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猫恋  作者: 鳴澤うた
11/16

11話

お久しぶりです。

「レオさん、何か良い匂いしまし」

予防接種の済ませた子猫のユウリは、退屈な檻の中から出て、お泊まりエリアをあちこち回れるようになりました。


なので、ご主人のレオナルトが会社に出勤する日は、とてもご機嫌。

短い尻尾をフリフリし、兄貴分のレオにくっついて回ります。

一匹が好きなレオでありましたが、小さな子猫が自分を慕ってくっつき回るのを邪険にはできませんし、元々知ったかり屋ですから、話すことを何でも感心してくれる子猫は彼にとって格好の相手でした。


 今日はレオから嗅いだことのない良い匂いが、ユウリを興味の世界へ誘います。

「食べ物の匂いじゃないでし」

「食いしん坊だな。お前」

 呆れながらレオは、自分の身体に付いた匂いの元を探します。


「あっ、これだな」

 柔らかな身体を、くにゃりと回し、背中を舐めます。

 レオの背中には、橙色の小さな小さなお花が、毛と毛の間に幾つか隠れていました。

 真っ白な毛並みが雪のようで、そこにポツ・ポツと付いている小さなお花に、子猫のユウリは興味深々。


 レオは


プルン


 と一振り、二振り。

 小さなお花はレオの身体から離れ、床に落ちました。


 それを見ていたのは

 預けられていた他の猫達やここの住猫達。

 アメリカン・ カールのジェニーが、いち早く近付き言いました。

「金木犀だわ。ここの家には沢山植えてるの」

「キンモクセイ……お花でしか?」

「ええ、そうよ。木に咲くお花」

 ジェニーはクルンとした耳を一瞬だけ立たせました。


「途中で金木犀の木立を潜ってきたからな。それで付いたな」

 それを聞いたユウリはビックリ。

「お家の中にキンモクセイ、あるでしか?」

「ねーよ。ここに来る前に庭にいたんだ」

「見たい! 見たいでし! 連れてって下さり!」


 興奮しておねだりするユウリに、レオは思わず隣にいるジェニーと顔を見合わせています。


 ジェニーはまた一瞬だけ巻き耳を立たせ、ユウリを見つめました。



「俺、いち抜けた」

 そう言ってレオが、そそくさとその場を去ろうとした時です。

「レオ。この子はあなたの娘なんでしょ! 自分の子の願いくらい叶えてやりなさいよ!」

「娘じゃねー! 妹分! 血は繋がってねえ!」

 おせっかいな性分のジェニーは、それ以上に気の強い猫です。

 雄猫であろうとボス猫であろうと怯むことがありません。


「ジェニーが連れていけば良いじゃん。こいつは預かり猫だから庭には出せないけど、喫茶店からなら見れるだろうし、確か店内にも挿してあったぞ」

「私は嫌よ!」

 ジェニーの拒絶にユウリは


 ビクン


と、身体がカチコチになりました。

 それを見てジェニーは慌てて

「違うの。ユウリのお願いを叶えるのが嫌じゃないの」

と、ユウリの顔をスリスリします。


「あいつのことなんか無視すれば良いじゃん。いつも言い返すから喧嘩になるんだ」

「それはレオもじゃない。レオは良いわよ、雄猫同士だもの」

「めずらし~。勇み足するんだ、ジェニーも」


 ニャー


とレオは笑うように鳴きました。


「雄猫には雌猫の気持ちが分からないんだわ」


 ジェニーがしゅんと頭を垂らそうとしたら


 既に先にユウリが落ち込んでいました。


「ごめんなさい……。我が儘言いません。だから喧嘩しないで下さい」


 これ下さい


と、レオが払い落とした金木犀の小さなお花を


 パクリ


と食わえて、はしっこに陣取って、クンクンと匂いを嗅いでいました。


 そのうち寝てしまったようで、規則正しい寝息がします。




「……ちぇっ、しょうがねえな。店内に挿してある奴、失敬してくるか」

「最初からそう言えば良いのよ」

 口達者なジェニーにレオは言います。


「俺はあんたと違って『あいつ』は嫌いなんだ。だから、できるだけ顔を合わせたくないの」

「私だって嫌いよ!」

「へえ~、そう? アマノジャ―クジェニー」


 シャーッ!


 歯を剥き出し飛び込んできたジェニーを、レオは華麗な跳躍で避けると


「襲うお相手お間違いじゃね? 」


と、負けずに減らず口をジェニーにたたき、喫茶店へ続く扉をカシカシと爪を叩くレオでありました。


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