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…救いですか?あぁ、そこに無ければ在りません。
『居らっしゃいませ、お客様。』
暖簾に手を掛け其処に足を踏み入れたかという瞬間、耳に声が届く。
声の主は見えない。
『当店万屋で御座います。』
何かの香りが鼻を突く。
視界を暗さが、煙が遮っていく。
『人は数多を望むのだと聞き及んでおります。
酒、金、権力、時間…
お客様は何をお望みで、当店まで参られたのでしょうか。』
すたすたと、軽く擦るような足音が聞こえる。
それに伴うように、声が近付いてくる。
途端、フワッと外気が此処へと流れ込む。
暖簾は押しやられ、薄明かりが眼前をチラリと照らした。
眼前には少女のようなものが…
否、人形のような少女が居た。
人形のように白い肌をして、
人形のように整った顔で、
人間のような言葉を発する。
『どうぞお客様、店内へ足をお運び下さい。
お望みの物を何なりとお申し付け下さい。』
暗い奥へと振り向き歩いていく。
…と、一度振り返って言った。
『嗚呼、申し訳御座いません。
救いは其処に無ければ在りません。』
”救い”とは、
何に対して言ったのであろうか。