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ここはなにかが欠けている

図書館の姫君

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/29

王立中央学院にて、一番楽しみにしていたのがここ図書館だった。


貴族準貴族は入学必須だけど、実のところ学ぶ事はほぼ終えている。

大公令嬢という身分では入学以前に身に付ける必要があったから。

正直、義務として復習と今後の顔繋ぎの為に入ったようなものだ。


教員達も幼い頃から顔見知りばかりだし、今の学院長も知り合い。

王国の要職に付いている人達は、大抵親戚か知り合いばかりだし。

最初から「講義には出なくてもいいかもねえ」と言われている。

あまりお言葉に甘えるのもなんなので、きちんと講義は出ますね。


それ以外の時間は遠慮なく図書館で過ごさせてもらいましょう。

自宅の屋敷にあった書物はあらかた読みつくしてしまったし。



うわあ。うわあ。うわあ。

歴史、政治、地理、魔術、武術、芸術、解読されていない古文書。

自宅の図書室なんて比較にならないぐらい、刺激的な本が並ぶ。


講義の後は図書館で過ごしているけど、もう暗くなってしまった。

六年十二期で全部読み尽くしてやるぞ!と意気込んでいたけど、

日が暮れるのが早い、早過ぎる!もっと読む速度を上げたい!


書物に万が一にでも燃え移ると拙いので、ここは蝋燭が使えない。

夜間も図書館の扉は開いているけど、月明かりでは読みづら過ぎる。

と言っても持ち運べるような魔道具の照明は大公家にすらない。


どうにか出来ないものだろうか。卒業までに間に合わないな。



うわあ。うわあ。うわあ。

こんな書物までここにあるなんて。


いやあ、末娘とは言え大公令嬢なので、閨教育はあったんだけど。

古文書を解読しながら読んでたら、濃厚な色話を見つけてしまった。

しかも何巻も続いている。ここにあるのが全部だとしたら四十八巻。


ちょっとむずむずが止まらない。手も止まらない。

誰もこっち見ていないと思うけど人目が気になって仕方ない。


学術書目当てだったけど、これは終わらないと次へ進めない。

…うん、中途半端でやめたりすると気になるしね!半端良くない!


終わったら、真面目な書物も探そう。仕方ないのよ。うん。

…こういう書物も、時間があれば…そう、時間があれば!探そう。

いや…時間を作って探そう。うん。そうしよう。うん。


…多分こういうの、まだまだどこかにあるよね?



六年十二期、なんかあっという間に過ぎ去った気がする。


学院の成績は、受講した講義全てずっと首席のままだった。

準王族教育は王立中央学院の教育をほぼ網羅しているからね。

試験も難しいとは思えなかったし、王宮騎士団へも内定してる。

公式には制式騎士団と発表されるけど、そこは極秘事項だから。


講義以外は図書館に入り浸っていた毎日だったけど楽しかった。

わたし付きの護衛の子達には、大分迷惑かけた気がするけど。


ただ正直、護衛の子達よりわたしの方がかなり強いんだ。

体内魔素量で言えば、余裕で王国の上位十人に入るらしいし。

護衛の必要、あんまりなかったかも。油断は出来ないけど。


学院自体にはそうでもないけど、図書館は名残惜しいなあ。

結局三割も読み切れなかった。夜間読めなかったのが痛いね。

卒業生はここを利用出来るそうだし、時間を作ってまた来よう。


しばらくの間、さようならだね。図書館よ、待っていて。



いや、恥ずかしいね。

護衛をしてくれてた子に聞いたけど、わたし異名が付いてたって。

「図書館の姫君」とか。大公家という事もあってそんな異名が。


わたしが六年十二期の間、心置きなく書物を楽しめていたのも、

護衛の子達がそれとなく近寄って来る相手を遠ざけていたらしい。

大公令嬢の肩書に加えて、わたしには上級貴族としては珍しく、

婚約者が候補すらいなかったので、男子生徒が狙っていたとか。


上級貴族の男児は近い年代にいないので油断していたよ。

近付こうとしていたのは下級貴族の三男以降ばかりだったらしい。

わたしって、そんなに隙があるように見えていたのかね?


物理的にも魔術的にも政治的にもどうにでも出来るけど、

煩わしい相手から守られていたのは本当にありがたいと思った。

護衛の子達には改めて感謝だ。ありがとう。



いやあ、王宮騎士団っていいねえ。


他の国でいう親衛隊に当たる訳だけど、割と時間が自由に出来る。

なにせ守るはずの方々が皆様強いんだもの。陛下も殿下達も。

おまけに伯父様や従兄弟達だから「好きにしてていいよ」とか。

気心知れた相手なものなので、つい甘えてしまう。

勿論危急時には対応いたしますとも!お任せを!


そんな訳で、今日は午後から王立中央学院の図書館にいるけれど…

何か探している少年がいるなあ。腕章を見るところ新入生か。


「何かお探しですか?新入生くん」


ちょっと声をかけてみようか。

ああ、そのあたりの書物は向こうにあるね。案内して進ぜよう。

別れ際にその少年は面白い事を言った。


「ありがとうございました、司書さん。

 六年十二期で図書館の書物を読み切りたいので助かりました」


そうか、キミもなのか。

わたしは出来なかったけど、やってみたまえ!応援してるぞ!


あっ、司書と思われちゃった。

でも多分、わたしは司書よりここに詳しいぞ。ふふん。


さて、わたしもまだ読んでいない書物を漁ろう。

次にキミに会えるのを楽しみにしているぞ。新入生くん。

新入生くんには今後しょっちゅう会う予定。

大公は現在の王弟で宰相の地位。

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