


「なる程な、それが本音か」


「そうだよお……」


「でもな、ひよ子。それは誰でも通る道なんだぞ、お前は燕の姉なんだから燕の言う事にいちいち反論してどうするんだ。エリーヌや洋華に燕と一緒に甘えるのも何かちょっと違うだろう? お前はもう立派な大人なんだから」


「大人? ひよ子はまだ九歳だよお」


「九歳でもだ。何歳でも姉ってのは妹を守らないといけないんだ。それは兄でもそう、いつまでも子供じゃいられないんだよ」


「大人って大変だよお、じゃあ海斗は何を守るんだよお」


「おっ、俺か? 俺はひよ子や燕の兄みたいなもんだしな、いろいろと守るぞ」


「何守るんだよお」


「そっ、そうだな……」


 自分で言っといてあれだが何も思いつかない。しかしひよ子に偉そうに言った手前何か言わないと、格好がつかん。


「たっ、例えばだ。エリーヌや洋華が疎い部分を助けてやらないといけない。食料を守るとかだな」


(守れてねぇよ……)


 管理でもできてなければ守れてもいない。食料は航海において一番重要なのにだ。


「エリーヌ、洋華! ちょっとこっちに来てくれないか」


 大事な事に気付かせくれたひよ子には感謝し、こうして俺主催の緊急集会が決行された。

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