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ライアー/ラブ  作者: 雨宮リュウドウ
5/5

屋上

書いていて思ったのですが、しばらくはコメディよりの展開が続きそうです。


心理描写も書いてはいますが、デ○ノートや、○イアーゲームばりの頭脳戦にはならない感じですね。いずれはそういう展開にもなるかもしれませんが、それはもう少し話が進んでからですね。


今は、B級スパイ映画のような気持ちで楽しんでくれれば幸いです。


前回の前書きにも書きましたが、「○」の段落は暦ちゃん視点、「●」の段落は将太君視点で書いています。


午前中の授業が終わる。


ここからはようやく、待ちに待った昼休み。


にしてもどうする?


昼休みに一緒にご飯を食べようというお誘いには喜んで乗ったが、暦さんの性格的に堂々と一緒に屋上に行くというわけにもいかないだろう。


ああいう大人しそうな子は、誰かと付き合っている事を同級生達に知られるのは恥ずかしいだろうし。


と、なると別々に教室を出て、屋上で合流という事になるか。


「よう、将太。飯食おうぜ」


そうこうしていると、友人数人がそれぞれ弁当や登校前にコンビニで買ったのだろう、パンを持って俺の周りに集まる。


学校であまり派手に立ち回ると、大人しい暦さんが俺に苦手意識を持つかもと思って、極力影を薄めて学校生活を送ってはいるが、それでもまったく友達がいないというのは、それはそれで目立つ。


だから、ある程度友人は作りつつ、けれどその中でも中心には立たない温厚な男子生徒という絶妙な立ち位置を維持しているのだ。


まぁ、はっきり言って一人っきりで昼飯を食べるのは、辛いからな。これは本心でそう思う。


だが、今日に限っては邪魔だ。


「あー、ごめん。今日弁当なくて、コンビニでご飯買わなきゃいけないのに買いそびれちゃったよ」


「マジかよ、将太」


「俺のパン、一個食う?」


「いや、ちょっと走ってパンでも買ってくるよ」


「え~、今から言って三時間目の授業間に合うか?」


「大丈夫だよ。ここからコンビニまで、それ程遠くないし。ギリギリ間に合うと思うから」


そう言って、俺は教室を出る。


教室内ではまだ何人か引きとめてくれようとしているようだったが、俺が教室から完全に出ると、すんなりと諦めてくれた。


卑屈な言い方になるが、俺の友人グループ内での価値は所詮その程度だという事だ。


一応友達だし、たまに一緒に遊びに行ったりもするから、困っていたら手を差し伸べてくれるし、心配そうな声も掛けてくれる。


だが、所詮いた方がいい程度の重要性。


もし、俺があのグループのリーダ格やムードメーカーだったら、もっと必死に昼飯をカンパしてくれたり、俺がどうしても外に昼飯を買いに行くと言えば、一緒に外食をしにいこうというような悪乗りをしてくれたのかもしれない。


もしくは、外に昼飯を買いに行くという俺に、ジュースや駄菓子の買い出しを頼んだって良い流れだ。


だが、友人達はそういうお使いを頼む事すらなく、教室から出る俺をあっさり見送った。


いた方が面白いが、いなくても構わない。


それが今の俺の立ち位置。実に都合がいい。


そのおかげで、大した言い訳をすることなく、教室を抜け出して屋上へ来る事が出来た。


この絶妙な立ち位置を構築するのに二カ月を費やしたと言っても良い。


屋上にはすでに、暦さんがいた。


「ごめん、待たせちゃったかな?」


「う、ううん。大丈夫。私も……今、来たところだから」



「う、ううん。大丈夫。私も……今、来たところだから」


そういって、私は弁当を袋から取り出す。


今来たとこ、なんて漫画みたいなセリフを口にする事になるとは思わなかった。


私が弁当を開けている間に、おずおずという感じで将太君が私の隣に座る。


最初は対面、私の目の前に座ろうか、という感じだったが、意を決っしたみたいな感じで私の横に座る将太君は、動揺からか微妙に動作がぎこちない。


緊張しているんだな。いちいちウブな感じが可愛いぜ。


だが、そんな事に気を取られている場合じゃない。


「はい、これ……将太君のぶん。おいしいか、分からないけど……頑張って作ってきたから……」


食べて、下さい。


と、弁当箱を渡しながら、最後は消え入りそうな感じで呟く。


我ながら、名演技だ。


押しは弱く、あくまで謙虚に。


でも精一杯、好きな人に尽くすような感じで。


今の私は、将太君の事が大好きな、尽くす女なのだから。


いや、真面目に考えるとこの演技、めちゃくちゃ恥ずかしいけど。


「うわぁ、僕の好きなものばっかりだ」


将太君が私の手渡した弁当箱を覗き込み、目を輝かせる。


そりゃそうだ、入学から二か月、将太君の昼飯を徹底的に分析して作った、私の弁当に死角はない。


メニューは唐揚げ、卵焼き、タコさんウィンナー、シューマイ、白米には鳥のそぼろと卵のフレーク。


将太君の大人しくて華奢な外見の割に、肉や卵などの高カロリーで偏った食事を好む事は知っていた。


昼飯全体の八割強もの割合で、将太君は昼飯に唐揚げやチキン南蛮などの、肉類、それも油ギッシュなものを食べる。


さすがに唐揚げと南蛮を入れるとメインにメインというあからさまに胃に重たそうな弁当を食べさせることになるので、そのあたりはシューマイと鳥そぼろなどを入れる事でごまかした。


学校での私、或世暦という大人しそうな人物像から、お節介とはしりつつも野菜類を入れて食生活のバランスを保とうかとも思ったが、将太は昼飯時にほとんど野菜を取らない。

コンビニ弁当などに入っているわずかな野菜でも、食べずに残したりしている。


偏食が良い事だとは思わないが、別に私は将太君の母親ではない。そこまで、私が気にする義理はないだろう。


それにこれだけ好物で固めておけば、私が仕込んだ卵焼きも、躊躇なく食べてくれるだろう。


卵焼き。


弁当の中に三つ並べて入れてある、その真ん中の卵焼きには、ある薬をいれてある。


簡単に言えばそれは「自白剤」。


主に、捉えたスパイなどに使用し、敵の情報を絞りだすためのものだ。


「自白剤」という名前だが、それはつまり服用した人間の脳をグチャグチャにして、言ってみれば洗脳状態にする薬。


将太君自身は親の残した遺産について何も知らないらしいが、彼を私に都合のいい人形にできれば、こんな手の込んだ芝居も必要なくなる。


将太君を騙して調査しようと思っていた事も、将太君自身に調査してもらえないい。


その結果、将太君が壊れてしまうとしても、だ。


ラブコメみたいな展開で、忘れていたかもしれないが、私は悪い女なんだ。



金の為なら、なんでもする。



「これ、全部僕が食べてもいいの?」


そんなこちらの思惑など露知らず、無邪気な笑顔でこちらを見る将太君。


「はい、良いんです。全部……食べてください」


駄目押しとばかりに、微笑をプレゼントする。


朝、練習に練習を重ねた儚げな、完璧な笑顔だ。


「ありがとう。それじゃ、いただきます!」


元気よく挨拶し、箸をとる将太君。




馬鹿がぁ!くたばりやがれぇ!



まぁ、安心しな。これからは奴隷として、可愛いがってやるからよぉ!



な、将太君?

ありがとうございました。

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