13話
レオとゴーティス
視線を合わせたまま、距離を取りつつ、喫茶店の中をグルグル回り、お互いに牽制中。
喉の奥から低い唸り声を鳴らします。
「いや~ん。鉢合わせしちゃったじゃない! ケインさんの馬鹿!」
女子高校生の直球の怒りを受け、ケインはタジタジしながら
「デモ、ホラ『喧嘩するほど仲が良い』って言葉があるジャナイ?」
と、言い訳します。
「前の騒ぎ、忘れちゃったんですか! 二匹が喫茶店内で大喧嘩して、シッチャカメッチャカにしっちゃって! わたし、夜の十時まで残業して、次の日だってバイト日じゃないのに学校まで休んで片付けに来たんですよ!」
(ケインさんに良いところ見せたいという邪な気持ちもあったけど)
梨琉ちゃんの気持ちを、全く知らないケイン店長。
「それは、良い経験シタネ」
何だかずれた受け答えに、極上スマイル。
「……脱力」
この人を好きになるの止めようかな? ──そんな泣きたい梨琉ちゃんです。
それはそうと
レオとゴーティスは大丈夫?
──只今、牽制しながら口喧嘩中。
(何だ、貴様か。毎回やられるのに懲りない奴だな)
(やられた覚えなんか無いぜ。ガキの相手になんかしてられないからな。今回も用が済んだら、さっさと出てくさ)
(ふん、負け惜しみを)
(はっ! 俺はお山の大将の相手なんかしてる暇無いの。せいぜい、数匹の猫達の前でふんぞり返ってな)
(何と礼儀知らずな! ここは私のテリトリー。相手のテリトリーに入ったら、早々立ち去るか挨拶をするかのいずれかであろう! 私は貴様に猫社会の常識を教えているだけだ!)
(あんたの常識が世間の常識だと思うなよ。それに、俺としてはさっさと立ち去りたいのに、あんたがちょっかい掛けて引き留めんじゃないか)
(何だと!)
フーッ
更に声音が低く低く
お互いの目が逆三角形になってきているようです。
レオは抜け目なく金木犀の挿してある花瓶を見つけ、じりじりと距離を縮めるゴーティスを牽制しながら、その花瓶に近付いていきます。
ゴーティスが飛び付いてこれる距離までに近付きました。
──やばっ!
梨琉ちゃんもケインも
ごくり
と生唾。
(ジェニーと会ったか?)
レオの以外な台詞に、ゴーティスは
ピクリ
と、動きを止めました。
その隙にレオは
ピョンとテーブルに飛び乗り、花瓶に挿してある金木犀を口にくわえます。
(貴様! ジェニーと会っておるのか? あやつ、今どこに居る!)
(さあね)
レオの思わせ振りにゴーティス、とうとう大沸騰!
ギィニャャア!!
(貴様!!)
金木犀を口にくわえ、逃げるレオをゴーティスは追いかけ回します。
テーブルからテーブルへ
その度に花瓶を落とし
ランチョンマットを払い
椅子を蹴倒します。
そして
暴れると最も被害の大きいカウンターへ。
「こっち来ンナ!」
ケイン店長の身体を張った必死のブロックに、レオとゴーティスの顔面飛び蹴り。
レオがペットホテルのドアに向かっているのを知った梨琉ちゃんは、先回りしてドアを少し開けました。
猫ですから
少しの隙間があればするりと抜けれるでしょう。
それにレオはスリム猫。
ゴーティスの方が毛並みも立派ですが体型も純血腫なせいなのか、がっちり見事です。
(レオが抜けたら即行ドア閉め!)
そう、決意しタイミングを図っていましたが──
ゴーティス
思ったより遥かに頭が回りました。
「キャア!」
ジャンプして、梨琉ちゃんの頭にダイブ&キック。
驚かせてドアを閉めるタイミングをずらしました。
(逃がさんぞ、レオ!)
捕まえてコテンパンにして、ジェニーの事を白状させてやる
滑る勢いでドアを抜けた先には──
真っ黒黒な子猫が一匹──。