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第六話 おっさんと同居生活


 なんだかんだで教室に入り、印南は部室に用があったらしく部室に向かっていったので、少し朝早めに来たためにまだ一人である教室内。

 ……いやっ、正確には……っていっても一人は人間では無いのだが、教室にはただ今二人の生物が居た。

 俺は恐る恐る鞄を開け、教材等を机の中へと移し替えていこうとする。と、案の定そこには開けた瞬間に鞄から飛び出して噎せ返る奴が居た。


 「っだはぁ―――っ!!う゛ぇっ!がはっ、ごほごほっ!うあはぁ―――っ!しっ、死ぬかと思ったぁ―――っ!こっ、殺す気かっ!」


 「あぁ―――っ、悪ぃ悪ぃっ!だっておっさんがポケットから出てこようとするんだもんっ、少しは都市伝説であること自覚持てよなっ!ったく、ばれたらどうすんだっ?」


 「……あっ、そうだったなっ。悪ぃ悪ぃっ。だってなんか凄かったんだもんっ。見てぇじゃんっ」


 おっさんは自分が都市伝説であることを改めて思い出すと、ぶつぶつと言い訳を言う。

 そして少しすると、思い出したように俺に向かってぷっと笑いを零す。


 「ぷっ、くくくくっっ!……お前、嘘吐くの下手なんだなっ!」


 「お前に言われたかねぇよっ!」


 「えーっ?いやっ、俺よりお前嘘吐くの下手だろっ?ぜってえダウト下手だってっ」


 「うっ!……まぁ、確かに不得意ではあるが……」


 「だっておっさんっ、ボロ負けしても全カードの三分の二制覇するぐらいですんだもんっ」


 「俺の方がそれより遙かに嘘吐くの上手ぇよっ!」


 「えっ!だって、この前やったときは信昭が六分の五枚……」


 「信昭知らねぇよっ!てかっ、信昭よわっ!」


 そんな会話を続けながら、俺は着々と鞄の中身を机の中へと移し替えていき、本日の授業の準備をしていく。

 そして話題は、本日の予定についてへと移っていった。


 「……で、今日は放課後におっさんと一緒に校内で入り口を探し歩けばいいんだなっ?」


 俺がそう尋ねると、おっさんはこくんと頷く。


 「あぁ、それで大丈夫だっ。校内に詳しいお前と一緒なら、入り口もすぐに見つかるだろうっ」


 「ん―――っ、でも詳しいと言われると自信は無いのだがっ。でもまあ、駄目だったら明日探せばいいよなっ」


 そう言って俺が少し困ったような表情を浮かべ笑うと、おっさんは不思議そうな顔をした。そして、俺に言葉を発する。


 「……はぁ?なに言ってんだっ?お前はっ?」


 おっさんは不思議そうな顔をして首を傾げる。


 「えっ?何がっ?」

 

 おっさんの発言に俺は疑問符を投げかけると、おっさんは如何にも当然であるかのように言葉を発した。


 「えっ?何って……。だって、この学校内に入り口があんのは、今日までだもんっ」


 「……はぁ?……えっ、はぁっ!?」


 おっさんの突然の発言に俺は思わず驚いたような表情を浮かべる。

 すると、おっさんはまたもや言わなかったっけ?というような不思議そうな顔で俺に向かって言葉を紡いだ。


 「あれっ?言わなかったっけ?今日までなんだよっ、ここに入り口があんのはっ。ちょうど夜中の十二時ぴったりに他の場所へ移動するんだっ。だから、今日見つけられなかったら、暫くお前の家に住み着くこと決定だなっ」


 「えっ、えぇ―――――っ!!なっ、何それっ!今日見つかんなかったら、俺はおっさんと同居生活――――っ!?いやだっ!絶対に嫌だそんなのっ!!ぜってぇ今日入り口見つけなくちゃいけねぇんじゃんっ!」

 

 「あぁっ、俺とわくわくどっきどきの同居生活がスタートするのが嫌なら、入り口を今日中に見つけなくちゃいけないぞっ?」


 「嫌だぁ―――っ!!わくわくでもどきどきでもねぇよそんなのっ!わくわくなのはおっさんがいなくなってたときで、どっきどきなのは減っていく食料じゃねぇかっ!!」

 

 「何だか俺、メリット無いなっ。何だかへこんだぞっ?」


 「あったりまえだろうがっ!お前らなんか、いっちゃぁ人間のもの盗んで生活してる只の盗人じゃねぇかっ!」

 

 「あぁっ?言ってくれるじゃねぇかっ!そんなこと言ったら、人間だって俺たちの住む地球を破壊してるだけじゃねぇかっ!」

 

 「あぁっ?だから今エコに取り組んでんだろうがっ!夏はエアコン29度っ、冷蔵庫にカーテンも付けて、今時珍しく家にパソコンが無くっ、それで冬は暖房無しだっ!」

 

 「それっ、ただお前が金無ぇだけじゃないかっ!」

 

 「なんだと―――っ!!」

 

 そんな言い争いをしていると、教室のドアががらっと開いた。

 それに吃驚して俺がドアの方を見ると、そこには、俺の見知った顔があった。

 

 「おっはよ―――っ!ねぇねぇっ、さっき誰と話してたの?怒ってたみたいだけどっ」


 なんとそこにいたのは、朝から相変わらず元気でとっても可愛い―――東の姿だった。

 

 「あっ、東ぁっ!!」

 

 俺は思わず吃驚して叫び声を上げてしまった。

 

 「そうだよ?……あれっ、まさか私、何かいけない事した?……言い争ってたの男の人だったけど、……まさか彼氏さんとか?」

 

 俺はどんな誤解をされてしまったんだ。


 「いっ、いやっ!そんなわけ無いだろうっ!とっ、友達だよ、友達っ!さっき帰ったんだっ」


 「ふぅんっ、帰ったとこ見えなかったんだけど……。喧嘩は良くないよっ?浮気したの?」


 だから、俺はどんな人間だと思われてんだっ!?確かに彼女はいないけどっ、そっちには走らねぇよっ!


 「だから友達だってっ!ちょっとその……、価値観の相違で……」


 地底人と地球人、どちらの方が生きている価値があるのかという。


 「目玉焼きにはソースか醤油かみたいな?」


 「そんな新婚さんみたいな理由じゃねぇよっ!」


 だからっ、なんで俺はそっちに勘違いされてんのっ!


 「そっ、それはそうとっ、なんで東はこんなに早く登校してんの?まだホームルーム全然始まらんないぞ?」


 そう、まだホームルームまで40分ある。俺はいつもはテレビを見ながらだらだらと支度するのに、今日はおっさんがいるから早く支度を終えて早めに来た。しかし、普通の人が何も用事無いのにこんなに早く来るのは少し可笑しい。何か理由があるはずだ。

 そんな話をしているうちに、おっさんは机の中に避難していた。そんなおっさんを俺はちらりと見て、後ろに手を回し、指をちょいっと振って合図を出す。すると、合図を分かってくれたようで……、

 ……スルメを、差し出してくれる。

 違う―――っ!!今のは俺の掌に乗れって意味だよっ、東が来て、今日中に入り口を見つけることになった以上、教室から逃げんだよっ!!

 すると、合図を間違えた事に気づいたおっさんが、スルメをしまって……、

 ……イカの薫製を出してくれた。

 違う―――っ!!イカの種類が違うんじゃないっ!しかも何でそれ持ってんだよっ!それスルメと共におつまみ詰め合わせに入ってた俺のイカ薫なんだけどっ!なんで当たり前そうにお前が持ってんのっ!!

 そんなことをしているうちに、東が理由を話し出した。


 「あぁ――っ、うんとねっ、私の家に泥棒が入ってね――っ、それでそれをお母さんが投げ飛ばして捕まえてね――っ、それで朝から警察が来て五月蠅かったからね――っ、早めに学校に来たの――っ!」


 東の母さん何者なんだ?とか、まぁいろいろと聞きたいことはあったが、今それを聞いている場合では無い。早く教室から出て、出来るだけ早く入り口を見つけなくてはっ!


 「そっ、そうなんだっ、大変だったねっ。泥棒が捕まって、何も盗まれなくて何よりだよっ!じゃっ、じゃあ俺はちょっと用事があるから、じゃあねっ!」


 そう言うと、俺はおっさんを鷲掴みにして教室を飛び出していった。後ろで聞こえてきた、


 「……彼氏に謝りに行くのかな?」


 という言葉は無視しよう。

 ……東にはもう一生彼女になって欲しいなんて希望は持てなくなった気がする。

 そんなことを思い、とほほと思いながら、手の中で藻掻くおっさんを持って俺は教室を後にした。




 「がはっ!!殺す気かっ!!潰れると思ったじゃねぇかっ!!」


 廊下に出て、おっさんを放し、ポケットに入れると、おっさんが凄い剣幕で怒ってきた。


 「あぁっ、わりぃわりぃっ、だっておっさんが俺の合図分かってくれねぇんだもんっ!」


 そんなことをぶつぶつと言いながら歩いて行く。俺は当たりをきょろきょろと見回して、そしておっさんに尋ねた。


 「なぁ、おっさんっ。入り口の出る場所の手がかりとか、何か無いの?」


 そう尋ねると、おっさんが思い出したように答えた。


 「あぁ、人の多いところには現れない。だから、教室と職員室の可能性は低いと思うぞっ!」


 「おぉっ!そのヒントは有り難いっ!」


 俺はそのおっさんの言葉に、いくらか捜索範囲が狭まったことに少し安心した。

 そうなれば、探すところは限られてくるだろう。

 そう考えて、まずは空き教室から散策を始めようと動き出すと、おっさんが言葉を付けだした。


 「あぁ、あと俺は入り口の半径5mに入ると入り口の気配が分かって、3mに入ると完全に場所が分かるっ」


 「あぁ――っ、うぅん……、有り難いような、必要ないようなヒントありがとう……」


 そう言うと、早速俺らは入り口の捜索をし始めた。


 


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