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花開いた蕾たち

 皇宮にある皇帝の私室で、二人のΩが顔を寄せながらヒソヒソと話をしている。


「そうだなぁ」


 視線をやや上に向けながら思案顔をしているのはキーシュだ。その顔をやや不安そうに見つめるのは皇帝の寵妃となったルルアーナだった。


「どうしたらいいのかわからなくて」

「難しい問題だよね。僕もどうしたらいいかよくわからなくなるよ」

「キーシュさんもですか?」

「うん。僕はもう三十で体力もないし、それにこれまでずっと蕾宮にいたからね」

「あっ……あの、ごめんなさい」

「あはは、いいよ。気にしてないから」


 キーシュが笑ってそう告げると、ルルアーナがホッとしたような顔をした。


「それにしても、どうするのがいいんだろうなぁ」

「別に嫌というわけじゃないんです。ただ、毎日っていうのに困っていて」

「それに一回が長い。違う?」

「……そうなんです」

「やっぱり。僕もそれは困ってる。だからって嫌だというわけじゃないから拒否するのも変だし、じゃあどうすればいいんだろうって考えているうちにずるずるというか」

「そうなんです」


 キーシュの言葉にルルアーナがひしと腕を掴んだ。年の離れた弟のように感じているキーシュは「可愛いなぁ」と思いながらルルアーナの金髪をゆっくり撫でる。

 そんな二人の様子を、少し離れたところで二人のαが眺めていた。


「わたしのルルはなんて愛らしいんだろう」

「俺のキーシュさんも可愛いですよ」

「わたしのルルは愛らしいうえに扇情的でもある」

「キーシュさんだってエロさなら負けてません」


 皇帝の黒目がすっと細くなった。それを正面から見るシュクラも黒目を少し細め、それからにこりと微笑む。それを見た皇帝も表情を和らげた。


「やはり自分のΩが一番だな。運命の番ならなおさらだ」

「そうですね。あの可愛さとエロさには誰も勝てないでしょう」

「そういうことはルルの愛らしい姿を見てから言え。最近では見つめるだけで頬を赤くするぞ? それどころか足をもじもじと擦り合わせるようにもなった。どうだ、愛らしいだろう?」

「キーシュさんだって負けてませんよ。俺がキスするだけで体を熱くして、すぐにぐずぐずになるんですから」

「そういうことはルルの火照った様子を見てから自慢するがいい。いや、決して見せたりはしないがな」

「俺だって乱れる様子を自慢したいところですが、絶対に見せませんよ」


 微笑み合いながらも、αたちの眼差しは決して笑っていなかった。それを二人のΩが複雑な眼差しで見ている。


「なんだか嫌な予感がします」

「うん、僕もそう思っていたところだ」

「陛下のあの表情は、よくないことを話しているときの顔です。あの、よくないというか、その、」

「わかってる。シュクラの顔を見ればろくでもない話なのは十分予想できる」


 緑眼と青紫の目がぱちりと合い、ほぼ同時に「はぁ」と小さなため息をついた。


「陛下のことは、その、本当に大好きなんです。こんな僕を妃にしてくれて、大事にしてくれているのはわかってます。だけど……」

「毎晩ベッドで組み敷かれるのは、正直つらいよね」

「そうなんです」

「しかも発情してなくても発情しているのとほとんど変わらない様子だし」

「はい」

「一晩に何回やるつもりだよ! って文句の一つも言いたくなる」

「そうなんです」

「いくらΩでも毎晩相手をするのはさすがになぁ」

「だけど、それ自体が嫌ってわけじゃなくて……」

「うん、わかる。求められるのは嬉しいんだけど、回数と程度がね」


 こくりと頷くルルアーナに「こんな小柄な体だと余計に大変そうだ」とキーシュは思った。柔らかな金髪を撫でながら「お互い大変だよね」と言葉をかける。


「元々αは性が強いって言うからなぁ」


 とくに皇帝のような上位αはα性が強く、Ωの発情に似た状態になることがあると聞いている。キーシュは「だから開花宮にも妃があれだけいるんだろうな」と考え、それから正妃と第二夫人のことを思い出した。


(あのお二人は妃といってもちょっと様子が違うからなぁ)


 正妃とはいわゆる政略結婚で、蕾宮に入ることなく大輪宮に入った妃だ。生家は帝国でも古い血筋の高位貴族と聞いているから国の安定のために嫁いだのだろう。そのこともあってか、二人の間には夫婦という雰囲気があまりしない。一度、二人揃ったところに出くわしたことがあるが、話し方や接し方は古い友人のように見えた。

 第二夫人は開花宮から大輪宮に移った妃と聞いているが、こちらも夫婦のようにはあまり感じられなかった。そう思ったのは、第二夫人がもっとも気にかけているのが正妃だからだ。

 正妃と第二夫人が一緒じゃなかったのは初めて正妃に呼ばれたときだけで、その後キーシュが呼ばれるたびに二人揃って出迎えるようになった。その姿はまるで夫婦のようだと思わなくもないが、それを口にするのはさすがにはばかられる。


「そうなると、陛下の気持ちはすべてルルアーナに向かうことになるのか」

「キーシュさん?」

「あぁいや、上位αを一人で支えるのは大変だなと思って」

「キーシュさんもでしょう?」

「まぁ、そうなるのかな」


 シュクラが上位αかは聞いていないが、皇帝の弟なら可能性は高い。あれだけα性が強いのだから間違いないだろう。


「なんにしても、僕たちは自分で自分の身を守らないといけないってことか」

「それができればいいんですけど」

「うーん、そうだなぁ」


 宙を見ていた緑眼が「そうだ」とルルアーナを見た。


「される前に、何度か搾り取ってしまえばいいんじゃないかな」

「え?」

「そうすればきっと交わる時間も減ると思うんだ。まぁ毎日求められるのは変わらないかもしれないけど、体の負担はずっと軽くなる」

「そんなこと、できるんですか?」


 ルルアーナの不安そうな表情ににこりと微笑んだキーシュが、「何度か試したことがあるんだけど」と声をひそめ耳打ちするように顔を近づけた。

 そんな二人の様子を見ていたαたちが「ほぅ」とため息をつきながら顔をほころばせる。


「二人がああして仲良く戯れているのは見ていて心が和む」

「そうですね。キーシュさんの可愛さが増すような気がします」

「それを言うならルルのほうだ。見ろ、ほんの少し頬を染めている顔なんてたまらないだろう?」


 目を細めながら機嫌よく笑う皇帝に、シュクラは「俺のキーシュさんなんて、いますぐ押し倒したいくらい可愛いですけどね」と心の中で答えた。それでも余計なことは言うまいと「可愛さ爆発ですね」とだけ口にする。

 こうして時々日々の悩みを相談し合うキーシュとルルアーナだったが、結局その日の夜も強すぎるαの愛情を一身に受け止めることになるのだった。

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