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DT同好会

作者: 化けがっぱ

 


 僕は不思議な雰囲気の先輩に出会った。




 桜並木の下、まだ蕾と花が混じり合うそんな季節、何処か浮世離れした雰囲気を纏わせる美人が向こうから歩いてきた。白くシルクの様な髪。背丈は高く175cm位で制服が映えていた。泣き黒子がチャームポイントでそんな美人が、右へフラフラ左へフラフラしながら歩いてきた。


 ドン、


 避けようとしたのだがちょうど避けた先にフラついてきてぶつかった。


 「すみません」


 日本人の癖か自分は特に悪くないのにすぐに謝った。すると彼女はその綺麗な顔に似合わない睨んだ様な細目をしていた。


 「義務謝罪は嫌いなの。」


 そう言い放った彼女はまたフラフラしながら通り抜けて行った。


 僕はよくわからない気持ちになり、そのまま立ち尽くした。







 


 あまりにもインパクトのある出会いをしたからか、美人とぶつかった童貞の性質からか、彼女のことが頭から離れてくれなかった。

 高校の授業中も新聞配達のバイト中も、彼女の事が気になって仕方がなかった。



 「おい、上の空野郎。昼飯一緒に食うぞ。」


 いつも一緒に昼飯を食べている友人からこえがかかった。手早く机を並べ替えて昼飯を食べる準備を始めた。


 「上の空が手早く机を並べ替えやがった。どうかしたのか?何か相談事かよ?」


 少し興奮気味に、僕はあの日のことを話した。


 「つまりお前は、その美人さんにキツイ目で罵られて興奮した、と言いたいのか?」


 否定できないのが辛い。 


 「否定しないのかよ。まあいいや。お前さんの知りたい人はこの人だろ?」


 友人はバックからスマホを取り出して写真保存アプリを開けて、一枚の写真を見せてきた。間違いない、桜並木で会った女の人だった。


 「不思議そうな顔してるな。当然だろ、うちの学校の美人さんを俺が知らない訳がないだろう。」


 そういえばこいつは写真部で、裏で一枚500円程度で写真を売りまくっている野郎だ。他学校にも遠征に行くぐらいだ。知っていてもおかしくないだろうし、なんなら知っていると思ったから相談を持ちかけた。

 てかうちの学校の生徒だったのか。


  「神野じんの 帆足ほおし、この学校でトップクラスの容姿に宇宙人の様な奇行で有名な三年生の先輩だぜ。」


 「奇行?」


 僕は頭を傾げた。友人は何処か呆れたような顔をした。


 「何も知らないのかよ。入学した一週間後、山の様にラブレターを貰いその全てを細かく切り刻み、屋上から、花弁の様にばら撒いたっていうエピソードで有名だろ。」


 その話は伝説だ。当然知ってる。


 「後は、直接告白した人には良くわからない質問を投げかけては、その答えを聞いて、その上でお断りするって言う事でも有名だな。」


 あの人の話だったんだ。


 「ついた渾名は奇行美人、彼女の入学一ヶ月で彼女にアタックする人はいなくなったとか。」


 確かに変な人だな。僕は少しニヤけた。


 「今の事を聞いてニヤけられるって事は、お前狙ってるな。」


 当然だろ。

 

 僕は決心がついた。




 


 彼女は放課後に図書準備室に高確率でいるから、告白するならそこがベストだと思うぞ。


 僕は友人のアドバイスに従い、放課後まで待った。

授業終わりに夕日が入り込む教室に少し残り、彼女が図書準備室に確実に行っていると思われるタイミングで、そこへ向かった。


 図書準備室のドアの前に立った。心臓の鼓動が少し早くなる。深呼吸をして覚悟を決めた。


 コンコンコン


 「はい」「失礼します。」


 カラカラカラ


 彼女は入ってきた僕には興味が無いのか、目を合わせることもなく、本に目を落としていた。


 僕はもう一つ深呼吸をした。そして頭を下げた。


 「神野先輩、貴方と付き合いたいのです。よろしくお願いします。」


 先制攻撃をした。多分彼女に饒舌の限りを尽くしても、なびかないと思ったのだ。ならば先に告白をしてやろうと思った。


 顔を上げて彼女の方を見た。彼女は此方を向きあの時の睨んでいる顔がそこにはあった。


 「貴方、誰?」


 「鈴木すずき幸次郎こうじろうです。桜並木の下でぶつかって、罵られた人です。」


 彼女は呆れた顔をしていた。


 「そんな事あったかしら?はあ、その手の告白ほもう無いと思っていたのだけど。罵られで告白とか、ドMなのかしら?」


 やっぱりダメかな?一部修正したい部分はあったが、多分治らないと直感で感じたので諦めた?

 彼女は諦めているような雰囲気を醸し出しながら口を開いた。


 「私と付き合うには条件が一つあるわ。」



 「なんですか?」


 少し焦りながら聞いた。

 彼女は少し頭を捻った。


 「質問に答えて、貴方はコンタクトをしているかしら?」


 「はい。」

 幼い頃に暗がりで読書をしていたせいか、視力は良くなかった。

 彼女は試すような、挑戦的な嘲笑を顔に浮かべながら質問を出した。


 「じゃあこれで良いわね、コンタクトを片目だけ付けて生活したらどうなるかしら?」


 意味がわからない。なぞなぞかな?


 「それがわかったら付き合ってあげても良いわよ。」


 僕は考えた。多分ここで答えを間違えると、何があっても彼女と関わることさえ出来なくなる気がした。どうやって答えるべきか。何を答えるべきか。わからない。


 10分くらい経っただろうか。もしくは1時間くらい経ったのかもしれない。彼女は本に視線を戻していた。

 もしかしたら哲学的な事なのだろうか、彼女の欲している答えが僕の頭では思いつかない。


 また時間が経った。しかし答えは出てこない。チャイムが鳴った。彼女は立ち上がった。


 「答えは出てこない様ね、残念だわ。」


 ヤバイ、どうしよう。僕は焦って更に思考を加速させる。ぐるぐると回る頭に、天からアイデアが降りてきた。


 もうこれしかない。


 「宿題。」


 「はい?」


 「いつまでってしていがなかったから、宿題にしていい?」


 彼女は少し驚いた顔をしていた。その後少し微笑んだ。


 「そうね、確かに時間指定はなかったわ。」


 良かった、納得してくれた様だ。


 「来週のこの日、答えを持ってここに来なさい。答え合わせをするわよ。」


 そう言って彼女は帰っていった。僕は安堵から少しその場に座り、ゆっくり帰った。






 次の日、僕はコンタクトを片方だけ付けて生活した。


 朝登校するために自転車に乗りかかると、自分の目で見えていた位置と実際の位置がずれていて、倒れかけた。


 嫌な予感がした。


 自転車で進むと、あっちへフラフラ、こっちへふらふら、とてもじゃ無いが安全性なんて皆無だった。事故を起こしそう。 


 明日から徒歩通学することが決まった。


 学校でも支障をきたした。まず黒板がずれて見える。しかし、見えるコンタクト側の目だけで授業を受けると、先生や友達から心配される。かと言って説明するのは、もしかしたらライバルを増やしかねないのでやりたくなかった。


 帰りは暗く、更に危なかった。事故しなかったのは奇跡かもしれない。


 初日で心が折れかけた。


 今日の生活で分かった事は凄く不便だという事だけだった。



 2日目はいつもよりかなり早く起きて、親に驚かれた。健康のためと嘘をつき、歩いて登校した。


 歩いて登校するなら、もしかしたら新しい発見があるのかと思い、メモを片手に持っていた。しかし、そもそも自分の、書いた文字すらよく見えないためすぐにポケットにしまった。


 良く見えないため、発見も出来なかった。何やってんだろ?


 汗だくのまま、いつもより早く教室入ろうとした。


 ダン、ダダン


 躓いて転んだ。何やってんだろ?



 昼になり、あまりの違和感を覚えたのか、友人が本気で心配してきた。


 「どうしたんだよ、上の空ってわけじゃ無さそうだし。振られたショックで頭逝ったのか?」


 失礼な。


 「そんな顔をするんだったら、正気か。じゃあ何やってんの?」


 こいつになら、話していいか。素直に話した。


 「相変わらず変な質問だな。意図はわかんねえが、まあ、頑張れや。クラスメイトや先生は上手く誤魔化しといてやるよ。」


 話して良かった。とにかく答えを探さないと。




 3日目、寝過ごした。しかし走って行くわけにも自転車に乗るわけにもいかないので、朝ごはんが食べれなかった。


 始業ベルギリギリに教室に滑り込んだ。クラスの中では疲れから目が見えにくくなっている設定になっている様だった。そのおかげか、凄く心配された。


 悪いことだけでは無い様だ。


 授業も慣れてきて、ある程度見えるようになったし、クラスメイトがノートを見せてくれるようになった。

 励ましの言葉を貰うたびに罪悪感が湧いた。優しさが身に染みた。


 帰りの時間には一人で考える事が多くなった。当然答えのことだが、考えれば考えるだけ、考えが空回りした。



 4日目、朝から何事もなく不便な生活を送っていた。何処か眠くなり、6時間目から寝ていると気づいたら放課後になっていた。


 教室の窓の赤い夕焼けの奥から、薄い三日月が二つ見えた。淡くぼやけた三日月とくっきりとした三日月。その光景が僕の中で雷を受けたような衝撃を襲った。


 なんて歪なんだろう。


 コンタクトレンズを通した自分の目では無い、くっきりとした光景。

 自分の目で直接見えるぼやけている薄らとした光景。


 なんて綺麗で歪な関係なんだろうか。


 そして今、僕が両目で見ているものはその間。現実と虚実の狭間。そんな気がした。



 僕は一つの答えを手に入れた気がして、嬉しくなり、スキップしながら帰った。

 帰り道の交差点に差し掛かる辺りで、ふと嫌な予感がした。



 ドン、キーキー!!



 そして車にぶつかった。



 そりゃそうだよ。










 起きた時、すでに6日目だった。身体中が痛い。親に泣きながら怒られた。コンタクトレンズの件がバレた。


 車を運転していた相手が訪ねてきた。相手は謝っていたが、言葉の端端からお前のせいだと言っているような気がした。罪悪感がすごかった。


 僕があの時浮かれていた事は間違いない。浮かれていた内容も思い出せる。

 しかし恥ずかしくなってきた。あんな中二病的な回答を思いついただけで、何を浮かれていたのか。


 改めて自分の格好を見た。脚と腕に包帯が巻かれ固定されている。頭に違和感があるという事は頭にも巻かれているのだろう。


 明日が期限なのに学校に行けないな。


 その事実に頭が覚めた。僕の宿題は提出できない。せっかく答えが出たのに、とても残念だった。そう、この事故によって僕は一つの答えを得た。












 深い眠りから覚めた。目を開けるとそこには、白いシルクのような髪があった。


 「答えは出たのかしら?」


 僕は少し驚いた。

 今はちょうど1週間後の放課後。彼女から僕の所に来るのは意外だった。彼女は僕の寝ているベッドの横に、丸椅子に座った状態で本を読んでいた。学校の帰りだったのか、バックが彼女の横に置かれてある。


 


 僕はそのことに感謝しつつ、僕は昨日出た結論を口にした。



 「簡単です。不便で危ない。身をもって証明しました。こればかりは文句を受け付けません。」


 彼女は少し微笑んだ。


 「違うと言ったら。」


 僕は少し微笑んだ。


 「僕が困ります。」


 彼女は手で口を押さえながら笑った。


 「確かにそうだわ。一次試験合格よ。」


 僕は少し困った顔をした。


 「次は、安全な事にしてくださいよ。」


 彼女は表情を変えず微笑んでいる。


 「次のは簡単よ。私の作った同好会に入ることよ。」


 僕は首を傾げた。


 「同好会ですか?入りますけど、何をする同好会ですか?」


 彼女は満面の笑みとドヤ顔でこちらに顔を向けた。



 「私はこの世の全てを疑っている。想像すればわかることでもやってみないと気が済まないの。そんな私の欲求を満たす同好会よ!!」



 僕は呆気にとられた。彼女がハイテンションに説明する所が信じられなかったからだ。


 でも、


 「僕なんかが入っていいんですか?」


 彼女は笑っている。


 「きちんと確かめた貴方にしか、入る権利は無いわよ。」



 なるほど、僕は正解したのか。


 そして僕は理解した。この人は紛うことなき奇人であると。


  そしてこの人の事がたまらなく好きであることを。



 「ちなみに同好会の名前はなんでいうんですか?」







 「DTどうでもいいことをためしてみる同好会よ!!」


投稿する場所を間違えたので、少し加筆して再投稿しました。

評価が良ければ続き書くかもです。まあ、つけばですけどねw

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