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第5話 ミカル・アスファエル

俺は少し早めに起きてしまったようだ。綾はすやすやと気持ち良さそうに眠っている。

「…綾」

俺たちはこれからどうしようか。とりあえずお金の稼ぎ所を探さないことには何も始まらない。

「んんっ……リョーガ…どうして?」

綾は寝言を言っているようだ。なんの夢を見てるのだろうか。

「いやだよ…どうして行っちゃうの…?」

寝言にしては少しハッキリしている。

「綾…?」

「リョーガぁ!」

だんだん声が大きくなっていく。

「おい、綾!大丈夫か?」

俺は身体を揺すって綾を起こした。綾は起きると俺の顔を見て安心したような表情をする。

「え…あ…うん。ごめん」

「どうしたんだ?」

「ううん、何でもないよ?これからすることないし、用意して冒険者ギルド行こっ?」

冒険者ギルド…?

「冒険者ギルドってなんだ?」

「えっ…?あ、うん。冒険者ギルドっていうのは、冒険者の為に正規の依頼を集めてる集団のこと……」

冒険者ギルドについて悠々と説明しだす綾の説明を遮って俺は言う。

「そうじゃなくて、なんで綾がそれを知ってるんだ?」

「そ、それは……」

綾は俺と目線を外す。俺は綾を押し倒してもう一度聞いた。

「本当のことを言ってくれ。綾、なんでそれを知ってるんだ?」

「…あ、あの時!リョーガが先に街に行ってからまた会うまでの間に――」

「綾…」

綾の焦りが見て取れた。一向に目を合わせてくれない。

「ほ、本当だよ?」

「綾…もういいんだ。本当の訳を話してほしい」

俺がそう言うと、綾はついに諦めて本当のことを言った。

「私…本当は貴方の世界の綾じゃないの」

「…お、お前」

俺は少しめまいがした。

「聞いて?私には一年前に結婚まで約束した冒険者の彼氏がいたの。その彼にある日、クロサギスの王を倒す命令が入ったの。もちろん、拒んでも良かった。けど、彼は正義感強く、街が危険に晒されると知ったら私なんか放ったらかして真っ先に走って行った。クロサギスの王に勝てるはずが無かったの。帰って来たのは彼の遺品だけ。

だから、私…侵入禁止A地区に異世界の入り口を探してたの。異世界に行けば、何かヒントがあるんじゃないかって。そしたら本当に見つけたの。入り口を。だけど、A地区の警備員に見つかって追いかけられてた。そんな時、貴方が現れたの」

「…俺が?」

「そう、私は初めて神様という存在を信じた。だって、貴方は私の彼にそっくりだったんだもん…」

なるほど、それでずっと嘘をついてた訳か…

「…残念だけど、やっぱり俺たちは別々に行動した方が良いのかもしれない」

「えっ…」

俺は綾から離れて立ち上がり、支度の準備をする。

「待って…?」

「ここの宿泊費はあと一日分余計に払っておくよ。とりあえずはここに泊まればいい」

「ねぇ…」

綾がなにか言うのを無視して話を続け、支度をすませる。

「何か困ったらトルネ爺さんにでも訪ねたらいいよ」

「リョーガ…」

俺はその言葉にピタッと動きを止めた。

「その名前で、呼ばないでくれ」

「…そんなの……そんなの、やだよ!」

俺がドアノブに手を掛けた時、綾が後ろから抱きついてきた。

「行かないで!リョーガぁ!二回も私の側からいなくならないでよぉ!」

「……俺はお前の世界の遼河じゃないし、お前も俺の世界の綾じゃない。お前の世界の遼河は、もういないんだよ」

俺は綾の抱きついてきた手を外す。

「貴方は、どうするの…?」

「……俺は、取り敢えずそのギルドに行く」

俺はドアを開け、部屋から出て行った。部屋からは泣き声が聞こえて辛かった。しかし、俺はその心を押し殺した。





「おはようございます。朝早くからお勤めご苦労様です。ご用件はなんでしょう?」

あれから数分後、俺はホテル代を払って冒険者ギルドに到着していた。もちろん、金を手に入れるためだ。因みに、ホテル代は基本60ガメだそうだ。1ラテでガメの1000000倍だそうで、捜し物の依頼でこれだけの量を貰うのは珍しいことだそうだ。

「ここに来れば仕事がもらえると聞いてきたのですが」

「あ……」

受け付けの女の人が顔を上げて俺と目が合うと、言葉を失った。

「あの、どうかしま――」

「リョーガさん!!」

その女の人は、机を乗り越えて俺に抱きついてきた。

「え?ちょっと、まっ――」

「皆さん!リョーガさんが!リョーガさんが帰ってきました!!」

その女の人は、俺から離れると辺りの人たちに大声で叫んだ。すると、辺りの人たちはそれを聞きつけ俺の周りに集まってくる。

「リョーガが帰って来ただって?」「ほんとか?」

そんな声があちこちに飛び交う。

そんな中で、年配の男が一人飛び出して俺の顔を見ると、目を丸くした。

「本当じゃねーか、リョーガだ。よく生きてたな!」

「違いますって、俺はリョーガじゃ――」

それを言い切る前にその年配男が俺の肩に手を回す。

「皆ぁ!ワシはリョーガに大事な用事があるから、宴はそのあとだぁ!」

年配男のかけ声で、周りの人たちも大声をあげる。まるで甲子園にでも来たかのようだ。俺はそのまま成り行きというやつで、一つの部屋へと連れてこられた。

「あの、言いづらいんですけど…」

「ああ、知っとるよ。お前さんはこの世界のリョーガじゃないんだろぃ?」

なんだ、知っていたのか。なんなら話が早い。なぜ知ってるかなんてのは今の俺には関係ない。

「俺がそのリョーガじゃないことを説明してもらえますか?」

俺がため息をついて、その男に言うと、その男は不敵に笑みを見せる。

「本当に良いのか?」

「は?」

「この世界のリョーガは、Qランクの勇者。Qランクってのはこの世界における最高峰の地位と名誉だ。舞い込んでくる仕事の質も違う。まず、お金に困ることなんてないぞぉ?」

なんだ?この年配は俺に交渉でもしているのか?

「そんなの要りません。俺はただ、あるものを探しているだけですから」

俺は立ち上がって部屋から出ようとする。

「なら、お前さんはここで死んでもらうとするかぁ…?」

年配男の居る背後からゾッとするものを感じた。

「ま、まさか、俺を脅してるんじゃないでしょうね?」

俺の足の震えが止まらない。手で抑えても、中々止まらない。

「ああ、そうだ。お前さんがリョーガで居てくれれば、仲間達はまたあの頃の活気良い状態に戻るんだからなぁ。それに、これはワシからの頼みでもあるんだ。頼む、少しだけでいいからリョーガで居てくれないかぁ…?」

振り返ると、年配男はその薄っすらとしたつむじを俺に見せていた。

「わかりました。少しだけですからね」

俺の判断は正しいと思う。いや、最早チャンスなのかもしれない。勇者という肩書きに惚れたのも嘘ではないが金に困らないのが一番良い。それに勇者ともあればたくさん情報は入ってくるはずだ。

俺がその後、ギルドマスターとかいうよくありきたりな称号を持った年配の男からギルドカードというポイントカードらしき物を受け取って部屋を出た。

「リョーガさーーん!!」

先ほどの女の人が駆け寄って来た。

「うわっ、臭っ!酒か?」

「うふふぅー…リョーガさんが遅いからぁ?先に呑んじゃいましたよぉー」

どこぞのサラリーマンなのかは知らないが、かなり酒臭い。それにかなりしつこく絡んでくる。

「あしたぁー、サミスガリでも狩りにいきまへんかぁー?ヒック…」

「あー、もう、わかった、わかったから」

本当にしつこい。酒癖が悪いとはこのことか。

「やったー!約束…ヒック…しましたからねぇー?」

「あ、こら!寝るな、起きろー!」

ダメだ、完全に寝てしまった。なんて酒癖の悪いやつだ。周りは俺が帰ってきたということでかなり盛り上がっている。誰がメインにやっているのかわからない。いや、逆に俺がメインにされてもそれはそれで困る。









―――それからしばらくして、宴は終わり、俺とその女の人だけになった。

「おーい、大丈夫かー?」

俺は周りにつられてこの世界の酒を呑んだが、味がかなり薄く、どんだけ呑んでも酔わなかった。酔う気がまったくしない。

「どうしようか…」

俺が困り果てている時に、1人の女が姿を現す。

「…どうしたの?なんで?」

それはこの世界の綾だった。

「ギルドマスターに脅されてリョーガを演じろだとさ」

「そう、なの…」

「この子、どうしたらいいんだ?」

「はい、これヨイの実。これ飲ませてあげて」

そうして手渡されたのが、毒々しい赤色のキノコそのものだった。

(だ、大丈夫なのか、これ…)

「大丈夫だから」

「……そういえば、前から思ってたんだが、綾はなんで俺の心がわかるんだ?」

「そ、それは…相手の心がわかる能力を持ってるから」

(つまり、相手の心を見透かすということか…)

「そういうこと」

「…なるほど、わかった。で、この実はどうやって飲ますんだ?」

辺りに水がないし、あるのは酒だけ。酒と一緒に呑むのはダメだろう。

「口移し」

「ばっ、何言ってんだよ!」

綾は不敵に笑いながら

「なんで怒ってるの?この世界じゃあ当たり前だよ?」

「い、いや、でもなぁー!」

「ふふ…嘘だよ。流石に男の人が女の人に口移しなんてしないよ?あ、それと、その女の人はミカル・アスファエルって言うの。ミカって言うと喜ぶよ」

そういうと綾は俺からヨイの実を取ってそれを実演してみせた。すると、すぐさまミカルは起き上がる。

「あれ?まさか私、またお酒を呑んでしまったのですか?」

「…気付いてないのか?」

「私、お酒には弱くて、一口呑んだらもうベロベロです」

その女は胸をはってドヤと言わんばかりに俺を見る。

「いや、自慢になってないぞ」

そうなるの知ってて酒を呑んだことは称えたいが。

「それはそうと…」

いきなりモジモジと身体をよじる。

「ん?」

「あの…この味は…その、ヨイの実…ですよね?」

「確か、そうだけど?」

「ということは、く、口移し…」

「あ、それは俺じゃなくて綾が…ってあれ?綾?」

ミカルの顔がだんだん赤くなる。

(確か…ミカだったよな)

「そうじゃないんだ、ミカ。俺じゃなくて――」

「い!今、ミカって…!…ふへぇ…」

「あ、おい!大丈夫か!おい!」








「とりあえず運んだわ良いけどだな…」

あのあと、気を失ったミカを運んで街の端っこの小さなホテルに泊まった。わざわざ街の端っこのホテルに泊まったのにも訳があって、街の端っこの方が何時でも簡単に街が出れたり、たくさんメリットがある。

ホテルの主人には変な目で見られたが気にしない気にしない。

「どうしよう…」

このまま置いて行くのも良いが、この辺りがベストな宿泊場所で、ここいら周辺ではこのホテル以外無い。

「なんで俺…ダブルって言っちゃったかなぁ…」

ダブルと言えば、当然ベッドは一つであり、ツインと言えば二つである。

(下で寝るか…)

流石に一緒に寝るわけにはいかない。幸い、掛け布団は二枚あったので、一枚を俺は取って、床で寝ることにした。





これまで読んでいただき、ありがとうございます!

これからも書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

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