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第十三話 おっさんはびっくり


 「……お前って、意外ともてるんだな」


 二階へ辿り着き、科学室を調べている最中におっさんがそんなことを言った。


 「はぁ?そんなわけないだろっ。何を見てそんなことを言うんだよ」


 俺はおっさんの言葉に否定する。もててたら今頃彼女がいるさ。

 しかしおっさんはそんな俺のことを呆けた顔で見つめながら、また俺に言葉をかける。


 「……本当に何も気づいてないのか?」


 「……はぁ?何が?」


 「……はぁ―――っ。先が思いやられるよ」


 「なんでだよ?」


 おっさんは何故か俺の顔を見て溜息を連発し始めた。何だよ、俺なんかしたっけ?

 俺が首を傾げて悩んでいると、おっさんが俺に尋ねてきた。


 「お前の好きな東ちゃーんには、早く告白しないのか?」


 「……なっ!?なんでおっさんがそれ知ってるんだよ!?」


 「そりゃさっきの会話で誰だって分かるさっ。……お前と東以外にはな」


 そう言っておっさんはまた俺に呆れ顔を見せた。

 ……ええっ!?なんでさっきのでバレるんだよ!?なにこのおっさん!?

 そしておっさんは俺に解答を促した。


 「でっ、どうなんだよ?いつになったら告白すんだ?」


 俺はそう尋ねられると、顔をそっぽに向け少し頬を赤く染めた。そして悩んだ挙げ句答える。


 「……その内、近いうちに絶対するよ。……卒業までには」


 するとおっさんはあからさまに不服そうに声をあげた。


 「はぁーっ!?なんだそのへっぴり腰はっ!早く告白しろよっ!」


 「でっ、でも東には……好きな人がいるし……」


 そう言うと、おっさんがまた大きな溜息を吐いた。全く、おまえって奴は……。と呆れたように呟いている。

 ……だってそうだろ?好きな人がいるってわざわざ言ってきたのに、そんな奴に告白するなんて……。なんか申し訳ないし、可哀想だし、100%振られるし……。

 この前は彼氏が居るかもしれないという理由で告白を躊躇していたのだが、今回はそう言う理由で俺は告白を躊躇っていた。……はぁ、でも好きな人教えるって言っちゃったしなぁ……。

 すると、そんな俺を見ていたおっさんが突然何か思いついたように手で小槌を打ち、そして俺に賭を持ちかけてきた。


 「じゃあ、こうしようっ!俺が無事帰れたら、明日お前は東に告白しろっ!」


 「はぁっ!?何だよそれっ!」


 俺はそんなおっさんの提案に驚く。いやっ、むりむりむりっ!明日なんて急すぎる!

 そんな焦る俺に向かっておっさんは畳み掛けるように言葉を続けた。


 「もし俺が帰れなかったら、……明日印南に告白しろっ!」


 「さぁ!早く入り口を探そうかぁ―――っ!!」


 そんなことあってたまるか!俺は必死に入り口の捜索を始めた。そんな中、おっさんは顔に笑みを浮かべながら言葉を付け加えた。

 

 「もし俺が帰れたときには、明日一日、地底人特製専用地上観察カメラでお前の事ずっと見ててやっから、安心しろよ?」


 俺はなんとしてでも早く入り口を見つけようと思った。……あぁーっ、もう!この際東には当たって砕けろだっ!

 そして俺たちは、科学室を後にした。


 

 地学室は先ほど悪夢を思い出しながら頑張って探したので、お次は化学室へと向かった。

 そこにはあらゆる実験道具が置かれていて、如何にも理科教科の部屋といった雰囲気が漂っていた。おっさんがビーカーを割りそうになったが、しかし入り口は見当たらなかった。俺がその部屋を出ようとすると、しかしその時おかしな匂いが漂ってきた。何なんだこの匂いっ!?まさかっ、実験に失敗して毒ガス発生とかっ!?

 俺はそう思い、取り敢えず制服の袖で鼻を覆うと準備室へと向かっていった。そしてばんっと扉を開ける。


 「大丈夫ですかっ!どうかしたんですかっ!」


 そう叫んで俺は足を踏み入れる。と、そこには何かが入れられたビーカーから煙がもくもくと出ていた。その周辺には実験を行ったの形跡あり。しかし周りに人影は無かった。もしかして、これは誰かの犯行!?恨みでもある人物への腹いせか!?そう思って俺はどう煙を止めようかと慌てていると、しかし奥から人の気配が近づいてきた。

 もしかして、犯人か!?そう思って何処に隠れようか慌てていると、その時奥から犯人が出てきてしまったっ!


 「……あぁ?なんだ?お前は?」


 ……犯人……じゃなかった。化学の先生だ。えっと、佐山先生だっけ?何だか目つきが怖い人。俺はそんな先生の登場に茫然としていると、その先生がビーカーに近づいていった。あっ!それは毒ガスっ!

 しかし俺がそう言葉を発する前に先生はビーカーの前に辿り着き、そしてその香りを嗅ぐと……卵を割って入れた。……は?

 

 「……やっぱりチキンヌードルには卵だよな。うん」


 先生はそう呟くと割り箸を割ってその謎のビーカー―――もとい即席麺を口にした。

 あぁ、そう言えばラーメンの匂いだわ、これ。ってなんで科学室でラーメン作って普通に食べてんだよっ!俺にもくれっ!しかし先生の目つきが怖いので俺はそろそろと退散した。



 そして次は生物室を調べた。ホルマリン漬けが怖い……。昔胎児のホルマリン漬けも存在したらしい。そんなのあってもいいのか!?まぁ、噂だけど。おっさんはというと、水槽の中の魚に釘付けになっていた。そして一言。


 「イカっ!イカは居ないのかっ?」


 ここは水族館じゃないんだけどな。そしてどうしてそんなにイカが好きなんだ。



 そしてお次は一階下がって保健室等を見ていった。しかしこちらは特に気になる物はなし。唯一気になったのは、田中君がまだ保健室で寝ていたことだろうか。……大丈夫かな?まぁ、寝イビキをかいていたから大丈夫だとは思う。何せ寝不足だったんだもんな。そして保健室の先生居なかったことが本当なのに怖気が走った。危ない危ない。



 そして校舎内は全て見終わった。現在何も手がかりは無し。

 時計は現在5時40分。結構時間がかかってしまった。これからスピードアップしなくては。タイムリミットまであと2時間20分。

 しかしとなると、全て見て回るのは少々きつくなってきた。何せこの学校広いからな。 そんなわけで、俺はやまを張ることにした。えっと、運動場と別館どっちにしようかな……。

 俺がそんなことをしていると、おっさんが叫んだ。


 「俺は絶対別館だと思う!」


 おっさんがそう言ったので、俺はそれを信じることにした。

 

 「よし、じゃあおっさんがそう言うんだったらこっちだ!外の運動場だ!」


 「あぁ!?それ逆だろうが!」


 そう言って俺は昇降口へと歩き出した。

 おっさんが来てから俺の運が最悪になったんだ。おっさんの感は外れるに決まってる。

 俺はおっさんの不運を信じることにした。



 さて、場所は変わって外、テニス場。部活動は遅くて7時までなのだが、どうやら大会は近くないようで片付けに入っていた。……やってれば女子のスカートが見られたかも……とかは考えない考えない。そしたらきっとおっさんがまた別行動を取ってしまっただろうから、これは運が良かったと捉えよう。しかし、入り口の気配は全くなし。


 続いて次は野球場へ。こちらはまだ練習をしていた。皆個人練習に励んでいる。

 

 「よーし、次は甲子園の土を持って帰る練習だ!」


 「うぃーっす!」


 ……その練習の必要はあるのだろうか?いや、無いだろう。

 そんな光景を横目で一瞥しながら入り口を探していると、おっさんが何だか話しかけてきた。


 「なぁなぁ、俺昔何部だったように見える?」


 おっさんが興味心身に俺に話しかける。それなので、俺はきちんと正直に答えた。


 「そんな青春時代がおっさんにあっただなんて俺は信じられないし信じたくない!」


 おっさんが怒って俺の肌に爪を立てた。いだぁっ!それ地味にいたい!

 するとおっさんが少しいじけたように声をあげた。


 「おっさんにだって青春時代はあったさっ!俺は、こう見えても野球部でな、そりゃーモテてモテて困ったもんだよ!全国の南ちゃんが『南を甲子園に連れて行って』と言ったもんさ!」


 「へぇー。そんな物好きな南ちゃん何処にいるんだろうね?」


 「……俺の母ちゃんさっ」


 「……うわー、なんかさらっとかっこいいこといったよこのおっさん。しかもそれじゃ一人だけじゃん。全国の南ちゃんはたっちゃんかマネジメントにしか興味ないよっ、きっと」


 「あと、俺のお袋も婆ちゃんも南ちゃんだ」


 「……南ちゃんいっぱいいて良かったねっ」


 そう言って俺はおっさんを哀愁の目で見つめた。

 そして今度は反対に、俺がおっさんに質問をかけた。


 「じゃあさ、おっさんっ。俺、何部だったように見える?」


 そう尋ねると、おっさんは俺の顔を訝しむようにじっと見つめて、そして答えた。


 「なんか青春っぽい部活とか入っていたようには思えないし思いたくないなっ。晩年帰宅部のエース?」


 俺はおっさんを睨め付けた。……俺もそれやったけどっ、すんごいむかつくなぁー。

 俺はそんなおっさんの答えにいじけ、そして声をあげた。


 「違うよっ、そんなわけないだろ?俺もちゃんと部活してましたーっ!これでも野球部のキャプテンですーっ、エースですーっ」


 「嘘ですー」


 「嘘じゃないですー、本当ですー」


 「いや絶対嘘ですー。信じないですー」


 「絶対嘘じゃないですー、本当ですー」


 「いやいや絶対……」


 「何なんだよこれっ!!いつまで続けんだよ!!」


 俺は伸ばすボー線攻撃にきれた。いや、やり出したのは俺だけどさっ。そして正真正銘俺は野球部のキャプテンだっ!

 俺はそう心の中で叫びながら、少し昔のことを懐かしく思いだした。

 そう昔でも無いのにとても懐かしく感じるのは、俺が今東京に出てきているせいもあるのだろうか。中学校時代の俺は、結構野球一筋な少年だった。勉強なんかテスト前にしかしなかったし、当然ながら恋愛の経験は全くなかった。毎日のように部活に明け暮れて、必死に練習したものだった。その甲斐あってかキャプテンの名を貰い、そして恥ずかしながらエースを務めていた。まぁ、田舎の公立中学で県大会にも出場出来ない弱小チームではあったが。

 そんなことを考えて懐かしく思っていると、しかしおっさんは全く認めない様子で疑いの目を向け続けていた。


 「えーっ、お前がエース?そしたら俺は今頃メジャーリーガーになってるさっ」


 おいおい、どんだけ俺は出来ない奴だと思われてるんだ。

 俺はその言葉を聞くとむっとして、そして言い放った。


 「本当なんだからなーっ!じゃあ、少し見せてやるよっ!」


 俺はそう言うと、野球部に少しだけ道具を貸してくれと頼みにいった。



 交渉は案外簡単に終わり、俺達は少し場所を移した。現在地は、野球部が練習していた野球場の奥のバッティング場。……こんな所あったんだ。知らなかった。そこはバッティングマシンが幾つかセットされており、その後ろには結構高くまでネットが張られていた。おっさんに実力を見て貰うには打って付けだ。まぁ、とはいっても最近は全く練習をしてないわけで何処まで出来るかは全く分からないが。しかし、やってみる価値はあると思う。

 そんなわけで、俺はバットを構えバッターボックスに入ると、バットを構えた。


 「おっさん見てろよーっ、俺の実力をっ!」


 俺は隣のバッターボックスからこちらを覗いているおっさんに向かってそう言い微笑むと、開始ボタンをかちっと押した。開始合図の、赤いランプが目の前でついた。


 バットを構えて球を待つ。と、その時マシンの手がぐるんと回り始め、そしてこちらに向かって真っ白な球体を投げつけてきた。


 まず一投目。俺はタイミングを見て、バットを振る。


 『バンッッ!』


 「なんだ、空振りじゃねぇか」


 「うっせえーっ!最初は様子見なのーっ!」


 一球目は見事に空振り、俺の後ろの金網に勢いよくぶつかった。……流石に一球目だけは打てなかった。

 

 そして俺はまたバットを構えた。しかし、さっきの球でタイミングは分かった。この俺が使ってる機械は同じ場所に同じ速さでしか打ってこないノーマルのやつだから、次はきっと打てる。

 そう心に言い聞かせ、そしてバットを強く握りしめると俺は次の球を待った。


 次は2球目。マシンの手が回り始めた。俺はバットをしっかりと構えて歯をギリリと噛み足を踏ん張ると、タイミングを見計らって思いっ切り振った。すると……。


 「カキ――――ィィンッッ!」


 金属の鋭い音がその場に鳴り響いてボールが空高く弾き返されていった。そして、一番奥の最も高い位置にボールが当たってはするすると地へ落ちていった。

 俺は思わず呆気にとられて少しの間ぽかんとする。しかし俺は自分がボールを打ったことを自覚すると、おっさんに向かって嬉しそうに笑い、そして指を指して声を荒げた。


 「おいっ!すげーだろあれっ!!俺が打ったんだぜ!最近全く練習しないから打てないかもと思ったけど、ほら、ちゃんと打てただろう?」


 そして俺は、もしかしてこれが試合中ならホームランも夢じゃ無かったかも知れないと思い、とても嬉しくなった。エースも伊達じゃないってことさっ。

 おっさんはそんな俺の事を見て、あり得ないと言うように途轍もなく吃驚していた。……どんだけ俺が駄目な奴だと思ってんだよっ。おい。

 

 俺はその後もすべての球を打ち続け、そして暫くしたときに赤いランプが消えマシンが止まった。




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