第2話 地球消滅、その先へ
地球消滅の日まで残り三日と差し迫った。残り一週間となった時に、世界中の混乱は静まった。幾ら騒いだところで何も変わらないのだと気付いたからだ。
犯罪も無くなった。する必要がないからだ。誰かを憎むことも、お金に困ることも、生活が苦しいことも。何もかも必要のないことで、起こらないことだったからだ。
警察に捕まっていた囚人たちも解放され、人間としての自由な生活をおくっている。
朝から夜まで、夜から朝まで一日中、街が静かになることは無かった。
必要のないものは全て消えて行った。お金も、法律も、人を縛るものは何もかも消えた。
地球が消滅される目前で、世界は平和になったのだ。誰も何かに縛られることも無くなり、殺し合いや無意味な紛争も無くなり、差別や貧富の差も、無くなった。
本当の平和というものが実現したのだ。
カップルはみんな、愛し合い、最後の日まで愛を深めていた。
そんな中で、俺たちだけは違った。俺たちは今日の今日まで、関係がギクシャクしていた。消滅まであと三日だというのに。逆にそんな時だからこそ、俺たちはどのように接して愛し合えばいいかわからなかった。
すぐ近くに、目の前に、愛しくてどうしようもない相手が居るのに。会話も少なくなった。喋ると何故か心臓が痛んだからだ。それはきっと、綾も同じだ。
そうこうしているうち、あと二日になった。
「綾…」
俺は意を決して綾に向き合うことにした。
「…なに?」
「来て欲しい…」
交わした言葉は少なかった。だけど、今の俺たちにはそれだけで充分だった。俺は綾の手を引っ張り、あの山へと登った。
目的のところに到着した時、綾は涙をこぼした。
「ほんと、だったの…?」
綾はそれを見たあと、俺に向き直る。
「ああ、ほんとなんだ」
最初からこうしておけば良かったのだ。そうしておけば、今日までもっと楽しく過ごせたのかもしれない。でも、これからはずっと楽しく過ごせる。
俺たちは思わず抱き締めあった。
そして地球が消滅する日。
一つのテレビ回線がついた。テレビ局はもうなくなっていたのだが、最後の日は回線をまわしたようだ。
私達、人類は太陽系で、いや、銀河系で一番の科学力を誇り、発展させていきました。これは誇りに思ってもいいことでしょう。最後に、人類は消滅しても、また、あの世で素晴らしい国や科学技術をつくり、発展しようじゃありませんか!
ありがとうございました。
このご時世にあの世という言葉は中々聞かなかった。
このアナウンスが流れたあと、科学者の計算通り、地球の大地が綻び始めた。大地は盛り上がり、吸い寄せられるように家は空中へと浮いて行く。叫びを上げる者はいなかった。
「綾、行こう!」
「うん!」
俺たちは、消滅していく地球に背を向け、時空の狭間に身を投げた。