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Restroom  作者: 香津宮裕介
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第三章

第三章



     一


 電車で一駅、バスで三つめの停留所、そこから徒歩で十分強――繁華街の奥まった一角に、それは建っていた。

 縦横無尽に這う蔦に覆われた、黒ずんだレンガの壁と、女性の横顔と月のシルエットが焼きつけられた、アンティーク調の木看板が印象的だった。その看板の右隅に、横書きで店の名前が彫ってあった。

 ドアを開けると、イメージ通りのカウベルの音。それとともに、香ばしいコーヒーの匂いに包まれる。

 内装はブラウン系の色合いを基調にした、アメリカンカフェを思わせる。追い打ちをかけるように、低ボリュームでジャズが流れている。なにかが安心感にまぎれて、物悲しさに似た情緒を連れてきた。

 三島さんが待ち合わせに指定してきた場所は、ずいぶん小洒落た喫茶店だった。

 外観に比べて店内がきれいなのは、開店か改装したばかりなのだろう。

 少なくともこの場所に、こんな店なんてなかったのだから。

 テーブル席は三つしかなく、こぢんまりとしている。立地のせいもあってか、あまりはやっている様子もなかった。時間帯もあろうが、いまは客ひとりいない。

 店員は年齢不詳のやせぎすの男性がひとりいるだけだった。店長なのだろう。退屈そうにカップを磨いている。

 黒いベストに黒いスラックス、真っ白なワイシャツとの配色効果でか、薄暗い店内では一際目を引いた。目でも悪いのか、室内にもかかわらず薄い黒のサングラスをかけている。幅のせまい丸レンズで、これでもう少し年季が入って、粋な鼻ひげなどを生やしたら、「マスター」と呼び親しまれるかもしれないなと勝手に想像した。

 一番奥の窓側のテーブル席に着く。ブレンドを頼んだ。ホットで。

 約束の時間は五時だった。まだ三十分ちかくある。

 あの人はいつも平気な顔で、時間ぎりぎりにやって来る。そのくせ遅刻は絶対にしないのだからすごい。ひそかに先回りして、じつはどこかで時間まで待機しているのではないかと疑っている。

 マスターは慣れた手つきで豆を挽きはじめる。つい見入ってしまった。

 アンティークなデザインの手動ミルだ。使い込まれ、よく手入れされている感じがする。昔、あるひとからミルをもらったが、壊れてしまってそのまま押入れにしまいこんでしまっている。なんだかうらやましくなった。

 豆の削れる小気味の良い音が、軽快なサックスにのって響く。あらかじめ挽いてある店で淹れる店もあるのに比べ、手間を惜しまず挽きたてを用意してくれるのがうれしい。

 カオリのことを思い出そうとすると、心臓の裏のあたりに穴が空いたように痛む。忘れてしまえないことが悲しい。とっくの昔に封じ込めてしまったはずなのに、わずかなほころびにさみしさと懐かしさを感じる。

 無意識に自嘲の笑みがこぼれた。

「お待たせいたしました。ブレンドになります」

 卵白色のカップが置かれる。

 カップもお洒落だと、こっそり心のなかで星をつけた。

 マスターはまたさっきと同じポジションに戻って、カップを磨きはじめた。どうやらカップ磨きは、服をたたみ直すのと同じことらしい。三島さんなら絶対にしないだろう。あのひとはきっと、どんな仕事だって満足に勤まらない気がする。だから三ヵ月もたたずに、みんな辞めてしまうのかもしれない。

 熱いカップに口をつけようとすると、横のガラスをなにかが叩いた。

 アオリだった。チェックのスカートをひらひらさせながら、親指からの三本指ピースをしている。跳ねるように入口に駆けていった。

「いらっしゃいませ」

 抑揚のない声で、マスターが声をかける。商売柄、「いらっしゃいませ」と続けて言ってしまいそうになる。

「やー、迷子になっちゃうかと思ったよ。こんなことなら駅で待ち合わせすればよかった。あ、ねえねえ、通知表見せてあげよっか」

 満面の笑顔で向かいの席に座るアオリの目線は、すでにメニューをなぞっていた。

「津野さん、どうだった。元気してた? ……あ、アイスレモンティーお願いします」

「男の病室に花などいらんとよ、つき返された。ああ、部屋かわったんだ。個室じゃなくなってた」

 あらためてカップに口をつける。

「ありゃりゃ。他の人もいるからはずかしかったのかね」

「男からもらうのもあれだしな」

 逆の立場で考えれば、津野から花をもらってもいらない。

「そうかなぁ。あ、ほんじゃ半分払うね」

 カバンからヴィトンを取り出す。

「いいよ、べつに。だからさ、おまえんとこのイトコさんにあげてきたよ。アリガトだってさ」

 このブレンド、結構好みだ。カップの底で、コーヒーが三日月形に溜まっていることに気づいた。店のロゴの月は、これなのかもしれない。

「へえ、あずさちゃんに? いいね。あずさちゃんお花スキなんよ。いいね」

 二回目の「いいね」はお金を払わなくてもいいんだね、という意味らしい。うなずくと財布をしまった。

「ありがと。ねえ、三島さんって昨日のカッコイイひとだよね。アクセサリーいっぱいの。自意識の塊で目立ちたがりなのかねえ」

「それはあるかもしれない。津野の言うとおりだな。このあいださ――」

 三島さんの面白い話をしようとすると、音もなくマスターがレモンティーを持ってきた。

「あ。ありがとうございまーす」

 アオリは笑顔で軽く手をあげる。

「ちょっと飲ましてね。やー、喉かわいちゃってさ」

「今日も暑かったからな」

 店内のエアコンは、温度調節が絶妙で、不快でない程度に涼しい。寒いほどにエアコンをきかせている店もあるが、そんな店より長居したいという気になるし、また来たいという気になる。正直良い店だ。

「なに。佐山くん、ちょっと機嫌いいね」

 鋭いアオリにはすぐバレる。

「常連になりたいとか考えてる?」

 心のなかで舌を出す。

「まさか」

 明日からアオリは夏休みだ。本当に休みの間中いるつもりだろうか。別に構わないが、親は大丈夫なんだろうか。うれしさの反面、不安もある。

 そんなに長いあいだ一緒にいたことがない。ずぼらなところがバレたらどうしよう。佐山くんって、こんなにだらしなかったんだね、なんて言われそうで怖い。

 そんな想像をしてしまい、思い知らされた。自分のなかでアオリの存在がとても大きいことに。

 昔は他人の干渉がいやでいやでしょうがなかった。なにに対しても関心がなかった。でも本当は、誰でもいいから自分に関わってほしかった。わかっていながら、それを認めるのは許せなかった。

 いまはアオリにかぎってなら、むしろ期待して楽しんでいる。アオリがいなかったら、いまどんな生活を送っているだろう。空っぽの日々を、どうしようもなくすごしていた過去の自分が、少しだけ憐れに思える。

 彼女に起因しての変化は、如月葵里という存在の影響力の強さが窺える。それと同時に、佐山晶人の依存気味な体質も。

 そういえば、彼女が普段どんなことをしているのかあまり知らない。びっくりした。アオリの知っている姿は、あくまでこうして目の前にいる時の姿だけだ。

 それが、いまは無性に知りたいと思った。

「んー……さあ、部屋にいるよ。それだけ」

 左指のマニキュアをながめながら、興味なさそうにアオリが答えた。彼女のマニキュアは、最近いつも異質な粒子に輝く銀色だ。校則違反じゃないんだろうか。優等生はおかしなところで反抗している。

「なにしてるわけ」

「うーん。……そういえばなにしてるんだろう。すわってるよ。うん、すわってるかな」

「座ってるだけ? 音楽とか」

 好みの音楽もちゃんと知らない。

「どうだろう。気が向いたら聞くけど、そういえば聴かないねえ。いまなに流行ってるんだろう」

 現役の女子高生とは思えないセリフだ。そっけない表情で、グラスの氷をストローでつついている。

 自分の彼女の悪口を言うようだが、つくづくおかしな女だと思う。あえてフォローすれば、変わってる、というか。あまり血液型のせいにしたくないが、たしかにB型だと納得してしまう。

「や、やややっ。なんと女子高生バージョン!」

 約束の時間、ちょうど一分前だった。

 さわやかな屈託のない笑顔で、三島さんは長めの髪をかきあげた。赤いアロハシャツにベージュのハーフパンツ、黒ビーチサンダルといういでたちだ。胸もとには鈍く光る羽をいくつもぶらさげて、腕にも鎖が巻かれていた。両手十本の指のうち、四本までもがシルバーの洗礼を受けている。一体どこのチンピラかと思う。

 入口でコーラを注文すると、わざとらしくおどけて駆け寄ってきた。

「うっ、うううぅ……。まさか本当に来ていただけるとは。感激のあまり、胸が張り裂けそうで呼吸困難です」

 さりげなくアオリの隣に腰をおろす。

「おもしろいひとですねえ」

 目を細めるアオリ。笑うと両頬にえくぼができるのだ。左が深くて、右がやや口許から離れた場所でくぼむ。

「いい店ですね、三島さん」

「おっ、さすがはさやまサン。このさびれた感じがまた最高でしょう? ぜひ通ってください。オススメです」

 届いたコーラを一気に飲みほすと、三島さんはげっぷしながら立ち上がった。

「では行きましょう。次のお店もオススメです。親善大使ばりにご紹介しちゃいます」

 その晩、津野が病室を抜けだして行方不明になったと、彼の母親が涙ながらに訴えてきた。

 あいにく三島さんとオススメの飲み屋にいて、軽くいい気分だったので、適当に電話を切ったような気がする。制服で来てしまったアオリは、「やばいって」と言いながら、のれんをくぐることなく帰ってしまった。

「いいコっすねえ」

 四本目あたりで三島さんがぼやいた。

「めちゃめちゃカワイイじゃないっすか」

 五本目で頭を抱えた。

「……ヤバイかも」

 六本目で正気を失い、

「惚れたかもしれないです――」

 七本目で宣戦布告してきた。

 それきり動かなくなった三島さんを、とりあえず連れて帰ることにした。このひとがどこに住んでいるのか知らないのだ。

 結局、三島さんはお昼をすぎても起きなかった。ふたりとも休職処分中だったので、別に困ることはなかったが。一応求人誌には目を通すようにしている。



     二


「ほらァ、さっさと歩きなさいよ!」

 エアコンの効いた部屋で、ぼんやり起き抜けの熱いコーヒーを飲んでいると、外から威勢のいいアオリの部屋が聞こえてきた。値段の割にいい部屋なのだが、最近どうも壁とドアが薄いような気がしている。

「なになに? ねえ、なんなのよぉ一体」

 間延びした別な女の声。

「えー、ここなに。誰の部屋なわけー?」

「ちょっと! 逃げんでないよ」

「あんたひょっとして、わたしのこと売ったんでしょう! なめんでないよ、年下のくせに。ちゃんと取り分は、きっちり交渉させてもらうからね!」

 はぁ、と気だるげなため息。アオリがカギを開ける。

「ああ……、やっぱりそうなんだね。こんなカワイイ顔しちゃってさぁ。腹の中に悪魔を飼ってたってわけだ。ああやだ、もうなんだか人間不信に陥りそうだはわわわわ」

 渋面のアオリと、あくびをする背の高い女が入ってきた。二日酔いで頭が痛い。

「あ。佐山くん、おはよう。よかった、起きてたのね」

 向こうの部屋で、三島さんがうなされているのが聞こえた。戸を閉める。

「あらあらあら。どうも、おひさし」

 オオヒラヨウコだった。何度か面識はある。

「なんだ、ここ佐山ちゃんの部屋か。……ふぅん」

 色が白くて首が長い。目が細く、笑いかたも陰湿で、ヘビみたいなひとだ。

 そう考えるとアオリは、口が大きくて離れぎみの目や肌の荒れ具合とかが、たしかにあずささんの言うようにカエルのようでもある。

「それよりさ。なんでこんなとこに連れてこられなきゃなんないの。納得いく説明がほしいわね」

 全身グッチの女が、うんざりしたように言った。同感だった。

「津野さんが入院したの知ってる?」

 いきなりアオリが問いつめる。

「へ? カッチー坊やが? なんで」

 オオヒラヨウコは、まったくもって存じませんとばかりに首を振った。カッチーって呼ばれてるのか。津野の下の名前はカズトシだからなのだろうが、ひょっとしたらアッシーと同義なのかもしれないと勝手に想像した。

「津野さんのこと、フったんだって?」

「だれが? わたし? なんだ、知ってたの」

 ヘビはくちびるをゆっくり、三日月の形につりあげると、声もださずに笑った。

「あんたもバカだねえ。あんなキモイのに、いきなり結婚してくれだなんて言われたらさ、そりゃ誰だって水ぶっかけたくなるでしょう」

「津野さんはあなたのことが好きなのよ」

「わたしはきらい」

「じゃあなんで付き合ってんのよ」

 ヘビはけらけらと嗤った。

「カネよ金。お金がいいからに決まってんじゃない。オヤジ連中と比べて、失うもんないからハリキリ方が違うしねえ。なんでも言うこと聞いてくれるよ。トチ狂ったりしなきゃ、もっと遊んでやってもよかったんだけどね」

 夏だ。ヘビとカエルが自分の日陰を求めて争い、旅に疲れた渡り鳥はまだ眠っている。

「あなたにとって津野さんはお金なの。お金もらえるから、そのぅ……するの?」

 途端にあっはっは、とオオヒラヨウコが長い髪を揺らした。

「する? するってなにさ? おセックスのことかね。勘違いしてるみたいだけど、ツッチーは純然たるドーテーくんだよ」

「……は?」

 思わず声をあげてしまい、ふたりに一斉にふり向かれた。

「な、なんでもない」

 あわてて誤魔化す。

 オオヒラヨウコはにやにやしながら続けた。

「わたしね、家のしきたりで結婚するまでシちゃいけないのー、って言ったら本気にしちゃってさ。ホントは猿みたいにシたくてしょうがないくせして、『洋子のためだから、我慢する』とか真面目な顔して言うわけ。笑っちゃうじゃん」

「…………」

「あいつ、根性ないから風俗とかも行けないの。ただヤりたいだけなのに、一丁前に操立ててるつもりみたいでさ。でもまあ、わたしの良心っていうの? 貢いでもらってばっかじゃ悪いかなぁって、たまにだましだましさわってやったりするわけ。そしたら悦んじゃってカワイソウなくらいだよ。でもほら、下手に溜めさせとくとゴーカンされそうだしね」

 津野の不器用な性格と、余りあまる性欲とのバランスが、情けないようなはずかしいような同情を誘う。

「津野さん、ショックで入院してるんだよ。それぐらい好きだったんだよ。ひどいよ」

「へえ、そうかい。で。わたしにどうしろって?」

「もう少しやさしくしてあげてよ」

 オオヒラヨウコは鼻で笑いとばした。

「これ以上どうしろと。まさか結婚してやれって言うの。結婚してくれ、って言われたら、あんた誰とでも結婚すんの? いまの女子高生はそんなにお股がゆるいの? じゃあ簡単じゃん、あんたが結婚してやればいいわけだ」

 なにかが切れたような音がした。

「あッたまきたァ! このババア、ゼッタイ津野さんに謝らせてやるんだから! 佐山くん手伝ってよ、土下座させてやる!」

「ちょっと佐山ちゃん、あんたの管轄でしょう。もうなんとかしてよ、この青ガエル」

 コーヒーをすすっていると、ふたりにボールを投げられる。もう少し静かにしてくれ。頭が痛い。

「アオリ、前にも言ったろう。オレたちの問題じゃないんだ」

 やっぱり大人だねえ、とヘビ女が満足そうにうなずいた。

「昨夜、津野の家から電話があって、あいつ、病院を抜け出して行方不明なんだそうです」

 え、とアオリが驚いた声をあげた。

「そんな話聞いてないよ。すぐ捜さなきゃ!」

「警察が動いてるらしいから、オレらがどうこうすることでもないよ。オオヒラさんには関係のないことかもしれませんが」

「あんた立派だね」

 いやらしくヘビは笑っていた。

「どうでしょう」

 首を振る。

「オレは津野とは、高校時代の知り合いというだけです。クラスメイトだったり、同じ部活にいたわけでもない。だから、そんなにあいつのことは知らない。ただ残念なことに、ここにいる誰よりも付き合いは長い」

「…………」

「あいつがなにも言わないときは、なにも言いたくないときだ。普段は言わなくていいことまでしゃべる。なにも言わずに出ていったってことは、捜してほしくないってことなんだと思います」

 オオヒラヨウコは納得したようにまた笑う。

「そういうことで、わたしは帰らせてもらおうかな。大変だろうけどさ、佐山ちゃん。ちゃんと教育しといたほうがいいよ、このケロちゃん」

「ご迷惑をおかけしました」

「ああ、いいっていいって。観音洋子って呼ばれるぐらい心が広いんだ」

 自信たっぷりに胸をそりかえす。津野いわくEらしい。アオリはそれよりスリーサイズ下だ。

 パンツを見せながら靴を履いて、ファッションモデルさながらにターンをすると、「バイバイ、ケロちゃん!」と中指をつきたてた。

 そうして長い脚を広げて、さっさと出ていってしまった。

 うっすらと埃が残るテーブルには、アオリお気に入りの銀のマニキュアが転がっている。中身はもうあまり入っていない。

「バカじゃない?」

 アオリが言った。

「バカじゃない、佐山くん」

 なんだって。

「なんだよ、いきなり」

 いやな流れだと思った。お門違いもいいとこだ。

「ほんっといらいらするなあ」

「なにがだよ」

「なんて言うのかなぁ。佐山くんさ、じれったいのよ。オトナであろうとしてるっていうか、そのフリしてるのが見え見えで。ちょっと自分を離れたとこに置いてさ、オレには関係ないみたいな、見くだすっていうか、なんでもかんでも知ったかぶった感じで。達観してるっていうか、しようとしてるっていうか……うまく言えないけど」

 そういうつもりはない。だが、アオリにはそう見えていたのだろうか。

「悪かったよ、ゴメン」

 とりあえず謝る。さわらぬアオリに祟りなしだ。

 ――どうも、それがいけなかったらしい。

 振り下ろされた細い手は、したたかに頬を打った。なにか言うより早く、アオリの身はひるがえっていた。

 バン、という強い音をたて、ドアが閉まる。

 痛みはなかった。少ししびれた。

 そして部屋には青ざめた空気だけが残った。

 それを確認するのが嫌で、頬をさする。のん気ないびきが聞こえてくるのに気づいて、たぶん笑った。力のない声だけが部屋に響いた。

 とりあえず三島さんを起こして、飯でも食いに行こう。

「だめっすねえ」

 突然そんな声がした。

「追っかけなさいよ。彼女、期待してるはずだから」

 寝室のドアのところに、眠そうな顔をした渡り鳥が立っていた。目の下に、うっすらと隈ができている。

「……いつから聞いてたんですか」

 大きなあくびをしてから彼は、「葵里ちゃんの声が聞こえたときから」と答えた。タヌキだったか。

「ありゃあ怒りますよ。それが普通。謝ったほうがいいっす。これは絶対」

「悪かった、ゴメンって言いましたよ。追いかけたってどうなるわけじゃないです」

 三島さんが鼻を鳴らした。

「なに言ってんすか。あんなの謝ったうちに入りますかっての。いいから追っかけなさいって。こういうのは、誠意見せることが大切なんです。誠実な意志と書いて誠意」

「あんなのいつものことです。気にすることじゃありません」

「ああいうのは、ボディブローみたいに蓄積していくものなんです。しっかりフォローしとかないと、そのうちポキンといきますよ」

「…………」

 なにも答えないので、三島さんは細い目をさらに細めた。

「ハハン。おれの言ってること、お節介だと思ってんすか。自分たちの問題だから、部外者には関係ないって。そんな意地張ってないでさ。さやまサン、あんた間違ってるよ。おれが正しいとは言わないけど、あんたは間違ってる」

 いつもヘラヘラしてるくせに、真顔の三島さんはなかなか堂に入っていた。

「…………」

「強情ですねえ」

 投げやりぎみにため息をもらした。

「そんなら、こういうのはどうです? これからおれがお姫さまを追いかけて口説いちまうってわけです。ひょっとしたら傷心の彼女の気持ちが揺れちゃう、なんてこともないことないですよね。つまり、さやまサンも関係ないじゃすまなくなりますよね」

「……本気で言ってるんですか」

「半分ね」

 不敵に笑った。

「勝手にすればいいじゃないですか」

 細い目がまるくなった。初めて見る表情だった。なかなか滑稽だ。

「言ったな。ほんとに言ったな。本気で口説いてきますよ」

「ご勝手に」

 どうせ口先だけの男だ。それに三島さんは、大別すればアオリの嫌いなチャラい系だ。男前とはいえ、見るからに軽率な性格が表に出ている彼には負ける気がしなかった。そんなうぬぼれもあった。

「そんじゃ、ちょっくら行ってきますわ」

 そう言い残して出て行ったきり、三島さんは戻ってこなかった。

 不安になった。

 気がかりだった。

 しかし。

 動揺しているのを認めたくなかった。

 寝室に入ると、ドライフラワーが折れているのに気がついた。



     三


 それから五日がたった。

 毎日毎日にセミの音を聞く。一週間の運命も憎い。

 ネコのような少女は、くっくと声をもらした。

「あなたたち、ケンカしてるんですって?」

 なるほど、女王ガエルの告げ口か。

 昼食が終わったばかりで、病院内でも一番なごやかな時間帯だった。ここでは夏休みの喧騒は無関係だ。

「なにか言ってましたか、アオリ」

「なにか? 自分が悪かったとか、あんなこと言わなきゃよかったとか? そんなに都合よくいかないわよ」

 意地の悪い言いかただ。

 あれ以来、アオリには会っていない。連絡もとってないし、向こうからもなにもない。津野はまだ見つかっていないようだった。今日は淡い期待を抱いて病院にやって来たのだが、どうやら空振りに終わりそうだ。

「そうそう。下で入院してるっていうきみの友だち」

「津野ですか」

「このあいだね、葵里に写真見せてもらったのよ。行方不明なんですってね。まだ見つかってないんでしょう、大変ねえ。しっかし、愛嬌のあるコね。カマキリみたいね、って言ったら葵里に怒られちゃった。あのコも笑ってたけど。いいわねえ、人相にあじがある」

「アオリはいつもここに?」

 あずささんは自信たっぷりの表情で、ゆっくり見返してきた。

「やっぱり気になるわけね」

「べつに……そういうわけじゃ」

 あははは、とほがらかに声が響く。

「素直じゃないわねえ。――きみさ、葵里と別れるかもしれないとか考えてる?」

 ふり返る。

「ほらほら、そんな怖い顔しない。カップルなんて、ちょっとケンカしちゃったりすると、一度は別れを考えるものじゃないの」

 知らないよ。目をそらす。

「正直よ――正直、葵里と別れようと思ったことってないの?」

 不意にあずささんの小さな顔が、すぐそこまで迫ってきているのに驚いた。大きな目が飲み込もうとするほど見開かれている。ふっと、甘い息がかかった。

「人間なんて裏切るもの。一度でも離婚を考えない夫婦はないって言うわ。人間、長く付き合えば付き合うほど、お互いの良い面同様に、認めたくない悪い面も見えてくる。それが増えて堪えられなくて、結果別れちゃう。だからケンカしたんじゃない?」

 ベージュのカーテンが揺れている。

「甘えてるんじゃないわよ。努力しなさい。嫌になるくらいがんばってみたら? それでも報われないこともあるかもしれない。でも、甘えちゃダメ。甘えは人をダメにするから。きみは自惚れてるでしょう。だから、いきなり突き放されると対処できない」

「違いますよ」

 むっとして答える。本当は怖かった。

「電話すれば葵里と話せるんじゃないの。どうしてしないの。安っぽい男のプライドってやつかしら?」

「…………」

 答えないでいると、あずささんがまた笑った。

「いいわよ、教えてあげる。葵里、毎日来るわよ。こんなところ来たって、ちっとも生産的じゃないのにね。……あのコの両親、別居してるって聞いた?」

「はい」

「さみしいのね」

「え?」

 さみしい……アオリが? 友だちも多くて、クラスの中心になるくらい個性的なのに。

「さみしいのよ」

 あずささんは自信に満ちて言った。

「誰だってそうじゃない。そばに誰かがいるからこそ、自分を認識できる。ひとはひとりじゃ生きてはいけないわ、きっと寂しくて……」

「あずささんはさみしくないんですか」

 軽い反撃のつもりだった。超越者のように言葉を述べる彼女への。そして、まるで過去をなぞるように、同じ過ちをくり返そうとしている自分へのいらだちもあった。

「さみしいわよ」

 さらりとささやく言葉が重い。部屋がわずかにかげる。遠い目をした彼女は、あきらめたような悲しみで微笑んだ。

「……人間だもの。ときどき生きていることが、どうしようもなく不安になる」

 瞬間、ぞっとするような艶めかしさ、官能にも似たあやうい感覚にとらわれた。左手首の白さはいつもより深く、しなやかにまとわりついている。

 必死に理性を取り戻そうとした。これは、――引き込まれる。

「きみは私の好きなものをなんでも持っていくのね」

「あなたのものじゃない」

「……そうね」

 あずささんは窓の外を見る。風が髪をなでる。

「でも、きみのものでもないでしょう。……負け惜しみだってわかってるけど」

「またカオリの話を聞かせてください」

 それを話すときの彼女の顔は、とても生き生きとしていた。ふたりが共有している人物は、思い出によって生かされている。

「オレはたったの数ヵ月しか知らないから……」

 ふり返らず、あずささんは言った。

「嫌よ。思い出だけは私のものだから。誰にも渡さない。特にきみには、絶対に」

「なら、アオリのことを話してください。オレだってカオリの話はしたくない」

 憎らしそうにふり返った。

「私、やっぱりきみが嫌いだわ」

「謝りません」

「望んでない。香織を返して」

「あなたのものじゃない」

「葵里を返して」

「あなたのものじゃ――」

 大きな目がうるんでいる。そこに映っていた人影が、一瞬揺らいだかと思うといきなり近づいてきた。

 くちびるに生暖かい感触がぶつかった。

「なにするんですか」

 びっくりして立ち上がる。

 あずささんはとぼけた表情で、自分のくちびるを小さく舐める。濡れて光るそれは、血のように赤い。

「葵里に会えなくてさみしいんじゃないかと思って」

 馬鹿にするな――昔よく津野が怖がった視線でにらむ。

「冗談よ、ごめんなさいね」

 すぐにあずささんが折れた。とてもさみしそうに。

「香織と葵里が惚れたオトコってのに興味があったの。忘れなさい」

 胃のあたりが熱かった。首を振る。

「……アオリは知りません」

「香織のこと? うん、そうでしょうね」

 高校時代、それこそ一年の三学期から二年生の時期は救いようもないほどふさぎ込んでいた。その理由を知っていたのは、学校では津野だけだった。当時一年生のアオリでは知りようがない。

 ――年上の恋人を亡くしてしまったことなど。いまでも忘れることはない。

(どうしても新しい彼女を、葵里ちゃんと比べてしまうことがあるだろう)

 津野は、カオリとアオリを比べていると言いたかったのかもしれない。そんなつもりないのに。

 でも、カオリとの思い出を抱えたままアオリと付き合って、初めは一種の打算であったことも事実だった。よく知りもしない相手に告白されて付き合いだしたのだから。

「軽蔑するかもしれません」

 ふとした折に、カオリのことを思い出すことがある。しだいに薄れて、少なくなっていく記憶ではあったが。

 それは裏切りなのではないか。そんな思いも心のどこかにはあった。

「私はするわ」

 あずささんは真っ直ぐな目をしていた。それは大好きだったひとのそれによく似ていた。曲がったことが大嫌いなひとだった。

「カオリが言っていました。『忘れようとして忘れられないのは、忘れちゃいけないから』だって。でも、オレは忘れたくない。カオリを忘れたくない。でもそれは、やっぱりアオリに悪いことだって思う。自分の弱さなのかもしれない」

「死んだ人を忘れないのが弱さ?」

「一瞬だけ――馬鹿らしいけど、運命めいたものを感じたこともありました。木更津香織と如月葵里」

 それを聞くと、あずささんは弱く口の端をつりあげた。

「なるほど、わらっちゃうわね。てっきりきみは、現実主義なんだと思っていたわ。名前の類似性なんてただの偶然じゃない。この世にどれだけ同姓同名がいると思ってるの」

「オレには特別です」

「そういう意識が特別にしていることに気づきなさい」

 たしなめられ、ただ笑った。

「あのコ、化粧どギツイでしょう?」

 唐突に話題が変わる。

「ええ。初めて学校外で会ったときはびっくりしました」

 はじめは初デートで気合いを入れてきたのかな、と微笑ましく思ったりもしたのだが。

「あれも一種の病気ね。すっぴんの葵里、ちゃんと見たことある? 肌ぼろぼろなのよ」

「知ってます」

(みないで……! ああ、みないで)

(だめ。あたし、不細工でしょう)

 それでも彼女の素顔が見たいと願うのは、男のエゴだろうか。

「きみにはだまってるように言われたんだけどね」

 あずささんの話はよく飛躍する。きっと頭の回転が速いのだ。空回りしてる感はあるが。

「なんの話です?」

「進路。なんにも聞いてないでしょう。……私から聞いたなんて言わないでよ」

「まだだって言ってましたが」

 あきれたようにあずささんが肩をすくめた。

「三年生の夏休みになって、まだ決まってないわけないじゃない。きみだって去年そうだったでしょ」

 実際体験したわけだが、本当に決まっていなかったのである。だから高卒フリーターだということを、このひとにはわかってほしい。

 だが、世間ではあずささんの言うとおり、少なくともおおむねの志望校などは決まっていなければならないはずだった。

 アオリはたしか――音響の勉強をしたいとか言っていたが。

「アメリカの学校にね、推薦だしたそうよ」

「――え」

「ハリウッドでも活躍している養成学校みたいなとこらしいわ。運良く書類が通れば、卒業待たずしてすぐにでも編入できるそうよ。だから、卒業式までいれないかもしれないって」

 思いがけない言葉に、息がつまる。唐突すぎて理解できない。

 アオリが留学――?

 たしかに進路を決める時期ではある。SEになりたいとも言っていた。生徒会もやっていた彼女には、そういう選択肢もあったのだろうか。

 でも、なんで。そんなこと、ひと言だって話してくれなかった。どうして。あずささんには相談するのに?

「日本にだって、そういう学校いっぱいあるじゃない、って言ったのよ。これでも止めたのよ、私。でもチャンスだからって、試してみたいんだって。――笑っちゃうわね。受かってもいないくせに、行く気になっている」

「ちょっと……」

「私だって、さみしさ紛らわせてもらってるのよ。こんな私の話をちゃんと聞いてくれるの、あのコだけなの。叱ってくれるの。許してくれるの。あのコのおかげで生きていられる。――行かせたくないのよ」

「ねえ、あずささん」

「なによ」

「やめてくださいよ。うそでしょう……?」

 それには答えず、あずささんが悲しそうに視線をそらした。

 セミの声。セミの声。

 夏が。

 いま、静かに忘れえぬ季節へ。

 ――カオリも、アオリも。

(きみは私の好きなものをなんでも持っていくのね)

 季節はうつろう。冬に消え、夏に消え、ゆるやかに、はてしなくゆるやかに。

 そうしてまた取り残される。

 いつだってそうだ。

(オレは置いていかれるのだ)

 母も、ヨネも、カオリも、ファルア三号も、ネコも、アオリも。好きになったひとはみんな離れていく。まるで、初めからそうであったように。はじめから一人で生きていたかのように。

「結構できあがってきたでしょう」

 部屋の隅にぽつんと、この病室に入ったときから気づいていたはずなのに、これまで目を向けなかったものがある。

 イーゼルの上には、中途半端な笑顔をうかべたアオリがいた。

 それはもうどこから見ても、よく知っている彼女だった。だからそれが、とても切なかった。

 彼女に会いたいと思った。

「アオリ、今日も来ますか?」

 謝ろう。まっさきに思った。会うよりも早く謝ろう。

 あずささんの答えを待つ間もなく、反射的に電話をとりだした。

「佐山さん」

 あずささんにたしなめられ、あわててここが病院だということを再認識する。

 そんな様子を見ていた彼女は、まぶしそうに目を細めた。

「重症ね。目一杯惚れてんじゃないの」

 ははは、と柄にもなく照れる。

「あのコを幸せにしてあげてね」

 答えるかわりに、まっすぐ彼女の目を見る。だが、大きな目はまた横にそれた。

「でも、せっかくその気になってくれたのにタイミング悪いわねえ。葵里、今日は来れないって言ってたのよ。なんて言ったかしら、ユキオ……? ううん、ミシマくんね。ミシマくんとデートだから来れないって――バカねえ、あのコも。そんな強がらなくてもいいのに」

 途端に引きずりだされ、現実に足がつく。

 無言で立ち上がると、病室を飛び出していた。途中、にこにこしている伊藤看護師長に会ったが、あいさつする気持ちの余裕もなかった。

 脇目もふらず冷たい病院から出ると、南中高度の灼熱が肌を刺した。

 にぎりしめたケータイが熱い。

 見なれた番号を呼びだす。ツーコールで相手は――

「……タダイマ電話ニ出ルコトガデキマセン」

 マナーモードの音声が答える。

 とっさに三島さんの名前を探したが、番号を聞いたことがないのに気がついた。役立たずめ。

(……なにやってんだ、オレは)

 少し冷静になれ。

 むずかしくない。いつもそうやってきた。

 深呼吸。

 二度、三度。

 そのうちに。

 だんだんバカらしく思えてきた。

 なにもかも。

 とても見苦しい。

(帰ろう)

 ひとりの部屋へ。



     四


 高校卒業間際、なんとなく家を出たくていまの部屋を見つけた。

 帰宅部だったこともさいわいし、高校時代はずっとバイトをしていた。もともとそれほど物欲もなかったから、それなりの貯金になっていたのだ。

 クルマは父親のお下がりだった。本当は買ってやると言われていたのだが、免許をとらせてもらっていたので、遠慮したのだ。父ひとり子ひとりの家庭で、まだうまい距離感がつかめない。アパートと実家の距離が、まさにそれを如実にあらわしている気がして、なんとも居たたまれない気になるのであるが。

 ただタイミングが悪かったせいか、アパートの近くの駐車場は借りられなくて、徒歩で二十分近くはかかる月極まで行かなくてはならなかった。

 不便ではあるが、途中に大型デパートの建つ大通りがあるので、買い物の手間が省ける場合もある。

 大通りは駅にもほど近く、夕方のためもあり学生や主婦の姿が多い。ちょうど帰宅ラッシュとも重なったこともあり、車通りも激しい。

 人ごみのなかで信号待ちをしていると、隣に立っている誰かに見つめられているのに気がついた。

 どこかで見たことのある人だった。誰かに似ているとも思った。四十前後の派手な顔立ちの女性で、深緑色のスーツを上品に着こなしている。目が細くて口が大きい。手にした携帯電話をしまう間もなく、不審そうに口を開いた。

「きみは……えっと、葵里の――?」

 アオリの母親だった。たしか大手保険会社の営業だそうで、かなり優秀らしい。仕事帰りなのだろうか。それともまだ仕事中なのか、見ただけではわからない。二度三度顔を合わせたことはあるが、ふたりきりで話すのは初めてだった。

「ちょうどよかった。佐山くんだったわよね。葵里はどこかしら」

 鋭く周囲に目を配らせながら、彼女は言った。

「ずっと電話しても出なくて……昨夜も結局帰ってないみたいだし。きみのとこだったかしら」

 群衆のなかに娘の姿を見つけることができなかったようで、彼女はあきらめたように肩をすくめた。

「もし会ったら、連絡くれるように言ってもらえるかしら。怒ってないから」

 信号が青になった。一斉に対岸にながれる人のなかで、アオリの母親はしかし歩きださなかった。

「葵里から、ウチの家庭の事情みたいなやつ聞いてるんでしょう」

「え。あ、いえ。その」

 突然そんなことを言われて動揺する。

「ああ、気にしないで。別にいいわ。きみだってこのままお付き合いが続くなら、関係ない話じゃないし」

 ものすごくはっきりとした物言いをする人だった。惜しげもなく自分をさらけだし、はずかしげもなく自分を語る。

「昨夜、正式に決定したわ。葵里はわたしが引き取る。だから、心配しないでいいわ。結局なにも変わりはしないのだから」

 アオリの家はたしか婿養子だということだったから、父親が出ていったというような話だった。

 誰が聞いても意味のない話であったが、誰かに聞かれてもいい気のしない話だった。にも関わらず、アオリの母親は平然としていた。おそらく彼女は、自分が正しいと信じきっているのだろう。

 歩行者信号が点滅して、赤に戻る。また車がとめどない波のように走りだす。自動車学校では歩行者優先というルールを習ったが、横断歩道での歩行者は待っている時間のほうが長い気がする。

「でも残念ね。本当は最後に、偽りの家族での最後の晩餐ていうの? してみたかったのよね」

「アオリを……追いつめないでください」

 母親は困ったように微笑んだ。

「親子三人がそろう最後の夜だったのよ。思い出を残してあげれなかったことだけが心残りよ」

「…………」

「まあ、これからも葵里のことよろしくお願いね。また遊びにいらっしゃい」

 振り切るように、真っ赤なくちびるは器用に笑みを作った。

 横断歩道の先に、青いスポーツカーがハザードをつけて寄ってきた。

「それじゃあ。ごめんなさいね、時間とらせて」

 そのままアオリの母親は、その車に乗り込んだ。運転席にはサングラスをかけた、三十代ぐらいの粋な男が座っていた。

 ふとその脇を、見覚えのあるシルバーメタリックのスポーツワゴンが抜けていった。

 助手席のドアが閉まると、青いクルマは低い音をたてて排気ガスの渦のなかへ滑り込んだ。

(……昨夜も結局帰ってないみたいだし)

 家にも帰らず、かといってウチにも来ていない。アオリはどこへ行ったのだろう。

 電話を見る。着信はない。メールもない。

 ――昨夜「も」と言ったか。

 不安だった。いまどこにいるんだろう。どこでなにをしているのかわからない。けれども、あずささんには会いに来るという。

 近くにいるのに、どうしているのかわからない。

 アオリがなにを考えているのかわからなかった。

 いつだったかの夜、泣いているアオリを見たことがある。くしゃくしゃの顔で立っていた。部屋にあげて理由をたずねたが、うつむいたままなにも教えてくれなかった。そのままベッドで眠ってしまったが、眠りながら涙をながしていた。

 なんだかひどく悲しくなったのをおぼえている。

 ため息をつくと、空気を吐いたはずなのに体が重くなった気がした。

 信号はまだ変わりそうにない。



     五


 青白いのっぺりとした建物は、あずささんのいる病院よりも不健康そうだ。中心街からやや道をはずれたところにあるアパートである。

 このあたりの住宅街は新旧問わず建物が立ち並び、しかし閑散としている。しかも方角的にいまいちなようで、太陽が西に傾くと、アパートの前の通りは結構な感じで影が落ちる。夕日のなかでその黒と橙のコントラストは、お世辞にも目にやさしいとは言いがたい。

 そんな場所で、薄闇をまとった亡霊のように座り込んでいる人影を見つけてしまった。

「津野……か?」

 影はふり返った。

「まさか」

 影は笑った。

「見間違いにもほどがあるんじゃない?」

 オオヒラヨウコだった。

「いやぁ、待ったよ。せっかく来てみたら留守みたいだし、かといって佐山ちゃんの番号知らないしさ。せっかくだから教えてよ」

「なにかようですか?」

「約束どおり佐山ちゃんのコーヒー飲みに来たよ。佐山ちゃんのコーヒーはうまいって聞いてたんだ。機会があったらって思ってね」

 約束した覚えはないし、そんな評判も初めて聞いた。

「津野が言ったんですか?」

「他に誰がいるよ」

 この人はいつも露出の激しい服を着ている。津野流の分析によれば、この場合はどうなんだろう。

「あいつの言うことは信用しないほうがいいです。重度の味覚音痴だ」

「そうだったね」

「嗜好品ですからね。結局は好みの問題ですよ。なんでしたら、おすすめの店教えますよ」

「そうかね」

「そっちのほうが格段にうまいです。やっぱり向こうは商売ですからね」

「そうだろうね」

 できることなら、ぜひともそちらへ行っていただきたい。そしたら他人のアパートの前で、わざわざコーヒーを飲むために待っているなんて馬鹿げたことはやめていただきたいのだ。よほど暇人であるらしい。

「なんのようですか?」

 もう一度たずねた。少なくとも、このひとは馬鹿ではないのだ。

 それを聞くと、彼女は満足そうに陰湿に笑った。

「話がはやくていいね」

「機嫌が悪いので」

「昼間さ、ケロちゃん見たんだ」

「…………」

「結構イイ線いってる男と街歩いてた。アロハ着た金髪のロン毛。わりとわたし好みだね。――本当はさ、それを教えてやろうと思ってきたんだ。……浮気かね」

 細い目がいやらしくゆがむ。

「仲良さそうだったし、イイ関係なんじゃない? なんだかんだ言ってもさ、やっぱやることやってんだねえ」

「たのしそうでしたか」

 オオヒラヨウコは一瞬、虚を突かれたような顔をした。

「三島さんと一緒のアオリは、楽しそうだったんですね?」

「え、あ、なんだ知り合……ああ、そうだね、うん」

 普段は勝気な彼女だったが、目を白黒させていた。主導権を奪われるのに慣れていないのだろう。

「ありがとうございます」

「は?」

「わざわざ教えてくれてありがとう」

「どっ……どうしたのよ、佐山ちゃん。ショックでおかしくなった? ――冗談でしょう。全然違うじゃない」

 オオヒラさんはうろたえている。

「なにがですか」

「なにってあんた。カッチーがあんたらのこと、うらやましいカップルだって言ってたんだよ。あんたさ、ケロちゃんのことどう思ってるわけ」

「あいつの言うことは信用しないほうがいいです。偏見だらけですから」

「あっきれた」

 極細の眉をつりあげて、オオヒラさんは手を振った。

「そんなにあっさり認められちまったら、チクったわたしはどうすればいいの。うそだと思ってんなら別にいいんだけどね。でも、ちゃんと見てきたのよ。……本当に好きなの?」

 また説教か。最近、あちこちで説教されている気がする。うんざりだ。

「聞く耳もたないって顔してるね。はいはい、いいよいいよ、勝手にしてれば。わたくしにはまーったく関係のないことでござんすからね。興醒めだわ。ああもういい、帰る帰る」

 そのまま彼女は、ぷりぷりと背を向けると、通りのほうへ行ってしまった。

 ため息がでてきた。

 どうして会話は疲れるんだろう。しゃべらないで気持ちが伝われば、どんなに便利か。

 夏だというのに、部屋は冷えかえっていた。

 エアコンを消し忘れていたようだ。

 冷蔵庫からビールをとりだすと、いらだちを静めるように一気にあおった。

 そのままベッドに寝そべる。

 目を閉じると、まぶたの裏の血管が脈打つのがわかった。やはり疲れているらしい。

 そして眠った。

 夢を見た。


       *


 思い出せるのは曖昧な笑顔だった。

(そんなものね……)

 西の空がくもって鈍色の野原になる。うめくような遠雷を聞きながら抱きあっていた。

(この次も……)

(次の年もここで)

(あなたと、)

 いつか聞いた気がした。不器用なくちびるから、その声を思い出すほど彼女に会いたい。

(……冬の終わりだけを)

(見ていようね……)

 言ったあとで泣きくずれるのを、ただ抱きしめた。そのまま離したくはなかった。消えてしまわぬように、きつく、いつまでも。

(そんなものね)

 耳許で消えない残り香のように揺れた。

 すべてが夢。ありとあらゆる虚像が悩ませる。

 激しくもだえる少女。全裸でまたぎ、あえぐアオリ。高く呼び、何度も何度も求めてはうすれる。

(そんなものね)

 部屋にひとり。誰もいない部屋にひとりきり。眠ったまま動かないアオリ。横たわり、目覚めることはない。冷たい肌。紫色のくちびるは、不意に震えだす。

(どこへ行ってたの? ここにいてね)

 不安に足りない音。くり返しささやいた音だけが、この部屋に。いつまでも、この部屋に。

 あーん、あーん……

 闇のなかに子どもの泣き声。

 赤ん坊の叫び。

 あーん、あーん……

 あーん、あーん……

 あーん、あーん……

 すべてが夢だった。ゆがんだ幻だった。

 泣いているのはアオリだった。

 カマキリが一匹。カマキリの体にアオリの顔がついている。

 ひずんだ偽り。

(そんなものね)

 不意に押しつぶされた。

 アオリの腹から津野があふれだした。

 それを見ていた三島さんが、声をあげて笑った。つられてオオヒラヨウコも笑った。タヌキとヘビがつぶれたカエルを笑った。カマキリも笑っていた。

 すべてが夢だった。

 ――夢?

 夢だろうか。

 これはユメだろうか。ひどい悪夢だ。まだ覚めない。いつ覚めるの。まだ覚めない。覚めたい夢。いつまでもいつまでも続いている。

 あーん、あーん……

 あーん、あーん……

 あーん、あーん……

 あーん、あーん……

 あーん、あーん……

 あーん、あーん……

 あーん、あーん……

 あーん、あーん……

 あーん、あーん……

 あーん、あ

 途切れ、それきりすべてが途絶えた。

 なにもかも。

(そんなものね)

 笑った気がした。



     六


 この町は比較的、海に近い。

 すると必然的に、デートスポットや観光施設は海岸沿いに集中する。風が強いだけがとりえの埠頭、どっぷり砂のかぶった遊歩道完備の海浜公園、夜になると不気味にライトアップされる展望台、にごった空気が沈滞する古い水族館など。

 しかし、肝心の海は海水浴場にも指定されていない。時々退屈そうな釣り人を見かけるが、ほとんどさびれていてあまり人が寄りつかない。

 波打ち際や砂浜には流木や、ゴミがあふれている。異国のシールの貼られた発泡スチロールやプラスチック容器などが目につくなか、片方だけのサンダルや壊れたブイなど、まれに鳥の死骸もあった。

 すぐ近くに工業港があった。

 いつも停泊している錆びついたタンカー。なにが入っているのか、始終閉ざされた巨大な古びた倉庫群。ずっと投げだされたままなのではないかと思われる、朽ちたコンテナとパレットが散乱している。なんの機械なのか知らないが、高い鉄柱はペンキの剥げたクレーンを釣ったまま風に揺れている。眠たそうなカモメたちはそこで羽を休め、昼のおだやかな波をながめていた。

 海に向かってその埠頭は伸びていた。

 それは絞首台に続く道のようだった。

 水平線を見すえたまま歩きだす。

 なにかが手招いている。その向こうは天国だ。

 歩いている。

 まっすぐ。

 自信があった。

 曲がっていない。

 歩いている。

 まっすぐ。

 向かおうとしている。

 望もうとしている。

 しかし。

 ためらう。

 それ以上は進めなかった。

 目のまえには天国。しかし、その手前――わずか数メートル手前に、ひびがあった。コンクリートに亀裂が走っているのだ。横に一直線。きれいに分断して。

 これは――境界だ。

 これ以上行ってはいけない。

 そんな状況を俯瞰している、妙に冷静な人格がいる。

 花束を持っていることを、いまさらのように気づく。わざと忘れたふりをしていたことさえも忘れる。

 花を凝視する。

 ゆっくりと、しだいに人格が帰ってくるのを感じた。

 どれだけの花の名前を知っているだろう。知ってたところで、知らぬこととたいして変わらない気がした。アオリがくれた花も、自分の持っている花も同じだ。名前ぐらい知ったところで意味はない。

 ただ同じなのは、なにかのきっかけにしようとしていることぐらいか。

(――ここは寒い)

 境界線に花束を横たえると、ようやくピントが合った。

 波の色も空の色も、記憶のそれとはもう違って見えた。

 来た道を戻る。一度もふり返らなかった。

 なにを恐れているのだろう。

 少し駆け足で。歩いていた。

 夏なのに、風が冷たい。

 確かめたいことがあった。

 車に乗り込むと、ハンドルを切る。

 すぐに閑静な街並みに戻り、しばらくすると古ぼけた看板が見えてきた。なつかしい感じのする落ち着いたたたずまい。駐車場が見あたらなかったので、寄り添うように車を停めた。

 カウベルはあたたかい音を鳴らした。

 この店はいつも客がいない気がする。やはり店主は同じ格好で同じ位置で、同じようにカップを磨いていた。

 心地良いサックス、エアコンの風、コーヒーの匂い。とても居心地がいい。以前と同じ窓ぎわのテーブル席に着く。ブレンドを注文し、目を閉じる。どうにも里心がついてしまうのは、他人の干渉が少ないせいだろうか。

 ――いや、本当はわかっていた。

 でも、認めたくなかった。

 カオリと暮らしていた部屋がある。あの海にも近い、この街に。

「お待たせいたしました、オリジナルブレンドです」

 静かにカップが置かれる。

「ここ、最近できたばかりですよね」

 香ばしさを楽しむように、しばらくカップを見つめる。

「……そうですね。去年になりますか」

 店主の声は低いがよく通る。

「向こうのほうに、赤い屋根のハイツがあったんですけど、知りませんか。表の、そこの角を曲がってすぐなんですけど」

 やっぱりサングラスの表情は読めない。

「さあ。少なくともわたしが来たときには――なかったように思います」

 軽く一礼して、彼は元の位置に戻っていった。

 人恋しくて続けた。無視してくれても構わない。

「三年前の冬、この先の――なんていう港でしたっけ――で、女性が亡くなったのをご存じですか」

「いいえ」

 わずかに顔をあげ、遠くで彼が答えた、

「もともとこっちの人間ではありませんので。――自殺ですか」

「さあ」

 熱いカップを両手でおおいながら、小さく首を振った。

「わかりません」

 手のひらがじんじんとしびれた。

「雪の夜――クリスマスイブでした。車が海に突っ込んだんです。遺書はなかったそうです。飲酒運転だったとか」

「どうして冬に海なんて行くんでしょうね」

「……さあ」

 首が折れ曲がった。

(好きよ)

 幻聴だ。

 なにもかも、ありはしない。

 店主はわずかに口許をゆがめ、寒かったでしょうねとつぶやいた。


       *


 その建物は、見る影もなく立ち尽くしていた。

 剥き出しのコンクリート、窓にはどれもガラスがなく、うつろな暗がりをのぞかせていた。

 ――三階の……左から四番目。

 それは過去の亡骸だった。すべては退廃。すでに見えない。

 皮肉なことに、現代がそれを飾る。それを冒涜ととるのは、心のせまさだろうか。無味乾燥とした壁を彩るのは、新世代のスプレーペインティングの華やかなアーティスティック。あいにくそれに理解はない。

 ここには数ヵ月の思い出しかないというのに、それ以上の思いが眠っている。

 幻だけが脳裏に映っていた。匂いも感触も、色さえもなくなってしまった思い出として。

 それでいいと思う。

 花を一輪、手向けたいと思った。あの人が好きだった、白い小さな花を。

 人間だけだ。死者を悼み、とりすがり、飾ろうとするのは。そうして自分を慰める。死んだ者によって癒されようとしている。死んでしまっては、なにもできないのに。人間はどこまで他人まかせなのだろう。

 ふと、口についた音をつぶやいていた。

 自分でもわからない。言葉であったか名前であったか、悲鳴であったか。

 まるで、なにかに操られるかのように、自分の意志とは無関係に足が建物に向かおうとする。それを望んでいることに気づくが、止める気はなかった。

 突然、背後から声がぶつかってきた。無粋で野太い。

 我に返る。ふり向くと、四人の男がこちらをにらんでいた。一見して柄の悪い、道化師さながらの配色とコーディネート。アオリのほうがよほどセンスを感じられる。

「おい、なんかようか」

 凄んでいるつもりなのだろう。言葉にトゲがある。

 どうやらこの廃ビルに、許可なくたむろしている連中らしい。彼らにしてみれば、闖入者をとがめているといったつもりなのだろう。どう見たって粋がった高校生に見える。

「うるさいな。あっちで遊んでな」

 わざと侮蔑を込めて、手を振ってやる。このなかに、ひとの思い出を蹂躙してくれた画伯がいるのかもしれない。

 一番太っていて単細胞そうなやつが、挑発にのって拳を振りかざしてきた。中指にごつい指輪をはめている。右にながす。

「邪魔するな。機嫌が悪い」

 暗い顔をした十九歳に言われた学生たちは、なにかをわめきながら一斉に飛びかかってきた。

 右、左、上下。アオリのビンタのほうがよっぽど効く。

 頭、顔、胸、腹、腕、脚。忘れかけていた感覚がよみがえる。

 ひとりはノした。

 鈍ってないじゃないか。うれしくなる。

 取り押さえられる。

 応酬。弱い、弱い。笑っている自分が気味悪い。

 土ぼこりを胸いっぱいに吸い込んだ。むせる。体中が痛い。うめく。息ができない。

 弱い、弱い。

 新たな人の気配。

 しかし、意識が遠退きかける。

「坊やたちさぁ、シルバーのメリケンサックって知ってる?」

 やや高めの、聞きおぼえのある声。

「新しいアクセって感じでいいと思わん? しかも護身用にもなるんで、実用性もある。でも、やっぱ買えない。ツライとこだねえ。ほしいけど買えない。だって、カネがない。これもツライ。しかも、どこに売られているかも知らない。これまたツライ。これが連立方程式……ってやつかな?」

「ざけんなよおっさん!」

 いらだっているようだった。

「おっさん……! くーっ、まさかとうとうそんなことを言われるとは! まだ現役二十代なのに、おっさんとは!」

「うっせえよ。ひとりでなんだよ。こいつみてえな目に遭いたくなかったら、さっさと消えろよ」

「口のききかたに気をつけろよ、坊やたち。大人は財力があるんだ。シルバーのサックは買えなくても、鉄のはしっかり通販で買えたりするんだぜ、知ってたか? メイドインUSAメリケン

 どよめき。

「や、やんのかよ……オイ」

「本当は嫌いなんだよ、いや、暴力。や、本当だって。でも、いまものすごーく虫の居どころが悪い。だから、今回は特別大サービス。いい言葉があるだろう、出血大サービス。うん、けがしてもそっちの責任でひとつ。悪いね、無責任がウリなもんでさ」

 ――その言葉を最後に、少しだけ気を失っていたらしい。

 視界がぼやけている。立ち上がることができない。

 誰かがズボンのほこりを払って、立ち去ろうとしているところだった。下手くそな鼻歌をうたっている。

 それだけが、やけにはっきりと見えた。

 中肉中背、軽くパーマのかかった金髪。鮮やかなオレンジ色のアロハシャツ。ジーンズのシルエットがカッコ悪い。後ろポケットに北斗七星の刺繍があった。


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