除霊士 如月条規は、入院先で自傷癖のある少女〝夏見〟と出会うが‥
男は、冷めたスープを病院の食堂で、独り啜っていた。
この男は、如月条規除霊士である。
条規は、サイトで、悪霊や霊による不可思議な出来事で困っている人の依頼を受け、除霊 闘魔することを生業としていた。
今回、ここ〝上総病院〟精神病院に入院したのは、霊が見える為に、〝統合失調症〟と15年前に診断された為、〝除霊〟で深手を負った時などに、
ホテル代わりに利用させてもらっているのである。
条規は、病院にいる間、たっぷり寝るのである。
寝る事でしか、回復の術を知らないのである。
除霊士専門店〝回顧堂〟でも、治療薬を手に入れた事はあったが、高価なのと、〝霊視〟の正確さに
影響が出るので、一度で止めた。
条規は、41歳であった。身長は190センチ近くあるが、体重は60キロ代で、まるで〝マッチ棒〟のようであった。
服は、全身黒尽くめで、黒以外の服は殆ど持っていなかった。
丸メガネを普段掛けていて、長い前髪も相まって
一見〝学者〟のようにも見えた。
この日の病院の朝食に起きられず、後から来た事で独り食べていたのである。
がしかし、隣の席にも、一食残っていた。
そんな隣の席に目をやっていると、〝拘束室〟のある廊下のほうから、看護師に付き添われ1人の少女がやって来た。
少女は全身白尽くめで、黒のストレートの長い髪、
すっぴんであるにもかかわらず、まるでアイドルのような出立ちであった。
看護師さんに、「男の人隣だけど大丈夫?」と聞かれ、条規の席の付近で少女は〝匂い〟を嗅いでいるようであった。
「だ、大丈夫です‥この方〝男〟ではないみたいですから‥」
そんな少女の言葉が聞こえた条規は、ギョッとした。
と言うのも、条規は15年前から、男性としての
〝性機能〟が不全であったのである。
そんな条規に一礼し、少女は隣の席についたのである。
暫く2人は無言で食べていたが先に、堰を切ったのは、少女の方であった。
少女は「私は、上杉夏見って言います 17歳です
叔父様 お名前は?」そう言って箸を止めた。
条規は、「俺は如月条規、叔父様か〜、これでも41歳なんだけどね」そう笑って応えた。
夏見は、続けて「私、〝匂い〟に敏感なんです。
こんな事言うとお医者さんにまた薬強くされちゃうけど、人の感情まで〝匂い〟で解るんです。
それから、解っちゃいけない〝匂い〟まで‥」
そう言って夏見は、言葉を止めて、カップのお茶に手を伸ばした。
条規は、「解っちゃいけない匂いって?例えば〝オバケ〟とか?」と冗談のつもりで返した。
ところが夏見は、見る見る顔色を変え、手に持っていたお茶のカップを溢して服や、両腕に付けていた
〝アームカバー〟まで濡らしてしまった。
「熱い!」と声を上げた夏見に、条規はすぐさま、
アームカバーをはずしてあげようとした。
だが夏見は、それを拒み、反対側に向いてみずからアームカバーを外した。
条規が目にした夏見のアームカバーを外した両腕は
〝自傷行為〟であろう切り傷が多数あった。
条規は「大丈夫かい!いま看護師さん呼ぶよ」とナースステーションの方へ向かおうとすると、
夏見は「大丈夫!呼ばないで!」と下を向きながら叫んだ。
続けて「また、この匂い‥この匂い‥」と震えだした。
条規の六感に反応が起きる!
夏見の両腕からみるみる巨大なカマキリの頭のようで両手にカマを持った〝妖魔〟が2体、両腕からそれぞれ出てきた。
条規は一瞬たじろいだが、ポケットに隠しもったバタフライナイフほどの大きさの 〝妖魔刀 小刀 雅〟に手をのばした。