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第十四話 おっさんはショック


 「お前がエースだなんて……キャプテンなんて……ホームラン打てるなんて、そんなの嘘だ……。俺は信じないぞ、断じて……」



 おっさんがあれからぶつぶつとそんなことを呟いていた。相当衝撃的だったらしい。だからどんだけ俺が出来ない奴だと思ってんだよ。言っとくけどな、俺はスポーツは野球をやってたからそこそこ出来るし、勉強だってこの高校で学年20位以内だからなっ。250人中。

 しかし、そんな俺の気持ちなんか知らずに、おっさんはぶつぶつとつぶやき続けていた。


 「俺なんか……センターフライかバンドしか打てなかったのに……」


 それで何をどうやったら南ちゃんは心を惹かれたのだろうか?

 俺はその点がもの凄く気になった。……それで良く全国の南ちゃんがーとか言えたな、おい。



 現在野球場を後にして陸上場へやってきた。こちらもまだ部活動中である。様々なところで男女問わず部員達がそれぞれの活動に取り組んでいた。ハードルに高跳びに長距離走に短距離走に砲丸投げに……。端の方には匍匐(ほふく)前進で50m走をやっている奴らまでいる。……そんな競技あっただろうか?いや、無いよな。何なのだろう、この学校のそういうちょいちょい可笑しなところ……。すると、そんな匍匐前進をしている人たちの間から声が聞こえてきた。


 「こんなんでへこたれるんじゃないぞっ!でないとサスケに出られないはおろか、女子のスカートの中身も覗けないっ!いいのかっ、お前らそんなんでもっ!」


 「嫌ですっ!先輩っ!俺はサスケに出られなくても良いけど、女子のスカートを匍匐前進で次々に覗いていくのが夢なんですっ!」


 「俺もだっ!俺も人混みのなかで匍匐前進で女子のスカートを覗きたいっ!」


 「俺は満員電車だっ!しかも女性専用車両っ!」


 「俺は……!」


 「俺も……!」


 「よしっ!良く言ったお前らっ!そしたら50mを10秒で進めるようになるまで頑張るぞ!」


 「「「おぉ―――!!」」」


 俺はこの中からいつか犯罪者がでないか心配になった。



 お次はサッカー場。こちらもまだ練習中だ。よく頑張るなー、こんな遅くまで。俺は腹が減ってきたよ。今日の夕ご飯は……半額で買ってきた肉で作った作り置き(冷凍保存中)のハンバーグかな。あぁ、腹が減ってきた。ハンバーグ食べてぇー。

 そんな事を考えていると、俺の所に声をかける者が現れた。


 「おうっ、山本。こんな遅くにどうしたんだ?もしかしてサッカー部の見学……な訳無いなっ、どうせどっかで昼寝でもしてて日が暮れたんだろっ」

 

 「あぁ、印南かっ。そう言えばサッカー部だもんなっ、しかもエース。昼寝じゃないけど……、ちょっと用があってぶらぶらしてたら日が暮れてたって感じかな?」


 「用があってぶらぶら?それ何の用だよ?……まぁいいや」


 俺に話しかけてきたのはサッカー部のユニホームに身を包んだ印南だった。練習中のところ俺に気づいて話しかけてきたらしい。そんな印南は結構な量の汗をかいており、しかしそれが何故かとてもさわやかに見えた。……なんかやっぱり、イケメンの汗って違うんだな。女子がきゃあきゃあ言うはずだ。俺なんか、汗かいたら只の汗かきだからね。全くさわやかに見えないからね。女子が逃げるくらい只の汗かきってだけだからね。……自分で言ってて悲しくなってきた。

 そんな事を心の中で思い勝手に傷ついていると、印南がそんな俺に話しかけてきた。


 「お前さ、今日放課後、非常階段の踊り場で東と何か話してただろっ」


 「あにゃぁ!?なななっ、何で知ってんのさぁっ!?お前がっ!まぁ、あそこ目立たない場所でもないから誰か見てるかも知れないとは思ったけどさっ!なんでよりによってお前が知ってんだよっ!部活中だったろ!?」


 俺が思わず焦って声をあげると、印南がそんな俺とは正反対に落ち着いた様子で淡々と俺の質問に答えた。


 「いやっ、俺目結構良いからさっ、こっからでもよーく見えんだよっ」


 「なにそれっ、お前ケニヤ人!?こっから非常階段って結構な距離あるぞ!?なにその特殊能力!?」


 「いやっ、流石にそれは嘘だけどさっ」


 「嘘なのかよっ!!」


 落ち着いた様子で普通にボケを交わしてくる印南に、冷静さを失っている俺はそれでもきちんとつっこみを入れた。そんな俺が何故か面白かったのか何なのか、印南は顔に笑みを浮かべ、そして俺に本当の経緯を話し始めた。


 「いやさっ、実はあの時、俺ちょっと用があって非常階段の近くを通ってたんだよっ。そしたらさ、男女のしかも聞き覚えのある声が上から聞こえてきて、それなんで上を見上げたらお前と印南がいてさ、少しの間眺めてたらお前が突然走り出すんだからそれはそれは驚いたさっ」


 俺はそれを聞いて少し顔を赤らめた。……なんか、それって見るように見れば告は……。

 

 「……で?」


 そんなことを思っていると、印南が俺に少し悪戯っぽい笑みを浮かべると俺に質問をしてきた。


 「……お前、とうとう東に告ったのか?」


 「ぶはっ!!」


 俺はその質問に思わず吹き出した。ななななっ、何を聞いてくるのさーっ!?

 そんな印南の質問に、俺はかなり焦りながら答える。


 「ななななっ、なんて事を聞いてくんのさぁーっ!?そそそそっ、そんなわけ無いだろうっ!?だだって、俺が東に呼び出されたんだぞ!?そそそそれはごごご誤解だからなぁ!?」


 そんな俺を見て、印南が一瞬キョトンとしたが、次の瞬間笑い転がりそうな勢いで笑い出して腹を抱えた。


 「あははははっ!そうか誤解かっ!あー、そりゃ失礼だったなっ!くっあはははははっ!」


 「うっ、わっ、笑うなよっ!」


 「い、いや、悪ぃ悪ぃっ!ついさ、お前のテンパリ方が以上で可笑しくてなぁ!あはははははっ!」


 「だから、笑うなよっ!」


 「いや、ホント悪ぃ!」


 印南はそう言うと呼吸を整えるために少し間をおいて、そして俺にまた質問をしてきた。


 「じゃあ、何の話をしてたんだよ?東とあんな場所で」


 印南にそう尋ねられて、俺は先ほど笑われたことにいじけながら質問に答えた。


 「いや、別に何も……。ちょっと相談事を…・…ていうか忠告?……まぁいいや、ただちょっと話をしてただけだよ。……互いの好きな人の話とか」


 「互いの好きな人の話!?」


 すると、何故か印南が心底驚いたように聞き返してきた。それなので、俺は少し訝しく思いながらもきちんと質問に答えた。


 「そうだよっ、まず始めに、東が好きな人は誰なのかって聞いてきて……それで、俺はちゃんと女の子に好きな子がいて、そしてそれをあとで言うって言って来ちゃって……東も好きな人が居るんだって言ってくるし……はぁ」


 俺が落ち込んだようにそう説明すると、何故か印南はとても残念そうな顔をして溜息を吐いた。


 「はぁ、なんでお前らってそうなるんだろうか……。俺は不思議でしょうがない……先が思いやられるよ……」


 「……えっ?なんで?……まぁ、確かに好きな人がいるって言われた時点で俺が振られることは確定したけどさ……。だけど好きな人教えるって言っちゃったし……」


 「いや、そういうことじゃないんだが……」


 なんだか印南が俺に哀れみの目を向けてくる。……なんで?そう言う事じゃないのか?

 俺が首を傾げていると、それに見かねた印南がある事実を話し始めた。


 「いや、実はなっ、俺東に恋愛相談されたことがあって、東の好きな人知ってんだよ」


 「えっ!嘘!?マジ!?誰なんだよそいつ!……いや、それは聞きたくないけど……どんなやつかだけでも……かっこいいやつ?」


 俺が驚き慌ててそう質問すると、印南は何故か俺のことを見ながら暫く考え込み、そして答えを口にした。

 

 「……俺からみたら、帰宅部でぐーたらしてるように見えて実は勉強もスポーツもそこそこ出来る凄いやつで、でも地味で、変な噂ばっかたって、女の子にあんまりモテなくってさえなそうに見える、運の結構悪いやつ」


 「……なんだそれ、なんか少し俺みたいなやつだなっ」


 「……」


 そう言うと、何故か印南が黙って俺の顔を呆れたように見つめてきた。……俺、なんかいけないこと言った?

 すると、そんな俺を見て、印南が心配そうに俺に質問をしてきた。


 「で、じゃあ、東にはいつ告白すんだよ?どうせ近いうちに好きな人教えるーとか言ってきたんだろ?」


 そう言われて俺は印南から目線をそらした。……うっ、図星。

 その質問に、俺は印南から目線をそらしたまま渋々と答える。


 「う……。……早ければ、明日に……」


 俺がそう答えると、すると印南がその言葉に驚いたような表情を見せて、そして感心したように声を上げた。


 「それは本当かっ!いや、そう決めたんなら早いほうが良いと思うぞっ!決心したんなら、必ず明日には実行するんだからなっ!絶対な!絶対実行有言実行!」


 そう言って印南は嬉しそうに俺の背中を叩いた。


 「まぁ、上手くやれよ!俺は応援してっからさ!」


 「……うんっ、お前に告白はしたくないからな……」


 「うんっ?何か言ったか、山本?」


 「……いや……別に……」


 俺はそう言って少し疲れた表情を見せた。……どうせ振られるって分かってるのに告白なんて気が引けるけど、印南に告白なんて事にはなりたくはないからなっ。頑張って探さなくちゃ……。あぁーっ、でも振られるために告白って……今から泣きそうだっ。

 そう思って溜息を吐くと、そんな時俺はあることが気になって印南に質問した。


 「ん?そう言えばさ、印南っ。お前は何の用があってあんなとこ歩いてたんだよっ」


 そう言うと、印南はあぁと言ってその時の事を思いだし始めた。


 「うんと……。あぁ思いだした、その時、ちょうど1組の島田さんに呼び出されて……」


 そう話し出した途端に俺は呆れた表情を見せて口を挟んだ。


 「まぁーた告白かっ、で、今度はどうしたの?受けたの?」


 「いいやっ、断ったっ。面倒だからなっ。可哀想だけど、俺部活で忙しくてデートなんか行ってあげられないし、……昔付き合った子がいたんだけど、その子が虐められて大変そうだったからなぁ」


 「……もてるのも困りもんだなっ」

 

 そう言って俺は溜息を吐いた。あぁ、今日は一段と溜息を吐いてるよな。あれ、何回溜息ついたら死ぬんだっけ?もうすぐ俺は死ぬんじゃないか?

 そう思っていると、そんな時俺の胸ポケット辺りからぶつぶつと声が聞こえてきた。


 「……こいつがモテるなんて信じられない……エースだなんて……」


 「はぁ!?お前、本当はそんなこと思ってたのか!?」


 「いやいやいやっ!俺じゃない!」

 

 何だかタイミングの悪いときにタイミングの悪い声が聞こえてきた。またおっさんか!そう言えばさっきっからそんなこと言ってたな……。それをよりによって印南の前でその言葉は不味いんじゃないか!?

 そんな時、印南が少しむっとした声で俺に尋ねてきた。


 「だってお前の方から声がしたぞ?……でもお前と少し声が違うか……じゃあ、誰だよ?」


 「いや、俺じゃないけど……誰だろうねぇー!」


 そう言って俺は誤魔化す。取り敢えず、口笛でも吹いてみる。……いや止めよう、それは逆効果だ。……やばいぞやばいぞ!印南が怪しんでる!どうしたら良いんだ!?近くには誰もいないし……!いったいどうすれば……っ!

 ……まさか……エースだなんて……。

 あっ!おっさん!またこの主人公の特権をいとも簡単に使いやがって!まぁいいや、これは好都合だっ。あのな、取り敢えずお願いなんだけど……。

 あぁ?なんだなんだ?年上にものを頼むときは敬語だろ?

 ……っ!……お願いがあるのですが、暫くの間その独り言を……。

 ……ん?なんだこれ?あぁ、今朝のやつだっ。このおかしな会話文はなんなんだ?……えっと、やばいぞやばいぞ、印南が……。

 わあわあわあっ!なんで印南まで入ってくるんだよ!?ここは主人公の特権……。

 ……で、お願いはなんなんだよ?

 ……ん?誰だこいつ?なんかさっき聞いた声に似てる……。誰なんだよ?

 ……あぁ?俺か?俺はな……。

 ……あぁ、今朝の奴か!久しぶり!誰だか分からんが。

 ……おう!久しぶり!お前と会話するのは二度目だなっ。俺はな……。

 あわわわわっ!だから勝手にそこで会話しない!おっさんは正体ばれたらいけないの!

 ……おっさん?こいつ、おっさんなの?どこのおっさんだよ?何処にいんだよ?

 ……あぁ、俺は……。

 だーかーら!勝手に会話しない!勝手にこの場所使わない!取り敢えずもうここから出てけ!おっさんは独り言言うなよ!

 ……えっ。

 ……これどうやって出るんだ?

 ……。

 あぁ――――っ!!もう!結局ぐだぐだじゃんか!

 そう思いながら俺は地団駄を踏んだ。




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