表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

第四話 おっさんは登校します


 ジリリリリリリリリ―――――っ……。


 俺に朝を告げる、目覚まし時計の音が部屋に響く。

 その音で目覚めた俺は、俺の睡眠を止めたその目覚まし時計を少し鬱陶しく思い不機嫌そうにその頭部を叩いて音を止めた。

 思うと可哀想な待遇な奴だ。その人のために自分は生を尽くすというのに、その人には嫌われるだなんて。

 しかし寝起きが悪いのは誰だってあることだ。俺は悪くはない。……何故目覚ましについて朝から語った?いや、何となく思ったから……。俺はポエマーかっ?馬鹿かっ? 朝からそんな馬鹿なことを思いながら、俺はいつもどうりくしゃくしゃな頭のまま洗面台の前に立った。

 もちろん学校に行くためにその寝起きの史上最悪な顔面を少しはマシな物にするためだ。

 俺は、いつもどうり学校へ行く気でいた。

 顔を洗って、ご飯を食べて、制服を着て、直前に焦って教材をかばんに詰め込んで……、そして、今日はまだ雨が降っていないようだから昨日東から借りた傘と自分の念のため買っておいた傘をかばんと共に持って家を出ていくつもりだった。

 しかし、そうは簡単には事は運ばなかった。

 何故なら昨日の出来事を鮮明に思い出したのと、その直前に、冷蔵庫を漁る小さなおっさんを見つけたからだ。




 「……おうっ、起きたかっ、早くしねぇーと遅刻すんぞっ」


 「……なんで俺より自分家みてぇに冷蔵庫漁ってんだよっ、なんで俺の親父みてぇに振る舞ってんだよっ」


 「いやっ、だって俺おっさんだもんっ、おっさんっぽくて何が悪い?」


 「……いまいち質問と答えがかみ合ってねぇーぞ?」


 日常から一気に非日常へと引きずり込まれた俺は、溜息を吐きながら冷蔵庫の中にあったスーパーのパンを取り袋を破って食べ始めた。

 するとおっさんはそれが食べたかったらしく、羨望の眼で俺を見てきた。

 しょうがなく俺は少しちぎっておっさんにやると、もほもほとパンを食べ始めた。

 ……あーぁ、おっさんじゃなくて小さな妖精の女の子とかがよかったなぁーっ、どうせ来るなら。悪魔と天使が来て『貴方は今日死にます』ってのも嫌だけどねっ。


 「……でっ、今日おっさんはどうするの? 俺が高校へ行ってる間? 街に地底への入り口でも探しに行くの?」


 パンを食しながらそう問う俺に、おっさんは不思議そうに首を振った。


 「あっ? そんな訳ねぇだろ? 俺はお前と一緒に高校へ行くんだよっ」


 「はぁ? 何で?」


 そんな訳の分からない事を言い出すおっさんに向かって、おっさんと出会ってから何度目か分からない疑問符を俺は口にした。

 すると、おっさんは話し忘れてたと言わんばかりの表情でそのわけを説明する。


 「あぁっ、言ってなかったっけ? 地底への入り口の大まかな場所、お前の通ってる高校だからっ」


 「えっ? ……えぇ―――っ!! 俺の高校なのかよっ、その場所っ! ってかなんで俺の高校知ってんだよっ!!」


 そう驚く俺に向かって、おっさんはいたって冷静そうに俺の問いに答える。


 「……あぁっ、お前の高校は、昨日部屋に落ちてた保護者宛の文書で知ったっ。入り口の場所は多様な場所に出現してな、たまに女子便所にも現れるくらいだっ、何処にでも現れて不思議はないっ」


 それに、俺は少し冷静さを取り戻して言葉を紡いだ。


 「あぁっ、何だっけっ、修学旅行の何とかかんとかってやつかっ。なるほど。そしてお前らはおっさんなだけでなくエロオヤジだったんだなっ」


 「別にエロかぁないさっ!女子便所に出現する入り口が悪いっ」


 そう言って、少し顔を赤らめるおっさん。……やっぱりエロオヤジじゃん。でも、一瞬でもおっさんに憧れた俺は何なのだろうか。……健全な高校生だっ!


 「……んじゃあっ、おっさんは俺と一緒に高校へ行き、おっさんは校内を隈無く探索し、俺も放課後に合流っ。それでいいのか?」


 俺はおっさんにそう問うと、おっさんは首を縦に振りかけて……、すんでで横に振った。


 「……いやっ、それじゃ駄目だっ。俺っ、迷子になっちゃうもんっ。お前とはぐれたら二度と会えなくなりそうだもんっ」


 「……運動神経も無ければ方向感覚も無いのかっ」


 「悪かったなっ、何も無くてっ。……あっ、スルメならあんぞっ、食うか?」


 「食うかじゃねぇよっ! つーかそれ俺のっ! 何となく食べたくなってこの前買ってきたやつっ!」


 おっさんが、俺が適当に作ってやった菓子の箱の中の寝床(そこにあったティッシュ数枚のちょー簡単簡易ベッド)からそろそろと出してきたスルメを、俺が勢いよく取ると、つっこみを入れる。しかしスルメを取るとあまりに可哀想な顔になったので、仕方なく返してやった。テッテテテテッテッテー、おっさんは元気を取り戻した。


 「……じゃあっ、俺が授業を受けてる間、おっさんは俺の鞄の中で待機っ、それでいいかっ?」


 そう問うが、またもやおっさんは首を横に振る。


 「それは嫌だっ。だってお前の鞄の中臭そうだもんっ」


 「ってっめっ……、はあぁっ、じゃあっ、机ん中っ、それで良いだろ?」


 「やだっ、腐った給食のみかん出てきそうだもんっ」


 「給食もう食ってねぇよっ! そんなの出てきたこともねえよっ!」


 「うっそだぁーっ、かあちゃんっ、なんでも知ってるのよーっ、白状しなさいっ」


 「お前性別からして違うだろっ! 誰が母ちゃんだっ! だから変なもん入ってねぇってっ!」


 

 そしておっさんは机の中に駐留することに収まり、俺は慌てて支度をすると、おっさんと共に家を出て行くのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ