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万魔殿攻略記  作者: 縞白
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再会





「ハートレス!」


 背後から名を呼ぶ声が聞こえたので、ハートレスは手にした大剣でオオトカゲを叩き潰すように倒してから振り向いた。


 システム・アナウンスによって『パンデモニウム』がデスゲームと化したと告げられた後、すでに十数体のモンスターを倒して自分の体形がさほど行動を邪魔せず、ただのゲームであった時と同じように攻撃行動(アタック・モーション)アシスト機能がきちんと働いてシロウトを即席の“それなり戦士”にしてくれることを確認していたので、機嫌が良い。

 しかし非社交的な性格であるため、いきなり名を呼ばれたことに強く警戒した。


 地下2階の草原フィールド。

 草原の中にまばらに立ち並ぶ木々の間にある小道の途中で、ハートレスはすこし離れたところに立っている、見覚えのない男二人に答えて訊く。


「誰?」

「うわ、答えた。ってことはお前、本当にレスなのか」


 片手剣と楯、鉄の鎧を装備した長身でゴツい顔の男が、うめくような声で言った。


「レスが女だとは思わなかった。シウ、賭け金の回収は出世払いで頼む」

「出世しそうにない人が何を言ってるんですか。どこかでクエスト受けてさっさと支払ってください」


 シウと呼ばれた小柄で細身なメガネ男は、冷たい口調で答えてハートレスを見る。


「わたしもレスが女性だったというのは予想外ですが。ファントムの仮面を装備して大剣をかついで、デスゲームと言われた直後に階段へ向かって突っ走っていたのを見て、たぶん間違いないだろうと思いました。

 ハートレス、わたしたちを覚えていますか?」


 万魔殿で他のプレイヤーの名前を知る方法は、6種類ある。

 相手に訊いて教えてもらうか、サポートセンターの“パーティ参加希望”に登録したプレイヤーが待合室にいる時にリストを見るか(プレイヤーが待合室から出ると自動的に登録が消える)、パーティを組むか、フレンド登録をするか、盗賊のスキル〈分析〉で相手を見るか、誰かが呼ぶのを聞いて偶然知るかだ。


 しかし今の場合はそのどれでもないようだった。

 メガネの男は「ファントムの仮面を装備して大剣をかついで、デスゲームと言われた直後に階段へ向かって突っ走っていた」から、ハートレスだと思ったという。

 それはおそらくテストプレイの時にパーティを組み、彼女のプレイスタイルを見たからだろう。


 彼らの方から声をかけてきたことに内心すこし驚きつつ、ハートレスは答えた。


「ザックとシウ? テストプレイで一緒に遊んでくれた」


 そうです、と灰色のローブをまとって1mくらいの長さの白い杖を持ったシウが頷き、訊いた。


「ロキは一緒じゃないんですか?」


 ハートレスは首を横に振る。


「会ってない」

「意外ですね。ロキはあなたと一緒にいるだろうと思ったんですが」


 言われて初めて、ロキに会いたいと思ってはいるが、探してはいなかったと気がついた。

 (どうしてだろう?)と自問して、思いついた言葉をそのまま口にする。


「ロキは近くにいるけど、そばにはいない気がする。でもたぶん、そのうち会える?」

「わたしに訊かれても知りませんよ。しかし何と言うか、“繋がってる”系の双子のようなセリフ……。ウチの職場の電波系と怨霊系よりはまだマシに見えますが、深みにハマる前に戻ってこられるといいですね」

「深みにはまる?」

「とりあえずそれは置いておきましょう。他に大事な話があるので、一緒に来てもらえませんか?」

「どこへ」

「地下2階から3階へ降りる大階段です。できればモンスターに邪魔されずに話したいので」


 確かにテストプレイと変わらない仕様であれば階段にモンスターはポップしないはずなので、多少は安心して話ができるだろう。

 対人戦闘が全フィールドで可能になったというシステムの言葉が本当なら、モンスターが出なくても他のプレイヤーに襲われるかもしれないが。


 ハートレスも次の階へ行こうと階段を目指して進んでいたところだったので、「わかった」と頷き、彼らとともに再び小道を歩きだした。


 道中、モンスターを見つけると突撃して倒し、経験値とドロップアイテムを手に入れる。

 まだ地下2階なのでさほど強いモンスターはおらず、ほとんどハートレスが一人で倒してしまった。


 ザックとシウは「次のやる?」と訊かれても「気にしなくていい」と答えて彼女に任せたので、少しずつ経験値がたまってハートレスはレベル4に上がった。

 ボーナス・ポイントは一瞬のためらいもなく“力”に振る。


 そしてしばらく後、ようやく地下2階から3階へ降りる大階段へ到着。

 他にもたくさんのプレイヤーが話し合いの場所として利用していたため、後から来たハートレスたちは階段をだいぶ降りて、地下3階に近いところでようやく腰をおろした。

 ひとつの段が成人でも2人並んで寝られるくらい広く、上はクリスタル・シティと同じよく晴れた青空なので、両端を高い壁でふさがれて他に大勢の人がいてもいくらか解放感がある。


「どっこいしょと。やれやれ。ようやく座れた」

「おっさんくさいですよ、ザック。実際おっさん以外の何ものでもありませんが」

「ならいいだろ。細けぇこと気にしてるとハゲるぞ」

「我が家は先祖代々ハゲてますから、だいぶ前から覚悟はできてます」

「ならいっそ剃っちまえば……、いや、冗談だ。シウ、ただの軽い冗談だ。だからその手はナイフ無しで抜いてくれ」


 シウは「ハンカチ」と呼び、ベルトポーチに入れた手は白い布を掴んで出てきた。

 ほっとするザックに「これくらいでキレたりしませんよ」と言いながら、メガネを外してとくに汚れてもいないレンズを拭いている。


 VR空間では現実の体の視力は関係ないので、彼がかけているのはただの伊達メガネだ。

 シウは現実ではいつもメガネをかけているのでこれが無いと落ち着かないと、テストプレイ中から知力+1の黒縁メガネを装備していた。


 二人の会話を聞きながらそばに座ったハートレスは、メガネを外したシウの顔を見てふと気になり、ぽつりとつぶやく。


「そういえば二人とも、テストプレイの時とはだいぶ顔が違う」


 ザックとシウはほぼ同時に答えた。


「いまさらか。しかも一番違ってるお前に言われたくないんだが」

「一番変化の激しいあなたに言われるとは思いませんでした」


 ハートレスは平然と「私は男から女に変わっただけ」と返した。


 現実の姿となった今のザックは、ハートレスが見あげるほど背が高くて体格がいいのは前のアバターと同じだが、はるか昔の戦国武将のように暑苦しい顔だったのが、いくらかこざっぱりとしたゴツい顔に変わっている。

 髪は黒く目はこげ茶色、顔立ちや肌の色から見てハートレスと同じ地域の出身かもしれない。

 年齢は30を超えているか、それよりすこし下くらいに見える。


 そしてシウは、ハートレスよりすこし高い背や細身でメガネをかけているのはアバターと同じだが、たれ目で温厚そうな好青年顔だったのが、今は神経質そうなキツネ目の顔に変わっている。

 金髪で目は青く、現実ではあまり日光を浴びない生活をしているのか、肌が病的に白かった。

 年齢は二十代前半か中盤くらいだろうか。



 一方、ザックとシウはVR空間からログアウトできないという異常事態の中、まったく動じずに自分たちの姿を観察してくる年下の娘を、何とも言えない目で眺める。


 彼らは階段へ着くまでの間、モンスターに対するハートレスの反応を見ていたのだが、痛覚が解放されてケガをすれば痛みを感じるようになったはずなのに、彼女はひとかけらも怯えることなく、むしろ嬉々として先制攻撃を浴びせていた。

 反撃されてすり傷や切り傷を負っても、まるでかまわず次の攻撃を当てにいく。


 感受性が鈍いのかただの戦闘狂のバカなのか、それともシステム・アナウンスを信用せず、これが本当のデスゲームであると思っていないのか。

 彼らには判断できなかったが、テストプレイでパーティを組んでほぼ半日、ひたすらに戦い続けていたことからハートレスが主戦力として役に立つことは知っている。


 何かを考えていたシウが「ふむ」とひとつ頷いて思考を切り替え、口を開いた。


「そろそろ本題に入りましょう。ハートレス、わたし達とパーティを組みませんか? パーティを組んだ方が利点も多いですし、いつまでもひとりでいると狙われますよ」


 思いがけない言葉に、ハートレスは首を傾げた。





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