さん
暗闇の教室の中、口元にあった手を頭を動かしずらし。
「ちょっと離してくれない橘」
「おっ俺だってわかったのか?」
「判るわよ。あんたまだあの原色の飲み物飲んでるでしょシナモンくさいのよ」
「えっ? 匂うのか? ニッキ水」
「匂うわよシナモンの香り染み付いてるんじゃ無いの」
「でもよ、朝一あれ飲まねーとやる気出ないんだわ」
「そんな事知らないから、手を離してよ。身体が動かないでしょ」
私は未だに背後が壁で、前を橘に身体全体で押さえつけられて動けないまま。
以前は私の方が背が高くて体格も良かったのに、いつの間にか変化していた様だ。
だってあいつの声が私の頭の上から聞こてえ来るんだから、何となく悔しさも湧き上がる。
「華って縮んだ? 昔は俺と同じぐらいだったよな。身体もすっぽり俺が華を囲えるな」
「失礼なヤツ」
「なあ……一年半で何があったんだよ。お前のこの変わりようは無いだろ」
「……………」
「言いたくなさそうだから、俺もお前と距離を置いてたんだよ。でもよう、そろそろ俺も我慢できなくてよ、気になんだよなお前がさ」
「あんたのせいで、変な注目浴びてんだけど、関わらないでくれないかな。橘晶君」
「わりー……普通に話しかけたはずなのにな。ちゃんと幼馴染みって言ってるから大丈夫だって」
「幼馴染み……なんか嫌、親しそうじゃん。小中の知り合いに変更」
「やだよ。幼馴染みじゃん同じ町内だったろ、お前がいきなり引っ越して驚いてさ、親とかに聞いてもわからねーって言うし。
けど、高校俺ら一緒だったから逢えるからまあ、良いかって思ってたら。お前巧みに避けてただろ。
俺なんかしたか? 考えても何も思い浮かばねーしよ。そしたら、お前雰囲気どんどん変わってくし、近寄るなオーラ出すしよ。
なあ……何があったんだよ。俺じゃあ力にもなれねーかもしんねけどさ、言ったら何か変わるかも知んねーだろ。言えよ華」
「嫌」
私は、壁と橘の間から抜け出ようと結構必死にジタバタしたのに、まじで抜けれない。何こいつ馬鹿力なの。
ジタバタしてたら、壁の背後から声が聞こえてきた。
「ねえーーーー!!!!!あいつ教室にも居なかったよ!帰ったんじゃねえの」
「私も隠れそうな場所探したけど居なかったよ」
「もう疲れたよ愛お腹空いたよーー」
「真紀はいっつもお腹空いたばっかじゃん」
隣の部屋にさっきの子達が帰ってきたみたい。今の状態見られたら、誤解される事間違い無いし、最悪の状態。ここは静かにしとこ。
でも、話の具合から見ても帰りそうに無いなこの子達。どうしよう……
私の耳元で……
「逃げるぞ」
身体の圧迫と熱が無くなった。その代わり手が温もりに包まれ、引っ張られる。
扉がスッーっと開き廊下から外の明かりが中に差し込んできた。眩しい。
そのまま手を引かれて、廊下に出て足音を立てずに階段を降りて靴箱まで行った。
「ちょっと待ってよ!鞄教室だし、中に鍵とか入ってるから家に入れない」
「未だ午前中だぞ、又捕まったら面倒じゃないか、鞄は放課後取りに来ればいいだろう。
俺ん家今日母さん居るから来いよ。母さんも心配してたから、顔見せてやってくれないか」
「おばさん……」
とても優しいおばさんで、いつも手作りお菓子貰ってた。多分なんか感じてたんだろう、良くお昼ご飯とか食べさせてくれてたから。美味しかったなおばさんのご飯。ホカホカあったかくて。
「ほら見つかる前に行くぞ」
橘は、止まってる私の手を引いて学校の門を抜けた。