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第4話 魔法の靴

「光ちゃん。良く聞いて。おばさんが使ってる魔法の靴をあげるわ」


「まほうの……くつ?」


「そう。魔法の靴よ。はいてかかとを3回鳴らしてみなさい。異世界に行けるわよ」


「いせかい……? おばさん、どういうこと?」


「大人になったらわかるわよ。光ちゃんが今のままでいてくれたらね」


 それが、私と伯母(おば)との最後の会話だった。




 私の母親の姉、つまりは私の伯母(おば)はその日の1週間後、35歳の若さで死んだ。


 死因は乳ガンで、発見するのが遅れたせいで診断された時には既にガンが全身に転移しているステージ4という状態で、医者にも手の施しようがなかったらしい。


 その伯母は……家族から嫌われていた。


 ろくに働いている様子も無いくせになぜかいつも羽振りだけは良かった。


 私も伯母と遊ぶたびに彼女からカードゲームのレアカードを貰ってた。


 そのためろくでもない噂ばかりが立っていた。


 やれ『金づる』が何人もいるだの、振り込め詐欺の元締めをやっているだのと、とにかく良い話を聞くことは無かった。


 しかし、彼女と一緒に遊んでた身としてはどうしても伯母の事を悪い人と思える事は出来なかった。


 そんな分かりやすい悪人なら子供でも見抜けるはずだ。




(あ、これって……)


 私が帰省した際に、6歳の頃伯母(おば)からもらった魔法の靴を実家の物置きの奥から見つけ出したのは今から半年ほど前だった。


(確か……かかとを3回鳴らせって言ってたよね。ドロシーの魔法の靴みたいに)


 記憶にある伯母の声を頼りに、靴を履く。幸いサイズはぴったりだった。


 そして、かかとを3回ならした。


 その瞬間、自分が上へと飛んでいく感覚を一瞬味わう。何事かと思ったら何故か路地裏のような場所にいた。


 今時コンクリートを使っていない木や石造りの家が並ぶ、明らかに現代日本ではない場所だった。




(何ここ!?)


 とまどいながらもそこから1歩を踏み出してみる。


 すると目の前に広がるのは、中世の街並みの様な石や木なんかで出来ている家々。


 遠くに見えるのは、ディズニーリゾートのシンデレラ城みたいな立派な城。


 そして街中を我が物顔で歩いてるのは、姿こそ人間に近いが頭には犬や猫の耳、後ろにはしっぽが生えた者たち。


 広い地球の中でもどこでも見れない光景が広がっていた。




(もしかして……伯母(おば)さんの言うように本当に異世界に来ちゃったの!?)


「あれ!? アンタ、リリさんじゃないかい!?」


利理(りり)……?」


 何とか頭の整理が追いついてきてここは異世界なんだなと思う中、伯母(おば)の名前で呼ばれた私は振り返る。


 呼んだのはくだもの売りの露店をしているシワの多い老婆だった。




「リリさん、どうしたの? しばらく見ないうちにずいぶん若返ったようだけど?」


「あ、違います。私は利理(りり)伯母(おば)さんの(めい)の光と言います」


「ああ、なるほど。(めい)ね。いや若いころのリリさんにそっくりでびっくりしたわよ。元気にしてる?」


 身内からは昔から母親よりも伯母(おば)に似ていると言われ、伯母の隠し子かと疑われることもあったので特に気にしない。




「いえ。ガンで……病気で亡くなりました」


「あらそう……ごめんなさいね変なこと聞いちゃって」


「いいんです。ところで、利理おばさんのこと何か知ってるんですか?」


「知ってるも何もあの人凄いやり手の豪商よ。この辺りじゃ貴重な砂糖やコショウ、それに塩なんかを安く売っててかなり儲けてたみたいよ」


 これで分かった。おばさんは悪い人じゃなかった。


 自分の世界ではタダ同然で手に入る、それでいてここでは希少な砂糖やコショウを売ってそのお金で生計を立てていたのだ。




 路地裏に戻り、かかとを3回鳴らすと、また元の自宅の物置へと戻ってきた。


(よかった。ちゃんと帰れた)


 さて、異世界へ行ける魔法の靴が手に入った。これから何しようか。




【次回予告】


かつては国内外からその名を恐れられた猛将も、この店においては一介の客に過ぎなかった。


第5話「ナポリタン」

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