メンフィス家の人々1
「ただいま戻りました。」
「まぁ!シャルティアお嬢様、お帰りなさいまし!」
扉を開けると昔から仕えてくれているくれている侍女頭のヘレンが慌てた様子で出迎えてくれた。
「ヘレン、私はもうお嬢様という年齢ではないのだが・・・」
「私にとってはお嬢様はお嬢様です!」
「・・・そうか」
「お嬢様、言葉使い!それになんです?制服のままでご帰宅なさるなんて・・・まさかまた屋敷まで歩いてきたのですか?!」
「ははは・・・」
笑って誤魔化すも生まれた時から世話になっているためヘレンには頭が上がらない。
軍部では鬼だのなんだの言われている私も彼女の前では形無しだ。
「その手にお持ちの袋はなんです?」
「あぁ、途中で町の人達に教えてもらった人気の菓子屋で土産を買ってきた・・来ました。」
だから視線がいたたまれないんだがヘレン・・・
「教えてもらったってお嬢様・・・言いたいことはたくさんございますが、まずはエース様の所へ。旦那様もおいでです。すぐにお茶をお持ちいたしますね。」
「ありがとう」
礼を述べひとまず『エース様』と呼ばれている兄上と父の所へ向かおうとすると、階段上の方から声がかかる。
「あら~賑やかだと思ったらやっぱりシャルちゃんね~お帰りさない。」
「姉上・・・本当に頻繁に帰ってきているのですね」
「うふふ。シャルちゃんが帰って来るって聞いたから来たのよ~」
と優雅に笑う姿は我が姉ながら美しいと思う。13になる子供がいるとは思えない。
「今ね、お母様とお義姉様、お勉強の終わった子供たちとお茶をしていたのよ。シャルちゃんもお兄様の所に行った後に是非来てね~」待ってるからとマイペースに去って行く姉――私の頭が上がらないもう一人――の後姿を見送り、兄上の元へと急いだのであった。
*****
久しぶりということもあってか、家族での晩餐は自分でも思っていた以上に楽しく過ごせた。
甥や姪たちも可愛く健やかに成長していて何よりだ。
これで明日のことがなければと考えながら自室で日課である鍛錬をしていたところ、ヘレンが数人の侍女たちを連れてやってきた・・・やってきたのだ・・・
「お嬢様何をなさっているのですか?!明日は大事な日なのですよ!!!」
「大事な日ねぇ・・・」
こんな行き遅れの政略結婚にも向かない傷物の女を本気で相手にする者がいるのだろうか?
子供は国の宝だ。私も子供は好きだが、軍人としての生活が長い自分が今更家庭を築けるなど到底思えない。
「お嬢様!どうせ軍部ではろくなお手入れもされていないのでしょうから今夜と翌朝にしっかり磨かせていただきますからね!」
淑女として当然ですよ!とヘレンは胸を張る。
「手入れくらい自分で出来ている・・います。それに付け焼刃でどうこうもなるまいに―」
お嬢様!ヘレンの視線が鋭くなる。
「お嬢様はご自分の魅力をお分かりいただいていないだけです。」
すると今まで黙っていた侍女たちが一斉に口を開く
「そうですよ!シャルティア様はとても魅力的でございます!憧れている者も多くいるのですよ!」
「あぁ・・シャルティエ様を磨くお手伝いができるなんて、私この家の侍女でよかったー」
「うふふ。昨日からこのお役目が嬉しくて夜も眠れなかったんですのよぅ。」
「「「私共にお任せください!!」」」
「は・・・はぁ?」
侍女たちに圧倒されなんとも間抜けな声しか出なかった。
うちの侍女たちは実に個性的だ。
私から見ればこの娘たちの方が可愛らしく魅力的なんだがなぁ
するとヘレンがパンパンと手を叩き指示を出す。
「ご安心ください。この娘たちはこう見えてとても優秀でございますから。さぁ、貴方たち、遠慮せずにやっておしまいなさい!」
「「「イエス、マム!!!」」」
おい!それのどこか指示だ?!その返事はなんだ?!!!
じりじりと笑顔で寄ってくるこの可愛らしい侍女たちが恐ろしい
あぁこれが敵意や下心を持った男なら軽く捻ってやれるのだが――まだ帰宅して1日もたっていない実家だったが軍部が恋しい!
私は無心になることに決め、されるがままになった。
なんだかんだとキャッキャッとしている侍女たちがとても可愛くもあったからなのだが・・・
もちろんその横ではヘレンのお説教も始まっていた。
シャルちゃんは4人兄弟の3番目です。