Happy Weekday.
──夏もいいけど、冬だっていいんじゃないかな。
ある寒い朝、ユキは、そう言った。
「ゆっくんは?」
コテンと首をかしげて聞かれるも、考えたことないからよくわからない。
「俺は……よくわかんないや」
「そっかー……」
ユキは、少し残念そうに俯く。
「……な、なんかごめん」
「ううん、ゆっくんは悪くないよ!」
ユキは明るく笑って両手を振る。どうやら気を使わせてしまったようだ。
ユキはいつも、気を使って笑ってる。無理してるのも分かってる。無理しないでほしい。頑張りすぎないでほしい。そうやって思うのに、俺は気の利いた言葉一つも返せない。
「寒いな」
「寒いね」
………………。
「あっ!そ、そうだ!帰りにクレープ屋行かない?」
短い沈黙に耐えられずに無理やり言葉をひねり出すと、ユキは、え?、と首をかしげる。
「あれ?ゆっくん、今日は塾じゃない?」
「あっ」
やらかした。
「ゆっくんはやっぱりそういうとこ苦手だねえ」
ユキはくすくす笑ってる。
「うーん、名案だと思ったんだけどなー……」
眉間に皺を寄せていると、ユキが学ランの袖を、くいっ、と引っ張った。
「今度の日曜、行こうよ」
「…………!行く!絶対行く!」
ガバッと顔を上げて頷くと、ユキは苦笑して、
「あはは、じゃあ、ゆっくんのおごりでがいいな」
「おい!?じゃあってなんだよ、じゃあって!つーか、今金欠だから、俺クレープ食べられないじゃん!」
ユキは腕組みして、むむ、と首をひねる。
「あ、じゃあ鯛焼き食べに行こうよ!今の季節ならあったかいから、きっとおいしいよ!」
「あの180円の所?」
「もっちろん!最近見つけたばっかりの穴場でね、今ならあのカスタードナッツ鯛焼きがあるんだよ!」
「あの」って言われても、そんな鯛焼き聞いたことないぞ。
「か、カスタードナッツ鯛焼き?」
聞き返すと、ユキは満面の笑みで説明してくれた。
「外はパリッと、中はもっちりの鯛焼き生地に、濃厚なカスタードクリームとカリッとしたナッツが入ってるの!このカスタードとナッツの相性が最高でね、しかもお店でなら出来たてのあったかいのが食べられるんだよ!あったかい鯛焼きを楽しめるのは、この寒い季節だけなんだから!」
「お、おう。じゃあ、日曜に行こうか」
「うん!」
満面の笑みのまま、ユキはご機嫌のようだ。
「ね?冬って楽しいでしょ?」
「なるほどな」
「だから、冬が好きなの」
「それに、ほら」
そう言ってユキは片手を上げる。
つられて空を見上げると、いつの間にか雪が降っていた。
「綺麗でしょ?」
「ああ」
「こういう普通の平日にも、いいことってたくさんあるんだよね」
俺のマフラーに付いた雪を、ちょん、とつついてユキは笑う。
「こんな普通の平日に、幸せを。ねえゆっくん、平日って英語でなんて言うの?」
「ん?ああ、Weekday、だよ」
「じゃあ、普通の平日に幸せを。
────Happy Weekday.」