9話
ご主人のレオナルトが、ユウリを引き取りに来たのは、レオと別れて大分たった時間でした。
レオナルトの姿を見た途端、ユウリはもう嬉しくて嬉しくて
ミャーミャー
鳴きながら檻から前足を懸命に出します。
「あらあら、余程寂しかったのかしら?」
オーナーである奥さまが、ふんわりと黒子猫を抱き上げ、飼い主であるレオナルトに引き渡しました。
大きな手を差し伸べる、温かいご主人の腕の中に早く落ち着きたくて、じれったくなりユウリは奥さまの手を蹴り上げ、レオナルトの胸に飛び付きました。
「──おっと!」
レオナルトは驚きながらも笑いながら、シャツにしがみつく小さなユウリのお尻を押さえ、落ちないよう抱き締めます。
「寂しかった? ごめんね」
背中を撫でるご主人の手が何てあったかくて優しいんでしょう。
ユウリはうっとりしてしまいます。
「さっ、帰ろうね」
奥さまから今日一日のユウリの様子を聞いて、代金を支払い終わると、レオナルトはバスケットを出し、ユウリを中に入れようとしました。
──が
ミャーミャー
ユウリは拒絶。
離すまいと爪を伸ばし、必死にご主人のシャツにしがみつきます。
「ユウリ、駄目だよ。中にお入りよ」
レオナルトもシャツから子猫を剥がそうとしますが、爪がしっかりと刺さりはがれません。
無理に剥がすとシャツが破けそうな勢いです。
「あらら」
奥さまも驚いてユウリの前足を掴み、シャツから爪を外そうとします。
「……良いです。このまま帰ります」
レオナルトが、やんわりと制しました。
「人混みの中でパニックにならないかしら?」
「歩いて五分ほどですし。背広で覆って行きます。家に帰れば落ち着いて自然に離れるでしょう」
奥さまに、そうレオナルトは言うとにこりと微笑みました。
子猫を抱いて足早に帰宅したレオナルトは、やれやれと胸に引っ付いたままの飼い猫を胸に抱いたまま、ソファに座り何度もその小さな頭と背中を撫でてやります。
「ほら、もうお家だよ。大丈夫だから爪を引っ込めて。このシャツは僕の婚約者の贈り物なんだ。引っ掻き傷なんか作ったら浮気と間違えられて、僕の顔を引っ掻かれてしまうよ」
分かったのか分からなかったのかは知りませんが、ユウリはクンクン鼻をならし、キョロキョロ辺りを見渡すと
ミャー
一声鳴いて、ようやくシャツから離れます。
それから降りたそうに下を見てモジモジしているユウリを床に下ろしたレオナルトは、ようやく着替え始めたのです。
(お家でし)
ユウリは部屋中に自分で付けた臭いの後を懸命に嗅いで、ようやく安心したようです。
ミャー
(お腹さんがペコペコでし)
シャワーを浴びてきたご主人にユウリは、まとわりつきます。
「ごはん? 支度するから待って」
ご主人様の優しくて甘い声音も一緒です。
離乳食に切り替わり、くちゃくちゃに柔らかくしたご飯を、最初の一口、ご主人が自分の指に付けてユウリのお口に入れます。
ユウリはこの最初の一口がいっとう好きでした。
ご主人様の指の匂いに感触。
いつもお腹や背中、喉元を良い子良い子してくれる、あったかくて優しいご主人様のお手て。
「今日はいっぱい食べたね」
お皿まで綺麗に舐めたユウリにレオナルトはニコニコして、ユウリの頭をナデナデします。
ミャー
お皿を片付けているレオナルトを呼ぶように、ユウリは鳴きました。
「?」
不思議がってレオナルトはユウリを視線で追います。
トコトコと短めのあんよで跳ねるように行く先は、ユウリ用のおトイレでした。
「あっ……」
かしかしと粗めの砂を軽くほじると、ユウリはちょこんと座り見事に用をたしました!
後ろ足でかしかしと埋めるような作業を済ませたユウリは、レオナルトを見て
どだ!
と言わんばかりに
ミャー
と鳴きました。