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海上教会のエリーヌ  作者: 水町みなと
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第一章 神の子三人娘!

無人島で暮らす海斗の前に突然三人の少女達が現れる。

彼女達は一体何者なのか。

第一章 神の子三人娘!


 いつもと同じ澄み渡った青空、ほんのりと漂う潮の香り。揺らめく木の葉音に鳥の鳴き声、いつもと変わらぬ風景にいつもと同じ日常だったはずなのだが、どうして俺はこうなっている……。


「エリーヌ姉様、このお魚少し塩加減が足りなくないですかあ」

 

 橙色の髪をしたボブカットの幼い少女が焼き魚を貪りながら不満を漏らした。


「ひよ子贅沢は言わないの、食べられるだけ神に感謝しないと、ねぇ洋華」

 

 エリーヌと呼ばれたシスター服に身を包み金髪ロングの青い瞳の少女はわりと満足気に焼き魚を貪り食っている。


「エリーヌすまない。私も塩加減が少し足りないと思う」

 

 洋華と呼ばれた艶やかな長い黒髪のクールな瞳の少女も焼き魚を食べながら不満を漏らした。


「もう、洋華まで……贅沢を言ってはいけませんよ! せっかく神がお恵みなさったのですから」

 

 シスター服の少女が二人を見据えてそう言い切った。

 

 いやいや、ちょっと待って欲しい。その魚はどう見ても俺が早朝釣ってきた魚だ。

 

 そりゃあ、天地創造までさかのぼって神が魚を創りましたと言われれば一理はあるかもしれないが、釣った俺の労力も少しは労ってくれてもいいんじゃないのか?


 遅ればせながら今の俺の状況を説明したいと思う。今、俺は彼女ら三人により拘束されている。急にこいつは何を言い出すんだと思われたかもしれないが、俺自身も今の状況がよくわからないのだ。

 

 いつもの日課で早朝釣った魚を薪火にかけていると突然後頭部に強烈な痛みを覚え、気付いたらこの状態だったのだ。


「んぐんぐんぐっ」

 

 ちなみにこの状態とは声は出せない、動けない。かろうじて鼻から息はできるといったとこか、何故なら口には布切れが押し込まれていて、手や足はロープでご丁寧に何重にも結ばれている。

 

 ドラマや映画などで人質になり監禁や拘束されている被害者を想像して欲しい。今の俺はまったくもってあの状態なのだ。

 

 ならばこの少女らが凶悪犯なのかと問われると、それはわからないが少なくとも善人ではないであろう。そんな少女らを、犯行の甘さが残ったのであろう、唯一遮られていなかった俺の視界はしっかりと捉えていた。

 

 文句を言っているわりにはすごい食欲である。俺が早朝釣ってきた魚は八匹程なのだが、もう薪火の周りには無残にも白骨化している魚の残骸が見える。更には新しい魚を薪火にかけ、両頬に手を添えながら鼻歌まじりで焼きあがるのを待っているのだから尚更やるせなくなってくる。


「んぐんぐんぐっ」

 

 一矢報いたいと思った俺は何かしらのアクションを起こそうと出ないとわかっている声を発してみた。


「エッ、エリーヌ姉様、さっきからこの男が野蛮な狼の目でひよ子を睨みつけてきますよお」


「ひよ子、そんな事を言ってはいけません。彼も彼なりに一生懸命に生きているんですから」

 

 なっ、なんだあ、何なんですかあ、その発言は……私をこんなにしたのは貴方達ですよ。なっ、何で、客観的なんですかあ。

 

 と、その時だった。

 

 コツンと俺の頭部に小石が当たる……。


「なっ、ひよ子、何て事をするんですか、あの方に小石を投げてはいけません」


「ごっ、ごめんなさい、つい」


 おっ、おいおい……ついで普通人に向かって小石を投げるかね、あのエリーヌという少女は妹に一体どういう教育をしているんだろうね。


 ったく……まったくもって不快だがここにきて自分がだいぶん冷静になっている事に気が付く、てのはさっきひよ子という幼い少女に小石を投げられた時に悟ったのである。情けない話しだが、あんな幼い少女にも抵抗できないのだから今更何をやっても一緒だと……。


 だが、まあ、言っても少女ら三人だ。何れ逃げ出すチャンスはあるだろうと、そんな事を考えていたらこいつらが洋華と呼んでいた少女がいつの間にかいなくなっている事に気が付く、と、その時だった。


 ガサガサガサッと何やら茂みの奥の方からこちらに向かって来る物音がした。


 咄嗟にエリーヌとひよ子は立ち上がりそちらに視線を向けると身構える。俺も芋虫みたいな状態ではあったが、顔だけ上げると茂みの奥に視線を向けた。


 ガサッ、ガサッ、ガサガサッと物音はこちらに近付いて来る。(何者だ!)と思うも大方予想はできていたので、案の定というかやはりというか、出てきたのは洋華と呼ばれていた少女だった。


「洋華でしたか」とエリーヌはほっと胸を撫で下ろす。


「洋華姉様ぁ、お疲れ様です。今、追加のお魚を焼いてるとこですよお」


「ああ、すまない」


「それより洋華、どうでした? この島には彼以外誰かいましたか」


「いや、どうやらこの島にはこいつ一人だけみたいだ」


 そりゃあそうだろうよ、何せこの島はもともと無人島だからな。


「そうですか、それじゃあ彼は悪者ではないようですね。ひよ子、あの方のロープを解いて差し上げなさい」


 お前らが一体何者かは知らないが、お前らにだけは悪者と言われたくはない。


「エッ、エリーヌ姉様、この野蛮な狼を野に放てというのですか」


 ああ、お前らが来るまでは毎日自由にこの島を駆け抜けていたよ!


「ひよ子、いいから早く解いて差し上げなさい」


「うっっ」


 ひよ子はうっすらと瞳に涙を浮かべると、エリーヌから顔を逸らし洋華に視線を向けた。


「ひよ子、大丈夫だ。もしそいつが襲いかかってきても私がいる」


「洋華姉様あぁぁ」


 ひよ子は洋華に歩み寄ると二人は軽い包容を交わしだす。って、お前らの姉妹劇場か感動物語か知らんが早く俺のロープを解いてくれよ!


 それから渋々ひよ子は近寄ってくると俺の手足のロープを解きだす。手のロープが解け、足のロープが解けた瞬間だった。


 俺はすぐさま口の中の布切れを吐き出し立ち上がった。


「おい、お前ら!」


「はい、ストップです」


「えっ?」


 彼女達を怒鳴り散らかしてやろうとした寸前にエリーヌが俺の言葉を遮るように言った。


「わかります、貴方のおっしゃろうとしている事はだいたいわかります。もちろん今怒ってらっしゃる事もわかります」


 俺は「ああ」と頷く。


「疲れるんですよね」


「はい?」


「ですから、今から始まるであろう、貴方の怒声でのマシンガントーク。いちいちわかりきっている事を怒鳴り声でねちねち言われるのは疲れます」


(なっ……なんという自己中心的な発言だろうか……)


 俺は呆れて、ただただエリーヌをじっと見つめていた。


「早朝貴方が魚を薪火にかけている所を襲ったのはごめんなさい。今焼いているお魚は一緒に食べましょうね。あっ、後、枝木で後頭部を叩き気絶させたあげく、ロープで体を縛った事はお許しください。全ては神のお導きなのです」


 こんな台詞をニコっと微笑んで言うのだから益々呆れるばかりで「そんなので許すと思うのか?」と、問い質したところ。


「さあ、洋華も座ってくださいもうすぐ魚が焼き上がりますよ」

 と、スルーされたのである。


「…………」


 仕方がない。俺は群れからはぐれた子羊のように細心の注意をはらいながら彼女達の方に近寄って行く。


「エリーヌ姉様、やぱ何かこいつ気持ち悪いですよお」


 そんな俺を指差しながらひよ子は言った。


「ひよ子、失礼ですよ。ささ、貴方もこちらに座って一緒に食べましょう」


 当の俺はもう何とでも言えとエリーヌに促されるままに彼女の横に腰を下ろした。


「お前、エリーヌ姉様に何かしたら許さないからな」


 腰を下ろした途端ひよ子が俺に枝木を突きつけてくる。それを「ああもう何もしないしする気もない」と枝木の先端をはらい適当にあしらった。


 俺はもう疲れていた。腹も減っていたし、後頭部もまだじんじんと痛む……。


「はい、焼きあがりましたよ。どうぞ」


 それからすぐにエリーヌが焼きあがった魚を俺に差し出してくれた。


「ありがとう」


 もともと俺が釣った魚だしこのお礼はおかしいよなと自分で思いながらも空腹だった俺は焼き魚を受け取ると無我夢中で貪った。

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