12話
カシカシ
曇りガラスの部分に爪を立て
「開けて」
のサインをする猫。
喫茶店側からは真っ白な腹が見えます。
「あ、ケインさん、レオがお店に入りたいようですよ」
アルバイトの女子高生、梨琉ちゃんが胸をときめかせながら、雇われ店長であるケインに話しかけます。
ケインは平日で暇なせいか、自称『本業』と言っている歌の歌詞を考えていました。
良い調子で思い浮かんでいた時に邪魔され、ケインは投げやりに
「良いデス。アケテ」
と梨琉ちゃんに言います。
「でも……レオは確かゴーティスと目茶苦茶仲悪いですよ? 今、ゴーティス、喫茶店にいますし……」
「ゴーティス、二階へ連れてっテ」
「はあ……」
素っ気ないケイン店長に梨琉ちゃんは少々カチンとしながらも、シルバーの毛並みが美しい長毛猫を抱き上げます。
サイベリアンと言う種類のゴーティスと呼ばれた猫は、猫喫茶の中では唯一、純血統の猫です。
何でも、どこかのコンクールで優勝したとかしないとか。
毛並みも艶々、サラサラ。
緑のお目めも、ぱっちりキラキラ。
体型もほどよい筋肉で美しく、また、とても賢い猫でした。
そのせいか、この猫はこの猫喫茶のボスとなり、喫茶猫達を仕切っているわけです。
「ゴーティス。二階で日向ぼっこでもしててね~」
了解したのかしないのか
ニャー
と一声鳴いたゴーティス。
だけど
賢いゴーティス
(これは何かあるな)
と、尻尾をパタパタさせました。
あ~あ、一波乱の予感。
二階は猫と触れ合いたいお客様達が存分に満喫してもらえるように、椅子と机は置いていないエリアです。
閉店後は、ここが喫茶猫達の寝ぐらとなります。
二階では何匹かの猫達が、既にうつらうつらとお昼寝タイム。
(降りてこないように閉めといた方が良いかなあ……)
梨琉ちゃんはゴーティスを下ろし、そう考えながら二階のドアのノブに手をかけました。
「AAAー! もううるさいなあ! 開けるヨ!」
一階からケイン店長のイライラ声に
カチャリ
と、ドアが開く音。
「ケインさん、まだ開けちゃ駄目!」
そう梨琉ちゃんが叫ぶものの──手遅れでした。
ほとんど同時に
スルリ
と、喫茶店に入ってきたレオ。
梨琉ちゃんの足元を抜け、階段を降りてきたゴーティス。
鉢合わせです。