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万魔殿攻略記  作者: 縞白
WAR FLOOR
50/51

二つのギルドハウス





 ギルド『万魔殿踏破軍』のハウスでマスターの居場所を訊ねたハートレスは、扉を開けた青年が凍りついたように固まって動かないので、もう一度言った。


「破軍のギルマスはどこですか?」


 やや言葉を省略したが、現在地点である地下45階タウンまで到達しているプレイヤーなら通じるはずだ。

 しかし彼は彼女の大剣とその背後にいる男たちを見てゴクリとつばを飲み込み、やはり答えを返さない。


 ハートレスはなぜ彼が黙ったままでいるのかわからず、不思議に思ったが。

 地下50階のモンスター軍との大戦のため、ギルド『紅の旅団』メンバーはほとんどの装備を今作製できる中で最高レベルのものにしている上、以前から戦闘狂集団として名を知られている。

 いきなりギルドハウスをたずねてきた女戦士がそんなギルドのマスターであると名乗り、背後にメンバーらしき男達を率いているという状況では、平然と対応できるものなどほとんどいないだろう。



 一方、その背後では、二人の男によってとある無言の会話が交わされていた。


 オズウェルがくいっと顎をしゃくって破軍のギルドハウスを指し、何かを問いかけるような視線をフェイに向ける。

 言葉のないその質問を、しかしすぐに理解したフェイは大変いい笑顔を浮かべ、右手の親指をぐいっと立てて見せる。


 なぜかそれで納得したオズウェルはかすかに唇の端を持ち上げて笑み、誰にも気づかれないくらい、ほんのわずかに姿勢を変えた。

 何が起きてもすぐ動けるように……



「戦う気はないです」


 そんなオズウェルとフェイの前では、相変わらず硬直したままの青年に、どうやら警戒されているらしいと考えたハートレスがそう言いながら装備を変えていた。

 ぱちん、と指を鳴らしてクラスをサブの魔獣使いに変更したのだ。


 現在最高性能の武器防具を装備した女戦士から一転して、彼女は豪奢な真紅のチャイナドレスをまとった魔獣使いとなる。

 絹のような光沢のすべる真紅の布地に、金糸や銀糸で天空を泳ぐ龍の刺繍がほどこされたそのチャイナドレスは襟(えり)が高く、裾(すそ)も足首をおおうほど長く慎み深くハートレスの体をつつんでいたが、ただひとつ、右下に足の付け根近くまで届きそうなほど大胆なスリットが入っていた。

 それは動きにくい服を嫌う彼女の要望を取り入れた制作者の工夫だったのだが、わずかな動きで右足がむき出しになってしまうため、他のドレスより動きやすいかわりに意外と露出度が高い、という結果になっている。


 そんなドレスを着てさらに赤い長手袋をはめ、その手にド派手な金色の鞭を持って片時も外さない仮面を装着しているハートレスの格好は、先とはまた別の意味でドン引きされそうなものだが。

 彼女の前でずっと硬直していた青年は、その姿を見て初めて声をあげた。


「うわっ、すごっ! ……って、あれ? あの写真のドレスじゃ、ない……?」


 あの写真? と首を傾げたハートレスに代わり、彼女の後ろからフェイが答えた。


「お前さんが見たのは一着目だ」


 ちなみに今彼女が着ているものは、旅団メンバーから通称“ドレス職人”と呼ばれている制作者の傑作第四号である。

 しかしそこまで教えてやる気のないフェイは、片手に持った槍で肩をトントンと叩きながら、不機嫌そうな薄笑いで訊ねた。


「その写真、いま持ってんのか?」

「も、持ってない、ですっ」


 本能的に危険を察知したのか、相手はあわてて否定した。

 続きに「じゃあどこで見たんだ?」と訊かれると、以前にオークションで写真を買った知り合いが周囲に見せびらかしていた時、たまたま目にしたのだと答える。


「ふぅん……。ならソイツに写真売った奴と連絡取るよう言っといてくれや。しばらく前から買い戻しキャンペーンやってんだ」


 頼むぜ、と軽い口調で言うフェイに、彼は震えるように小刻みに頷く。

 二人の会話はそれで終わったようだったので、ハートレスはその写真とか買い戻しキャンペーンとかいうのは何なのか、フェイに訊ねようとしたが。


「どうした? 客か?」


 ふいに奥から低い声が響くと、扉を半開きにしたまま意図せず立ちふさがっていた青年が、慌てて横にどいた。

 それと同時に『万魔殿踏破軍』ギルドハウスの扉がようやく完全に開かれ、『紅の旅団』のそれよりも広々としたエントランスが現れる。


 あちこちを拡張して細かいところまで手を入れているらしく、白を基調に青の装飾がほどこされた破軍のギルドハウスは、大規模ギルドにふさわしい清潔感と威圧感があった。

 とりあえず建てた後は必要な機能をいくつか追加しただけで、外観も内装もずっと初期の無骨なハウスのまま、そのあたりのことは誰にも気にせず放置している『紅の旅団』とは大きな違いだ。


 しかしあいにくと、その程度の威圧感でひるむような可愛らしい神経の持ち合わせなど無かったので、ハートレスはエントランスの奥の通路からこちらへ歩いてくる男に、先と同じことをもう一度言った。


「私は『紅の旅団』のギルドマスター、ハートレス。破軍のギルドマスターに会いにきました。彼はどこにいますか?」

「へぇ、あんたが旅団のギルマスか。噂にゃ聞いてたが、本当に……。いや、まぁ、そんなこたぁどうでもいいな。おれは『万魔殿踏破軍』のサブマスター、バロックだ」


 今度はようやくまともな答えが返る。

 言葉の途中でしげしげとハートレスの体を見たので、彼女の背後からは一瞬鋭い殺気が飛んだが。

 ハートレス自身はよくあることなので気にもせず、ザックが山賊のお頭なら、バロックは海賊のお頭みたいな顔だ、と思った。


「こんなところで立ち話するのもなんだ。入ってくれ、茶ぐらい出すぞ」


 ぼさぼさの黒髪にむさくるしい無精ひげ、どんぐり眼に低い鼻、大きな口をした大柄な彼はおせじにも良い人そうには見えなかったが、顔全部で笑うようなその笑顔には奇妙な愛嬌がある。

 ただ彼の顔や愛嬌の問題ではなく、別の理由からハートレスは首を横に振った。


「立ち話でいいです。破軍のギルマスはどこですか?」

「あいつは今、上の階のハウスに行ってんだ。それで帰還コマンド使っちまってるから、すぐには戻ってこられねぇ。でもまぁ、心配しなさんな。サブマスのおれがしっかり話聞くからよ」


 だから奥で話をしよう、と再度促すバロックに、ギルマスと話をつける予定だったハートレスは迷った。

 出直すのは面倒だが、サブマスに話して決着をつけられるものだろうか?


 数秒考えた結果、自分一人ではよく分からないと判断した彼女は、後ろを振り向いてオズウェルとフェイへ問いかけるように首を傾げた。

 すると彼らは遊びに行く前の子どものような、じつにいい笑顔でそれぞれ頷いてみせる。

 これは「良し」の合図だろう、と解釈した彼女は、なぜこの二人はめったにないくらいの笑顔をしているのか、不思議に思いつつ返答を待っているバロックに向き直った。


「おじゃまします」


 ときどき妙なところで躾の良さを感じさせるハートレスが言い、彼女が奥へ進むのにさりげなく自分の装備へマントを追加していたオズウェルがぴたりと右隣についた。

 他のドレスよりいくらか動きやすいのをいいことに、何の考慮もなくいつもと同じ歩調ですたすた歩いていってしまうギルドマスターの、いささか深すぎるスリットからのぞくきれいな右足の白い肌をできるかぎり衆目にさらすまいと、半歩遅れてついていきながら彼は動く壁となる。


 やれやれ、涙ぐましいねぇ。レスはまったく気づいちゃいねぇってのに、と心の内で苦笑しながら、フェイはハートレスの左隣を歩く。

 そして二人のパーティメンバーたちがぞろぞろと続き、全員が奥へ進むと、彼らの背後で『万魔殿踏破軍』ギルドハウスの扉がバタンと閉じられた。





 ◆×◆×◆×◆





 一方、ギルド『紅の旅団』のハウスでは、フェイの一言でおつかいに出されたエディが、同じタイミングで走り出したリドを大きく引き離して蹴破るようにその扉を開いていた。

 “俊敏”極振りの恩恵で足が速く、また呼吸を乱すことなくここまで走りきった彼は、すうっと息を吸うと大声で叫ぶ。


「シウさんどこっすかーっ?!」


 その大声に、近くにいたメンバーが「何事だ?」とエントランスに顔を出し、いつもハートレスのすぐそばにいるエディが一人で戻ってきたことを不思議に思って首を傾げる。

 エディはそんな彼らを捕まえて「シウさんはっ?」と訊ね、つい先ほど客が来たので談話室でその対応をしている、という答えを得ると、またすごい速さで走っていき。


「シウさんマスターが破軍とタイヘンっす!!」


 談話室の扉を開くなりそう叫んで、シウの返事を待った。


「……誰ですか、あなたみたいな伝令失格を寄越(よこ)したのは」


 神官サブマスターは面倒くさそうな顔をしたが、まるで説明になっていないエディの言葉にそれでも緊迫したものを感じ取って、眼鏡の奥で不機嫌に目を細めた。

 彼の隣に座っていたザックや、来客である『兎のお茶会』ギルドマスターのアリスとサブマスターのモニカ、『一角獣騎士団(ユニコーン・ナイツ)』ギルドマスターのジークフリートも、それまでの話をやめていっせいにエディを見る。


「エディ、まず落ち着きなさい。それができたら何が起きたのか、最初から話してください」


 シウがエディに指示を出す。

 何があったのかは不明だが、旅団のギルマスであるハートレスに関わる事件が起きているようだと察して、いきなり会話を打ち切られたアリス達も口をつぐんで聞く体勢になった。

 そこへ、ようやく追いついてきたリドが肩で息をしながら入ってきたので、エディは彼と協力して二人で事情を説明。


 事の発端となった食事中の襲撃について、『一角獣騎士団』のジークフリートが「いきなり攻撃してくるとは、なんと卑怯な!」と芝居がかったしぐさで憤(いきどお)り。

 ハートレスが動くまでもなく親衛隊が返り討ちにしたところで、『兎のお茶会』のモニカが「旅団の武勇伝がどんどん増えるわね」と苦笑し。

 突然現れた『グルメマニアクス』のユキヒコのおかげで牢屋行きをまぬがれると、ザックが「そんな裏技があったとはなぁ」と感心し。

 ハートレスがエディに指示して襲撃者の名前を押さえたことに、『兎のお茶会』のアリスが「さすがレス。大事なところは逃さないわね」と微笑み。


 最後にハートレスが『万魔殿踏破軍』のギルドハウスに向かったというところで、それまで無言で話を聞いていたシウが血相を変えた。


「どちらですか! レスはどちらのハウスへ向かってるんです?!」

「ど、どっちって? どういう意味っすか?」


 その剣幕に思わず逃げ腰になりながら、エディが聞き返す。

 彼の隣のリドも質問の意味を理解していないらしいと察して、眉間にしわを寄せたシウは息をついてなんとか自分を落ち着かせると、険しい表情で説明した。


「破軍は万魔殿の中でも最大規模のギルドだ、というのはあなた達でも知っているでしょう。そのせいでひとつのハウスだけでは全員を収容できないので、彼らはいくつかのタウンやシティに分散して複数建てているんですよ。そしてここ45階タウンにあるハウスの数は、二つ。噂ではそれぞれ穏健派と武闘派に分かれているとか」


 その説明を「へぇ、そうなんだ」という顔で聞いているエディとリド。

 シウは疲労感に襲われ、思わず深いため息をこぼした。


 この二人は何も分かっていない。


 事の始めにハートレスを襲ったプレイヤーは、聞かれもしないのに自分達は破軍のギルドメンバーだと名乗ったという。

 それはつまり、彼らがハートレスを襲うことを「誰に知られてもかまわない」と思っていたからで、おそらく所属するギルドのトップか幹部が了承済みだったか、あるいはそのあたりからの命令を受けての行動だったためだろう。

 常識的に見て穏健派がすることではないから、実際に襲ったのも許可か命令を出したのも、武闘派のギルドメンバーだと推測できる。


 だから今、このタイミングでハートレス達が破軍のギルドハウスへ行ったというなら、どちらへ行ったのかが最も重要な問題点なのだが。


 エディとリドの反応を見るに、地下45階タウンには破軍ギルドハウスが二つあり、穏健派と武闘派に分かれているということを、おそらくハートレスも知らないだろう。

 パーティの中でもこの二人はシウやザックよりハートレスのそば近くにいることが多いため、何を知っていて何を知らないかという点でも彼女と近い。


「そもそも、レスは破軍のギルドハウスの場所を知っているんですか?」


 他のギルドがどこにハウスを建てているのかなど、彼女が興味を持つようなことではない。

 シウの当然の疑問に、エディが「それなら」と答えた。


「フェイさんが案内を」

「ザック、緊急召集」


 みなまで聞かずとも、シウは現状を正しく理解して最優先指示を出した。

 隣で話を聞いていたザックも同じ結論に達していたので、何を聞き返すこともなく「おう」と頷き、異変を感じて戸口に集まってきていたギルドメンバー達へ声をかける。


「レスがオズとフェイ連れて破軍に殴り込んだみてぇだ。今から俺たちも行くから、動けるヤツには全員声をかけてくれ」


 私たちはどうしようか、と無言で顔を見合わせたアリスとモニカの前で、エディが目を丸くして言った。


「えっ?! マスターは向こうのギルマスと話をするって」

「それならフェイに案内させたのは間違いでしたね。ええ、大きな間違いですよ。まったく、ほんのすこし目を離しただけでなぜそんな、自分から坂道を転げ落ちるようなまねをしてくれるのか……!」


 シウの周りで吹き荒れる猛吹雪(ブリザード)が見えた気がして、エディとリドがぶるっと震えた。

 彼らより付き合いが長いザックだけが、慣れた様子で声をかける。


「んなこたぁ帰ってきてから説教してやりゃいいだろ。それより早く行かねぇと、向こうで何しでかすかわかんねぇぞ、あいつら」


 幸か不幸か、破軍の武闘派ギルドハウスへ行ったであろうメンバーは、旅団最強の戦士三名とそのパーティだ。


 ギルドマスター親衛隊の選抜トーナメントで、当のギルドマスターであるにも関わらず参加したあげくに優勝するという、空気読まない旅団第一位の大剣使い“女王”ハートレスと、

 彼女には破れたものの準優勝して親衛隊隊長の座を死守した、旅団第二位の二刀流“女王命”オズウェル、

 そして対戦者全員に深い心の傷(トラウマ)を刻んでおいて「楽しかったなぁ! また遊ぼうぜ!」と笑顔でのたまった、旅団第三位にして“最凶”の槍使いフェイ。


 彼らが強いことは確かである。

 そして、戦闘狂集団の中でもトップ3に立てるほど生粋の戦闘狂であることもまた、確かである。


「……」


 シウはめまいをこらえるように額へ手を当てた。

 しかし、おかしなことに巻き込まれる前に退散しようと、忍び足で談話室からの脱出をはかっていたアリスとモニカのことは見逃さず。


「アリス。あなたには貸しがありましたよね?」

「うっ」


 びくっと肩を震わせて立ち止まったアリスは、そろそろと振り向いて見たシウの目が据わっていることに気づき、ヘビに睨まれたカエルのように硬直した。

 残念ながら脱出は間に合わなかったようである。


 シウ(ヘビ)がゆらりと立ち上がりながら、アリス(カエル)に言う。


「最悪これが原因で破軍とのギルド戦に突入する可能性があります。第三者として状況を見て、可能であれば殺し合いに発展する前に事をおさめる方法を考えてください」

「なっ……! それってわたし達に旅団と破軍の間で板挟みになれってこと? 冗談じゃないわよ! 狂化モンスター侵攻の時の借りについては、今度の大戦に参加することでチャラにするっていう話だったじゃないの」

「その話は無かったことにしてください。これを無事に乗り切らないことには、大戦もなにもあったもんじゃありませんので」

「わからないでもないけど、横暴すぎるわ。というか、そもそも旅団と破軍の間になんて、うちみたいな弱小が立てるわけが」

「何を言っているんですか。『兎のお茶会』は神官や魔法使いを多く擁(よう)し、専属護衛のギルドなんてものまでいる。誰もが認める立派なトップギルドの一つですよ」

「あなたねぇ、こんな時だけおおげさにおだてるなんて」

「とにかくこれから一緒に来ていただきますので、仲間を呼びたければ今のうちにどうぞ」


 開け放たれた扉の向こうのエントランスに続々と完全装備のギルドメンバーが集まってきていることに気づき、シウは抵抗するアリスとの会話を強引に打ち切った。

 白杖を手に談話室を出ていく青年神官の背中へ、がっくりと肩を落としたアリスがうらめしげにつぶやく。


「あなたがギルメンから“鬼畜”って呼ばれてる理由、よくわかったわ……」


 そんな彼女の元には同情の眼差しが数多く寄せられたが、へたに口を出すと自分に飛び火するかもしれないので、誰も何も言いはしない。


 ちなみに背後からのその声はシウの耳にも届いていたが、彼は気にもしなかった。

 そんなことより、今は他にやるべきことがある。


 完全装備で集まっているギルドメンバー達を見渡すと、シウは目的の人物を見つけて声をかけた。


「ダグラス」


 彼は旅団でシウと並ぶサブマスターの地位にあり、後方生産組のリーダーとしてギルド内のトレードを統括するメンバーだ。

 四十代後半と、他のギルメンより比較的年齢が高いことから、何か問題が起きると調停役に駆り出されることが多い。


「シウ。レスが破軍に殴り込んだというのは、本当のことなのか?」


 いつも温和な表情をしている彼が、珍しく眉間にしわを寄せているのを見て、シウが「いえ」と訂正した。


「レスにその自覚は無いようですし、今回は彼女の方が最初に襲われた被害者です。ただ、道案内をしているのがフェイですので。……ザック、ダグラスと一緒に穏健派のハウスへ行って、話の通じる人を捕まえて状況を伝えてください」


 ついでにダグラスへの詳しい経緯説明もしておくよう言われ、ザックは器用に片眉を上げて「いいのか?」と訊く。

 基本的に彼の仕事はシウの護衛だ。それなのに武闘派のハウスへ行くシウと分かれて、穏健派のハウスへ行くダグラスに同行してもいいのか。


「かまいません。あなたは交渉事に慣れているでしょう」

「そりゃあまぁ、交渉(オハナシ)するお前の後ろで相手を睨んでることになら、慣れてるが」


 周囲でその会話を聞いていたギルドメンバー達の間に、(ああ、悪徳高利貸し(シウ)とその用心棒(ザック)か)という納得の沈黙がひろがる。

 そして、そんな空気など読む気も無いシウが「それでいいです」と頷いた。


「穏健派とはいえ、相手は万魔殿で最大規模のギルドですからね。こちらもある程度の構えでいかなければ、ダグラスも交渉しにくいでしょう」


 名前を出されたダグラスは、「よくわからんが」と困惑顔で言いながらも、柔軟に応じた。


「とにかく急ぎであることは了解した。それでは我々は穏健派のハウスへ向かおう」


 ザックがシウのそばから離れ、ダグラスのパーティに合流する。


 シウはその時、ふと思い出してリドをザックとともに行かせることにした。

 彼のメールの履歴には、レス達を最初に襲ってきた連中の名前の一覧がある。

 ダグラスが破軍の穏健派メンバーと話す時、その名前は強力なカードになるはずだ。


 シウの指示に頷いたリドは、武闘派ハウスへ向かう方へ入っているエディに「気をつけてね」と声をかけ、ザックのそばについた。


「さて、これでやるべきことは全部済ませましたかね。……お待たせしました、皆さん」


 エントランスに集まった完全装備のギルドメンバー達の方へと向きなおり、シウが改めて皆に声をかける。

 事がこじれた場合の調停役として押さえたアリスが、モニカやジークフリートとともにちゃんと武闘派ハウス行きの方へ入れられているのを目の端で確認して。


「それではわたし達も、いきなりレスを襲ったとかいう破軍の馬鹿どものところへ殴り込みに行くとしましょう」


 いつの間にか、止めに行くのではなく増援に行くような空気になっている。

 それに疑問を持たないギルドメンバー達が「おう」と野太い声で応じ、シウに続いた。


 その中で巻き込まれるようにして外へと歩き出しながら、いつも冷静なシウの珍しく好戦的なセリフに驚いていたエディは、今さらながら(あっ)と察する。


(マスターが襲われたって聞いて一番キレてるの、たぶん、シウさんだ……)



 ギルドメンバーから“鬼畜”と恐れられる眼鏡の神官サブマスターは、そうして『万魔殿踏破軍』武闘派ギルドハウスを目指し動き出した。





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