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ライアー/ラブ  作者: 雨宮リュウドウ
3/5

彼氏の事情

前話、彼女の事情の似せて書いています。ある意味この二人はお似合いですね。思考回路まったく一緒ですから。


この話で、あらすじに書いてある伏線は回収できたと思います。次の話から、いよいよ騙しあいスタートです。

僕、霧ヶ峰将太が或世暦に告白された、その日の夜。


僕……いや、俺は信頼できる情報提供者とボイスチャットをしていた。




「ああ、上手くいった。想定とは違ったが……ターゲットの恋人になった」




これが本来の俺。

大人しく目立たない、けれど友達がいないというわけでもないという無難な立ち位置に収まっている学校での俺は、まやかしの姿。


そう、はっきりと言えば片思いも、まやかし。


俺が彼女を好きだと言うのは嘘だ。


もちろん、告白を受け、付き合い始めたのだから、しばらく暦さんと俺は恋人同士。


それは納得しているし、そもそも近いうちに、俺の方から告白するつもりだった。


「それにしても確かなのか?あの暦さんの母親が莫大な遺産を残しているっていう話は」


そう、俺が彼女の告白を受け、恋人になった理由がこれ。


遺産……はっきり言えばお金を手に入れるためだ。


『ああ、間違いないね。しかも、或世暦ちゃん本人は、自分の親がそんなとてつもない遺産を残しているって事を知らないらしいよ』


チャンスだ。


相手は自分の親が残した遺産について何も知らない。


という事は、暦さんにバレないように事を終わらせれば、なんの事件や問題にならずに、大金を手に入れる事が出来るってわけだ。


『だが問題なのは、その遺産がどういうものなのか、どこにあるのかが分からないって事だよ。推定価値は10億ドルというのは確定情報だが、それが現金なのか、美術品や宝石の類なのか、それともどこかの大国を脅かすような機密情報なのか、薬や武器なのか、それがどういう方法で保管されているのか。まったく分からない。とりあえず、日本国内にはあるらしいがね』


「そこまで分かっていれば充分だ。10億ドル、日本円にして約1000億円。多少難しい条件でも挑まない手はない。それにそういう条件の悪い賭けを、いままで何度も潜り抜けてきたはずだ」


だが、どこにあるのか分からない遺産を見つけるには、関係者に近づく必要がある。


この場合、親の遺産の関係者といえば……或世暦さんに他ならない。


「情報提供助かったよ。報酬はいつも通り、利益の二割。いつもの口座に振り込んでおく」


『ああ。報酬、楽しみにしているよ』


そういって、ボイスチャットを終了する。


「よし、明日から本格的に作戦を開始する」


そのためにはまず、準備が必要だ。


暦さんの趣味趣向、読んでいる本、苦手な事、人間関係。


ある程度、調べ上げているとはいえ、もう一度頭に入れ直さなければ。


俺はキーボードを叩き、愛代のPCのディスプレイにいままで調べた暦さんの情報を表示させる。


俺の部屋にはさっきボイスチャットに使用していたものを合わせて9台ものハイスペックPCが設置してある。ディスプレイだけなら12台だ。


その12台のディスプレイすべてに、いままで調べた暦さんの個人情報を表示する。


と、いっても入学からこの二カ月はストーカーまがいの盗撮行為や尾行は行っていない。


暦さんは親が遺産を持っているだけのただの女の子、そんな子に対して非人道的な事はしたくなかったという思いがなかったわけではないが、それは理由にはならない。


モラルの事を言うなら、人の遺産をかすめ取る行為自体が、非人道的なのだから。



一番の理由は、やはり人間関係の構築に二か月もの時間を費やしたから、というのが大きい。


目立たず、煙たがられず、けれどまったく友達のいないわけでもなく、それでいて暦さんには好印象をもたれ、名前を覚えられような絶妙な立ち位置。


それを構築するのは、なかなかに難しかった。


そんなわけで、個人情報とは言っても教室内で観察できる範囲の情報と、後は家族構成や来歴、血液型なんかの調べ物で手に入る程度の情報だ。


本当はもう少し準備を整えたかったが、まぁ、いい。


こちらから告白する手間や、フラれる可能性に思い悩んでいたが、向こうから告白してくれた。


これは二か月の立ち位置構築のたまものと言えるだろう。


それにしても。


「或世、暦……ねぇ」


情報提供者の女性から添付ファイルとして貰った或世暦の個人情報、その中から写真を取り出し眺める。


…………正直、結構好みだ。


これは本心。


漫画じゃないんだ。人間は人間をいきなり好きにはならない。


今日、俺は霧ヶ峰君に告白されるまで、高校入学から二か月が経過している。


事前に『遺産』について情報を得ていた俺は、ターゲットである暦さんに近付くために、彼女と同じ学校に入学し、彼女の好みそうな人格を偽ってきた。


そして、二ヶ月間。彼女を見てきた。


おおっぴらな監視は控えてきた。恋人になるまでは、不要な警戒心は与えたくなかったからだ。


だが、教室内にいる時や、廊下をすれ違う時、帰り道で偶然見かけた時など、できるだけ彼女を見るようにした。そうやって立ち位置の構築と、情報収集に徹したのだ。


そうして彼女を見続けてきた二ヶ月間で、俺が彼女に好意のようなものを抱いているのは確かだ。


学校での外面は別として、俺の本性は自分でいうのもなんだが自己中心的だ。


こんな悪巧みみたいな事をずっとやって生きてきたんだ。当然、性格は歪むし、何事にもまず警戒してあたるようになる。


だから、俺は俺に従順そうな女が好みだ。


そういう意味で或世暦という女はストライクゾーンど真ん中だ。


白い肌、病弱そうな素振り、清楚さを感じさせる性格。


なにより顔が可愛い。


だから、本当ならこのまま付き合ってもいいかな?なんて思うところだけど。




「ま、世の中一番大事なのはやっぱりお金でしょ」




ターゲットの持つ宝物を盗む際、ターゲットと恋に落ちそうになったことはいままでにも何度かあった。


だが、それでも俺、霧ヶ将太は誰かのモノにはならない。


だって俺にとって『金』より重いものはないのだから。


自分でも外道な男だとは思うけど、この生き方は変えられない。


悪いな、暦さん。俺に惚れても駄目なんだ。


まぁ、来世あたりに出会ったら、次は本気で付き合ってやってもいいかな。


「よし、今日はもう寝るか」


ベッドに横になった。


そんな時。


コール音が鳴ったので、携帯を開く。




『暦です。夜分遅くにごめんなさい。明日、お弁当を作って持って行こうと思います。二人分用意するので、よければ食べてみてください』



そんなメールが受信されていた。


本当に健気な良い子だな。


そんな彼女に、若干罪悪感を抱かなくはないが、勤めて気にしないようにして俺は床についた。


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