2話
久々投稿。
「少し弱ってるね。とても小さいし。生後二週間前後かな? 一匹しかいなかった?」
子猫を乾かしながら、入念にお医者様は子猫のチェックをします。
「はい。見つけた時にはこの子しかいませんでした」
「猫は生来臆病な動物だから、拾われていなければ近くで彷徨いてるかもしれないな」
「……」
「──あは、足が短いなあ。マンチカン辺りの混種かな。しばらくうちで様子見るよ。飼うの?」
「日本では“何かの縁”と言うものなんでしょ? 飼います」
「じゃあ、また明日に。容態変わったらこの番号に連絡入れて良いんだね?」
「危ないんですか?」
拾った人間はお医者さんの手の中でミャーミャー鳴きながらジタバタしている子猫を、悲しげに見つめます。
「まだ赤ちゃんだからね。ずぶ濡れだったから熱が出るかもしれないし。先天性の疾患が見つかるかも知れないから──まっ、様子見」
拾った人間は「よろしくお願いします」と頭を下げると
切な気な瞳を向けながら、鳴き続ける子猫の頭を優しく撫でました。
*
子猫は透明の枠の中に入れられても
ミャーミャー
鳴き続けました。
爪で宙を引っ掻くとカシカシと何かに当たります。
(これは何でしか?)
(ここはどこでしか?)
(カカ様)
(みんな)
子猫は怖くて怖くて泣き続けます。
あの大きな人間の大きな手に、ほっとしてては、いけなかったんだ。
あの手の中から逃げて
箱の中で待ってなくちゃいけなかったんだ。
そうしたら
今ごろ、探しに来たカカ様に会えたかもしれない。
兄弟達が帰ってきているかも知れない。
後悔が、更に恐怖と不安を子猫を覆います。
(カカ様、何処?)
ミャーミャー
(怖いよ怖いよ)
ミャーミャー
カシカシ
ミャーミャー
透明で囲まれた箱の中
怖くて怖くて不安で
ミャーミャー
泣きました。
その時です。
(うるさい。他の奴等の迷惑だろ)
泣いてる子猫を叱る声。
ビックリして泣き止んだ子猫は、その声の方を向きました。
(ここは動物の病院。他に治療に来ている動物達がいるんだ。静かに寝てろ)
棚から子猫を覗き込む真っ白なのは自分と同じ仲間だと、何となく分かりました。
ぽん
と棚から降りてきた姿は、真っ白で自分より大きくて伸びやかな手足をした猫でした。
子猫は仲間がいたと言う安心からか、ベソをかきながらも話しかけます。
(びょーいんってなんでしか?)
(怪我したり病気になったりしたら治してくれる所だ)
(けがってなんでしか? びょーきってなんでしか?)
(何だよ、それさえも知らないのか。ったく、まあ、まだ豆チビじゃあしょうがないか)
(まめってなんでしか?)
(……豆はな、人間の食い物。いずれお目見えする時が来るさ。怪我や病気は『苦しい』とか『痛い』とかがずうっと続いて治らないことを言うんだ。とにかく、そう言うのを治す所だ)
(……よく分かりません……)
(怖いところに思うかもしれないが、俺はこの病院の先生に飼われてるんだ。怖いところに同じ猫がいついてると思うか?)
(……怖くないでしか?)
(怖くない。信じろ)
しんじろってなんでしか?
子猫は聞こうと思いましたが、白猫の自分を見る真っ直ぐな青い目を見て、意味が分かったような気がして、コクンと頷きました。
(豆チビ、今日はお前は色々あって疲れてる。しかも雨に濡れた。もう寝ろ。具合悪くなるぞ)
(眠れません。いつもカカ様にお顔をペロペロしてもらって寝まし。……カカ様にペロペロしてもらえないと寝れません)
カカ様のことを思い出したのか、子猫はまた
ミャーミャー
(カカ様カカ様)
と、泣き出してしまいました。
(ああ~もう泣くな。しょーがないなあ、仕切り越しだけど俺がペロペロしてやるからそれで我慢しろよ)
白猫はそう言うと、仕切り越しに子猫の頬をペロペロと舐めてやります。
(何にもなければ、明日には出れるからな? そうしたら今度は直にペロペロしてやるよ)
(はい……ねんねするまでいてくれましか?)
(うん。まだチビだからな、おまえ)
そう言いながら、白猫は一生懸命仕切り越しに
ペロペロ
子猫の頬を舐めてあげました。
子猫は
安心したのか、タオルを抱き締め、大きなお目めをゆっくりと閉じぐっすり寝てしまいました。
白猫は、寝ている子猫を見つめながら元気に育つよう祈らずにはいられませんでした。