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約束(エドアルド王太子視点)

エド殿下が語っております。

 

 私が生まれたのは長年に渡る戦争も終わりに近づいている時だった。

 当時王太子だった父は何かと忙しく城にいないことが多かったが、それでもここ数年は帰って来ている方だと聞いていた。

 なんでも長年戦地を回り婚約者である母を待たせ、ようやく結婚をしてからもほとんど戻ってこない事から世継ぎもなかなか出来なかったとか。

 当時の私には分からないことだったが、それでも戦争を終わらせる為に頑張っている父を困らせまいと思っていたことは覚えている。

 それと同時に覚えていることは戦争が怖かったということだ。

 幼かった私には『死』というものを明確に捉えていたわけではないが、例えばいつも厳しい表情だが優しい護衛たちだったり世話を焼いてくれている侍女たちそして母が急にいなくなってしまったら・・・と考えると怖くて仕方がなかった。


 そして5歳になったころ戦争は終わった。


 戦後処理などで戦地に出ていた兵士たちが戻ってくる時期はまちまちだったが、その都度王都での凱旋式で見る兵士たちは更に恐ろしく見えた。

 負傷している者もそうだったが、目つきが鋭い者、逆にどこか虚ろな目をしている者、戦争が終わったというのに笑顔も何もない初めて見る光景に幼い私は戸惑っていたが、皆が国の為に頑張ってくれたからこそ今の自分たちがあるのだ。と心を奮い立たせ父の横にいた。


 そうして終戦から3年程たって、隣国との国境付近にいた兵士たちも帰ってきた。

 その中で『彼女』を見つけた。


 その隊は不思議なことに今まで見たどの隊よりも活気があり、負傷している者もそうでない者も皆に笑顔があったのだ。

 その先頭にいるのがシャルティア様だった。

 整った顔には傷があったが、美しい髪をなびかせ、澄んだ空色の瞳は印象深く、凛としたその姿に私は初めて恋をした。


 聞けば父の親友のご令嬢ということで、いつか会えて話しができるのでは・・と淡い期待をしていたが、―その間も彼女の事を知りたくていろいろと調べたが、想像以上に素晴らしい人物だった―実際に会えたのはその2年後・・私が10歳になった時、彼女の家族と私の家族との非公式でのお茶会でであった。


 凱旋の時の軍服姿とは違い、シンプルなドレスに身を包んだ彼女はとても魅力的で私はとても緊張していた。

 実際に話しをしてみてその話しやすさと裏表のない性格がより私を恋焦がせるものとなった。

 彼女自身は結婚していない婚約者もいない状況だったが、他の兄弟たちはそれぞれ結婚していたので非常に焦っていたことも覚えている。


 なぜもっと早くに生まれなかったのか・・


 彼女を見た時からそればかりが悔しかった。

 子ども扱いされていることもー実際子供だから仕方がないのだけれど―悔しくてたまらない。

 だから今の自分にできる最大限の事をしようと暴挙に出てしまった。


「シャルティア様、私は貴女が好きです。どうか私が成長したら結婚してはいただけないでしょうか?私を待っていていただけませんか?」

 突然の私の言葉に周囲は騒然となった。

 彼女も驚いた表情をしていた。

「まぁエド殿下。私はすでに貴族の結婚の適齢期をすぎていますよ。殿下が成長される頃にはもうおばさんですわ。」

「それでも!貴女の気高さと美しさは衰えないと思います。確かに私はまだ子供ですが、貴方を思う気持ちは間違いではありません!歳の差は埋められませんが・・・どうか・・・お願いいたします!」

 勢いよく頭を下げた。

「王太子ともあろうお方が頭を下げるものではありませんよ。・・・そうですね。では・・・」

 私は顔を上げ彼女の言葉を待った。


「私は人間的に信頼できない方は好ましく思っておりません。これから殿下が王族として立派に責務を果たし成長されても尚今のお気持ちをお持ちでしたら考えさせていただきますわ。」

「本当ですか?!」

「えぇお約束いたします。」

 きっとまだ子供だと思っているからこその言葉というのはさすがに分かったが、それでも真摯に応えてくれた彼女はやはり素晴らしいとも思った。

 言質は取れた。周囲の家族たちも聞いている。私は今後さらに努力をして、この方に相応しい人間になろうと心に難く誓いを立てた。


「そのお約束・・どうか忘れないで下さいね。」

 私は彼女の手を取り、手の甲にキスをした。

 彼女はまた驚いた顔をしていたが、「えぇ」と微笑んでくれた。


 彼女の家族も微笑んでくれていたが、その後父からは叱られた。

 でも私はこれからの事で頭がいっぱいだった。


 その後は勉学、武術、王族としての責務に励み、時折聞こえてくる彼女宛の婚約の話しを裏で潰し、その合間も父への説得と熱意を語る日々だった。

 それから数年、学園では寄ってくる令嬢もいたが見向きもせず、士官学校へと入り、軍部に入り彼女の姿を見ては自分を奮い立たせていた。

 まさか婚約の申し込みに行った際に彼女が約束の事をすっかり忘れていることはショックだったが、長年の根回しで外堀は埋めてある。

 彼女の姉スペルア様には他の婚約話しを潰してきたことはバレているようだったが、責任は必ず取るし絶対に逃がしはしない。

 彼女を手に入れるための私の戦いはこれからなのだ!!



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