図書館の姫君
王立中央学院にて、一番楽しみにしていたのがここ図書館だった。
貴族準貴族は入学必須だけど、実のところ学ぶ事はほぼ終えている。
大公令嬢という身分では入学以前に身に付ける必要があったから。
正直、義務として復習と今後の顔繋ぎの為に入ったようなものだ。
教員達も幼い頃から顔見知りばかりだし、今の学院長も知り合い。
王国の要職に付いている人達は、大抵親戚か知り合いばかりだし。
最初から「講義には出なくてもいいかもねえ」と言われている。
あまりお言葉に甘えるのもなんなので、きちんと講義は出ますね。
それ以外の時間は遠慮なく図書館で過ごさせてもらいましょう。
自宅の屋敷にあった書物はあらかた読みつくしてしまったし。
◆
うわあ。うわあ。うわあ。
歴史、政治、地理、魔術、武術、芸術、解読されていない古文書。
自宅の図書室なんて比較にならないぐらい、刺激的な本が並ぶ。
講義の後は図書館で過ごしているけど、もう暗くなってしまった。
六年十二期で全部読み尽くしてやるぞ!と意気込んでいたけど、
日が暮れるのが早い、早過ぎる!もっと読む速度を上げたい!
書物に万が一にでも燃え移ると拙いので、ここは蝋燭が使えない。
夜間も図書館の扉は開いているけど、月明かりでは読みづら過ぎる。
と言っても持ち運べるような魔道具の照明は大公家にすらない。
どうにか出来ないものだろうか。卒業までに間に合わないな。
◆
うわあ。うわあ。うわあ。
こんな書物までここにあるなんて。
いやあ、末娘とは言え大公令嬢なので、閨教育はあったんだけど。
古文書を解読しながら読んでたら、濃厚な色話を見つけてしまった。
しかも何巻も続いている。ここにあるのが全部だとしたら四十八巻。
ちょっとむずむずが止まらない。手も止まらない。
誰もこっち見ていないと思うけど人目が気になって仕方ない。
学術書目当てだったけど、これは終わらないと次へ進めない。
…うん、中途半端でやめたりすると気になるしね!半端良くない!
終わったら、真面目な書物も探そう。仕方ないのよ。うん。
…こういう書物も、時間があれば…そう、時間があれば!探そう。
いや…時間を作って探そう。うん。そうしよう。うん。
…多分こういうの、まだまだどこかにあるよね?
◆
六年十二期、なんかあっという間に過ぎ去った気がする。
学院の成績は、受講した講義全てずっと首席のままだった。
準王族教育は王立中央学院の教育をほぼ網羅しているからね。
試験も難しいとは思えなかったし、王宮騎士団へも内定してる。
公式には制式騎士団と発表されるけど、そこは極秘事項だから。
講義以外は図書館に入り浸っていた毎日だったけど楽しかった。
わたし付きの護衛の子達には、大分迷惑かけた気がするけど。
ただ正直、護衛の子達よりわたしの方がかなり強いんだ。
体内魔素量で言えば、余裕で王国の上位十人に入るらしいし。
護衛の必要、あんまりなかったかも。油断は出来ないけど。
学院自体にはそうでもないけど、図書館は名残惜しいなあ。
結局三割も読み切れなかった。夜間読めなかったのが痛いね。
卒業生はここを利用出来るそうだし、時間を作ってまた来よう。
しばらくの間、さようならだね。図書館よ、待っていて。
◆
いや、恥ずかしいね。
護衛をしてくれてた子に聞いたけど、わたし異名が付いてたって。
「図書館の姫君」とか。大公家という事もあってそんな異名が。
わたしが六年十二期の間、心置きなく書物を楽しめていたのも、
護衛の子達がそれとなく近寄って来る相手を遠ざけていたらしい。
大公令嬢の肩書に加えて、わたしには上級貴族としては珍しく、
婚約者が候補すらいなかったので、男子生徒が狙っていたとか。
上級貴族の男児は近い年代にいないので油断していたよ。
近付こうとしていたのは下級貴族の三男以降ばかりだったらしい。
わたしって、そんなに隙があるように見えていたのかね?
物理的にも魔術的にも政治的にもどうにでも出来るけど、
煩わしい相手から守られていたのは本当にありがたいと思った。
護衛の子達には改めて感謝だ。ありがとう。
◆
いやあ、王宮騎士団っていいねえ。
他の国でいう親衛隊に当たる訳だけど、割と時間が自由に出来る。
なにせ守るはずの方々が皆様強いんだもの。陛下も殿下達も。
おまけに伯父様や従兄弟達だから「好きにしてていいよ」とか。
気心知れた相手なものなので、つい甘えてしまう。
勿論危急時には対応いたしますとも!お任せを!
そんな訳で、今日は午後から王立中央学院の図書館にいるけれど…
何か探している少年がいるなあ。腕章を見るところ新入生か。
「何かお探しですか?新入生くん」
ちょっと声をかけてみようか。
ああ、そのあたりの書物は向こうにあるね。案内して進ぜよう。
別れ際にその少年は面白い事を言った。
「ありがとうございました、司書さん。
六年十二期で図書館の書物を読み切りたいので助かりました」
そうか、キミもなのか。
わたしは出来なかったけど、やってみたまえ!応援してるぞ!
あっ、司書と思われちゃった。
でも多分、わたしは司書よりここに詳しいぞ。ふふん。
さて、わたしもまだ読んでいない書物を漁ろう。
次にキミに会えるのを楽しみにしているぞ。新入生くん。
新入生くんには今後しょっちゅう会う予定。
大公は現在の王弟で宰相の地位。




