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万魔殿攻略記  作者: 縞白
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14/51

写真館と工房





 サポートセンターでザックやシウと話していたルークへ、彼のパーティメンバーから「新施設を見つけた」というメールが届いたので、皆で一緒にそこへ行くことになった。


「攻略の役には立たなさそうだが一応見とけ、だって。何があったのか書いてくれりゃいいのに」

「あなたもわたし達と会ったことを知らせていないんですから、どちらも同じようなものだと思いますが」


 文句を言うルークにシウが答えながらメールで教えられた方向へ進んでいくと、何人かのプレイヤーが立ち止まって見あげている建物があった。

 その中の二人がルークに気づいて手を上げる。


「こっちだ、ルーク。そっちの5人は掲示板で拾ったのか?」

「おいそこのオッサン、人を落し物みてぇに言うな」


 建物の前でルークを待っていた二人の内、小柄だがしっかりとした筋肉のついた三十代中盤くらいの男の言葉に、ザックが言い返した。

 すぐに大剣を装備した戦士姿の男も返してくる。


「なんだとこのガキ。俺はまだ若いんだ。そういう言葉は鏡を見て自分に言え」

「ガキだと? たいして歳変わらねぇっつうかてめぇの方がオッサンだろうが」

「はいはい。じゃれあうのは後にしてください。あなたがヴィクトールで、隣がグレンですね?」


 いつまでも言い合いを続けそうなザックと筋肉男をシウが止め、のんびり彼らを眺めていた小太りな男に訊いた。

 隣の筋肉男とはまったく違う種類の肉をたっぷりとつけた彼は弓装備の盗賊で、ぽよんとした顔に満面の笑みを浮かべて「そーだよー」と答える。


「やっぱりシウは男かー。いやー、ルークにもそう言ってたんだー。でもきっと女だって言うから、昨日どっちか賭けてさー。ぼくとヴィクトールの勝ちだねー」

「そうですか。その賭け金を回収する時はわたしの分も取っておいてくださいね。……しかし、なんというか。ヴィクトールは予想通りの姿ですが、あなたはちょっと、予想外でした」

「おやー。シウの予想を外せるとは、ぼくもなかなか、やるもんだー」


 なんとも気の抜ける口調でぽよぽよと話すので、ザックとヴィクトールも毒気を抜かれたようだった。

 二人が落ち着いたのを見て、シウが初対面の者たちを紹介した。


 ルークたちのパーティは彼ら3人で、ヴィクトールが主戦力、ルークが中衛、グレンが索敵と〈分析〉という組み合わせで進んできたという。

 そして彼らはシウの説明で、パーティ唯一の女性であるハートレスが主戦力と聞いて驚いた。


「おい、冗談だろ。こんなちいさいのに戦わせてんのか?」

「ええー、こんなお嬢さんがあんなリアルなモンスター相手に主戦力?」

「そうなんだー。人は見かけによらないねー」


 最後に言ったグレンの言葉にうんうんと頷き、ザックが答えた。


「レスは俺より強いぞ。キマイラもほとんど一人で倒したようなもんだからな」


 3人は彼女が仮面で顔を隠していることについては触れず、自分たちも戦ったキマイラの強さを思い出しながら、また驚いて「そりゃすごい」と褒めた。

 ハートレスは勝手に彼女の活躍話を盛っていくザックを止め、彼も尻尾の蛇の頭を斬り落としたし、シウの補助魔法の効果も大きかったと補足する。

 たぶんレベルをもっと上げないと、自分一人では勝てなかっただろう相手だ。


 彼らがひと通り話をしたところで、シウがヴィクトール達の立っていた路地のそばにある建物を見あげて言った。


「それで、新施設を見つけたと聞きましたが、ここですか?」

「ああ、写真館だと。“27枚撮り使い捨てカメラ”ってのと“アルバム”が売ってるが、撮影しても写真館でしか現像できん上に、どんなものが撮れたか現像するまで確認することもできねぇ」


 カメラと聞いて喜んだエディが、「なにそのガッカリ仕様」と肩を落とした。

 他のものは「使い捨てカメラ? カメラを使い捨てるのか? 記録媒体(メモリ)を取り換えれば次の分撮れるんじゃないのか?」と首を傾げている。


「静止画像しか撮れないみたいだし、よくわからないよねー。他のプレイヤーも説明聞くだけで、買ってる人はあんまりいなさそうだよー。まあ今はカバンの枠を1個でも空けときたいから、使えない施設かなー」

「えー。オレはカメラ欲しいっす。なんかここのは使いにくそうだけど。撮るの楽しいし、後に残るし。……ちょっと買ってきまっす!」


 グレンの言葉につぶやいたエディが、我慢しきれなくなったのか写真館へ駆け込んでいった。

 そして「こんなとこでムダに枠潰すな」「自分で覚えておけばいいでしょう、その頭は飾りですか?」などと言われながらも、購入したカメラを構えて笑顔で言う。


「ハーイ! 撮るから笑ってー!」


 バカやめろ、という声など気にもせずパシャッと撮ったエディは、「記念すべき1枚目!」と大喜びだ。

 白い石造りの街並みを背景に、ハートレスとザック、シウとリド、ルークとヴィクトールとグレンという、なんとも男くさい集団の写真が撮影されたわけだが、エディは彼の女王さまが撮れたので満足しているらしい。


 シウはため息をついて放っておくことにし、店巡りをしていたヴィクトールとグレンにトパーズ・シティの様子を訊ねた。


「ひと通り見たが、装備品は新商品無しだ。これからもこの調子なら、自分達で作ってオークションに出せってことかもしれんな。今のうちから鍛冶師のレベルを上げておくと、そっちでかなり稼げそうだ。あと道具屋に焚き火セットと毛布が追加されてたな。安眠枕とかいうふざけたモンもあったか」

「焚き火セットに毛布に枕ですか。メニューからの自殺機能を解放しながらプレイヤーの生活を快適にする道具の発売を開始とは、まったく、変なデスゲームですね」

「同感だ。とっとと優勝して100億ぶんどってやる」

「100億かー。本当にもらえたらいいけど、ぼくたちが生きのびても死んでも大量訴訟が起きて、関係者は血の一滴まで残さずむしり取られるだろうねー」


 ぽよぽよと物騒なことを言うグレンに「そうだろうな」と同意して頷くVRゲーム仲間たちを、エディとリドは一歩引いて「怖いなー」と眺めていた。

 シウは「搾り取れる関係者が残っていればの話ですがね」と、何かを考えながらつぶやいたが。


 ハートレスはゲームが終わった後のことには興味がないので、「次はどこへ行くの?」と訊く。


「とりあえず図書館と道具屋ですね。図書館にわたしが習得できる魔法があるかもしれませんし、道具屋の焚き火セットというのがどういうものか確認したいです。所持金に余裕があれば、消費系のアイテムも買いましょう」

「そんならここで別れるか。俺たちはもう準備終わったから、先に行く」


 ヴィクトールが言うと、ルークとグレンもそろそろ進むかと頷いた。

 そしてフレンド登録をしながら二、三話すと、あっさり別れる。


「あの人たちと一緒に行かなくて良かったの?」

「わたしとザックを入れて、もうこっちのパーティは5人揃ってますから。それに、二手にわかれて攻略していく方が情報が集めやすいです」


 3人の背を見送ってハートレスが訊くと、シウが答えた。

 ふぅん、と頷いて、「では図書館から」と言われるのについていく。



 図書館には魔法書以外にも様々な種類の本が揃えられていたが、万魔殿での魔法使用のルールが厳しいせいか館内での閲覧しかできないためか、あるいはデスゲーム中だからか、エディが〈分析〉で見たところ利用者はNPCばかりでプレイヤーの姿は無かった。

 安全そうだったのでシウはひとり奥へ行き、白魔法について書かれた本を見つけて敏捷アップの補助魔法を習得、〈魔法書執筆〉のスキルを使って白紙の本へ羽根ペンで呪文を書き記して魔法書を作る。


 そうして白魔法使いが新たな魔法を習得している間、リドは好奇心いっぱいに他の本を見てまわり、ハートレスとザックとエディの3人は、児童書コーナーの一角で司書のお姉さんNPCが同じくNPCの子ども達に絵本の読み聞かせをしているのをぼんやり見物していた。

 ちょうど休憩スペースのようにいくつかベンチが置かれていたので、そこへ座ったら近くで読み聞かせをしていたのだ。

 司書のお姉さんは桃太郎の絵本をゆっくりと読んでいて、桃太郎が鬼を退治し、金銀財宝をおじいさんとおばあさんの所へ持ち帰って「めでたしめでたし」で終わると、休憩になって子ども達がばらばらと散っていった。


 ザックとエディは読み聞かせの声を子守歌にうとうとしていたが、とくに眠たくなかったのでしっかり聞いていたハートレスは、次の絵本を選ぼうとしている司書のお姉さんに質問する。


「どうして桃太郎は鬼を皆殺しにして金銀財宝を強奪したのに、誰にも捕まらないの?」


 司書は絵本を選ぼうとしていた手を止め、幼い子どもに言い聞かせるような口調で答えた。


「桃太郎は悪いことをする鬼を退治したんです。それは良いことですから、捕まったりしませんよ」

「悪いことをする鬼なら殺して財産持っていってもいいの?」


 不思議そうに訊いたハートレスに、司書は困った顔をした。

 くあー、とあくびをしたザックが言う。


「お前は意外とヘンなこと気にするなぁ。ただの童話に現代の価値観当てはめようとしてもしょうがねぇだろ」

「童話は子ども達に善悪のルールを教えるために作られたものじゃないの?」

「昔と今じゃ善悪の基準が違うんだろ。桃太郎の話も、それが作られた時には全部正しかったんじゃねぇの」

「善悪の基準は時間が経つと変わるの?」

「歴史勉強しろ。コロコロ変わってるだろ。それが分からねぇんなら、時間のムダだから深く考えるな」


 ふぅん? とまた不思議そうな顔をしてハートレスが首を傾げたところへ、リドと一緒にシウが来て声をかけた。


「お待たせしました。では、店巡りに行きましょうか」

「うん」

「おい、起きろエディ。行くぞ」

「ふぁ~。あい~……」


 眠たそうに目をこするエディがベンチから立ちあがると、5人は外へ出て武器屋と防具屋をのぞいた。

 ヴィクトールが言った通り何も新商品が入っていないのを確認し、ザックが“無愛想な武器屋のおっさん”NPCに「新しいのが入る予定はないのか?」と聞くと「ない」と一言で返されたので、外へ出て道具屋へ移動する。


 新商品“焚き火セット”は1個につき1回、12時間火が燃え続ける焚き火が出る、というアイテムで、夜の明かりとしてだけではなく、火が苦手なモンスターが嫌がって近づかなくなるという効果付きだった。

 毛布や安眠枕、他のアイテムを買う関係でお金に余裕がなかったため、1個だけシウが購入。

 昨夜は月と星の明かりで多少周りの様子が見えていたので、もしかしたら必要のないアイテムかもしれないと考えたこともあり、確認のための少数購入だ。


 そしてハートレスは毛布と安眠枕を買うついでに、所持金が残り1桁になるのもかまわず野外調理器具を手に入れて満足した。


「レス、レシピを手に入れないと〈調理〉はできませんよ」

「うん。でも、これがないとレシピと材料があっても〈調理〉できないから」


 シウが言うのにあっさり返し、カバンの中にまだキバウサギの肉があるので、「後はレシピを探すだけ」と珍しく上機嫌な声で言う。

 それを聞いたパーティメンバーは、ふとキマイラの耳をくわえて大剣を構えるハートレスの姿を思い出し、(早くレシピが見つかりますように)と声には出さずわりと真剣に祈った。


「……さて。買い物はこれで終わりですね。次は工房へ行きましょう」


 気を取り直したシウが言い、一行は道具屋から出てサポートセンターの近くにある工房へ向かう。


 調合師の〈薬品調合〉は全フィールドで使用可能だが、魔獣使いと鍛冶師と細工師の生産スキルはシティやタウンの工房内限定スキル。

 魔獣使いと鍛冶師と細工師に共通の〈強化〉と〈修復〉も工房限定だ。


 サブクラスによって工房の建物がわかれており、クラスが違うと受付のあるエントランスまでしか入れないため、固まって動くのでは時間がかかりすぎるので分散することになった。

 各自それぞれの工房で今あるアイテムから作れる物を作って経験値を稼ぎ、素材系のアイテムが尽きたらサポートセンターの歓談スペースに集合しよう、とシウが指示する。


「何かあったらすぐメールで知らせてください。工房内でもPKは可能なので、くれぐれも気をつけて」

「おいおい、注意した方がいいのは確かだが、そうおどかしてやるなよ」


 シウが強い口調で注意するのに、ザックが苦笑する。

 しかし受け取る側はリドが真剣な様子で頷いただけで、ハートレスは最初から周りを警戒しているのでそれが当たり前だし、エディは「今オレ調合できそうな素材あんまり持ってないんで、終わったらセンターで掲示板見てるっす」と軽い調子で言った。


 そこでふと、「そういえば」とシウが気がつく。


「〈薬品調合〉にしか使わなさそうな薬草系のアイテムは、トレードでエディに渡しておきましょう。エディも木材系と金属系のアイテムは、〈防具作製〉のスキルを優先して育てたいのでザックに渡してください」

「おー。リョーカイっす」

「“す”は付けない」

「ハイー」

「語尾はのばさない」

「……あう」


 メニュー画面から行うアイテムやお金のトレードは、詐欺の被害が出にくいよう、お互いに交換するアイテムやお金の金額を確定して提示し、双方がこれで良しと了承した後でアイテムなどが交換されるようになっている。


 今はパーティ内の交換なのでとくに考えることなく、皆メニュー画面を開いてそれぞれ渡すべきアイテムを選んで確定。

 「トレードが完了しました」というメッセージを確認すると、「センターでの待ち時間、できたら掲示板とオークションの様子を見ておいてください」というシウの言葉に頷いて、各サブクラスの専用工房へ入っていった。





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