14話
(──子猫!)
ゴーティスは前足にめい一杯力を込め、踏ん張り、身体を後ろに反らします。
しかし、あまりに勢いを付けすぎたために止まらず、ユウリを弾き飛ばしてしまいました。
コロコロコロ
軽い子猫は、三回ほど床の上を回転。
目を回しながらも起き上がりましたが
(クルクルしまし)
とヨタヨタと千鳥足で歩くものですから、そのまま壁へ
ゴン
とぶつかってしまいました。
おネンネから目が覚めたユウリは、ジェニーから
(レオが金木犀を持ってきてくれる)
と聞き、大喜びだったんです。
短い足をスキップさせ、ドアの前で待っていたんです。
なので
ジェニーも横にいたんですね。
ジェニーは、レオが飛び込んできた段階で素早く避けたんですが
ユウリは、ビックリして固まってしまったんです。
壁にぶつかり、しばらく動かないユウリを見てビックリしたのは猫達だけではありません。
人間達も然り。
(他所様の猫だよ~!)
ケイン店長に梨琉ちゃん。
それに騒ぎを聞いて駆けつけた奥様でした……。
「申し訳ありません!」
動物病院の先生に、その奥様。
ケイン店長とアルバイトの梨琉ちゃん。
四人に頭を下げられ、子猫のユウリを両手に抱えたレオナルトは、冷や汗を掻きます。
話を聞けば、軽く壁に頭をぶつけただけのようだし、すぐに起き上がったと言うじゃないですか。
──それに今、自分の腕の中にいるユウリはとっても元気です。
「どうか頭を上げて下さい。大したことは無いようですし。猫だって集えば何かしら衝突はありますよ」
「しかし……」
「これからもお世話になるのですから」
困り顔の奥様の手を握りレオナルトは、やんわりと微笑みます。
「……まあ……。でも、このままでは……。そうだわ!今度のお預かりは無料とさせていただきます!」
にこり
レオナルトの満足な交渉の更なるスマイルに
奥様だけではなく
梨琉ちゃんまで頬を染めました。
(ゲキテキメン・イケメンスマイル!)
(爽やかな笑いに、ネチネチしない性格! しかも頭良さそう!)
梨琉ちゃんの脳内映像には、白馬に乗ったスーツ姿のレオナルト。
(ずれてるケインさんより良くない?)
すなわち梨琉ちゃんは
惚れっぽくって
外人好き なようです。
「……あの、話は変わりますが──」
「はいっ!」
自分に尋ねられた訳じゃないのに、思いっきり元気に返事してしまった梨琉ちゃん、今度は恥ずかしさに頬を染めました。
レオナルトは先生に尋ねました。
「この子、ずっと枝にかぶり付いたまま離さないんですが……大丈夫ですか?」
レオナルトがユウリの口から枝を取ろうとすると、顔を横に振り、更にがっしりくわえるで
「ささくれた枝とか、喉や胃に刺さりませんか?」
と、心配なのでした。