8話
「聞き覚えのあるうっさい声がするかと思えば。や~っぱチビか。少しは大きくなったか?」
「チビじゃないでし、ユウリでし」
顔見知りが現れたせいでしょうか? 途端、ユウリの涙は引っ込みます。
少々おませな切り返しもしました。
「ついさっきまで『ご主人様あ』って泣いてたくせに」
笑いながら言い返され、ユウリは恥ずかしさに俯いてしまいました。
「……だって……あたし、また一人ぼっちになったんかと思って……ご主人様にもう……」
ユウリはまた悲しくなって
ミャーミャー
泣いてしまいます。
(泣くなよ。ユウリのご主人は、別にユウリを捨てたんじゃない。預けただけだ)
(預け……る?)
ユウリは首を傾げます。
(お前、まだチビだからな。心配だから、こう言うペットホテルって言う所で、引き取りの日まで面倒を見るわけだ。今日は会社出勤日で、夜に迎えに来ると聞いたぞ。お前、話を聞いていないのか?)
(聞いてたけど……よく分かりませんでした)
(まだチビだからな~。しょうがないけどさ)
レオは鼻をくんくんさせて、しゅんとしているユウリの顔と自分の顔をくっつけました。
(ユウリの主人は、ちゃんと迎えに来るよ。心配するな)
(はい……)
(まだ予防接種前だから、外には出れないけど、その後は──ほら、あそこ)
レオが向いた先には、何て楽しそうな遊具が置いてあります。
色鮮やかな囲いの中に、芝のような緑の物が巻き付けている背の高い柱。
そこから別れている枝。
枝から飛び移れるようにしてある壁の出っ張り。
そして床には、潜りがいのありそうな筒に、数種類の爪研ぎ。
フワフワの沢山の鞠に尻尾に毛がない動く小さな動物のおもちゃ。
他にも色々揃っています。
(うわ~!)
ユウリの真っ黒で大きなお目めが、キラキラします。
(俺も毎日こっちにきて運動してるんだ。家猫は外に出ないからな)
家猫?
また新たな言葉にユウリは首を傾げましたが、他の、自分と同じように預けられている猫達が遊び出しているのを見て、そっちに意識が行ってしまいます。
(チビも、もう少したったらあそこで遊べるさ)
(楽しみでし)
すっかり機嫌の直ったユウリを見てレオも一安心。
「こおら! レオ! 」
その時、レオの身体を抱っこしてユウリから引き離した人間がいました。
ここのオーナーで、動物病院の先生の奥様です。
「お預かりしている子に、ちょっかい出してるんじゃないの。お前は本当に女の子が好きねえ」
ニャー
(失礼な! 慰めていたんだぞ! )
と、レオは抗議します。
けど、それは声だけで奥さんに抱っこされて、背中を撫でられて気持ちが良いのか、ゴロゴロと喉を鳴らしています。
(じゃあな、チビ)
(はい。またでし)
抱っこされたままペットホテルから出ていくレオを見て、ユウリは早くご主人様のあったかい腕の中でねんねしたいと思うのでした。