1話
(お空から落ちてくるお水は何でしか?)
鼻先に落ちてきた水に子猫は全身が震えました。
(冷たい)
ぷるる、と顔を横に振ります。
(上にあるのは「空」と言うものだとカカ様が教えてくれたけど)
いつも見ていた青い空とは違い、ここに来てからの空は青くありませんでした。
カカ様の好物の鼠の色です。
ぽつりぽつりと落ちてきて、自分が入っている木箱や身体を濡らすものが『雨』だと言うことは、初めて見た小さな子猫には分かりませんでした。
くうう
自分のお腹が鳴きます。
(お腹さんもお腹がすきましたか? わたしもペコペコでし)
(カカ様は何処に行ったんでしょうか?)
(兄弟達は帰ってこないでしね)
子猫は母猫から切り離され、兄弟達と共にこの場に捨てられたことを理解していませんでした。
他の兄弟達も同じです。
勇気を出して母を探しに木箱から出た子猫。
お腹があんまり空いて、食べ物を探しに出ていった子猫。
小さい人間に抱っこされて行ってしまった子猫。
残されたのは、この全身真っ黒な子猫のみでした。
(お腹ペコペコでし)
(カカ様)
(みんな)
子猫は声の続く限り鳴きました。
もしかしたらカカ様が探しているかも知れない。
ミャーミャー
木箱から出た兄弟達が、場所が分からなくなって迷子になっているかも知れない。
ミャーミャー
子猫は一生懸命鳴きました。
自分の鳴き声で場所が分かるようにと。
ぽつぽつ身体に当たる水が、子猫の毛皮を濡らします。
ふわふわの毛が濡れてぴったり身体にまとわりつき、水滴が滴っても
ミャーミャー
一生懸命鳴きました。
その時です。
大きな人間が子猫の首をひょいと掴みました。
子猫はビックリして固まってしまいました。
「やあ、メスだ」
大きな人間は子猫に向かってそう言うと、鞄の中からタオルを取って子猫を包みます。
(メスって……何でしか?)
子猫はそんな疑問が起きるものの、大きな人間の大きな手の中で、タオルにくるまれる温もりに
何故かほっとして
何故か嬉しくて
ミャーミャー
と泣いてしまいました。
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