プロローグ
見切り発車でございます。
更新がストップしたら...察して下さいませ。
...俺はいったい何処で選択を間違えたのだろうか。
少なくとも、あの時までは道筋道理だった。
何処だ...何処で間違えたんだ...!!
焦点の定まらない目で虚空を睨む。
「アイツだ...アイツさえ居なければ...」
なんの前触れもなく突然現れた少年。黒目黒髪で何処か幸薄そうな顔。それほど愛想が良い方でもなく、むしろ世間を疎んですらいただろう。
恐らく興味がないのだろう。この場所に、この世界に。
けど...けれども。何故か奴の周りには沢山の人がいた。
かつて、奴は言った。
「僕は...別の世界から来たんです。そして、神様と言うのでしょうか?そんな人物からこの力を貰ったんです。なんの努力もせず、なんの苦労もせず。だから、だから...僕は、あなた方と一緒にいられる権利なんて、本当はないんですよ」
と。儚げに、悲しそうに奴は言ったんだ。
だから俺は奴を糾弾した。“ふざけるな”と、“今すぐ出ていけ”と。
何故なら、その行為は今まで努力してきた俺の人生を全否定する言葉だったから。──許せる訳がなかった。
なんの努力も、苦労もしないで俺と同じ高みにいることが。なんの挫折もしないでこの場に立っていることが。
しかし...皆は違った。
その場にいた俺以外の全員が奴の味方をした。
やれ“妬んでる”だの“見苦しい”だの。逆に俺が糾弾される羽目になった。
その時俺は悟ったのだ。───もう、何処にも俺の居場所はないことを。もう...彼女の心に、俺を想う気持ちはないことを。
だから逃げた。その場から、彼女から...現実から。
今思えば、元より俺の居場所なんて無かったのではないかとさえ思う。
もう...どうだって、いいや。この世界がどうなったって知ったことか。
俺は大昔に一度だけ神からの啓示を受けたことがある。
何度も言ったが、誰一人として信じてくれなかった。
内容はこうだ。
『今から二十年後、汝らの世界に災厄が訪れるであろう。それは人の形をした悪魔なり。十分に警戒をせよ』
これを聞いたのは...5歳くらいの時か。それから俺は自分でも訳が分からなかったが、狂ったように修業に打ち込み始めた。それはもう、何十時間も何百時間も。ひたすらに、無我夢中に。
当時、まだ早いが俺には許嫁がいた。俺は...多分彼女を守りたかっただけなのだろう。あと、ついでに国も。
俺は公爵家の長男だ。故に一切の甘えも許されなかった。
父は死に際に言った。
「いいか、お前は偉大な公爵家の長男だ。...甘えるな。誰であっても弱みを見せてはならない。人としての感情を捨てろ。合理的に動け。そして──常に誇り高くあれ。その事を努々忘れるな」
あっさりと他界した父。だが、彼は尊敬するに値する人物だった。
これから、この公爵家は俺が支えなくてはならない。
その使命感が、満身創痍である俺の心を突き動かす。
───甘えてはならない。たとえ、どれ程仲のよい間柄であっても。弱みは見せられない。見せてはならない。
───人としての感情を捨てろ。合理的に動け。それがたとえ、俺の感情でなかったとしても。
───常に誇り高くあれ。それが『高貴なる者の義務』たるものなのだから。
『公爵家』より一つ爵位が下、『侯爵家』の我が愛しい許嫁に甘えたかった。もっと、戯れたかった。...少しでもいいから、彼女の温もりに触れてみたかった。
だけど...俺はそれら全てを切り捨てた。俺の、幸せな未来のために。今の幸せをドブに投げ捨てたのだ。
だが、それがこのザマだ。
神なんて者が存在するのなら、存分に笑えばいい。貴様が言った、たった二言が俺の人生をこうさせたんだ。さぞ愉快だろうよ。
───ずっと信じてた人にさえ捨てられた俺を、笑えばいいさ。
皮肉なものだ。幸せになるために今を捨てたのに、その幸せから俺が捨てられるなんてな。
思わず苦笑が漏れる。もう、笑いたくなんてないのに。
なんの未練もない...と言えば嘘になる。未練、たらたらだ。
どれ程頑張ったって、努力したって。女一人さえ自分の物に出来ない、誰一人として俺のことを評価してくれない。
皆は『公爵家』というブランドが怖いだけ。誰も俺の“本心”を見てくれない。
最近、母が再婚した。
もうじき俺は『公爵家』から追い出されるだろう。なんでも、連れ子はいらないらしい。所謂、勘当ってやつだ。
...少し、下らないお話をしようか。
救いなどなく、頼れるのは自分だけといったハードな環境の中、一生懸命に生きた少年の話を。
全てを守りたくて...全てを失った、馬鹿な男の話を。
一度、こういうのを書いてみたかったんです。