【コント】家賃
ボケ「(傍白)わたしは今日、夢を見た! それは人類をあらたなる英知へと導く一筋の光! 神からのお告げ! これさえあれば、万人を苦しみから救いだすことができるはずだ! 今すぐ皆に教えてやらねば! ――おや? 見るからに惨めな老人がコツコツと杖をつきながら階段を上がって来やがった。ようし、手始めに奴を苦しみから救ってやるとしよう。(やってきた男に近づいて)おい! そこの老人よ、わたしの話を聞くがいい!」
ツッコミ「部屋から出てきたかと思えば、何だ急に、それよりも今月の家賃を払え、三か月も滞納しおって」
ボケ「家賃! 三か月! は! そんなちっぽけなことに構っている暇などはない! 世界はいま岐路に立たされている! 人々の心はすさみ、貧困で生活は苦しくなる一方。争いも絶えない。嗚呼世界! そう、世界が危ないのだ!」
ツッコミ「あぶないのは世界じゃなくて、お前の頭だよ」
ボケ「良いかシャイロック。わたしはいまから大切な話をする」
ツッコミ「俺は加藤だ。それと家賃を払え」
ボケ「そういうところだぞシャイロック! おまえは今日から生まれ変わるのだ。そして哀れな民を救うのだ。カネの奴隷と化した自分を鏡で眺めてみろ! 恥ずかしいとは思わないのか!」
ツッコミ「それは俺のセリフだ。家賃を払え」
ボケ「おまえにも親がいて、妻がいて、子供がいる。そんなお前ならきっとわかるであろう? 人の値打ちはカネでは測れない。大切なものはカネでは手に入らない」
ツッコミ「家賃はカネで良いだろ」
ボケ「哀れな子羊よ。あなたは苦しんでいる。飢えと渇きをもっている。あなたは避難所を求めている。ここは誰の家でもない。ここはわたしよりも、あなたのものなのです。ここにあるものはみな、あなたのものだ」
ツッコミ「借りたカネは借りた奴に、家賃は大家に支払え。残りはお前のものだ」
ボケ「時は来た!」
ツッコミ「出て行くなら家賃を払え」
ボケ「今こそ放浪の旅へ出かけよう! そして世界を文字通りまたにかけるのだ。シャイロックよ、おまえも来るか? 弟子となって教えを広げる気はないか!」
ツッコミ「家賃を払え」
ボケ「来い! シャイロック!」
ツッコミ「家賃を払え!」