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第十一話 おっさんはバイリンガル


 「はぁ―――っ、やっと放課後だ――っ」



 あの後、何とか印南の誤解を解きおっさんを救出し、なんだかんだで今日一日の授業をすべて終えた俺は、首を疲れたようにぐるりとまわしながらそう独りごちた。

 今日はいろいろなことがありすぎた。出来れば早く家に帰って早く寝たい。

 しかしそう言うわけにもいかず。俺は、普段放課後に行くことはあまり無い特別棟の階段を上っていた。

 

 「まったく、今日はひでぇ疲れる日だなっ。おっさんもう腰が痛ぇよっ」


 「……それをお前が言うかっ」


 俺は今日の疲労の最大の原因であるおっさんにつっこみを入れながら、特別棟三階を目指して歩いていった。

 今の時間は4時ちょうどほど。完全下校は8時なので、タイムリミットまであと4時間。それを過ぎたら、おっさんとの同居生活確定だ。それだけは、なんとしてでも防がなくては。俺はそう思うと、階段を上る足を少し速めた。早く見つけて、家に帰るぞっ!



 特別棟三階英語室。そこには、授業で使うらしい教材や英語の本、CDなどがずらっと並べておいてあった。何処を見渡しても英語だらけで、一瞬自分が外国に居るような錯覚が起こる。……しかし考えてみるとそれはまず無い。何故なら、俺は飛行機が嫌いだからだっ!あんな気持ちの悪い鉄の固まりにずっと乗ってられるわけ無いだろうっ!

 俺がそんな事を思っていると、おっさんは辺りを見渡して茫然としていた。この学校を見て「イギリスか?」と尋ねた奴だ。もしかしたら本当に外国へ来た気分になっているのかも知れない。そう思って俺が暫くおっさんを観察していると、おっさんが俺の存在に気が付いて外国語で挨拶を交わしてきた。


 「Selamat siang. How are you? I`m very tired. 其我累了,原因你是傻瓜。Oh, Je veux rentrer à la maison bientôt.」


 俺はおっさんの外国に対する考え方が気になった。そしてこの場合、おっさんは実は頭がいいと考えるべきなのか、根っからの馬鹿だと考えるべきなのか悩むところである。

 ……多分後者だろう。英語→外国語→インドネシア語、英語、中国語、フランス語……となった感じだろう。英語を見てこういう思考になるのは重傷の馬鹿であると考えて良いと思う。……まぁ、俺には英語しか分からなかったけどねっ。……でもおっさんより頭が悪いとなると心外だ。勉強しよう。



 次に社会科室、国語室をまわった。おっさんが本や資料に埋もれて潰れかけたりしたが、入り口は見つからなかった。

 そしてその次にパソコン室へ。閉まっていると思って、どうやって進入しようかと悩んでいたのだが、しかし予想外に開いていた。どうやら情報の先生がパソコンを弄っているらしい。俺は「忘れ物をしましたーっ」と言いながら何とか進入し、そして入り口の捜索を始めた。

 パソコンがずらっと数十台並ぶその部屋をきょろきょろしながら入り口を探す。しかしそれらしきものは見当たらなかった。それなので俺は部屋を後にしようとする。……が、まぁーたおっさんがいない。今度は何処だよ?そう思いながら辺りを見渡すと、今度はすぐに見つかった。 

 ……情報の先生の頭の上だ。

 情報の先生にはおかしな特徴チャームポイントがある。それは、かなり薄くなり、殆ど無いに近づいているその髪の毛を後ろでまとめ上げたポニーテールだ。何故このような髪型なのかは、誰にも分からない永遠の謎である。

 おっさんはそんな情報の先生の―――ポニーテールにぶら下がっていた。どうやらおっさんは地面に落ちそうになり、頑張ってポニーテールにぶら下がっている状態のようだ。

 いやいやいやっ、落ちたっておっさんならきっと大丈夫だからっ!それよりもポニーテールが切れたらどうするんだよっ!?

 そう思って俺はおっさん―――もといポニーテールを救出しようと駆けだした。

 あともうちょっとっ!しかし俺が間に合うすんでで、残念ながらおっさんが落ちてしまった。……ポニーテールの数本の髪と共に。

 その時、その衝撃でポニーテールに結っていたゴムが弾け、そして髪の毛がわさっと宙に舞っては先生の肩へと着地していった。


 「あれっ?何だか頭がチクッとしましたねぇーっ。何故でしょうか?そして髪が解けてしまいましたぁーっ。何故でしょうねぇーっ。不思議ですねぇーっ。君、何でだと思います?分かりますかねぇーっ」


 「わっわっ、分かりませんっ!失礼致しましたーっ!!」


 俺は首を傾げる先生を一人パソコン室に放置し、おっさんを握りしめてその部屋を後にした。……せっ、セーフ……だよね?



 急いで逃げてきた為にあがってしまったその息を整えると、俺は静かに図書室へと入っていった。……図書室では静かにしましょう。

 知性の香り漂うその部屋には、雑誌を読む人や漫画を読む人、勉強をする人に本を読む人と様々な目的の人が居た。

 そこはそれなりに広く、そして本の品揃えも良い事で結構評判のいい図書室だ。

 あまり俺は利用したことは無いのだが、結構読みたい本は見つかるし、無かった場合は頼めばすぐに買い寄せてくれるらしい。

 そんなわけで、俺は少し物珍しそうに見物しながら入り口捜索を始めた。

 まず雑誌コーナーを通り過ぎて漫画コーナーへ。……あっ!この漫画読みたかったんだよなーっ!……後で来て読もっかな?帰宅部だから放課後暇だし。

 そんなことを考えながら、次に気を取り直して辞典、文庫コーナーを通り過ぎて心理本コーナーへ。

 するとそこの隅に置いてあった本のタイトルは、―――今すぐ簡単!分かりやすい呪術入門編。

 ……誰か読む人居るのだろうか?……居たら怖い。

 その他にも殺人関連のラインナップの恐ろしいタイトルの本が置いてあったが横目で見ながら通り抜け歴史コーナーへ。……何故か幕末の本が異様に多かった。好きな人が居るのかな?……坂本龍馬とか?……いやっ、絶対に新撰組だろうな。

 そんなことを考えながら、しかし歴史は今日生まれたトラウマがあるのですぐに通り抜ける。そして次に古典、英語、数学、理科……と教科関連のコーナーを軽く見ながら通り過ぎ、そして小説コーナーへとやってきた。やはりここは他よりも人が多い。

 俺は軽く見渡しながら通り抜けようと歩き出した。しかしそんな時、俺は後ろから誰かに手首を捕まれた。


 「……ん?誰?」


 俺は少し驚きながら後ろを振り返った。するとそこに居たのは、可愛らしい顔で俺の事をじっと見つめている見知った一人の少女だった。


 「……なんだ東かっ。また本を借りに来てたの?」


 俺の手首を掴んだのは東だった。俺がそう尋ねると、東の顔が少し明るくなったように見えた。


 「あっ、よかったーっ!やっぱり山口君だーっ!人違いだったらどうしようかと思ったよーっ」


 「山本ね」


 そう言って東は微笑んだ。しかし、どこか悲しそうに見えるのは気のせいだろうか。

 そして東は俺の質問に答えるために口を開いた。


 「今日はねーっ、これっ!『2+1』と、『TABAKOの依存にはご注意を!』を借りるんだーっ!『2+1』はねーっ、何故か今までずっと、出来る友達友達三人グループばかりの主人公の女の子が、しかもいつも主人公以外の二人の方が仲が良いという状況に悩み苦しむ話で、『TABAKOの依存にはご注意を!』の方は、実はたばこには人を操る事の出来る物質が入ってて、たばこを吸った人々がみんな新しく総理になった歴代最年少の男に操られ、日本が独裁政治状態になる話なんだよーっ!」


 東が楽しそうにそう話した。東って結構本好きなんだな。今まであんまり知らなかったけど。

 そんな東の説明に応答するために、俺も口を開いた。


 「へぇーっ、今日のは何だか面白そうだねーっ!俺はたばこの方が気になるかなー。……ん?でももう一冊あるじゃん?それは……何なの?」


 俺は二冊の本の下から覗く三冊目の存在に気づきそう尋ねた。……・えぇっと、簡単、美味しい、彼の胃袋を掴む……。

 俺が東の持っている本を覗いていると、それに気づいた東は何故か慌ててその本を隠すと焦りながら説明を始めた。


 「わあっ!?えっ、えっとこれは、その……っ!りょっ、料理を、作ってみようかなーって思ってねっ!あっ、でっでもいっつも私よく料理するんだよっ?でっ、でもたまには本とかも参考にしてみるのもいいかなぁーって思ってっ!そっ、そのっ!私っ、ちゃんといつも料理とかちゃんとしてるんだよーっ!?」


 「えっ、あっ、そうなんだっ!……なっ、何というか……頑張ってねっ?」


 「うっ、うんっ!応援ありがとーっ!山梨くんっ!」


 「山本ね」


 何故東はこんなに慌てているのだろうか?俺は首を傾げながら、しかし応援の言葉をかけ、つっこみをした。

 ……料理をいつもしてるのは偉いし凄いと思うけど……、料理本を参考にしようとすることってそんなに恥ずかしいものなのだろうか?別に熱心で可愛らしくて良いと思うけど。

 俺はそんなことを思いながら東のことを少しの間見つめていた。すると、何故か東の顔が赤くなっていくのが見えた。……ん?暑いのかな?

 しかしその時俺は用事をやっと思いだし、その場を後にしようと東に背を向け歩き出した。


 「あっ、そうだっ、俺は用事があるんだった。んじゃあ東っ、またっ!」


 そう言って俺が歩き出そうとすると、しかし東が慌てたように俺の手を取った。


 「あっ!まっ、待って山本君っ!」


 「……ん?何?」


 俺はそんな東の様子を見て立ち止まると、再度東の方へ振り返った。

 するとそこにあったのは、頬を赤く染めて少し真剣そうな表情を浮かべた東の姿だった。

 俺が首を傾げていると、東が口を開いた。


 「……お話があるんだけどっ、……いいかな?」


 その表情は何だか少し悲しそうに見えた。そして明らかに冗談では無い、真剣な面持ちだった。

 俺はその東の表情を見て、思わず了解の返事をした。早く済ませなくてはいけない用はあるのだが、しかしこんな表情を浮かべる少女を一人置いて去るなんて事は、俺には出来なかった。




※「Selamat siang. How are you? I`m very tired. 其我累了,原因你是傻瓜。Oh, Je veux rentrer à la maison bientôt.」

 ・Selamat siang.―――こんにちは(インドネシア語)

 ・ How are you? I`m very tired.―――ご機嫌いかがですか?私は疲れました。(英語)

 ・其我累了,原因你是傻瓜。―――何故なら貴方が馬鹿だからです。(中国語)

 ・Oh, Je veux rentrer à la maison bientôt.―――あぁ、早く私は家に帰りたい。(フランス語)


 頑張って調べましたが、間違っていたら大変申し訳ありません。

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