第三話 おっさんは迷子
「……あほろへろはひ……」
菓子の箱を振った後、そっと蓋を開けてみると、そこには案の定、目を回して伸びているおっさんの姿があった。
そんな姿を見て少しやる過ぎたと後悔するが、そう思う途端に、怒りが込み上げてきて自業自得だと後悔を消し去る。
しかし、何というか自分が想像以上におっさんの存在をきちんと認め会話をこなしていることを意外に思った。
都市伝説ではさらさら信じようとしなかったが、いざ目の前にしてみると、案外あっさりと存在を認めている俺に今更ながら驚く。
目は口ほどにものを言う・・・・・・か。
確かに、見てしまったら信じざるおえないような状況に陥ってしまうものなんだなぁとしみじみと感じながら、俺はおっさんが目覚めるのを待った。
「……ふっ、振りすぎだろっ、しっ、死ぬかと思ったじゃねぇーかぁーっ」
暫くしたときに、おっさんが苦しそうに虚ろな目で言った。
「あっ、わりぃわりぃ……っ、って、元はといえばっ、おっさんが悪いんじゃないかっ!」
「……えっ? 俺は悪くねぇよ? ありのままの真実を言っただけじゃねぇかっ」
「それが悪いんだよっ! もう一回振ってやろうかっ?」
「いやいやいやいやっ、それだけはご勘弁をっ! すいませんでしたっ!」
おっさんがまた深々と頭を下げる。
……謝るんなら、最初っから言わなきゃいいじゃねぇか。
そう思いながら、俺は溜息を吐き、めんどくさそうに冷蔵庫を漁った。
そして、その中からある物を一つ取り出す。
「まぁっ、おっさんも大変なんだろっ? こんなんしか無いけど、これ持ってけよっ」
俺は、それをおっさんに手渡す。
おっさんはそれを受け取ると、俺の行動に驚き、目を大きく見開く。
「……お前っ……これ……」
「魚肉ソーセージだっ。カルシウム入りだぞっ。それでも持ってとっとと帰りなっ」
「お前……っ」
おっさんは俺の意外な行動に涙目になりそうになってきた。
そんな目を汚れた袖で擦りながら照れくさそうに感謝の言葉を述べる。
「……お前もいいとこあんじゃねぇかっ。ったく、ありがとうよっ」
おっさんは笑顔で俺にそう述べると、立ち上がった。
「お前のこと悪く言ってすまなかったっ。本当にありがとうっ。お世話になったなっ」
「あぁっ、迷惑な奴だったが少しは楽しかったよっ。家族に宜しく言っといてくれっ」
「……あぁっ。本当にありがとうなっ」
おっさんはそういうと、魚肉ソーセージをしっかりと持って……、
食べた。
もっしゃもっしゃと効果音が部屋に響く。
「……えっ、ちょっ、ちょっとっ、ちょっと待てっ! なんでお前が食べてんだっ?」
するとおっさんが何の悪気もなさそうに言葉を発する。
「なんでってっ、腹減ったからに決まってんだろ? 貰ったんだっ、食べて何が悪い?」
「……はぁ? ちょっ、ちょっと待てっ! お前これ持って帰るんじゃ……」
俺が意外なおっさんの行動に驚き呆れていると、おっさんは不思議そうな顔をして口を開いた。
「はぁ? 何を言ってるんだお前は? 俺は一言も帰るだなんて言ってねぇじゃねぇか」
「……はぁ?」
そんなおっさんの言動に、俺は思わず首を傾げる。
するとおっさんは不思議そうに言葉を続ける。
「はっ? いやっ、だからっ、俺は一言も帰るだなんて言ってないぞ?」
「……はぁ?」
俺はまた首を傾げた。
「……いやっ、だって帰りそうな雰囲気だったじゃねぇか……」
俺がそう言っておっさんに話しかける。
すると、おっさんは笑って訳を話し始めた。
「だから帰らねぇよっ! いやっ、でも本当は帰るつもりだったんだけどさっ、ほらっこれが壊れちまったから帰れねぇんだっ」
そう言うと、おっさんは何か小さなiPATのようなものを取り出した。
「……なんだそれ?」
そう俺が疑問符を頭に浮かべると、おっさんはそれについて説明を始めた。
「これはなっ、俺たちの住む地下空間への入り口の場所を示すレーダーだっ。地下空洞へ行くための穴は何日かごとに移動するんでなっ、俺たちはこのレーダーで穴を確認して自分達の住処へと帰っていくのさっ」
そう言っておっさんが説明するのを聞いて、俺はふむふむと感心する。
しかしそんな様子の俺を見て、おっさんは怒鳴りながら言葉を吐いた。
「なのになっ! お前が俺のこと振ったからっ、壊れちまったんだよっ! どうしてくれんだっ? あぁん?」
「……えぇっ! そうだったのかっ!? それはすまなかったっ。帰れないのは困るよな……、そして帰ってくれないのは俺も困る」
俺は怒鳴るおっさんを見て、俺は少々申し訳なさそうに言葉を発する。
そして少し面倒臭そうに考えると、俺は諦めたように怒るおっさんにむかって言葉を発した。
「……しょうがないっ。俺が悪いんじゃその入り口を探すのを手伝ってやるよっ、少しくらいならっ。……でも、もとはと言えばおっさんが悪いんだからなっ」
そう言って、俺は溜息を吐いておっさんを横目でちらりと見る。
すると、おっさんは俺の言葉に驚いて俺を見上げる。そして……。
「……はぁっ? 当然だろっ。お前が壊しだんだぞっ? ソーセージ一本でとんとんになるわけねぇだろっ」
不思議そうな目で俺を軽蔑した。
「……やっぱ手伝うのやめよーっと。おっさんをテレビ局にでも着き出そーっ。金になるかなーっ。我慢してたゲームでも買おっかなーっ」
「わああぁっっ!! うそうそうそっっ! すみませんでしたっ! ご協力ありがとうございますっ! ソーセージとても美味しゅうございましたっ!」
冷めた目をさぁーっとおっさんから遠ざけていった俺を見て、おっさんが慌てて言葉を訂正する。
そんなおっさんを見て、しょうがなく俺はおっさんに向き直る。
「……でっ、俺は何をすればいいんだよっ?」
そう問うと、おっさんは改まったように一つ咳払いをして説明を始めた。
「……お前達に集まって貰ったのは他でもないっ」
「……いや集まってねぇよ。お前達って俺しかいねーよ」
「……実を言うと、大体の場所だけはあらかじめの情報で知っている」
「おっ、それは思ったより楽になりそうだなっ。よかったよかった。早く眠れそうだ」
「……なので明日、探索に出ようと思うっ」
「えっ! 明日っ? なんで? 今日じゃないのかよっ」
「うむっ、だってもうおっさん疲れてだりぃもんっ。早く寝てぇもんっ。腰が痛ぇもんっ」
「なんだよっ、その理由っ。やっぱりおっさんだなっ」
あきれ顔でそう言った俺は、そう言った後にふと重要なことを思い出す。
そして驚いて俺はおっさんの提案に口を出した。
「ん? ちょっと待ったっ? 俺っ、明日学校なんだけど……」
張り切って案を言うおっさんに向かって、俺は困ったように言葉を紡ぐ。
するとおっさんは俺に向かって笑いかけた。
「心配すんなっ! お前が学校に行ってたって何の問題はないからなっ!」
「……はぁ?」
そしてそんな意味不明なおっさんの言動に首を傾げながら、俺はその言葉の意味の分からぬまま、朝を迎えるのだった。
……あっ、スケダンとナルト見んの忘れた……。